学位論文要旨



No 216829
著者(漢字) 横山,明久
著者(英字)
著者(カナ) ヨコヤマ,アキヒサ
標題(和) ソフトウェア無線の自動車搭載無線機能への適用に関する研究
標題(洋)
報告番号 216829
報告番号 乙16829
学位授与日 2007.09.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16829号
研究科 工学系研究科
専攻 電気工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 相田,仁
 東京大学 教授 若原,恭
 東京大学 教授 浅見,徹
 東京大学 教授 森川,博之
 東京大学 准教授 瀬崎,薫
 東京大学 准教授 中山,雅哉
内容要旨 要旨を表示する

本論文では、多種無線方式・放送受信方式に対応する必要がある自動車搭載無線機(車載機)を実現するにあたり近年注目を浴びるソフトウェア無線技術に注目し、ソフトウェア無線車載機の実用化に向けた研究について明らかにした。

第二章では、検討の背景として、車載機を取り巻く環境として、多種無線通信方式への対応が求められかつその種類が増大している現況と、通信方式の更新間隔と車両・車載機更新間隔との間にギャップがあるライフサイクル差の存在について説明した。その上で、ソフトウェア無線適用の効用として、新たな無線方式への対応・方式の変更対応の可能性や、修正・バージョンアップの容易性、共通プラットフォームでの実現による専用方式を含めたトータルコスト低減、開発コスト低減について説明し、これらソフトウェア無線の効用が上記車載機を取り巻く環境にマッチした状況にあることを示した。

第三章では、ソフトウェア無線技術を用いた車載向け放送受信・無線通信機能の実装と動作検証に関して、AM/FMラジオとアナログテレビ映像音声復調処理のデジタル信号処理による復調、ならびにETC/DSRC変復調処理のソフトウェア無線による実装・動作検証について紹介した。ここでは、従来アナログ回路により復調処理が行われてきた各処理ブロックについてソフトウェアにて定義しFPGAデバイス上でのリアルタイム復調処理を実現させた。ETC/DSRC変復調処理については、2変調方式に自律的に対応でき独自のシンボル同期回路を組み込んだ復調処理部により、変調方式によらず対応できる変復調処理部を構成した。ソフトウェア無線のFPGA上実装の実現性を検証すると共に、FPGAの利用方法の習得、開発環境の評価、並びにDSRC変復調処理あるいはアナログ放送受信のデジタル処理のためのアルゴリズムに関する検討も行った。

第四章では、ソフトウェア無線技術の実用化を見据えたデバイス検討として、昨今注目されているリコンフィギュラブルデバイスの適用と実装評価について説明した。米QuickSilver社ヘテロジニアスリコンプロセッサ上にAMラジオ/FMラジオ/アナログテレビ映像音声復調処理を構築した。入力するIF信号を自動的に検出して動的に処理を変更可能とした。また、リコンフィギュラビリティの性能確認のため、アナログテレビ映像処理・音声処理における処理負荷大なるPLL検波回路につき同一の演算モジュールにマッピングし時分割で両処理を切り替える構成とし、その状況下でのリアルタイム受信動作を確認した。プログラム作成においては、演算器を効率的に利用するための処理フローを考案し、積和演算を多用するFIRフィルタ処理、ならびにテーブルルックアップのためのメモリアクセスを多用するPLL処理の両者において実時間での復調処理を実現可能とするため演算回路使用効率を高めたパイプライン型の効率的実装を行った。リコンフィギュラブルデバイスの持つ動的処理変更性と高信号処理性能について実装により確認し評価を行った。

第五章では、上記ソフトウェア無線技術に基づく放送受信・無線通信機能の実装・動作検証ならびにリコンフィギュラブルデバイスの適用と実装評価の経験に基づき、リコンフィギュラブルデバイスとは異なるアプローチとしてパケットルーティング型プロセッシングアーキテクチャを考案し、ソフトウェア無線実現への適用検討と、プラットフォームとしての確立、また第三章にて開発済の無線通信・放送受信機能のアーキテクチャに基づく実装と評価について明らかにした。本アーキテクチャ上では、信号処理を、特定の処理を行う「演算モジュール」と、信号の経路制御を行う「スイッチングモジュール」により構成する。また、演算対象となる信号処理データは固定長のデータパケット化し、パケットはヘッダ部に方式・処理進捗を記したデータを格納することで、演算/スイッチング両モジュールでデータパケットに対して施すべき所望処理を特定する。演算モジュールには各方式で利用される動作モード・パラメータを保持し、またスイッチングモジュールにはデータパケットのルーティング情報を記載したルーティングテーブルを保持することで、それぞれのモジュール単位で独立・並行して処理を可能とした。演算モジュールは特定処理用途に専用に構築するがその処理モードあるいは処理パラメータはパラメータパケットとパラメータパケット用データバスを用いることで動的にコンフィグレーションを可能とする。演算モジュールは異なる無線方式あるいは無線チャネル間にて時分割処理により回路規模低減が可能となることを示した。また、処理ブロック単位でのモジュール化を行う本アーキテクチャに従うことで、共通利用化のための動作モード・パラメータ可変性と、特定処理専用回路とすることによる処理性能とを両立し得ることを示した。また、FPGA上への処理プロセッサ実装と評価により、異種無線方式によるモジュール共通利用、時分割動作による複数チャネル同時受信、あるいは複数方式の同時受信等、提案方式上でリアルタイム動作を確認した。今後、複数の無線方式をオンデマンド・ダイナミックに切り替えながら実行する無線システムを構築する上で端末側に求められる動的変更性と使用回路規模低減を両立させ、また無線処理設計を容易に実現する上でも、提案するプロセッシングアーキテクチャは特に車載無線機能を実現する手段として有望な方式であると考えられる。

第六章では、今後解決しなければならない課題点として、コスト評価、ソフトウェア無線に対する法規制、最新無線通信方式への適用、放送受信バックエンド処理の取り込み、等について挙げた。

以上、本論文で提案のプロセッシングアーキテクチャは、多種方式への同時・切り替え対応が必要とされる車載機をソフトウェア無線化しそのメリットを享受するにあたり、回路規模低減効果・動的変更性・ならびに設計実装において優れる有望な方式であることを示した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、自動車に搭載される無線機(車載機)に代表されるような、多種無線方式・放送受信方式に対応する必要がある無線機を実現するにあたり、近年注目を浴びているソフトウェア無線技術をとりあげ、実用レベルの機能を実現する方策について取りまとめたものであり、6章から構成されている。

第1章は「序論」であり、本論文の研究の動機と本論文における研究の流れについて整理している。

第2章「研究の背景」では、自動車搭載無線機能を取り巻く環境として、多種無線通信方式への対応が求められ、かつその種類が増大している現況と、通信方式の更新間隔と自動車・自動車搭載無線機能の更新間隔とのライフサイクル差の存在について述べている。また、ソフトウェア無線技術適用の効用として、新たな無線方式への対応・方式の変更対応の可能性や、修正・バージョンアップの容易性、共通プロセッサでの実現による専用方式を含めたトータルコスト低減、開発コスト低減について述べ、これらソフトウェア無線技術の効用が上記自動車搭載無線機能を取り巻く環境に適合していることを述べている。

第3章「FPGAを用いた無線通信・放送受信機能の実現」では、ソフトウェア無線技術を用いた車載向け放送受信・無線通信機能の実装と動作検証に関して、AM/FMラジオとアナログテレビ映像音声復調処理のデジタル信号処理による復調、ならびにETC/DSRC変復調処理のソフトウェア無線技術による実装・動作検証について示している。ここでは、従来アナログ回路により復調処理が行われてきた各処理ブロックをソフトウェアで定義し、FPGAデバイス上でのリアルタイム復調処理を実現している。ETC/DSRC変復調処理については、2変調方式に自律的に対応でき独自のシンボル同期回路を組み込んだ復調処理部により、変調方式によらず対応できる変復調処理部を構成している。このように、DSRC変復調処理あるいはアナログ放送受信のデジタル処理のためのアルゴリズムに関する検討の上に、ソフトウェア無線技術のFPGA上への実装の実現性を検証している。

第4章「リコンフィギュラブルプロセッサを用いた無線通信・放送受信機能の実現」では、ソフトウェア無線技術の実用化を見据えた検討として、昨今注目されているリコンフィギュラブルプロセッサへの実装について評価を行っている。具体的には、米QuickSilverTechnology社製ヘテロジニアスリコンフィギュラブルプロセッサ上に、AMラジオ/FMラジオ/アナログテレビ映像音声復調処理を構築し、性能確認のため、アナログテレビ映像処理・音声処理において処理負荷の大きいPLL検波回路を同一の演算モジュールにマッピングし時分割で両処理を切り替える構成とした場合でも、リアルタイム受信動作が可能であることを確認している。その一方で、既存のリコンフィギュラブルプロセッサでは、自動車搭載無線機能に必要とされる処理の柔軟性とオーバヘッドのトレードオフの観点から最適とは言えない点を指摘している。

第5章「自動車搭載無線機能向きプロセッシングアーキテクチャの提案」では、第3章、第4章の結果に基づき、自動車搭載無線機能をソフトウェア無線で効率よく実現するための枠組みとして、パケットルーティング型プロセッシングアーキテクチャを提案し、第3章で開発済の無線通信・放送受信機能を実装してその評価を行っている。本アーキテクチャ上では、信号処理は、特定の処理を行う「演算モジュール」と、信号の経路制御を行う「スイッチングモジュール」により構成され、また、演算対象となる信号処理データは固定長のデータパケット化し、パケットはヘッダ部に方式・処理進捗を記したデータを格納することで、演算/スイッチング両モジュールでデータパケットに対して施すべき所望処理を特定している。演算モジュールには各方式で利用される動作モード・パラメータを保持し、またスイッチングモジュールにはデータパケットのルーティング情報を記載したルーティングテーブルを保持することで、それぞれのモジュール単位で独立・並行して処理が可能であり、異なる無線方式あるいは無線チャネル間にて時分割処理を行うことにより、回路規模低減が可能となることを示している。また、これらのモジュールをFPGA上へ実装し、異種無線方式間でのモジュール共通利用や時分割動作による複数チャネル同時受信等、がリアルタイムに動作することを確認している。

第6章は「結論」であり、今後、自動車搭載無線機能に代表されるような、複数の無線方式に同時あるいは切り替えて対応する必要のある無線システムを構築する上で、端末側に求められる動的変更性と使用回路規模低減を両立させるとともに、無線処理設計を容易化するにあたり、第5章で提案したプロセッシングアーキテクチャが有望な方式であることを述べている。

以上のように、本論文は、多種無線方式への対応が必要とされる自動車搭載無線機能をソフトウェア無線技術により実現する場合の処理アルゴリズムを示し、それを実現する上で動的変更性と回路規模低減を両立させる枠組みとしてパケットルーティング型プロセッシングアーキテクチャを提案し、さらにそれらをFPGA上へ実装してそれらの実現性の検証を行ったものであり、これらの成果は、今後、複数無線方式への対応が必要となると考えられる携帯電話等にも適用可能であり、通信工学上貢献するところが少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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