学位論文要旨



No 216849
著者(漢字) 清田,隆
著者(英字)
著者(カナ) キヨタ,タカシ
標題(和) 原位置凍結・再構成砂質土の液状化強度特性と微小変形特性
標題(洋)
報告番号 216849
報告番号 乙16849
学位授与日 2007.10.18
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16849号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 古関,潤一
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 准教授 桑野,玲子
 東京理科大学 教授 龍岡,文夫
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、砂質土層の液状化現象に影響を及ぼす要因について、主に堆積年代の違いと微小変形特性に着目して行った実験の結果をまとめたものである。

地震時における地盤の液状化挙動を予測する場合、原位置採取試料を用いた室内土質試験を実施することは非常に重要である。これは、自然地盤の堆積年代・過程および現在までの応力履歴の違いが、その力学的特性に多大な影響を及ぼすためであり、多くの研究者・技術者が実験・実務を通じて認識していることでもある。しかし、地盤工学の古典的概念によれば、液状化のような非排水挙動を含む飽和砂地盤の力学的特性は主に密度または間隙比により記述され、本来自然地盤が有する年代効果は考慮されない場合が多い。その主要な理由としては、年代効果は地域性を有することから一般化が困難であることや、数千年から数百万年に及ぶ続成作用に伴う地盤の固化現象を、時間的制約を伴う室内土質試験によって忠実に再現することが困難であることなどが考えられる。また、年代効果は試料の乱れと共にその効果が失われることが知られているが、原地盤から乱さない砂試料を採取することの困難さも、年代効果を定量的に把握できない理由の一つとなっている。

本研究では、現時点において最も乱れの影響が少ないといわれている凍結採取試料(以下では凍結試料と称する)と、その再構成試料を用い、自然地盤が有する年代効果が試料の通常~大変形に至る液状化特性に及ぼす影響について、三軸圧縮試験機と中型中空ねじり試験機を用いて調べた。年代効果については、その生成環境から「応力履歴による土粒子構造の安定化」と「セメンテーション」に分類できるものと仮定し、微小変形特性との対応を検討した。微小変形特性は、応力状態と地盤の初期異方性(構造異方性)の影響を反映する、地盤の完全な弾性領域に限りなく近いひずみレベルでの変形特性であり、年代効果の影響も把握できる可能性がある。

本研究の実験に用いた試料は、液状化の検討が主目的であることから、地質学的には比較的新しい第四紀完新世(沖積試料)・更新世(洪積試料)の砂質土を対象としている。

以下に本研究で得られた知見をまとめる。

年代効果が微小変形特性に及ぼす影響

凍結試料と、それらと同程度の密度になるように調節した再構成試料の微小変形特性を比較した結果、凍結試料の方が大きな値を示し、その差は沖積試料よりも洪積試料の方が明らかに大きくなる傾向を確認した。これは、微小変形特性は密度のみの関数でなく、かつ年代効果の影響も反映している証拠である。また、洪積試料では微小変形特性の応力状態依存性が再構成試料より凍結試料の方が小さく、この傾向は特に動的微小変形特性において明確に現れた。洪積試料では、原位置有効上載圧より低い応力状態でも年代効果に起因する高い剛性が保持されていると考えられる。

また、再構成試料に繰返しせん断履歴を与えたところ、凍結試料と同等の微小変形特性を得ることができた。繰返しせん断履歴による供試体の体積変化は小さなものであり、微小変形特性増加の原因は、土粒子構造の安定化(応力履歴による年代効果)によるものと考えられる。

年代効果が液状化挙動に及ぼす影響

液状化前もしくは液状化中の微小変形特性について、堆積年代の異なる凍結試料の実験結果を比較した。沖積試料では、液状化前の等方圧密時と液状化過程において計測した同じ応力状態における微小変形特性の値はほぼ同等であった。液状化によって試料の年代効果が失われていくと仮定すると、沖積試料は初期状態においてセメンテーション効果はほとんどなかったものと考えられる。一方、洪積試料では液状化中の微小変形特性の方が圧密中よりも小さな値となった。洪積試料では圧密初期段階の低い応力状態でもセメンテーション効果が保持されていたが、液状化中はその効果が失われたものと考えられる。

また、液状化試験初期段階における有効応力の低下に伴う動的せん断剛性率Gdの低下傾向は、洪積試料の方が沖積試料よりも緩やかであった。有効応力がさらに低下すると、最終的に各試料のGdはほぼ同程度の大きさに収束するが、液状化の初期段階ではセメンテーション効果を有する洪積試料の方が沖積試料よりも剛性低下が生じにくいといえる。

繰返しせん断履歴を与えられ、凍結試料と同程度の微小変形特性を有する沖積再構成試料を用いた場合には、凍結試料と同程度の液状化強度を得ることができ、液状化中の動的せん断剛性率Gdの変化傾向も対応した。一方、洪積再構成試料でも凍結試料と同程度の液状化強度とGdが得られることを確認したが、液状化中のGdの変化については凍結試料と異なる傾向を示した。

液状化限界ひずみYz*

新たに構築した中型中空ねじり試験装置を用いて、豊浦砂と原位置採取試料の大ひずみ液状化試験を行い、従来の試験装置では不可能であった数十~100 %の両せん断ひずみ振幅までの計測を適切に実施することができた。

本研究で実施した一定応力振幅の液状化試験では、試料の違いによらず最終的に両せん断ひずみ振幅は100 %に達し、途中でひずみが収束することはなかった。しかし、液状化により供試体が一様に変形する領域は、試料の密度や種類により大きく異なった。本研究では液状化中の試料のダイレイタンシー特性に着目し、軸変位固定条件で実施した液状化試験中に軸力が急激に低下した時点を供試体が局所化に至った時点と仮定して、そのときの両せん断ひずみ振幅を液状化限界ひずみYz*と定義した。この定義による液状化限界ひずみは、繰返し載荷により局所的な変形を引き起こす限界のせん断ひずみレベルと位置づけられ、地震中に液状化した地盤が一様に変形する領域で生じ得るせん断ひずみの最大値に相当すると考えることができる。

空中落下法によって作成した豊浦砂供試体の場合、液状化限界ひずみYz*は相対密度と非常に良い相関が得られ、過去の地震で被災した地域における側方流動の測量値や、室内試験結果をもとに外挿された経験式とも対応した。また、Yz*は応力振幅によらず、供試体の密度に依存することを明らかにした。これを踏まえ、Yz*に達するまでの繰返し載荷回数と応力比振幅の関係として、従来の液状化強度曲線と同様の整理を行った。この液状化限界ひずみ曲線を用いることで、ある設計地震動に対して液状化した地盤が一様に変形する限界ひずみに達するか否かを判定することができると考えられる。

年代効果と大ひずみ液状化特性の関係

凍結試料と繰返しせん断履歴を受けた再構成試料、および繰返しせん断履歴のない再構成試料の相対密度は同レベルの値であったが、各試料の液状化限界ひずみYz*はそれぞれ異なる値を示した。相対密度の違いだけでは年代効果の影響を説明できないことを前述したが、Yz*についても同様であった。一方、動的せん断剛性率GdとYz*の関係は、全体的に相対密度よりも相関が良かった。しかし、洪積試料のYz*について、凍結試料と繰返しせん断履歴を受けた再構成試料を比較すると、両者のGdの値は同レベルであったが、再構成試料の方が二倍~三倍程度大きなYz*の値を示した。これは、凍結試料では土粒子構造の安定とセメンテーションの効果が、再構成試料については繰返しせん断履歴による土粒子構造の安定化が、それぞれ液状化に対する抵抗性を発揮していると考えられるが、同じGdが得られたとしてもセメンテーションの効果を有する試料の方が、一様に変形する領域が小さいと考えられる。

凍結採取試料の取り扱い上の留意点

異なる拘束圧において凍結試料を融解させ、微小変形特性を比較した結果、原位置有効上載圧相当の高い拘束圧(本研究では98 kPa)で融解させた方が、低い拘束圧(30 kPa)の場合よりも大きな微小変形特性の値を示した。この傾向は、沖積試料や再構成試料において顕著であり、洪積試料では融解拘束圧の違いによる微小変形特性の変化は小さかった。また、融解拘束圧の低下により、液状化強度は沖積試料では約14 %、洪積試料では約7 %低下した。低い融解拘束圧では、微視的には土粒子構造が急激に開放されるため、セメンテーション効果を持たない沖積試料や再構成試料では土粒子構造に乱れが生じ、微小変形特性と液状化強度が低下した可能性が考えられる。なお、高い拘束圧で融解させた凍結試料の動的せん断剛性率Gdは、原位置PS検層による値と概ね一致した。

この結果と凍結・融解過程における供試体の体積変化特性の分析結果より、凍結採取の取り扱いに関する留意点を以下のように取りまとめた。

・凍結試料採取に伴う地盤凍結時には、間隙水の体積膨張に伴う地盤の乱れを防ぐためにゆっくりと凍結させる配慮が一般的になされているが、地盤内温度が4℃以下で膨張する領域では、特に慎重に凍結速度を制御する必要がある。

・凍結試料(特に沖積試料)の乱れは融解拘束圧の低下によって生じ、かつ融解に伴う体積変化は常温では非常に早く生じる。したがって、試料採取時から室内試験において所定の拘束圧をかけるまでの間、供試体周辺温度には常に配慮すべきであり、数分でも常温下に曝すことは避けるべきである。

・上記と同様の理由により、凍結試料(特に沖積試料)の融解時の拘束圧は、原位置凍結時の応力状態と同じレベルとするべきである。

審査要旨 要旨を表示する

砂地盤の液状化は、これまでの地震でさまざまな被害を引き起こしてきた。そのため、標準貫入試験などの原位置地盤調査結果に基づいて液状化強度を判定する手法が実用化されてきているが、近年になって設計で考慮する地震動レベルが著しく引き上げられたために、これらをそのまま組み合わせると、従来は液状化しないと考えられていた堆積年代の古い地盤まで液状化すると判定する結果が得られることがあり、実務上の問題となっている。

一般に、堆積年代の古い地盤ほど大きな年代効果を有しており、土粒子構造の安定化やセメンテーションの発達により液状化強度が高まっていると考えられている。しかしながら、このような年代効果の程度を定量的に把握できる指標として確立されたものはない。一方で、微小ひずみレベルにおける地盤材料の変形特性は、同じ応力状態のもとでも土粒子構造の違いに応じて異なる値をとるため、年代効果を反映した指標として利用できる可能性がある。

さらに、液状化した地盤は極めて大きな変形を示す場合があることが既往の地震被害事例や関連する模型実験で明らかになっているが、いくつかの技術上の制約により、室内の土質試験においてそのような大変形挙動を詳細に検討した例は極めて限られている。

以上のような背景のもとで、本研究では、年代効果の程度の異なる数種類の砂質土試料を用いて、その液状化強度変形特性にとどまらず、微小ひずみレベルにおける弾性的な変形特性から、液状化後の大ひずみレベルにおける変形特性までを対象として、これらを精度よく計測する室内土質試験を系統的に実施している。

第一章は序論であり、研究の背景と目的を説明し、最後に論文の構成を記述している。

第二章では、本研究で実施した室内土質試験に関して、試験に用いた試料と装置および試験方法について記述している。特に、中空円筒供試体を用いたねじり載荷試験において数十パーセントを超えるひずみレベルまで試験を実施できるように試験装置を改良した内容の詳細と、原位置で凍結させて採取した試料に乱れが生じないように留意しながら整形して試験を実施する手順の詳細について記述している。

第三章では、地盤材料の微小変形特性に関するこれまでの知見をとりまとめるとともに、本研究で用いた動的および静的な測定方法に基づく微小変形特性の計測結果に及ぼす試料の排水条件や飽和条件等の影響について、詳細な分析を行っている。

第四章では、小型三軸試験装置を用いた試験結果について記述している。等方圧密中に計測した砂質土の微小変形特性に着目し、試料の凍結融解履歴や融解時拘束圧の影響を明らかにしている。また、年代効果を有する原位置凍結試料と年代効果のない室内再構成試料の微小変形特性が異なることを示したうえで、後者の試料に排水繰り返しせん断履歴を与えることにより、年代効果と同等な微小変形特性の改善効果が得られることを報告している。

第五章では、第四章に引き続いて小型三軸試験装置を用いた試験結果について記述している。年代効果や排水繰り返しせん断履歴の有無によって異なる値を示す液状化強度が、液状化試験を実施する直前に動的な測定手法で計測した微小変形特性とよい相関を示すことを明らかにしている。一方で、液状化試験中に計測した微小変形特性の比較も行い、比較的長期間の年代効果の有無による違いと、排水繰り返しせん断履歴の有無による違いが、それぞれ異なる傾向の影響として現れることを見出している。

第六章では、中型中空ねじり試験装置を用いた大ひずみレベルまでの液状化試験結果について記述している。メンブレン張力の影響を適切に補正することにより、大ひずみレベルにおいても従来の結果と整合するような液状化砂の応力ひずみ関係が得られることを明らかにしている。また、あるひずみレベル以上になると変形の局所化が生じ、そのひずみレベルの限界値は試料の密度が高くなるほど小さくなることを示している。

第七章では結論と今後の課題を記述している。

以上を要約すると、本研究では、砂質土の液状化挙動に影響を及ぼす要因について、主に堆積年代の違いと微小変形特性に着目して行った室内試験の結果をまとめている。原位置で凍結させて採取した年代効果を有する試料と、これと同じ材料を用いて室内で再構成した年代効果のない試料を対象として、動的および静的な測定方法で微小変形特性を計測しながら液状化試験を行ない、さらに、一部の試験では数十パーセントを超える大ひずみ領域まで試験を実施した点に特徴がある。これらの結果として、液状化に起因する地盤被害メカニズムの解明や、実務における液状化判定の合理化をすすめる際に大きく寄与する知見を提示しており、地盤工学の発展に大いに貢献している。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク http://hdl.handle.net/2261/42892