学位論文要旨



No 216859
著者(漢字) 徳島,正敏
著者(英字)
著者(カナ) トクシマ,マサトシ
標題(和) ピラー型正方格子フォトニック結晶導波路の設計・作製とその時間可変遅延素子への応用に関する研究
標題(洋)
報告番号 216859
報告番号 乙16859
学位授与日 2007.11.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16859号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 荒川,泰彦
 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 教授 菊池,和朗
 東京大学 教授 中野,義昭
 東京大学 教授 平川,一彦
 東京大学 准教授 岩本,敏
内容要旨 要旨を表示する

将来の光通信ネットワーク・ノード装置に必要な機能に、光バッファがある。光バッファは光信号を光のまま、一定時間待機させる機能を有する。光バッファに使用できるデバイスとして、ピラー型正方格子フォトニック結晶(ピラーPC)導波路を用いた時間可変光遅延素子が有望である。ピラーPC導波路は、導波光の伝搬速度が小さいため、同じ遅延時間を短い導波路長で得られる。また、熱光学効果や電気光学効果を用いた遅延時間の変調効率も高い。これらの特徴により、集積可能な微小時間可変光遅延素子が実現できると期待される。

本研究では、ピラーPCのデバイス応用に向けて時間可変光遅延素子への適用を目指し、線欠陥導波路の基本動作理論の構築、及び、素子設計、作製技術、デバイス応用技術、実用化基盤技術の開発を行った結果をまとめたものであり、9章から構成されている。

第1章は「序論」であり、本研究の背景と目的、及び構成について述べている。

第2章は「フォトニック・バンド理論の概要と考察」と題して、導波モードの特性予測、及び導波路曲がりに関する設計指針について述べている。特に、フォトニック・バンド理論をベースに考察し、ピラーPC導波路の動作予測や、有用な導波モードを設計するための指針を与えた。

第3章は「線欠陥導波蕗曲がりの高透過率の解析」と題して、光回路の基本である光配線の急激曲がりを実現するため、ピラーPC導波路の90°曲がりの設計指針を導出している。導波光の主要なフーリエ成分の電磁界は導波方向に対して交差する2つの平面電磁波であることを示し、この2つの平面電磁波の伝搬方向が直交する場合に、透過率が高くなることを理論的に示した。

第4章は「ピラーPC導波蕗の新規構造の設計と作製」と題して、ピラーPC導波路の新規構造の設計と作製技術について述べている。光通信波長帯用として作製可能であり、理論的には無損失な有限厚みのピラーPCの構造を考案した。更に、作製したピラーPC導波路を用いて、ピラーPC導波路の導波確認に世界で初めて成功した。従来、ピラーPC導波路で厚み方向に光を閉じ込めるには、ピラーの間の媒質に比べて、ピラーの上下の媒質の屈折率を小さくしなければならないと考えられていたが、本研究では、ピラーの間と上下の媒質が一様な屈折率を有する場合でも可能な新規構造を考案した。

第5章は「ピラーPC導波蕗の光結合器」と題して、ピラーPC導波路のための高効率光結合器について述べている。ピラーPC導波路は低群速度であるが故に光結合が困難であるという課題がある。本研究では、この課題を解決する光結合器の開発を行った。光結合器を、ピラーPC導波路と細線導波路の光結合器と、細線導波路と光ファイバーとの光結合器の2段構造とし、それぞれについて新規構造の考案と動作実証を行った。また、光結合器の応用技術として、オン・チップ偏波ダイバーシティ回路の構造を提案し、3次元FDTDシミュレーションにより動作を検証した。

第6章は「ピラーPC導波蕗を用いた時間可変光遅延素子」と題して、デバイス応用としてピラーPC導波路を用いた時間可変光遅延素子の基本動作の実証について述べた。群屈折率20以上における透過光の波形観測に成功した。ピラーPC導波路を用いた光遅延線の最大遅延時間が、現状では数ns程度であることを予測した。全遅延時間の数%に達する効率的な遅延時間変調動作が可能なことを解析的に導くとともに、それを実験によって実証した。

第7章は「シミュレーションによる漏洩モードの評価」と題して、実用化基盤技術の開発として漏洩モードの評価技術について述べている。フォトニック結晶やその線欠陥導波路が短い場合には、導波モードでなくても透過率が高い場合があることを、シミュレーションと理論解析によって示した。フォトニック結晶導波路を用いた光素子は微小であるために、漏洩モードの影響を無視できない。漏れ光による雑音やクロストークの影響を評価するために、本研究の評価技術や知見が有効である。

第8章は「光リソグラフィによるフォトニック結晶のパターニング」と題して、フォトニック結晶の光リソグラフィ技術について述べている。電子線描画技術よりもスループットの大きいパターニングを目指して、光リソグラフィを用いた光通信波長帯用フォトニック結晶の作製が可能なことを実証した。超解像技術を適用して、ホール型三角格子フォトニック結晶パターンの解像に成功した。将来的には、193 nm液浸露光技術と組み合わせることで、解像度の向上が可能と考えられる。

第9章は結論である。

本論文の結論として、本研究で得られた成果は、ピラー型正方格子フォトニック結晶に関して、線欠陥導波路を中心にして基本動作を理論解析し、素子設計、作製技術について指針を明らかにするとともに、時間可変光遅延素子への応用の可能性を示したものであった。今後の発展が期待される。

審査要旨 要旨を表示する

将来の光通信ネットワーク・ノード装置に必要な機能に、光バッファがある。光バッファは光信号を光のまま、一定時間待機させる機能を有する。光バッファに使用できるデバイスとして、ピラー型正方格子フォトニック結晶(ピラーPC)導波路を用いた時間可変光遅延素子が有望である。ピラーPC導波路は、導波光の伝搬速度が小さいため、同じ遅延時間を短い導波路長で得られる。また、熱光学効果や電気光学効果を用いた遅延時間の変調効率も高い。これらの特徴により、集積可能な微小時間可変光遅延素子が実現できると期待される。

本論文は、「ピラー型正方格子フォトニック結晶導波蕗の設計・作製とその時間可変遅延素子への応用に関する研究」と題して、ピラーPCのデバイス応用に向けて時間可変光遅延素子への適用を目指し、線欠陥導波路の基本動作理論の構築、及び、素子設計、作製技術、デバイス応用技術、実用化基盤技術の開発を行った結果をまとめたものであり、9章から構成されている。

第1章は「序論」であり、本研究の背景と目的、及び構成について述べている。

第2章は「フォトニック・バンド理論の概要と考察」と題して、導波モードの特性予測、及び導波路曲がりに関する設計指針について述べている。特に、フォトニック・バンド理論をベースに考察し、ピラーPC導波路の動作予測や、有用な導波モードを設計するための指針を与えた。

第3章は「線欠陥導波蕗曲がりの高透過率の解析」と題して、光回路の基本である光配線の急激曲がりを実現するため、ピラーPC導波路の90°曲がりの設計指針を導出している。導波光の主要なフーリエ成分の電磁界は導波方向に対して交差する2つの平面電磁波であることを示し、この2つの平面電磁波の伝搬方向が直交する場合に、透過率が高くなることを理論的に示した。

第4章は「ピラーPC導波蕗の新規構造の設計と作製」と題して、ピラーPC導波路の新規構造の設計と作製技術について述べている。光通信波長帯用として作製可能であり、理論的には無損失な有限厚みのピラーPCの構造を考案した。更に、作製したピラーPC導波路を用いて、ピラーPC導波路の導波確認に世界で初めて成功した。従来、ピラーPC導波路で厚み方向に光を閉じ込めるには、ピラーの間の媒質に比べて、ピラーの上下の媒質の屈折率を小さくしなければならないと考えられていたが、本研究では、ピラーの間と上下の媒質が一様な屈折率を有する場合でも可能な新規構造を考案した。

第5章は「ピラーPC導波蕗の光結合器」と題して、ピラーPC導波路のための高効率光結合器について述べている。ピラーPC導波路は低群速度であるが故に光結合が困難であるという課題がある。本研究では、この課題を解決する光結合器の開発を行った。光結合器を、ピラーPC導波路と細線導波路の光結合器と、細線導波路と光ファイバーとの光結合器の2段構造とし、それぞれについて新規構造の考案と動作実証を行った。また、光結合器の応用技術として、オン・チップ偏波ダイバーシティ回路の構造を提案し、3次元FDTDシミュレーションにより動作を検証した。

第6章は「ピラーPC導波蕗を用いた時間可変光遅延素子」と題して、デバイス応用としてピラーPC導波路を用いた時間可変光遅延素子の基本動作の実証について述べた。群屈折率20以上における透過光の波形観測に成功した。ピラーPC導波路を用いた光遅延線の最大遅延時間が、現状では数ns程度であることを予測した。全遅延時間の数%に達する効率的な遅延時間変調動作が可能なことを解析的に導くとともに、それを実験によって実証した。

第7章は「シミュレーションによる漏洩モードの評価」と題して、実用化基盤技術の開発として漏洩モードの評価技術について述べている。フォトニック結晶やその線欠陥導波路が短い場合には、導波モードでなくても透過率が高い場合があることを、シミュレーションと理論解析によって示した。フォトニック結晶導波路を用いた光素子は微小であるために、漏洩モードの影響を無視できない。漏れ光による雑音やクロストークの影響を評価するために、本研究の評価技術や知見が有効である。

第8章は「光リソグラフィによるフォトニック結晶のパターニング」と題して、フォトニック結晶の光リソグラフィ技術について述べている。電子線描画技術よりもスループットの大きいパターニングを目指して、光リソグラフィを用いた光通信波長帯用フォトニック結晶の作製が可能なことを実証した。超解像技術を適用して、ホール型三角格子フォトニック結晶パターンの解像に成功した。将来的には、193 nm液浸露光技術と組み合わせることで、解像度の向上が可能と考えられる。

第9章は結論である。

以上これを要するに、本論文は、ピラー型正方格子フォトニック結晶に関して、線欠陥導波路を中心にして基本動作を理論解析し、素子設計、作製技術について指針を明らかにするとともに、時間可変光遅延素子への応用の可能性を示したものであり、電子工学に貢献するところが少なくない。

よって、本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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