学位論文要旨



No 216867
著者(漢字) 内田,圭亮
著者(英字)
著者(カナ) ウチダ,ケイスケ
標題(和) エックス線による粉体流動の可視化と画像処理法に関する研究
標題(洋) A Visualization Study for Powder Flow with X-ray Penetration and the Image Processing Techniques
報告番号 216867
報告番号 乙16867
学位授与日 2007.12.05
学位種別 論文博士
学位種類 博士(環境学)
学位記番号 第16867号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡本,孝司
 東京大学 教授 越塚,誠一
 東京大学 教授 高橋,浩之
 東京大学 准教授 大宮司,啓文
 東京大学 准教授 染矢,聡
内容要旨 要旨を表示する

1mm以下の粒子集合体である粉体は食品から工業製品まで一般に広く使用されている.特に基本的な粉体のプロセスとして,搬送・輸送工程がある.スクリューフィーダーによる粉体輸送手法(Fig.1)は,工業的に最も多く用いられている手法の一つである.搬送対象である粉体は,小麦粉・米等の穀物から,セメント等の建築材料,電子写真画像形成装置で用いるトナーや磁性粒子キャリア等まで多種にわたる.また,輸送のスケールも搬送距離が数10mを超える大型の建築材料等の粉体搬送方式から,搬送距離数10cmの電子写真画像形成装置内まで多様に存在する.構造が比較的シンプル.コンパクトであり,密閉操作に適するという特徴を有する.

しかし,スクリューフィーダーに限らず,粉体プロセスに関する装置の設計・改良の場面では経験的な知見・相対的な評価が主となっているのが現状である.

理由の一つとして,粉体は流体のナビエストークス式のような確立された運動方程式に相当する基本式が存在せず,その物理メカニズムに未解明な点が数多く存在するという点がある.粉体特性を完全に記述するためには(i)粒子特性(ii)静止状態における集合特性(iii)流動状態における集合特性,の知見が必要であるが,各々確立された評価手段が無い.とりわけ,粉体は可視光を透過しないために(iii)の動的な流動状態を可視化する試みは,表層状態の観察・エックス線による破断面観察など,限られた事例しか無く,局所的・時間的な流動メカニズムを解析する一般的な粉体の可視化手法は殆ど存在していない.一方,近年の計算機能力向上を背景として,粒子要素法等のシミュレーション開発も行われ徐々に粉体流動解析への実用化が行われている.このようなシミュレーションの結果評価のためにも,同等の情報量を有する計測手段,特に粉体流動の可視化手法が望まれている.

本研究では比較的汎用性の優れた可視化手法として,エックス線吸収率の高いトレーサー注入によるエックス線透過観察法を提案する.可視化の対象としては,最も基本的な粉体プロセスの一つとして,上述のスクリューフィーダー粉体搬送装置を取り上げた.

得られた可視化像から,粉体搬送速度・混合拡散係数といった粉体搬送の基本的物理量を計測する手法や,パスライン(粒跡線)という局所的流動構造を簡易的に評価できる可視化像を抽出する画像処理技法について検討した.粉体拡散係数とは拡散モデルを用いて擬似的に表した粉体機械の混合の強さを表現する量である.また,エックス綜透過像・粉体機構の影等,可視化像に混入する特有のノイズを除去する手法についても考察した.特に,粉体搬送速度・混合拡散係数計測結果については不確かさ解析を行い,その精度範囲と,今後の計測手法の精度向上に最も影響の大きい改善ポイントについて明確にした.

トレーサーの追随性は特に重要な計測誤差の一つであると考える.そこで,トレーサーと粒子の挙動の乖離を発生させる原因に関して,(i)偏析現象の有無(ii)粒子間に働くミクロな力について机上検討による考察を行った.更に搬送方向への搬送速度について,種々の条件においてトレーサーと粉体が,ほぼ同一の値をとることを実証した.これらより,本可視化手法は,解析の目的上十分な精度を有することを確認した.

さらに,本可視化手法を最も基本的な粉体機械の一つであるスクリューフィーダーの流動解析に適用した.従来,スクリューフィーダー内部の流動構造を直接可視化した研究事例はなかった。このため,スクリュー形状はスクリューフィーダーの開発において最も基本的な設計要素にもかかわらず,スクリュー形状が及ぼす流動への直接的な影響はまったく分かっていなかった.

ここでは,代表的な5種類のスクリュー形状(ピッチの異なる一条スクリュー3種(SingleA,B,C)・二条スクリュー(Double)・プレート付スクリュー(SingleP))(Fig.2)を題材として,スクリュー形状が流動へ及ぼす特徴的な影響をパスラインによって可視化した(Fig.3).

次に,移動度計測・混合拡散係数計測を行い(Fig.4,Fig.5),各スクリュー形状について下記の特徴を有することを確認した.

・スクリューピッチによる流動速度・混合拡散係数への影響.

スクリューピッチが大きくなるほど,流動速度は減少し混合拡散係数は増加する.

・スクリューの一条・二条構造による移動速度・混合拡散係数への影響

同スクリューピッチの一条構造スクリューと比べて,二条構造では流動速度が増加し混合拡散係数は減少する.

・スクリューのプレート配置による移動速度・混合拡散係数への影響

同スクリューピッチの一条構造スクリューと比べて,プレートは流動速度がわずかに減少するが混合拡散係数は増加する.

以上より,本手法が粉体流動の可視化を行うのに有効であることを示した.

Fig.1 A powder feeder unit With a spiral screw and trough.

Fig.2 The screws tested.

Fig.3 The color path line visualized byX-ray penetration and injecting tracer

Fig.4 Velocity of tracer along transmitted direction at each screw.

Fig.5 Diffusion co efficiency calculated byimage processing at each screw..

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、トナーなどの微小粉体を混合輸送するためのスクリューフィーダーに対して、その内部を流動する粉体流動場の計測手法を開発するとともに、その物理的な特性に関する評価について論じたものである。本論文は6章で構成されている。

第1章では、本研究の動機と目的について述べている。微小粉体混合輸送機器としてのスクリューフィーダーについて述べるとともに、その流体挙動評価手法に関する研究の現状をまとめている。粉体が不可視流体であることから、その詳細な挙動を評価する手法が非常に少ないことを示している。これらの現状を踏まえ、粉体挙動に対するX線を用いた流動計測手法と画像処理手法開発を本研究で目的とする事を明確化している。

第2章は粉体挙動を可視化するためのX線可視化システムについて述べている。不可視流体である粉体をX線によって透過画像として捕らえるとともに、粉体挙動をトレーサによって可視化する。実験に用いるX線発生装置や画像計測装置、スクリューフィーダーの具体的な形状や、トレーサ注入システムについてまとめている。これらのシステムによって、粉体中に混入されたトレーサの挙動を動画として捉えることができることを説明している。

第3章では、得られたX線透過画像を画像処理することによって、さまざまな物理データを算出する手法について述べている。具体的には、移動度(速度)、パスライン、拡散係数の3種類の物理量を算出する手法を示している。移動度は位相平均された背景画像を用いてトレーサ画像のみを抽出することで評価し、粉体の移動連度がブレード速度よりも遅くなることを明らかにしている。またこの画像を重ねることで、軌跡を求めるとともに、時間変化を色で示すことでパスラインの情報をよりわかりやすく示すことができる。さらに、ブレードによる混合量を定量化するため、局所拡散係数をトレーサ画像の拡散から算出する手法を提案している。

第4章は、前章で提案した物理データ計測手法の不確かさ解析を行っている。移動度と拡散係数のそれぞれについて、不確かさ要因と不確かさの伝播を評価している。特にトレーサ粒子の追従性について、理論的評価と実験的評価を組み合わせて、本実験条件の範囲内ではトレーサの追従性が高いことを示している。また、主に画像ひずみによる効果が影響し、20%程度の不確かさとなっていると結論付けている。

第5章では開発したX線可視化手法と画像処理法を用いて5種類のスクリューフィーダーによる混合輸送を実際に計測し、それぞれの移動度、パスライン、拡散係数を算出している。これらの結果をブレードと粉体との相互作用を考察することで説明するとともに、その特性を明らかにしている。

第6章は結論であり、本論文で得られた成果をまとめている。

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