学位論文要旨



No 216871
著者(漢字) 中村(菅谷),綾子
著者(英字)
著者(カナ) ナカムラ(スガヤ),アヤコ
標題(和) 光学的誤差要因解析に基づく集積回路パターン位置検出のロバスト性向上に関する研究
標題(洋)
報告番号 216871
報告番号 乙16871
学位授与日 2007.12.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16871号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 柴田,直
 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 教授 浅田,邦博
 東京大学 教授 高木,信一
 東京大学 教授 平本,俊郎
 東京大学 特任教授 三好,元介
内容要旨 要旨を表示する

現代社会を語る上でなくてはならないものの一つに,半導体集積回路(Large Scale Integration: LSI)がある.LSIは水平方向への高集積化である微細化を追及しつつ,垂直方向への高集積化である配線の多層化が図られる.LSIのパターン形成には半導体露光装置が使われてきたが,垂直方向の重ね合わせは,半導体露光装置に搭載されたウエハアライメント系の位置検出結果に基づいて行われる.従ってLSIが電子回路として正常に機能するために,ウエハアライメント系には微細化に対応した精度でパターンの位置を検出することが求められる.

ウエハアライメント計測は,重ね合わされる層の半導体用プロセス処理を経たパターンの位置を検出する.プロセス処理は多種多様であり,さらにパターンの形状の観点において変動する.特にLSIの製造に不可欠な平坦化技術はパターン形状を大きく変化させ,ウエハ毎やショット毎のパターン形状ばらつきも大きい.ウエハアライメント系は,このようなプロセス変動に対し高いロバスト性をもつことが要求される.本論文は,光学的な誤差要因解析を理論的に行うことにより開発した,ウエハのプロセス変動に対し高ロバスト性をもつ検出手法に関するものである.

まず光学像の歪が位置検出誤差の要因となることを,物理的に理解するための考察を行う.検出誤差への見通しをよくするため,誤差要因を振幅誤差と位相誤差に分類することを提案する.そして理論解析のために本分類に基づいた解析式を導入し,本研究で注目した光学像歪みに本解析を用いることで,光学系の振幅誤差と位相誤差の計測が可能になる手法を提案する.シミュレーションにより本計測法の有効性を確認した結果,十分な計測精度を示した.さらに振幅誤差と光学像の歪みの理論的考察により,回折光の残存した虚数成分により光学像の歪が生じることが判明した.

次に振幅誤差が位置検出誤差を引き起こす解釈を得るため,各振幅誤差の要因抽出および解析を行う.光学系の振幅誤差は光学系の瞳における光軸に非対称な振幅分布であり,開口絞りの位置ずれや振幅を不均一にさせる要因がある場合に生じる.この振幅誤差による位置検出誤差は,本研究で注目する光学像歪みを用いることで理論的解釈を与えることができた.さらに光学系の振幅誤差およびパターン形状誤差による位置検出誤差の解析を行い,パターンの位相差やデューティー比に対する位置検出誤差の特徴を明らかにした.

得られたこれらの理論的見解から,振幅誤差による位置検出誤差を低減する手法を提案する.振幅誤差の生じている回折光と0次光との位相差をπ/2とすると,振幅誤差による像の非対称性をなくせることを明らかにする.そしてこれを,検出フォーカス位置の最適化で行う手法を提案する.またシミュレーションと実験により,本手法の有効性を検証する.効果が大きいもので検出誤差を90%低減でき,プロセス変動に対して高ロバスト性をもつ検出法が開発できた.

本手法は,市場に投入されている半導体露光装置に適用されている.LSIの製造に用いられる装置であるため,多種多様なプロセスに適用可能であることが望ましい.低コヒーレンスの照明条件における,デフォーカスによる像コントラストの変化を理論的に明らかにすることで,本手法は計測パターンの構造変化,すなわちデューティー比と位相差に関し高ロバスト性をもつ手法であることを示す.そして生産現場で生じるウエハ内やショット毎のパターン形状ばらつきに対しても,高ロバスト性をもつ手法であることを示す.

本研究では,従来各誤差要因に対して個別にかつシミュレーションと実験を中心に議論されてきた位置検出誤差に関して,光学的な観点において理論解析に基づく議論を行う.それにより物理的な見通しを得,プロセス変動に対して高いロバスト性をもった検出法を提案する.本研究は微細化を続けるLSI製造において,パターン位置検出の高精度化に貢献するものである.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「光学的誤差要因解析に基づく集積回路パターン位置検出のロバスト性向上に関する研究」と題し、半導体製造工程におけるリソグラフィプロセスに関し、集積回路パターンの重ね合わせ精度向上に関する研究成果を纏めたもので、全文7章よりなる。

第1章は、序論であり、本研究の背景について議論するとともに本論文の構成について述べている。

第2章では、ウェハアライメント装置に関する従来技術の変遷について述べるとともに、集積回路パターンの重ね合わせ精度の劣化をもたらすパターン検出誤差に関し、計測器に起因する誤差TIS(Tool-Induced Shift)と計測対象に起因する誤差WIS(Wafer-Induced Shift)といった従来広く用いられている外面的な誤差要因分類では、本質的な重ね合わせ精度向上の指針として不適切であることを指摘し、本研究のとるべき方向性を提示している。

第3章では、計測誤差を光学的な観点から見直し、光学像の歪みがパターン位置検出誤差の要因になることを指摘し、本質的な誤差要因を表現できる新しい誤差分類として光の振幅誤差と位相誤差に分類する手法を提案している。新しい誤差分類の観点に基づき、光学像の歪みの表現手段としてパターンエッジに対応する像の非対称性に着目した光学理論解析を行い、光学系に起因する振幅誤差と位相誤差について、特に振幅誤差が光学系で歪みを生じる原因となることを理論的に検証している。

第4章では、振幅誤差が位置検出誤差を引き起こす原因を探るため、振幅誤差を生じる要因の抽出を行うとともに、前章で展開した光学理論解析に基づき、振幅誤差による位置検出誤差発生のメカニズムを明らかにしている。光学系の振幅誤差要因は、光学系の瞳における光軸に非対称な振幅分布であり、検出器に入射する光束の瞳内輝度分布が非対称となるために生じる誤差である。そして、低位相差パターンにおける位置検出精度の低下は振幅誤差による像の非対象性に起因するものであることを理論的に示している。これは重要な知見である。

第5章では、前章で明らかにした振幅誤差による位置検出誤差発生メカニズムの解析結果に基づき、光学系の振幅誤差や低位相差パターン誤差、パターン形状誤差の大幅な低減を可能にする新たな位置検出手法として、検出フォーカス位置最適化手法であるFFO (Field Image Alignment Focus Optimization) を提案している。FFOは、検出フォーカス位置を0次光とn次光との位相差がπ/2になるように設定することにより、振幅誤差の影響による像の非対称性をなくす手法であり、特に大きな位置検出誤差を発生する可能性のある低位相差パターンの位置検出誤差を有効に低減することができる。シミュレーションと実験の両方の評価により、本方式が極めて有効であることを実証している。これは、本技術を実用化する上で重要な成果である。

第6章では、前章で提案したFFO方式のパターン位置検出方式を半導体露光装置に搭載するための機能を、高位相差パターンから低位相差パターンにわたるロバスト性を確保する観点から最適化した結果について述べている。FFOでは、高周波成分(AHF)が最大となるデフォーカス位置を最適な位置検出フォーカス位置ZOFFとすることで、WISの低減とパターンからのコントラスト向上を同時に達成できることをシミュレーションと実験から確認している。商品機に搭載したときのZOFF決定シーケンスとして、フォーカスを振りながらFIAで画像を取得し、その取得した画像から波形の特定の高周波数成分の振幅AHFとフォーカスとの関係を求め、AHFが最大になるフォーカス位置を最適位置としてパターン位置検出を行う手法について述べている。さらに、スループットを向上する手法も提案し、本技術を実用技術として確立することにより、最新機種の露光装置で採用されるに至ったことを述べている。

第7章は結論である。

以上要するに本論文は、集積回路の微細化において最大の課題の一つである高精度ウェハアライメント技術において、製造プロセス変動に対するロバスト性向上に関して、光学的な観点から新たなパターン位置検出誤差分類手法を提案するとともに、誤差発生要因を統一的に解釈できる光学理論を展開することにより、ロバスト性の高いウェハアライメント手法(FFO方式)を提案し、且つ商品における実用化を達成した研究であり、半導体電子工学の発展に寄与するところが少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。

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