学位論文要旨



No 216879
著者(漢字) 鈴木,恵子
著者(英字)
著者(カナ) スズキ,ケイコ
標題(和) 新規気管支喘息治療薬としてのCCR3拮抗薬に関する研究
標題(洋)
報告番号 216879
報告番号 乙16879
学位授与日 2008.01.09
学位種別 論文博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 第16789号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 松木,則夫
 東京大学 教授 入村,達郎
 東京大学 教授 杉山,雄一
 東京大学 教授 新井,洋由
 東京大学 教授 一條,秀憲
内容要旨 要旨を表示する

【序論】

気管支喘息は気管支のアレルギー炎症が慢性化した呼吸器疾患で、気道過敏性の亢進や可逆性の気道狭窄を起こして喘鳴や咳などの症状をきたす。気道や肺胞内には好酸球が集積した組織傷害像が認められ、病態の悪化・慢性化には好酸球が関与することが知られている。現在、長期管理の基本薬剤として吸入ステロイド、重症度に応じて経ロステロイドやβ2刺激薬、ロイコトリエン拮抗薬などの併用が用いられるが、副作用や有効率に課題があり、新規薬剤の開発が望まれている。

CCケモカイン受容体3(CCR3)は好酸球に発現し、遺伝子欠損マウスなどの知見より、アレルギー炎症における好酸球の遊走制御に重要な役割を果たすことが示唆されている。アレルギーに関与する肥満細胞やTh2リンパ球もCCR3を発現するが、生体における機能は不明である。一方、Th1リンパ球やBリンパ球、マクロファージ、好中球はCCR3を発現しない。CCR3に作用するケモカインはCCU1、CCL24、CCL26、CCL13、CCL5、CCL7などが知られ、気管支喘息やアトピー性皮膚炎患者においてこれらの発現上昇が報告されている。このように、CCR3は好酸球の遊走に関わり、喘息病態への関与が示唆されることから、好酸球選択的な創薬標的として注目される。

現在、CCR3を標的とした薬剤としてCCL11中和抗体がアレルギー性結膜炎を適応に臨床開発中である。CCR3拮抗薬はいくつかの低分子化合物が前臨床研究段階であるが、これまでにinvivo作用を明らかにした報告は無く、新規治療薬としての有用性は証明されていない。本研究では、新規CCR3拮抗薬の薬理作用を解析することにより生体におけるCCR3の機能を明らかにし、気管支喘息治療における新たな方向性を打ち出した。

【第1章】

生体におけるCCR3の機能を明らかにすることを目的に、新規CCR3拮抗薬のinvitroおよびinvivo薬理作用の解析を試みた。検討に用いた化合物YM-355179は、数万化合物のハイスループットスクリーニングにより見出したプロトタイプYM-207086の誘導体合成により創製した。

YM-355179はCCL11のCCR3結合をIC5。値76nMで抑制し、CCU1誘発細胞内Ca2+シグナルをIC(50)値8.0Mで抑制した。さらに、細胞遊走および好酸球脱顆粒をIC(50)値それぞれ24および29nMで抑制し、細胞活性化機能を強力に抑制した。一方、他のケモカイン受容体CCR1、CCR2、CCR4あるいはCCR5には作用を示さず、CCR3選択性が示唆された。また、YM-355179はCCU1のみならずCCL24やCCL26、CCL13、CCL5を刺激とした際のCa(2+)シグナルや細胞遊走についても同等の強力な抑制作用を示した。病態では種々のCCR3作動性ケモカインの関与が示唆されることから、臨床開発が先行しているCCL11中和抗体に比較してCCR3拮抗薬は有効性に優れると考えられた。

ところでCCR3拮抗薬には種差の問題があり、喘息モデル動物として汎用されるげつ歯類やモルモットでの評価は困難であることが分かった。しかしながら、サル好酸球を用いた検討を試みた結果、CCR3拮抗薬の作用はヒトとサルで相関し、in vivo評価にはサルを用いることが好ましいと判断することができた。以下、サル評価モデルを構築してCCR3拮抗薬の薬理作用を解析した。

まず、サルin vivoにおいてCCL11が好酸球の遊走を誘発するかどうか検証することを目的にサル皮膚内好酸球浸潤モデルを構築した。CCL11を背部に皮内注射し、4時間後に皮膚を切除して好酸球浸潤の指標として好酸球性陽イオン蛋白(ECP)をラジオイムノアッセイ法を用いて定量した。その結果、CCU1濃度依存的に皮膚組織中のECP含有量が上昇し、サルin vivoにおいてCCUL11が好酸球の遊走因子として機能することを初めて証明した。

さらに、気管支喘息の病態により即したモデルとしてサル肺内好酸球浸潤モデルを構築した。サルを麻酔して気管支ファイバースコープを挿入し、気管支の4-5分岐した地点でCCL11を注入して経時的に肺胞洗浄を行い、ライトギムザ染色にて白血球を計測したところ、CCL11は濃度依存的かつ時間依存的に肺への好酸球浸潤を誘発した。このモデルにおいてYM-355179は好酸球数を有意に減少させ、CCR3拮抗薬が好酸球の肺内浸潤を抑制することを初めて証明した。さらに、リンパ球および好塩基球・肥満細胞の浸潤数もCCR3拮抗薬により減少し、生体においてこれら細胞のCCR3が機能的な役割を果たしていることを初めて明らかにした。一方、単球・マクロファージや好中球の浸潤には影響を与えなかった。以上、CCR3拮抗薬は気管支喘息の病態悪化に関与する白血球に選択的に作用することを明らかにし、優れた効果で安全性の高い新規気管支喘息治療薬として有望であることを示した。

【第2章】

第1章により、CCR3が好酸球およびリンパ球、肥満細胞において機能的な役割を果たしていることが分かった。肥満細胞は即時型アレルギー反応の主な原因因子として、また好酸球・Tリンパ球は遅発型アレルギー反応の主な原因因子として知られる。そこで第2章では、アレルギー反応の成立にCCR3が関与しているのではないかと仮説を立て、CCR3拮抗薬を用いて検証を行った。検討には抗原誘発マウス耳炎症モデルを用い、化合物はマウスCCR3拮抗作用を示す薬剤の探索により見出したYM-344031を用いた。

卵白アルブミン(OVA)を抗原として免疫感作したマウスの耳皮内にOVAを注入すると、2相性の炎症反応、すなわち1時間後および24時間後をピークとした耳介腫脹が観察された。CCR3拮抗薬を投与したことろ、即時型および遅発型アレルギー反応の両方が抑制されることが明らかになった。即時型反応の部分抑制は肥満細胞の遊走および活性化にCCR3が関与することを示し、遅発型反応の強力な抑制は好酸球やTリンパ球の遊走および活性化にCCR3が重要な役割を果たしていることを示し、従って、アレルギー反応の成立にCCR3が関与することを初めて証明するとともに、CCR3拮抗薬が気管支喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患に対する新規治療薬として有用であることを明らかにした。

【第3章】

ヒスタミンは血管透過性の元進や気管支平滑筋の収縮を介して喘息病態に関与する。そこで、CCR3拮抗に加えて抗ヒスタミン作用を併せもつ薬剤は、好酸球および肥満細胞の遊走・活性化を抑制するとともに、IgEを介した肥満細胞由来のヒスタミンの作用も抑制できて喘息治療により好ましいのではないかと考えた。その仮説を検証するために、CCR3およびヒスタミンH1受容体に対するdual拮抗作用を有する化合物YM-344484を用いて薬理作用を解析した。

YM-344484は第1章で用いたYM-355179と同等以上の強力なin vitroおよびin vivoCCR3拮抗作用を示し、さらにヒスタミンH1受容体を介したCa(2+)シグナルに対して既存の抗ヒスタミン薬ケトチフェンに比べて1/6倍の強さの拮抗作用を示した。一方、CCR1、CCR2、CCR4、CCR5、CXCR3、ヒスタミンH2、セロトニン5-HT(1A)、5-HT(2A)、ブラジキニンB1、B2、ロイコトリエンBLT1、CysLT1、ムスかリンM1、M2、M3およびタキキニンNK1受容体に対する作用は認められず、CCR3およびヒスタミンH1受容体に選択的な新規dual拮抗薬であることが示唆された。

ヒスタミン誘発マウス血管透過性元進モデルにおいてYM-344484は用量依存的に血管透過性元進を抑制し、in vivoにおける強力な抗ヒスタミン作用を示した。ヒスタミンによる血管透過性の充進は気道壁の浮腫をもたらして気道狭窄、気道過敏性の元進に寄与するとともに、気道への血漿蛋白を漏洩させて粘液の粘性を増加させて喘息の病態を悪化させる。したがって、ヒスタミン誘発の微小血管漏洩に対するYM-344484の抑制作用は喘息治療に有益であると考えられた。さらに、YM-344484は抗原誘発マウス喘息モデルにおいて肺内好酸球浸潤を強力に抑制した。このとき好中球および単核球には影響を与えず、好酸球選択的な気道炎症の抑制が示された。血管透過性元進の抑制および喘息モデルでの細胞浸潤抑制の結果を総合して考察すると、CCR3およびヒスタミンH1受容体に対するdual拮抗薬は気道狭窄や気道過敏性の元進の抑制+気道炎症の抑制効果が期待でき、喘息治療に好ましいと考えられた。

【総括】

本研究ではサルin vivoモデルを構築することにより、今まで明らかにされていなかったCCR3拮抗薬のin vivo薬理作用を解析し、CCR3が生体において好酸球やリンパ球、好塩基球・肥満細胞の遊走・活性化に関与することを明らかにした。一方、好中球やマクロファージには作用しないことを証明し、選択的な創薬標的として好ましいことを示した。さらに、CCR3は即時型および遅発型アレルギー反応の成立に関与することを明らかにし、CCR3拮抗薬は優れた効果で安全性の高い新規気管支喘息治療薬として有用であることを明らかにした。さらなる発展形として、CCR3およびヒスタミンH1受容体に対するdual拮抗薬の有益性を明らかにし、気管支喘息治療における新たな方向性を打ち出した。

審査要旨 要旨を表示する

気管支喘隠は気管支のアレルギー炎症が慢性化した呼吸器疾患で、気道過敏性の充進や可逆性の気道狭窄を起こして喘鳴や咳などの症状をきたす。気道や肺胞内には好酸球が集積した組織傷害像が認められ、病態の悪化・慢性化には好酸球が関与することが知られている。現在、長期管理の基本薬剤として吸入ステロイド、重症度に応じて経ロステロイドやアドレナリンβ2受容体刺激薬、ロイコトリエン拮抗薬などの併用が行われているが、副作用や有効率に課題があり、新規薬剤の開発が望まれている。

ケモカイン受容体3(CCR3)は好酸球に発現し、遺伝子欠損マウスなどの知見より、アレルギー炎症における好酸球の遊走制御に重要な役割を果たすことが示唆されている。アレルギーに関与する肥満細胞やTh2リンパ球もCCR3を発現するが、生体における機能は不明である。一方、Th1リンパ球やBリンパ球、マクロファージ、好中球はCCR3を発現しない。CCR3に作用するケモカインはCCL11、CCL24、CCL26、CCL13、CCL5、CCL7などが知られ、気管支喘息やアトピー性皮膚炎患者においてこれらの発現上昇が報告されている。このように、CCR3は好酸球の遊走に関わり、喘息病態への関与が示唆されることから、好酸球選択的な創薬標的として注目される。

現在、CCR3を標的とした薬剤としてCCL11中和抗体がアレルギー性結膜炎を適応に臨床開発中である。CCR3拮抗薬としてはいくつかの低分子化合物が前臨床研究段階であるが、これまでにin vivo作用を明らかにした報告は無く、新規治療薬としての有用性は証明されていない。本研究では、新規CCR3拮抗薬の薬理作用を解析することにより生体におけるCCR3の機能を明らかにし、気管支喘息治療における新たな方向性を打ち出した。

生体におけるCCR3の機能を明らかにすることを目的に、新規CCR3拮抗薬のin vitroおよびin vivo薬理作用の解析を試みた。検討に用いた化合物YM-355179は、数万化合物のハイスループットスクリーニングにより見出したプロトタイプYM-207086の誘導体合成により創製した。

YM-355179はCCL11のCCR3結合をIC(50)値7.6nMで抑制し、CCL11誘発細胞内Ca(2+)シグナルをIC(50)値8.OnMで抑制した。さらに、細胞遊走および好酸球脱顆粒をIC(50)値それぞれ24および29nMで抑制し、細胞活性化機能を強力に抑制した。一方、他のケモカイン受容体CCR1、CCR2、CCR4あるいはCCR5には作用を示さず、CCR3選択性が示唆された。また、YM-355179はCCL11のみならずCCL24やCCL26、CCL13、CCL5を刺激とした際のCa(2+)シグナルや細胞遊走についても同等の強力な抑制作用を示した。病態では種々のCCR3作動性ケモカインの関与が示唆されることから、臨床開発が先行しているCCL11中和抗体に比較してCCR3拮抗薬は有効性に優れると考えられた。

ところでCCR3拮抗薬には種差の問題があり、喘息モデル動物として汎用されるげっ歯目での評価は困難であることが分かった。しかし、サル好酸球を用いた検討を試みた結果、CCR3拮抗薬の作用はヒトとサルで相関していることが分かり、in vivo評価にはサルを用いることが好ましいと判断した。以下、サル評価モデルを構築してCCR3拮抗薬の薬理作用を解析した。まず、in vivoにおいてCCL11が好酸球の遊走を誘発するかどうか検証することを目的にサル皮膚内好酸球浸潤モデルを構築した。CCL11を背部に皮内注射し、4時間後に皮膚を切除して好酸球浸潤の指標として好酸球性陽イオン蛋白(ECP)をラジオイムノアッセイ法を用いて定量した。その結果、CCL11濃度依存的に皮膚組織中のECP含有量が上昇し、サルin vivoにおいてCCL11が好酸球の遊走因子として機能することを初めて証明した。

さらに、気管支喘息の病態により即したモデルとしてサル肺内好酸球浸潤モデルを構築した。サルを麻酔して気管支ファイバースコープを挿入し、気管支の4-5分岐した地点でCCL11を注入して経時的に肺胞洗浄を行い、ライトギムザ染色にて白血球を計測したところ、CCL11は濃度依存的かつ時間依存的に肺への好酸球浸潤を誘発した。このモデルにおいてYM-355179は好酸球数を有意に減少させ、CCR3拮抗薬が好酸球の肺内浸潤を抑制することを初めて証明した。さらに、リンパ球および好塩基球・肥満細胞の浸潤数もCCR3拮抗薬により減少し、生体においてこれら細胞のCCR3が機能的な役割を果たしていることを初めて明らかにした。一方、単球・マクロファージや好中球の浸潤には影響を与えなかった。以上、CCR3拮抗薬は気管支喘息の病態悪化に関与する白血球に選択的に作用することを明らかにし、優れた効果で安全性の高い新規気管支喘息治療薬として有望であることを示した。

以上の結果より、CCR3が好酸球およびリンパ球、肥満細胞において機能的な役割を果たしていることが分かった。肥満細胞は即時型アレルギー反応の主な原因因子として、また好酸球・Tリンパ球は遅発型アレルギー反応の主な原因因子として知られる。そこで、「アレルギー反応の成立にCCR3が関与している」という仮説を立て、CCR3拮抗薬を用いて検証を行った。検討には抗原誘発マウス耳炎症モデルを用い、化合物はマウスCCR3拮抗作用を示す薬剤の探索により見出したYM-344031を用いた。

卵白アルブミン(OVA)を抗原として免疫感作したマウスの耳皮内にOVAを注入すると、2相性の炎症反応、すなわち1時間後および24時間後をピークとした耳介腫脹が観察された。CCR3拮抗薬を投与したことろ、即時型および遅発型アレルギー反応の両方が抑制されることが明らかになった。即時型反応の部分抑制は肥満細胞の遊走および活性化にCCR3が関与することを示し、遅発型反応の強力な抑制は好酸球やTリンパ球の遊走および活性化にCCR3が重要な役割を果たしていることを示している。従って、アレルギー反応の成立にCCR3が関与することを初めて証明するとともに、CCR3拮抗薬が気管支喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾に対する新規治療薬として有用であることを明らかにした。

ヒスタミンは血管透過性の亢進や気管支平滑筋の収縮を介して喘息病態に関与する。そこで、「CCR3拮抗に加えて抗ヒスタミン作用を併せもつ薬剤は、好酸球および肥満細胞の遊走・活性化を抑制するとともに、IgEを介した肥満細胞由来のヒスタミンの作用も抑制できるので、喘息治療により好ましい」という仮説を検証した。CCR3およびヒスタミンH1受容体に対するdual拮抗作用を有する化合物YM-344484を用いて薬理作用を解析した。YM-344484はYM-355179と同等以上の強力なin vitroおよびin vivoCCR3拮抗作用を示し、さらにヒスタミンH1受容体を介したCa(2+)シグナルに対して既存の抗ヒスタミン薬ケトチフェンに比べて約1/6の強さの拮抗作用を示した。一方、CCR1、CCR2、CCR4、CCR5、CXCR3、ヒスタミンH2、セロトニン5-HT(1A)、5-HT(2A)、ブラジキニンB1、B2、ロイコトリエンBLT1、CysLT1、ムスかリンM1、M2、M3およびタキキニンNK1受容体に対する作用は認められず、CCR3およびヒスタミンH1受容体に選択的な新規dual拮抗薬であることが示唆された。

ヒスタミン誘発マウス血管透過性亢進モデルにおいてYM-344484は用量依存的に血管透過性亢進を抑制し、in vivoにおける強力な抗ヒスタミン作用を示した。ヒスタミンによる血管透過性の亢進は気道壁の浮腫をもたらして気道狭窄、気道過敏性の亢進に寄与するとともに、気道への血漿タンパク質を漏洩させ、粘液の粘性を増加させて喘息の病態を悪化させる。従って、ヒスタミン誘発の微小血管漏洩に対するYM-344484の抑制作用は喘息治療に有益であると考えられた。さらに、YM-344484は抗原誘発マウス喘息モデルにおいて肺内好酸球浸潤を強力に抑制した。このとき好中球および単核球には影響を与えず、好酸球選択的な気道炎症の抑制が示された。血管透過性亢進の抑制および喘息モデルでの細胞浸潤抑制の結果を総合して考察すると、CCR3およびヒスタミンH1受容体に対するdual拮抗薬は気道狭窄や気道過敏性の亢進の抑制+気道炎症の抑制効果が期待でき、喘息治療に好ましいと考えられた。

研究ではサルin vivoモデルを構築することにより、今まで明らかにされていなかったCCR3拮抗薬のin vivo薬理作用を解析し、CCR3が生体において好酸球やリンパ球、好塩基球・肥満細胞の遊走・活性化に関与することを明らかにした。一方、好中球やマクロファージには作用しないことを証明し、選択的な創薬標的として好ましいことを示した。さらに、CCR3は即時型および遅発型アレルギー反応の成立に関与することを明らかにし、CCR3拮抗薬は優れた効果で安全性の高い新規気管支喘息治療薬として有用であることを明らかにした。さらなる発展形として、CCR3およびヒスタミンH1受容体に対するdual拮抗薬の有益性を明らかにし、気管支喘息治療における新たな方向性を打ち出した。喘息病態の理解やメカニズム解明の進展に大きく貢献する研究であり、新たな喘息治療薬開発の方向性を示すものである。従って、博士(薬学)の授与に値する内容であると判断した。

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