学位論文要旨



No 216885
著者(漢字) 柳田,克巳
著者(英字)
著者(カナ) ヤナギタ,カツミ
標題(和) 高強度コンクリートのレオロジー特性値に基づいた品質管理手法に関する研究
標題(洋)
報告番号 216885
報告番号 乙16885
学位授与日 2008.01.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16885号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 野口,貴文
 東京大学 教授 松村,秀一
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 教授 小澤,一雅
 東京大学 准教授 塩原,等
内容要旨 要旨を表示する

建築物の大型化・高層化に伴い、鉄骨・鉄筋・コンクリート等の建設材料もより高強度のものが開発され、実用化されてきている。とくにコンクリートの強度については、鉄筋コンクリート(RC)構造の集合住宅の柱・梁・コア壁やコンクリート充填鋼管(CFT)構造のオフィスビルの柱等において、高強度化の進展が著しい。

高強度コンクリートのワーカビリティーについては、同じ調合でも骨材・化学混和剤等の種類によって大きく変わることもあり、粘性、流動性、材料分離抵抗性等を的確に評価することがポイントとなる。ワーカビリティーの管理手法については、建築学会の仕様書・指針類においてスランプまたはスランプフローによる管理をすることと規定されており、従来の評価方法を基本的には踏襲している。しかし、スランプフローによる管理だけでは、高強度コンクリート特有の粘性や流動性を評価しきれないことから、高所へのポンプ圧送性や過密配筋部材への充填性などを十分に評価できているとは言い難いのが実情である。

高強度コンクリートのワーカビリティーをレオロジーの観点から評価することができれば、現在のスランプフローによる管理手法では限界のある粘性を含めた流動特性の管理が可能となり、より効果的な高強度コンクリートの品質管理に繋がるといえる。本研究は、高強度コンクリートの製造、ポンプ圧送、打込みに至るまでの一連の過程において、フレッシュコンクリートの性能を良好な施工品質の確保が可能な範囲内に管理するための品質管理体系をレオロジーの観点に基づいて確立し、提案するものである。

本研究は第1章から第6章までで構成されている。

第1章では、本研究を行う背景と目的を示した。第2章では、高強度コンクリートの主用途と関連仕様書・指針類で定められている品質管理の現状について分析し、本研究の主題であるレオロジーに基づいた品質管理手法に関する既往研究の流れと本研究の位置付けについて整理した。

第3章では、コンクリートのレオロジー性能の評価手法に関して、高強度コンクリートを含めた広範囲のコンクリートのレオロジー特性を回転翼型粘度計を用いて測定・比較した。その結果、回転翼型粘度計によるレオロジー評価方法は、各種の混和材料を用いた広範囲のコンクリートに対して適用することができ、これらのコンクリートの流動特性を的確に評価・区分することができることを示した。また、普通コンクリートでは、スランプおよびスランプフローとレオロジー特性値との対応が一意的に決まるが、高強度コンクリートにおいては、同じスランプフロー値であっても塑性粘度の違いによって施工性能が著しく異なることがあり、降伏値および塑性粘度の両方に関係する評価指標を導入する必要があることを示した。

また、レオロジーに基づいた品質管理を実際の製造プラントや工事現場に適用するために、実用性の高い代替評価手法について検討した。その結果、高強度コンクリートのレオロジー特性値は、スランプフローおよび50cmフロー到達時間の組合せによって十分な精度で推定できることから、現場品質管理における実用的な代替評価手法としてこれらのコンシステンシー試験値が活用可能であることを示した。

第4章では、製造および施工時において高強度コンクリートに要求されるレオロジー性能の評価について検討した。

製造時については、あらかじめスランプフローの範囲ごとに練混ぜ時のミキサ負荷値と50cmフロー到達時間の関係を把握しておくことで、ミキサ負荷値からコンクリートの見掛のレオロジー特性値を推定できることを示した。

ポンプ圧送については、とくに高粘性のコンクリートを用いる場合に重点的な施工管理が要求されるため、幅広いレオロジー特性を有する高強度コンクリートを用いて、実施工に近い条件でポンプ圧送実験を行った。その結果、ポンプ圧送時の圧力損失と見掛の塑性粘度との間にはコンクリートの種類にかかわらず良い相関があり、この関係を活用することによって、ポンプ圧送時に要求される高強度コンクリートのレオロジー性能の領域が算出できることを示した。

打込み時については、CFT圧入工法およびRC現場打ち工法のいずれの場合も、良好な打込み品質の確保のためには、打込み条件に応じてコンクリートの塑性粘度および降伏値がそれぞれ適切な一定の範囲にあることが必要であることを示した。あわせて、打込み条件に類似した施工記録や実大実験結果に基づくことによって、打込み時に要求される高強度コンクリートのレオロジー性能の領域を算出できることを示した。

また、輸送および圧送によって生じるレオロジー特性の変化について、既往の研究データに基づいて考察した。

第5章では、製造から打込みまでの一連のプロセスにおける、レオロジー特性値に基づいた高強度コンクリートの品質管理手法を提案し、輸送条件や施工条件を仮定してレオロジー要求性能の試算を行った。また、この品質管理手法を実際の工事管理に実用化する観点から品質管理マニュアルを提案し、施工者および製造者の立場から品質管理プロセスついて整理した。その結果、本研究で提案した品質管理手法により、出荷時・荷卸し時・筒先などの各プロセスにおいて、施工条件や輸送条件に応じてコンクリートに要求されるレオロジー性能の領域を定量的に設定し、それに基づいて一貫した品質管理を行えることが示された。

第6章では、本研究の成果と期待される効果について以下のように総括した。

(1)高強度コンクリートのフレッシュ性状について、従来のスランプフローだけでなくレオロジー特性値に基づいた管理が可能なる。その結果、たとえば粘性の過大なコンクリートが荷卸しされたときの打込み時の充填不良など、従来の品質管理では見落とされる可能性のあった施工障害を事前に排除できる。

(2)高強度コンクリートの最終的な品質目標の確保、すなわちコンクリートを密実かつ均一に構造部材に充填するための品質管理を、製造から打込みまでのプロセスにおいて一貫して行うことができる。言い換えれば、各フェーズにおける要求性能は、その後の品質変化をあらかじめ折り込んだものであり、そのコンクリートが構造物に打込まれたときの最終品質まで担保することができる。

(3)今回提案した品質管理手法は、代替評価指標を導入することにより、装置や試験操作の簡便性の観点で製造プラントや工事現場においても実用性が十分高く、現行のコンシステンシー試験と比較しても特別の工数やコストを必要とせずに品質管理の水準が高まることから、現場品質管理の効率性が向上する。

(4)上記の研究成果を実用化するための品質管理マニュアルを提案したことで、実際の工事の施工条件に応じて高強度フレッシュコンクリートの品質目標を規定し、それに基づいて製造および施工を行うための標準的な手順を示すことができた。

今後の展望として、高強度コンクリートのフレッシュ性状をレオロジーという物理量によって表すことにより、各種施工条件下のフレッシュコンクリートの挙動をシミュレーションにより事前に予測し、最適な施工対策を講じることができるなど、施工計画の質の向上に繋がる可能性について言及した。

審査要旨 要旨を表示する

近年における建築物の大型化・高層化に伴うコンクリートの高強度化に対応する形で様々な化学混和剤が開発され、調合が同じ場合でもフレッシュコンクリートの流動性・粘性・材料分離抵抗性が大きく異なり、フレッシュコンクリートの品質管理をスランプフローだけで行うことが困難になってきた。柳田克巳氏から提出された「高強度コンクリートのレオロジー特性値に基づいた品質管理手法に関する研究」は、このような現状に鑑み、高強度コンクリートの施工時における事故・不具合の発生を防止することを目的として、高強度コンクリートの製造、ポンプ圧送、打込みに至るまでの一連の過程において、フレッシュコンクリートの性能を良好な施工品質の確保が可能な範囲内に管理するための品質管理体系を、レオロジーの観点に基づいて確立し、提案したものである。

本論文は、6章から構成されており、各章の内容については、それぞれ下記のように評価される。

第1章では、本研究の背景、目的、範囲、構成などが的確に述べられている。

第2章では、学協会の高強度コンクリートに関連する仕様書・指針類に定められている品質管理に関して分析がなされるとともに、本研究の主要課題であるフレッシュコンクリートのレオロジーに基づく品質管理に関連する既往の研究について要領よく纏められ、本研究の位置付けが明確に示されている。

第3章では、広範囲なコンクリートのレオロジー特性の評価に回転翼型粘度計を適用可能であることが示され、高強度コンクリートのフレッシュ状態の性能評価においては、指標として、回転翼型粘度計で得られる降伏値および塑性粘度の二つのレオロジー特性値が必要であることが指摘されている。しかしながら、工事現場で回転翼型粘度計による測定を行うことは非現実的であるため、レオロジー特性値の代替指標として、スランプフローおよび50cmフロー到達時間を提案し、その組合せによって実際のコンクリート製造プラントや工事現場において、レオロジー特性値に基づく品質管理を実施可能であることが示されている。

第4章では、コンクリートの製造時・施工時の各段階において、高強度コンクリートに必要とされるレオロジー特性値について検討がなされ、コンクリート製造プラントでの実験・調査の結果から、コンクリート製造時には、スランプフローの値に応じて、コンクリート練混ぜ時のミキサの負荷電流値からコンクリートのレオロジー特性値が推定できることが示されている。また同様に、工事現場におけるポンプ圧送実験の結果から、コンクリートのポンプ圧送時には、ポンプの圧力損失とコンクリートの塑性粘度との間との相関関係を活用することによって、ポンプ圧送時に要求されるレオロジー特性値が推定できることが示されている。さらに、コンクリートの打込み時には、打込み条件に適したレオロジー特性値の範囲が存在し、類似した施工記録や実大実験結果に基づいて、打込み時に必要とされるレオロジー特性値が推定できることが示されている。加えて、コンクリートの輸送中および圧送中に生じるレオロジー特性値の変化についても、既往の研究データに基づく定量的な検討がなされている。

第5章では、高強度コンクリートの製造から打込みまでの一連のプロセス、すなわち、製造プラントの出荷時、工事現場での荷卸し時、ポンプ圧送後打込み時において、施工条件や輸送条件に応じて設定されたレオロジー特性値に基づく品質管理手法が提案されるとともに、その実用面での普及に資することを目的として、高強度コンクリートの品質管理マニュアルが作成されている。

第6章では、本論文の結論と今後の課題・展望が要領よくまとめられている。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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