学位論文要旨



No 216892
著者(漢字)
著者(英字) Budi,Leksono
著者(カナ) ブディ,レクソノ
標題(和) Eucalyptus pellita の育種計画に関する研究 : 実生採種園による第一世代育種の結果の検討
標題(洋) Study on Breeding Strategy of Eucalyptus pellita : Investigation on the Results of First Generation Breeding with Seedling Seed Orchards
報告番号 216892
報告番号 乙16892
学位授与日 2008.02.04
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第16892号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 井出,雄二
 東京大学 教授 丹下,健
 東京大学 教授 岸野,洋久
 東京大学 准教授 後藤,晋
 森林総合研究所林木育種センター関西育種場 育種課長 栗延,晋
内容要旨 要旨を表示する

東南アジアでは森林破壊が進み、多くの荒廃地が認められる。これらの地域では土壌の劣化が進み、もはや自然の力による森林の回復は困難となっている場合が多い。このような荒廃地の森林回復と木材生産のため、成長の早い外来樹木による造林が進められている。早生樹種の使用により、急速な荒廃地の森林化が実現するとともに生産性の低い土地を経済性の高い有益な林地へと転換することが可能である。このような人工林は、わずかに残存する天然林に対する伐採圧を減少させることで、その保全に大きな効果を発揮する。

Eucalyptus pellitaは高温多湿な熱帯環境における、荒廃地の修復促進や製紙原料の生産を目的とした産業造林に用いられる有望なユーカリ属樹木であるが、これまでインドネシアにおいて、このような目的で主として用いられてきたアカシア属樹木に比べると成長は遅い。しかし、現在アカシア属樹木は、根腐れ病に冒されており、代替樹種として特別の病虫害の知られていないE. pellitaの生産性と材質の改善は急務である。

パプア・ニューギニアからの導入を基本とした、E. pellitaの育種計画は1991年に開始されたが、その効果については、これまで検証が行われていない。本研究では、E. pellita育種計画の第1世代における成果を、インドネシアの3ヵ所、すなわち南カリマンタン、南スマトラ、リアウに設定された実生採種園のデータを解析することによって検証した。

本論文は6章からなり、第1章では、育種計画に関する既往の研究およびE. pellitaの特性、研究の目的等について記述した。第2章では、研究対象地について記述、第3章では第1世代採種園における遺伝獲得量の推定、第4章では第1世代採種園における実現された遺伝獲得量の測定をそれぞれ行い、第5章では総合考察を、第6章においてE. pellita育種計画に対する提案を行った。

第3章では、まず実際の家系内選抜においてどのような個体が選抜されているかについて、実際に行われた選抜における選抜指数(遡及的選抜指数)を3ヶ所の採種園における前後2回の家系内選抜に適用し、2回の選抜を通じた傾向を検証した。第1回目の測定を2年生時における最初の間伐前に、2回目の測定を5年生時における間伐の前に行い、家系内選抜終了時に残存木の樹高、胸高直径、幹の形状を測定した。その結果、遡及的な選抜指数により適正に予測された個体の割合は75%を超え、選抜結果から得られた選抜指数は、実際に採種園において行われた家系選抜の傾向を記述するのに十分な確度を持つことが示された。調査した3形質のうち、2回の選抜とも胸高直径が最も優先的に選択された。樹高は第1回目の選抜では2番目に重要な形質であったが、2回目の選抜では幹の形状がその位置を占めた。また、各選抜ステージにおける家系内選抜における獲得量は、各形質とも正であり、胸高直径、樹高、幹の形状の順でその効果が大きかった。

次に、次世代育種のための最適選抜齢について検討した。直径成長に伴う遺伝パラメータの時系列変化を1年生時から6年生時まで、南カリマンタンとリアウの4ヵ所の実生採種園において検討した。伐期齢である8年目の遺伝パラメータは、実生採種園の林齢が低く、未だ利用できなかったため、時系列傾向の関数への当てはめを行い推定した。幼老相関の傾向は通常年齢の対数比を用いて表現されるが、本研究では独立変数として老齢時の平均直径と若齢時の直径比を用いた改変Richarad関数によって表した。この傾向を、早期間接選抜による伐期の遺伝獲得量の推定に用いた。また、最適選抜齢を推定するため、年齢別の選抜効果を、各年次の推定遺伝獲得量と伐期における直接選抜の獲得量との比で表した。その結果、回帰式を用いて得られた遺伝パラメータの時系列的傾向は、直接選抜、間接選抜を問わず、カリマンタンとスマトラのどちらでも、早期選抜は伐期における選抜に対して常に一年あたりの獲得量が大きかった。すなわち、ここで用いた方法は、年毎の遺伝獲得量の推定に有効であり、最適選抜齢の推定にも利用可能であることが示された。また、実際の最適選抜齢は、4年生時から5年生時と推定された。

さらに、遺伝子型と環境の相互作用(GEI)の大きさを、3地域に設定された7採種園における6年生時の樹高と胸高直径とを用いて分析した。地域内、地域間の遺伝パラメータを推定し、遺伝獲得量の計算に使用した。この結果得られたGEIは大きく、島間の種子の移動に伴う遺伝的損失は、カリマンタン島からスマトラ島への移動の場合約60%と非常に大きく予想された。一方、スマトラ島内での移動による損失は24%と見積もられた。すなわち高い育種効果を得るためには南カリマンタンは南スマトラやリアウとは異なる育種集団とすべきであると結論された。

最後に、一定面積において最大の遺伝獲得量を得るために用いるべき家系数を推定した。遺伝獲得量を最大化するのに最適な家系数およびプロットあたりの個体数を、遺伝率を低(=0.1)、中(=0.2)、高(=0.3)の3レベルに設定して推定した結果、2haの採種園において、遺伝率中の場合の最適構成は、家系数40-50、家系あたり6から8個体、10回反復と計算された。この結果、現行の第1世代採種園のデザインはプロット内および家系選抜の観点からは、遺伝獲得量の最大化に対して最適に近い状態であるが、プロットあたりの個体数は過少であり、プロット誤差分散を小さくするような配慮が必要であると考えられた。

第4章では、南カリマンタンとリアウに、それぞれ2ヶ所の反復を伴って設定された第2世代採種園における3年間の測定に基づいて、第1世代における実現された遺伝獲得量を測定した。実現された遺伝獲得量は、改良された家系の実改良家系に対する比率として計算した。その結果、樹高、胸高直径に対する実現された遺伝獲得量は、それぞれ16%、19%であった。幹の形状に関しては、スマトラで21%、カリマンタンで4%と、スマトラでかなり大きかった。獲得量は、改良された集団の能力の違いに応じて、地位の高い場所では高く、地位の低い場所では低かった。一方、本研究において明瞭な家系間差が認められたことは、第2世代においても遺伝獲得量を増加させるための高いポテンシャルを有していることを示している。

以上の結果に基づいて、選抜の方法および効果について以下のように議論した。

複数形質の改良を目指した育種計画では、選抜に際してどのような形質を優先するかを決定することは、予測の確度を増すことにつながる。本論文で行った研究では、第1世代採種園における2段階の家系内選抜を通して得られた、期待される遺伝獲得量および第2世代採種園において得られた実現された第1世代の遺伝獲得量は、直径に対してもっとも大きく、次いで樹高、幹の形状の順であった。すなわち、E. pellitaの実生採種園における選抜経過は総じて、幹の形状よりも成長の改良に有利に働いたといえる。

また、時間は林木育種実行に際して最も重要な要素である。遺伝獲得量を最大化しかつ世代間隔を短縮化するために、8年伐期を想定した場合、第1世代採種園において現実に行われた6年生時における選抜より1年早い5年生時に選抜を行うことが理想的であると考えられた。しかし、採種園の環境がより早い着花を許すようであれば、更に短縮して4年生時での選抜も推奨できる。

さらに、高い遺伝獲得量の実現には、選抜の有効性を決定する基本集団の遺伝的な性質が重要である。そのため、第1世代の実生採種園は、優良な産地および適切なプラス木から構成される必要がある。本研究における連続した選抜による遺伝獲得量は樹高で約16%、胸高直径で約19%、幹の形状で4-21%であった。これらの値は、従来アカシア属樹木や針葉樹で報告されている値に比べて高い。しかも、改良された集団において未だ高い家系変異が観察されていることから、次世代および将来世代における選抜では、さらなる遺伝的改良が期待できる。また、本研究の結果は、インドネシアで行ってきた第1世代育種の有効性を確認するとともに、改良種子の造林への利用が確実に森林の生産性向上に寄与することを示している。

実現された獲得量は、種子の品質によって影響されるばかりでなく環境要因によっても影響を受ける。特に、種子が他地域に配布された場合には、遺伝子と環境の相互作用(GEI)が生ずる。本研究では、第1世代採種園においけるGEIの大きさを示し、個々の採種園における選抜結果が、他の島の造林に使用された場合には、大きな減退を示すことを予測した。また、この場合の相互作用は主として土壌の違いに起因すると予測された。一方、第2世代採種園ではGEIのマイナス効果が減少することも観察されており、今後より詳細な検討が必要である。

高い遺伝獲得量を実現するためには、家系および個体の選抜強度を決定するという意味において、採種園の構成が重要である。本研究では面積一定の採種園において遺伝率に応じて、最適な家系数、家系内個体数、反復数を提示した。すなわち、採種園の形状に応じた設計をすることにより最適な選抜が可能であることが示された。

実際の造林地での生産性向上のための育種計画では、どのような戦略をとるかがきわめて重要である。改良による特定の形質についての遺伝的獲得量は、材料家系自体、実験計画、選抜方式、形質の優先順位、期間、育林方法などさまざまな要素に影響される。それゆえ、単位時間当たりの獲得量を最大にするような最適技術の確立が求められる。本研究においては、E. pellitaの選抜育種の最適化に資する十分な情報を得ることができた。

審査要旨 要旨を表示する

東南アジアでは森林破壊が進み、多くの荒廃地が認められる。このような荒廃地の森林回復と木材生産のため、成長の早い外来樹木による造林が進められている。本研究で取り上げた、Eucalyptus pellitaは、荒廃地の修復促進や製紙原料の生産に適した造林樹種であり、生産性改善のための育種が1991年から実施されている。造林地での生産性向上のための育種計画では、どのような戦略をとるかがきわめて重要である。改良による特定の形質についての遺伝的獲得量は、材料家系そのもの、実験計画、選抜方式、形質の優先順位、期間、育林方法などさまざまな要素に影響されるため、単位時間当たりの獲得量を最大にするような最適技術の確立が求められる。そこで、本研究では、E. pellita育種計画の第1世代における成果を、インドネシアの3ヵ所に設定された実生採種園の調査データの解析によって検証し、かつ育種戦略の最適化に資する検討を行った。

本論文は6章からなり、第1章では、育種計画に関する既往の研究およびE. pellitaの特性、研究の目的等について記述した。第2章では、研究対象地について記述、第3章では第1世代採種園における遺伝獲得量の推定、第4章では第1世代採種園における実現された遺伝獲得量の測定をそれぞれ行い、第5章では総合考察を、第6章においてE. pellita育種計画に対する提案を行った。

第2章ではまず、実際の家系内選抜においてどのような個体が選抜されているかについて検証を行った結果、選抜結果から遡って求められた選抜指数(遡及的選抜指数)は、採種園で実際に行われた家系選抜の傾向を説明するのに十分な確度を持つことを示した。また、選抜形質のうち胸高直径が最も優先的に選択された。

次に、次世代育種のための最適選抜齢を求めるために、直径成長に伴う遺伝パラメータの時系列変化を1年生時から6年生時まで、4ヵ所の実生採種園において検討した結果、独立変数として老齢時の平均直径と若齢時の直径比を用いた改変Richarad関数によって幼老相関の傾向を表し、かつ、早期間接選抜による伐期の遺伝獲得量の推定を可能にした。さらに、年齢別の選抜効果の推定法を提案し、最適選抜齢を4年生時から5年生時と推定した。

さらに、遺伝子型と環境の相互作用(GEI)の大きさを、3地域に設定された7採種園における6年生時の樹高と胸高直径とを用いて分析した。この結果得られたGEIは大きく、島間の種子の移動に伴う遺伝的損失は、カリマンタン島からスマトラ島への移動の場合約60%と非常に大きく予想された。一方、スマトラ島内での移動による損失は24%と見積もられた。すなわち南カリマンタンは南スマトラやリアウとは異なる育種集団とすべきであると結論された。

最後に、一定面積において最大の遺伝獲得量を得るために用いるべき家系数を推定した。遺伝獲得量を最大化するのに最適な家系数およびプロットあたりの個体数を、遺伝率を3レベルに設定して推定した結果、2haの採種園において、遺伝率中の場合の最適構成は、家系数40-50、家系あたり6から8個体、10回反復と計算された。

第3章では、南カリマンタンとリアウに設定された第2世代採種園における3年間の測定に基づいて、第1世代において実現された遺伝獲得量を測定した。その結果、樹高、胸高直径に対する実現された遺伝獲得量は、それぞれ16%、19%であった。幹の形状に関しては、スマトラで21%、カリマンタンで4%とスマトラで大きかった。獲得量は、改良された集団の能力の違いに応じて、地位の高い場所では高く、地位の低い場所では低かった。

以上、本研究において、第1世代採種園において推定された期待される遺伝獲得量は、第2世代採種園において得られた第1世代の実現された遺伝獲得量をよく反映しており、選抜に際して優先すべき形質についても、確度よく予測していた。また、最適選抜齢に関しても、これまで現実に行われてきた6年生時における選抜より1年早い5年生時に選抜を行うことが理想的であることを示した。これらの結果は、育種サイクルの時間的短縮に大きく貢献するものである。また、種子が他地域に配布された場合に予想されるGEIにより生産量の大きな減退を示すことを予測し、安全な種苗配布のガイドラインを示した。さらに、高い遺伝獲得量を実現するための採種園の構成についても提案を行った。これらの知見は、熱帯早生樹の選抜育種計画の最適化に資するものであり、学術上、応用上資するところが少なくない。よって審査員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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