学位論文要旨



No 216902
著者(漢字) 福田,直樹
著者(英字)
著者(カナ) フクダ,ナオキ
標題(和) ガスパイプライン用コールドベンドの変形性能評価法に関する研究
標題(洋)
報告番号 216902
報告番号 乙16902
学位授与日 2008.02.21
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16902号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 吉川,暢宏
 東京大学 教授 渡邊,勝彦
 東京大学 教授 酒井,信介
 東京大学 教授 柳本,潤
 東京大学 教授 都井,裕
内容要旨 要旨を表示する

欧米のガスパイプラインでは,輸送効率の向上のためアメリカ石油協会規格API 5L X65グレードを上回るX70やX80グレードなどの高グレード鋼管が採用されるようになってきた.これは,材料の高グレード化によって,操業圧力の高圧化や鋼管の薄肉化が可能となり,パイプラインの輸送コストの大幅な低減が図れるためである.日本国内に高グレード鋼管を導入するにあたって,地震時の地盤震動や液状化による側方流動に対する安全性を確保するため,パイプライン構造部材の変形性能について詳細検討が行なわれてきた.高グレード化が鋼管材料の強度特性に及ぼす影響として,降伏比が大きくなることに加えて,冷間加工に伴うバウシンガー効果による降伏応力の低下がより顕著に現れることが報告されている.これらは鋼管の変形挙動における主要な影響因子であるため,特に冷間加工により製造されるコールドベンドでは変形性能の低下が懸念される.

コールドベンドは冷間加工により製造できるため加工コストが小さく,加工装置を施工現場に持ち込めるのが特徴である.コールドベンドは曲げ角度が最大で15° 程度と小さいものの,敷設施工時に曲げ角度を微調整することができるため,緩やかな道路線形や地形の起伏に沿って埋設される場合に多く用いられている.コールドベンドの加工部は冷間塑性加工に伴うバウシンガー効果,加工硬化の影響により母材部と異なる強度特性を有する.しかし既往の研究では,コールドベンド加工部の強度特性に着目した検討は行われてこなかった.また,コールドベンドの変形性能については,実験結果の報告例がいくつかあるものの,変形挙動の考察まで踏み込んだ検討や高グレード材料を対象としたコールドベンドの変形性能についての知見はない.高グレード化がコールドベンドの変形性能に与える影響を明らかにするためには,コールドベンド加工が強度特性へ及ぼす影響,および強度特性の変化が変形性能に及ぼす影響について総合的に評価する必要がある.

このため,本論文ではコールドベンドの大変形曲げ特性の評価手法を確立することを目的として,コールドベンド加工プロセスから大変形曲げプロセスまでを系統立てて検討した.最初に,コールドベンド加工時の挙動を明らかにすることにより,冷間加工による加工部の強度特性の変化を定量的に評価した.これをもとにコールドベンドの大変形解析モデルを提案し,実験結果を用いて大変形曲げ特性評価への適用可能性を検証した.

第1章「序 論」では,既往の研究を総括し,本研究の背景と目的を記した.

第2章「コールドベンド加工プロセスにおける変形挙動の解明」において,2種類のパイプライン用鋼管を用いてコールドベンド加工実験を実施し,残留ひずみ分布を測定した.さらに,ベンダーマシンと供試管の接触変形を考慮した数値解析モデルを実験結果により検証し,コールドベンド加工後の残留ひずみ分布を評価できることを示した.

第3章「コールドベンド加工部の強度特性評価法」において,2種類のコールドベンドを対象として,コールドベンド加工部の強度特性を定量的に評価した.さらに,予ひずみを付与した小型試験片(予ひずみ試験片)を用いた評価試験方法の適用可能性を検討し,コールドベンド加工部の強度特性は予ひずみ試験片により評価することが可能であることを確認した.

第4章「コールドベンドの大変形解析モデルの構築」において,コールドベンド加工部の強度特性およびコールドベンド加工後の幾何形状について検討し,コールドベンドの大変形曲げ特性を評価する数値解析モデルを提案した.コールドベンド加工部の強度特性として,ひずみ履歴と強度特性の関係に基づき内曲げモードでは加工硬化,外曲げモードではバウシンガー効果を考慮した.幾何形状については曲率半径が一定の曲管としてモデル化した.

第5章「コールドベンドの大変形曲げプロセスにおける変形挙動の解明」において,同一ロットの2本のコールドベンドを供試管として,内曲げおよび外曲げの大変形実験を実施した.さらに,第4章で提案したコールドベンドの大変形解析モデルの妥当性を実験結果により検証し,局所的な座屈挙動を含めて,コールドベンドの大変形挙動を定量的に評価できることを示した.また,解析モデルを用いてコールドベンド加工部の強度特性が変形性能に与える影響について考察した.

第6章「コールドベンド加工部の強度特性が変形性能に及ぼす影響の評価」において,第5章で確立したコールドベンドの大変形曲げ特性の評価モデルを用いて,母材部と加工部の強度特性の組み合わせについてパラメータスタディを行い,加工部の強度特性がコールドベンドの変形性能に及ぼす影響を考察した.また,コールドベンドの加工間隔が変形性能に及ぼす影響について検討し,加工間隔や曲げ角度などの加工条件の最適化により,内曲げについては変形性能の向上が図れる可能性を示した.

第7章「結 論」において,本論文の各章で得られた結論を総括するとともに,本論文の成果による今後の展望について述べた.

審査要旨 要旨を表示する

本研究はコールドベンドの大変形曲げ特性の評価手法を確立することを目的として,コールドベンド加工プロセスから大変形曲げプロセスまでを系統立てて検討したものである.ガスパイプラインの構成部材であるコールドベンドは冷間塑性加工により製造されるため,コールドベンドの加工部はバウシンガー効果,加工硬化の影響により母材部と異なる材料特性を有する.このことから,コールドベンド加工に伴う加工部の材料特性の変化は変形性能に影響を及ぼす可能性がある.しかし既往の研究では,コールドベンド加工部の材料特性に着目した検討は行われてこなかった.コールドベンドの変形性能については実験結果の報告例がいくつかあるものの,変形挙動の考察まで踏み込んだ検討はこれまでに行われていない.そこで本論文では,最初にコールドベンド加工時の挙動を明らかにすることにより,冷間加工による加工部の材料特性の変化を定量的に評価し,これをもとにコールドベンドの大変形解析モデルを提案し,実験結果を通じて大変形曲げ特性評価への適用可能性を検証した.

第1章「序 論」では,既往の研究を総括し,本研究の背景と目的を記した.

第2章「コールドベンド加工プロセスにおける変形挙動の解明」において,2種類のパイプライン用鋼管を用いてコールドベンド加工実験を実施し,残留ひずみ分布を測定した.さらに,ベンダーマシンと供試管の接触変形を考慮した数値解析モデルを実験結果により検証し,コールドベンド加工後の残留ひずみ分布を評価できることを示した.

第3章「コールドベンド加工部の材料特性評価法」において,2種類のコールドベンドを対象として,コールドベンド加工部の材料特性を定量的に評価した.さらに,予ひずみを付与した小型試験片(予ひずみ試験片)を用いた評価試験方法の適用可能性を検討し,コールドベンド加工部の材料特性は予ひずみ試験片により評価することが可能であることを確認した.

第4章「コールドベンドの大変形解析モデルの構築」において,コールドベンド加工部の材料特性およびコールドベンド加工後の幾何形状について検討し,コールドベンドの大変形曲げ特性を評価する数値解析モデルを提案した.コールドベンド加工部の材料特性として,ひずみ履歴と材料特性の関係に基づき内曲げモードでは加工硬化,外曲げモードではバウシンガー効果を考慮した.幾何形状については曲率半径が一定の曲管としてモデル化した.

第5章「コールドベンドの大変形曲げプロセスにおける変形挙動の解明」において,同一ロットの2本のコールドベンドを供試管として,内曲げおよび外曲げの大変形実験を実施した.さらに,第4章で提案したコールドベンドの大変形解析モデルの妥当性を実験結果により検証し,局所的な座屈挙動を含めて,コールドベンドの大変形挙動を定量的に評価できることを示した.また,解析モデルを用いてコールドベンド加工部の材料特性が変形性能に与える影響について考察した.

第6章「コールドベンド加工部の材料特性が変形性能に及ぼす影響の評価」において,第5章で確立したコールドベンドの大変形曲げ特性の評価モデルを用いて,母材部と加工部の材料特性の組み合わせについてパラメータスタディを行い,加工部の材料特性がコールドベンドの変形性能に及ぼす影響を考察した.また,コールドベンドの加工間隔が変形性能に及ぼす影響について検討し,加工間隔や曲げ角度などの加工条件を変えることにより,内曲げモードについては変形性能の向上が図れる可能性を示した.

第7章「結 論」において,本論文の各章で得られた結論を総括するとともに,本論文の成果による今後の展望について述べた.

以上のように,本論文においてコールドベンドの大変形曲げ特性の評価手法を確立し,コールドベンドの大変形曲げ挙動を解明し,コールドベンドの構造物としての安全・信頼性を定量的に評価することを可能にした意義は大きい.さらに,本評価手法はコールドベンドの安全・信頼性を確保しつつ建設コストを削減するための検討に活用することができることから,ガスパイプラインの輸送効率のさらなる向上への波及効果は極めて大きいものがある.これらの点において工学的意義が認められ,よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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