学位論文要旨



No 216904
著者(漢字) 木内,勉
著者(英字)
著者(カナ) キウチ,ツトム
標題(和) 自由断面掘削機による軟岩トンネルの高速掘進システムの研究
標題(洋)
報告番号 216904
報告番号 乙16904
学位授与日 2008.02.21
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16904号
研究科 工学系研究科
専攻 地球システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大久保,誠介
 東京大学 教授 山冨,二郎
 東京大学 准教授 登坂,博行
 東京大学 准教授 茂木,源人
 東京大学 准教授 福井,勝則
内容要旨 要旨を表示する

要約

山岳トンネルの高速掘進は、工期短縮と工費の縮減に寄与する。そのため筆者は、軟岩地山を対象とした機械掘削の高速施工法を研究・開発した。その結果、施工法として、個々の機械能力を高めた分離型の施工法が経済性と地山の変化への追随性に優れると結論した。そこで、検討した高速施工法に対する適用性と効果を検証するため、北陸新幹線峰山トンネル工事に適用した。その結果、最大月進、平均月進とも国内最高記録を達成しその効果が確認できた。

開発の背景

近年、鉄道・道路等の公共事業のコスト縮減に対する社会的要請はますます強まっており、山岳トンネル工事においても、より早く安全に、かつ安価に工事を実施することが求められている。山岳トンネルの標準工法である「NATM工法」は、吹付けコンクリート、ロックボルト、および鋼製支保工を支保部材として1970年代後半に導入されて以来、現在に至るまで基本的な支保構造に関しては大きな変化がなかったが、施工法の改善や経験の蓄積により実質的工事費は低下してきていた。しかし、工期の短縮については、経済効果に大きな影響があると期待されているにもかかわらず、NATM工法導入以来大きな変化はなかったことから、工期短縮のための高速掘進技術の開発は残された重要な課題であっ高速掘進技術の概要

・適用範囲は軟岩地山を対象とした山岳トンネル工法による掘削施工技術である。

・技術の構成

高速掘進システムとして新たに開発した技術は、以下に示す5項目の要素技術により構成される。

(1)材料・設計:初期高強度吹付けコンクリートを用い、鋼製支保工を省略した新たな支保パターンを開発。すなわち、吹付け直後に硬化し支保効果を発揮する吹付けコンクリート材料で10分で3MPaの強度発現をする。その早期支保効果により、軟岩地山の支保部材として標準的に用いられている鋼製支保工を省略。

(2)大型自由断面掘削機(350kW級)の開発:従来の国内最大級300kW級自由断面掘削機の切削能力と切削範囲を大きく超える掘削機を開発。

(3)余掘り防止システムの改良:自由断面掘削機の位置、姿勢を後方の追尾装置で測定し、それをもとに切削ドラムが設計断面から外れないように制御するシステム。

(4)掘削・積込み同時施工法の開発:サイクルタイムを短縮するために掘削とずり積込みの同時作業を行う掘削施工法。

(5)エアカーテン式換気システムの開発:送気管の先端に特殊風管を取付けエアカーテンを形成させるとともに集塵機の吸込口を極力切羽に近づけることにより、高速地山掘削時に顕著となる粉じんの効率的な除去とトンネル後方への拡散防止。

高速掘進技術の特徴

・各要素技術の特徴を以下に示す。

(1)初期高強度吹付けコンクリートは、従来の吹付けコンクリートが強度発現に3時間を要していたものを、10分で3MPa以上の強度を発現するため、吹付け直後から支保効果を発揮する。そのため、切羽直近での確実な支保効果により安全性が向上する。さらに、従来の標準的吹付けコンクリートと比較し強度が高いため、設計吹付け厚さを低減できる。鋼製支保工の省略、吹付けの薄肉化による吹付け量および掘削量の低減によりサイクルタイムの短縮を図ることができる。

(2)大型自由断面掘削機(350kW級自由断面掘削機)は、既存最大級より切削能力を1.5倍の150m3/hに、また、切削範囲を広げ機体巾をコンパクト化し、坑内での作業性を向上させた。また、中折れブームを採用し、従来より長いベンチを形成しながらの切羽掘削を可能とし、地山の変化への対応性の向上を図った。

(3)余掘り防止システムは、±5cmの掘削精度で管理され、予め入力された設計断面のデータに基づいた高精度の掘削が可能となり、余掘り、ずり処理および覆工コンクリートの余分な量が最小化される。精度の良い掘削により、平滑な掘削面が得られる結果、掘削断面の凹凸による応力集中がなくなり、掘削面の安定性が向上する。また、切削中の切羽近傍での状況確認や指示を出すための監視員が不要となり、安全性と効率が向上する。

(4)掘削・積込み同時施工法は、従来の掘削工法が、ずり積込みは掘削の後に掘削機械を待避させ、ずり積機に入れ替えて作業を行っていたが、開発した掘削法では掘削断面を左右に分割し掘削とずり積込みを同時に併行作業するため、サイクルタイムが短縮できる。

(5)エアカーテン式換気システムは、特殊風管から坑外の新鮮な空気を約2500m3/h吹出し、切羽近くまで延伸された集塵機の吸込管から約1600m3/hを吸引する。吹出し量と吸引量の差によりエアカーテンを形成させ、切羽で発生した粉じんを封じ込め、効率的に除塵する。従来の希釈方法と根本的に異なり、エアカーテンによって封じ込められた粉じんは、後方に拡散しないので、作業環境も改善される。

開発技術の実現場への適用

新たに開発した5項目の要素技術から構成された高速掘進システムを、北陸新幹線峰山トンネル西工事、全長3742mに適用した。

適用の結果、5項目すべての技術を適用した2420m区間の平均月進は170m、最大月進は321mで、いずれも国内平均月進記録133m、最大月進記録191mを大幅に上まわる成果が得られた。従来の支保パターンを用いた777m区間においても平均月進130mで、標準工法の月進62mの倍以上の掘進速度が確保でき、他の4項目の技術が有効に機能し高速掘進に寄与していることも実証された。

高速掘進システム構成要素技術の全部または一部を適用し掘削した区間の合計は3599mにおよんだ。このときの平均月進は156mであった。この値は標準工法の予定工期65ヶ月に対し35ヶ月で46%の工程短縮となった。また、コストは標準工法の21%の縮減結果となった。開発した高速掘進システムによる工程短縮が大幅なコスト縮減に結びついたことが実証された。また、開発した要素技術は、適用全区間でトラブルもなく安全性も確認され、実用に十分耐えうるシステムであることが実証された。

開発した高速掘進システムは、トンネル延長1000m以上で、平均月進90m程度以上の掘進速度が見込まれる地山であれば、標準工法にかえて本システムを適用した方が経済的に有利となり、汎用性の高いシステムである。

審査要旨 要旨を表示する

木内勉氏により提出された論文では,自由断面掘削機による軟岩の高速掘進システムに関する長年にわたる研究成果が述べられている.

近年,鉄道・道路等の公共事業のコスト縮減に対する社会的要請はますます強まっており,山岳トンネル工事においても,より早く安全に,かつ安価に工事を実施することが求められている.山岳トンネルの標準工法である「NATM工法」は,吹付けコンクリート,ロックボルト,および鋼製支保工を支保部材として1970年代後半に導入されて以来,現在に至るまで基本的な支保構造に関しては大きな変化がなかったが,施工法の改善や経験の蓄積により実質的工事費は低下してきていた.しかし,工期の短縮については,経済効果に大きな影響があると期待されているにもかかわらず,NATM工法導入以来大きな変化はなかったことから,工期短縮のための高速掘進技術の開発は残された重要な課題であった.

高速掘進技術の適用範囲は軟岩地山を対象とした山岳トンネル工法による掘削施工技術であり,高速掘進システムとして木内氏が新たに開発した技術は,以下に示す5項目の要素技術により構成される.

(1)材料・設計:初期高強度吹付けコンクリートを用い,鋼製支保工を省略した新たな支保パターンを開発.すなわち,吹付け直後に硬化し支保効果を発揮する吹付けコンクリート材料で10分で3MPaの強度発現をする.その早期支保効果により,軟岩地山の支保部材として標準的に用いられている鋼製支保工を省略.

(2)大型自由断面掘削機(350kW級)の開発:従来の国内最大級300kW級自由断面掘削機の切削能力と切削範囲を大きく超える掘削機を開発.

(3)余掘り防止システムの改良:自由断面掘削機の位置,姿勢を後方の追尾装置で測定し,それをもとに切削ドラムが設計断面から外れないように制御するシステム.

(4)掘削・積込み同時施工法の開発:サイクルタイムを短縮するために掘削とずり積込みの同時作業を行う掘削施工法.

(5)エアカーテン式換気システムの開発:送気管の先端に特殊風管を取付けエアカーテンを形成させるとともに集塵機の吸込口を極力切羽に近づけることにより,高速地山掘削時に顕著となる粉じんの効率的な除去とトンネル後方への拡散防止.

木内氏が開発したこれらの高速掘進技術の特徴を箇条書きにして以下に示す.

(1)初期高強度吹付けコンクリートは,従来の吹付けコンクリートが強度発現に3時間を要していたものを,10分で3MPa以上の強度を発現するため,吹付け直後から支保効果を発揮する.そのため,切羽直近での確実な支保効果により安全性が向上する.さらに,従来の標準的吹付けコンクリートと比較し強度が高いため,設計吹付け厚さを低減できる.

(2)大型自由断面掘削機(350kW級自由断面掘削機)は,既存最大級より切削能力を1.5倍の150m3/hに,また,切削範囲を広げ機体巾をコンパクト化し,坑内での作業性を向上させた.また,中折れブームを採用し,従来より長いベンチを形成しながらの切羽掘削を可能とし,地山の変化への対応性の向上を図った.

(3)余掘り防止システムは,±5cmの掘削精度で管理され,予め入力された設計断面のデータに基づいた高精度の掘削が可能となり,余掘り,ずり処理および覆工コンクリートの余分な量が最小化される.精度の良い掘削により,平滑な掘削面が得られる結果,掘削断面の凹凸による応力集中がなくなり,掘削面の安定性が向上する.

(4)掘削・積込み同時施工法は,従来の掘削工法が,ずり積込みは掘削の後に掘削機械を待避させ,ずり積機に入れ替えて作業を行っていたが,開発した掘削法では掘削断面を左右に分割し掘削とずり積込みを同時に併行作業するため,サイクルタイムが短縮できる.

(5)エアカーテン式換気システムは,特殊風管から坑外の新鮮な空気を約2500m3/h吹出し,切羽近くまで延伸された集塵機の吸込管から約1600m3/hを吸引する.吹出し量と吸引量の差によりエアカーテンを形成させ,切羽で発生した粉じんを封じ込め,効率的に除塵する.従来の希釈方法と根本的に異なり,エアカーテンによって封じ込められた粉じんは,後方に拡散しないので,作業環境も改善される.

木内氏は新たに開発した5項目の要素技術から構成された高速掘進システムを,北陸新幹線峰山トンネル西工事,全長3742mに適用した.適用の結果,5項目すべての技術を適用した2420m区間の平均月進は170m,最大月進は321mで,いずれも国内平均月進記録133m,最大月進記録191mを大幅に上まわる成果が得られた.高速掘進システム構成要素技術の全部または一部を適用し掘削した区間の合計は3599mにおよんだ.このときの平均月進は156mであった.この値は標準工法の予定工期65ヶ月に対し35ヶ月で46%の工程短縮となった.また,コストは標準工法の21%の縮減結果となった.

上記をまとめると,軟岩トンネルの高速化を目指して,データ収集,類似事例の分析,支保部材・支保方式,自由断面掘削機,施工管理システム等にかかわる幅広い開発と研究を行い,目覚しい実績を上げるとともに種々の新しい知見を得たといえる.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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