学位論文要旨



No 216922
著者(漢字) 齋藤,静雄
著者(英字)
著者(カナ) サイトウ,シズオ
標題(和) 冷媒HFC-134aの水平平滑管内沸騰熱伝達における管径の影響
標題(洋)
報告番号 216922
報告番号 乙16922
学位授与日 2008.03.05
学位種別 論文博士
学位種類 博士(環境学)
学位記番号 第16922号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 飛原,英治
 東京大学 教授 加藤,孝久
 東京大学 教授 岡本,孝司
 東京大学 教授 丸山,茂夫
 東京大学 准教授 大宮司,啓文
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、高効率で省エネルギーが期待されるコンパクト熱交換器の細管内の沸騰熱伝達特性に注目し、細管化に伴う管内沸騰熱伝達率、圧力損失、ドライアウトなどの熱交換器の設計の基礎データについて検討したもので、全5章より成っている。

第1章は、地球規模の環境問題と本研究の背景について記述し、細管内の沸騰熱伝達に関連する従来の研究を取り上げ、未解決な問題を提示し、本研究の目的、重要性について述べた序論である。

地球規模の温暖化は、異常気象、生態系の変化など深刻な影響が生じると予想され、気候変動が起こりつつあるとされている。温暖化は人為起源による温室効果ガスの増加と考えられ、人間の"エネルギーの使用と生産"活動、"CO2"ガスが温暖化への寄与が大きい。温暖化防止策として、エネルギーの使用の節約が温室効果の防止に大きな効果がある。このような背景の下、コンパクト熱交換器は省資源、省エネルギーが期待されることから、冷媒HFC-134aを用い蒸発管の内径0.51mm、1.12mm、3.1mmの3種類の平滑ステンレス細管を用いた沸騰熱伝達実験を行い、細管熱交換器の設計の基礎となる沸騰熱伝達特性データを取得することが本研究の目的である。細管を用いた蒸発管の従来の研究は少なくない。管内沸騰熱伝達の伝熱は核沸騰伝熱と強制対流蒸発伝熱の和と考えられ、従来の細管の管内沸騰熱伝達研究において、伝熱機構はi)低クオリティ域で核沸騰が高クオリティ域で対流蒸発が支配的とする研究、五)核沸騰が支配的であるとする研究、血)強制対流蒸発が支配的とする研究の3つの立場に分けられる。従来の水平細管内の二相流動様式の研究では、大管径の流動様式と少々異なり、分離流が出現しないこと、また細管内では表面張力が支配的になることが報告されている。ドライアウト研究は少なく、実験整理式による方法および無次元数による整理のあることを述べている。

第2章は、沸騰熱伝達実験を行うための実験装置、テストセクション、計測システムと実験条件を記述し、沸騰熱伝達率の求め方とその不確かさ解析について述べている。

安定した圧縮機の運転状態で、小流量の冷媒量を安定してテストセクションに供給するために、冷媒流路は圧縮機に対して並列にしてある。テストセクションはステンレス製の平滑管であり、加熱方法は直流電源による通電加熱としている。テストセクションは、ダクト内の空気温度を冷媒の蒸発温度に設定し、そのダクトの中に設置されていて、蒸発管から周囲の空気への熱の出入りを小さくしている。冷媒流量、温度はコリオリ流量計、熱電対を用い、それぞれの出力はデータロガーを介してパソコンで計測している。蒸発管入口、出口の冷媒圧力は、精度よく測定するために精密圧力計を使用している。局所熱伝達率の不確かさ解析では11.1%程度が見積もられた。

第3章は、実験結果について考察を交えて報告している。蒸発管の各管径0.51,1.12,3.1mmについて、局所熱伝達率に対する熱流束、質量流束、蒸発管入ロクオリティの影響、蒸発温度の影響をまとめている。

熱流束の影響についてはいずれの蒸発管径においても、熱流束の増加で熱伝達率の増加のあることを示し、管内沸騰伝熱に対して核沸騰の寄与のあることを示した。質量流束の影響については、1.12mmと3.1mm管の場合は質量流束の増加で熱伝達率の増加があるが、0.51mm管ではその影響ははっきりせず質量流束の影響は弱くなる。このことより管径が0.51mm程に小さくなると質量流束の影響は弱く、従って強制対流蒸発の寄与が小さくなることを示した。管径の影響については、0.51mm管は他管よりクオリティ約0.6以下において局所熱伝達率が高くなっていることを示した。この理由として、同質量流束で単位質量流束当たりの伝熱面積は管径が小さくなる程大きくなること、を一つの要因として取り上げた。蒸発管入ロクオリティの影響にっいては、入ロクオリティが約0。15以下になると高クオリティ域の熱伝達率低下がある。クオリティが約0.15では、流動様式はスラグ流と環状流の境界にあたり、それは間欠流と連続流の境界とみることもできる。間欠流が激しくなると、流れは脈動的になり高クオリティ域の熱伝達率低下は激しい。0,15mm管では脈動流は観察されず、高クオリティ域の大きな熱伝達率低下はない。蒸発温度の影響については、管径によりその影響に差異はあるものの蒸発温度が高くなると熱伝達率は高くなる。これは熱力学的に平衡を保った気泡の半径と過熱度の関係から説明を加えた。局所熱伝達率をLockhart-Martinelliのパラメータの逆数で整理すると、0.51mm管と1.12mm管のそれぞれのデータは異なる傾きの直線に載る。この傾きの意味は強制対流蒸発の影響の強さとみることができる。0.51mm管のデータの近似直線は1.12mm管のデータのそれより小さく、従って管径が小さくなると強制対流蒸発の影響が弱まる。圧力損失はクオリティで整理すると、管径が減少すると共に圧力損失の増加があるとはいいがたいことを示した。3.1mm管の圧力損失はLockhart-Martinelli相関による予測が、また0.51mm管では均質流モデルの予測がそれぞれ合う。このことから管径が小さくなると流れは単層流的になると考えられる。ドライアウト点を局所熱伝達率の低下し始める点とし、脈動のない場合において、0.51mm管、1,12mm管、3.1mm管ではドライアウト点はそれぞれクオリティ0.6、0.8~0.9、0.9であり、管径が細くなるとドライアウトが早まることを示した。流動様式については、間欠流(スラグ流など)と連続流(環状流)の遷移に注意をはらい、既存の流動様式線図との比較ではいずれもよく実験データを説明するにはいたらなかった。0,51mm管では層状流は現れず、低クオリティ域では表面張力の影響が顕著に現れたスラグ流が観察された。3.1mm管では、冷媒液が管の下方に偏った大口径の流動様式に近いものであった。

第4章は、沸騰熱伝達率の相関式とドライアウト予測とし、管径が小さくなるとドライアウトクオリティが小さくなりポストドライアウト熱伝達の評価が重要になることから、Chen型相関式の提案、ドライアウト点の予測、ポストドラィアウト熱伝達率予測をまとめたものである。

Chen型の相関式の提案では、実験からの知見:管径が小さくなると、i)強制対流蒸発の伝熱への寄与が小さくなること、ii)流動様式では表面張力が相対的に大きく影響する、ことからこれらの影響をウェーバー数Wevで表した。沸騰熱伝達の対流効果を表すChenのパラメータFをLockhart-MartinelliのパラメータXとウェーバー数Wevで表した。管径0.51~10.92mmのHFC・134の水平管内の沸騰熱伝達率データ2224個にフィッティングする定数を決定した。提案したChen型相関式と既存の相関式:吉田、田中、小笠原、Schrock-Grossman型、Kandlikar,Gungor-WintertOnの各相関式と実験データとの比較をすると、提案した相関式は最もよく実験データを予測することができた。提案した相関式のCO2の沸騰熱伝達率データへの適用は、実験値と予測値の一致はよくない。HFC-134aの高換算圧力系(3.0~3.7MPa)の沸騰熱伝達率データへの適用は、核沸騰伝熱項にCooperのプール沸騰の式を用いると実験値と予測値の一致のよいことを示した。ドライアウト予測では2,3の仮定の下に環状流モデルを提案、臨界液膜厚さ(ドライアゥト直前の液膜厚さ)を実験データから約15μmと評価することができドライアウトクオリティの予測式を提案することができた。ドライアウトの予測式は、管径が小さくなるとドライアウトクオリティが小さくなり実験的傾向および実験値を説明することができた。既存のドライアウトクオリティ相関式は、管径の影響を説明することはできなかった。ポストドライアウト熱伝達を評価するために乾き率を導入し、乾いた部分の熱伝達は気体の場合のDittus・Boelterの式で、濡れている部分の熱伝達は提案した相関式でそれぞれ評価した。乾き率はポストドライアウト熱伝達率の定義式と実験データから求めた。壁面の乾きは液膜流が層流と乱流で異なり、層流の揚合は乱流より低クオリティで乾き始める、乾き率を層流の場合と乱流の揚合に分けてクオリティの近似式で表した。乾き率を用いたポストドライアウト熱伝達による予測値はドライアウト後の実験値をよく説明することを示した。本論文で提案したChen型相関式でプリドライアウト熱伝達率を、環状流モデルでドライアウトクオリティを予測、そしてポストドライアウト熱伝達は乾き率を導入した相関式から求めることができることを示した。細管になるとドライアウトが早まり、ポストドライアウト熱伝達も重要となる、本論文で提案した相関式を用いと全クオリティ域についての熱伝達率予測ができる。従来の相関式では主にプリドライアウト熱伝達率予測に限られていた。

第5章は、結論をまとめている。管径が流動様式に与える影響、沸騰熱伝達に与える影響、ドライアウトの発生に与える影響をまとめている。提案した相関式、ドライアウトクオリティの環状モデルの予測成果をまとめている。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は5つの章から成っている.

第1章 序論では研究の背景,従来の研究では,細管における沸騰熱伝達の研究,流動様式の研究,圧力損失およびドライアウトの研究に注目して記述した.次に研究の目的を記述し,終わりの節では本論文の構成を示している.

第2章 実験では本研究を遂行するための実験を1節から6節において記述している.1節の実験装置では,小流量の冷媒供給のための並列流路の実験装置の概略を示した.2節のテストセクションでは細い蒸発管の詳細を記述した.3節の計測システムでパソコン計測の概略を示し,4節の局所沸騰熱伝達率の求め方では局所熱伝達率について記述し,管内冷媒温度は蒸発管の入口出口の冷媒圧力を直線近似し冷媒圧力の飽和温度としている.5節では計測の不確かさを記述し,局所熱伝達率の不確かさは約11 %であることを示している.6節の実験条件では,内径の異なる3種類の蒸発管において熱流束,質量流束,蒸発管の入口クオリティ,それに蒸発温度についての実験範囲を示している.

第3章の実験結果と考察は10節からなり実験結果と考察をまとめている.1節は局所沸騰熱伝達率の整理で,本実験の潤滑油濃度は0.1 wt%以下であり潤滑油の影響は無視できるとした.2節から6節までは局所沸騰熱伝達率に対する実験パラメータの影響をまとめている.2節では熱流束の影響をまとめ,0.51~3.1 mm管では熱流束の増加で熱伝達率の増加を示し,沸騰熱伝達に核沸騰の寄与のあることを示した.3節の質量流束の影響では,1.12,3.1 mm管の場合,質量流束の増加で熱伝達率の増加はあるが0.51 mm管では質量流束の影響がはっきりしないことを示し, 0.51 mm管では強制対流蒸発の寄与が小さいことを示した.4節の管径の影響は,0.51 mm管の低クオリティ域では他の管径より熱伝達率の高いことを示した.5節の蒸発管入口クオリティの影響は,蒸発管の入口クオリティが0.15以下のとき高クオリティ域の熱伝達率の低下を示した.6節の蒸発温度の影響は蒸発温度の上昇で熱伝達率の増加を示した.7節で沸騰熱伝達率の 整理による強制対流効果の影響では,管径が小さくなると強制対流蒸発の影響が弱まることを示した.8節の圧力損失では圧力損失をクオリティで整理し,管径が小さくなっても必ずしも圧力損失の増加を招くわけではないことを示した.3.1 mm管でLockhart-Martinelli相関による予測が0.51 mm管で均質流モデルによる予測がそれぞれ実験値に合うことを示した.9節のドライアアウトについては,管径が小さくなるとドライアウトの発生のクオリティが小さくなることを示した.10節の流動様式では,0.51 mm管で表面張力の影響が大きく現れた流動様式,3.1 mm管では大口径の流動様式に近いとしている.

第4章の沸騰熱伝達率の相関式とドライアウト予測は4節から成っている.1節のプリドライアウト熱伝達ではChenの相関式について説明し,管径の影響をWe数で表しChenのパラメータFをWe数とMartinelliのパラメータXの関数で表し,Chen型の相関式を提案している.提案した相関式の適用範囲において,HFC-134aでは広い範囲の管径(0.5~11 mm)と広い換算圧力(0.09~0.91)に適用可能であること、R-12,CO2にも適用できることを示している.2節のドライアウトクオリティでは,簡単な仮定の基に環状流モデルを提案し実験データを説明できることを示している.3節のポストドライアウト熱伝達はモデルに乾き率を導入し,液膜の伝熱は提案したChen型相関式で,蒸気-固体壁との伝熱を気相のDittus-Boelterの式でそれぞれ評価し,予測値と実験値はほぼ一致した.4節のクオリティ全域の熱伝達は,本研究で提案したChen型相関式を用いて,全クオリティ域の熱伝達率予測を行い,実験値をよく説明することを示している.

第5章は結論である.本研究で得られた結果を以下のようにまとめた.管内径が0.5 mm 程に細くなると,沸騰伝熱の強制対流蒸発の影響は小さくなり核沸騰伝熱が支配的になること,浮力に対して表面張力の影響が大きく現れ流動様式に成層流は現れず間欠流(スラグ流)が現れやすくなることを示した.管径の影響をWeber数で表現しChen型の相関式を提案した.環状流モデルを提案しドライアウト予測を行った.0.51 mm 管の場合の圧力損失は単相流的な均質流モデルが合うことを示した.プリドライアウト熱伝達では提案したChen型相関式,環状流モデルからドライアウトクオリティの予測,ポストドライアウト熱伝達では乾き率を導入したモデルより、蒸発管全長の熱伝達率予測を可能とした。

以上のように,本論文では細管内をHFC134aが流れる場合の沸騰熱伝達と圧力損失を実験により明らかにし,熱交換器全域の熱設計を可能にする相関式を提案している。これは工学上きわめて重要な知見であり,博士(環境学)の学位を授与できると判定する。

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