学位論文要旨



No 216931
著者(漢字) 藤原,斉郁
著者(英字)
著者(カナ) フジワラ,タダフミ
標題(和) 液状化地盤中のフーチング基礎の沈下と対策に関する遠心模型実験
標題(洋)
報告番号 216931
報告番号 乙16931
学位授与日 2008.03.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16931号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 小長井,一男
 東京大学 教授 古関,潤一
 東京電機大学 教授 安田,進
 東北学院大学 教授 吉田,望
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、構造物のフーチング基礎における地震時液状化による沈下のメカニズムを60回に及ぶ遠心模型実験によって調べ、地層構造や構造物重量、土質、基礎寸法など多様な要因の影響を包括的に調べたものである。そして被害軽減技術の実証実験も行い、コストと軽減効果の分析を通じて、地表の地盤改良と床版設置を最善の方策として提案した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、地震時の地盤液状化に際して構造物の基礎が沈下する現象に着目し、その発生機構、諸要因が沈下量に及ぼす影響の定量的評価、有効な対策技術の提案を目標とし、計六十一回の遠心模型実験を行なった結果を取りまとめたものである。本論文は全九章から構成されており、その内容は以下に逐次説明する。

第一章は本研究の概要と論文の構成を簡潔に説明している。

第二章は当該研究テーマに関する既往の研究のレビューである。研究には基礎模型の加振実験がある他、動的載荷の下で発生する砂の体積収縮、大変形する液状化砂の力学的性質に関する諸研究があり、これらは後段の模型実験結果の解釈において参照されるものである。既往の模型実験でも基礎の沈下現象に関して一定の議論こそ行なわれているが、本研究のような詳細なメカニズム考察や対策技術の実証については、限られた例しか存在しないことがわかった。

第三章は、フーチング基礎一基を埋設した遠心模型実験の方法および、得られた一次データを、説明している。振動と透水の時間の相似則を満たすための標準に従い、シリコンオイルの粘性流体を間隙水に使用している。しかしこのことは砂そのものの液状化抵抗や地盤の変形特性を実地盤とは異なったものにする可能性が考えられ、実験的研究の課題点となった。一連の模型実験では、液状化層厚、地表の非液状化層の厚さ、砂地盤の相対密度、砂の平均粒径、基礎の幅(寸法)、上載荷重、加振加速度、及び振動継続時間(波数)が地表面及び基礎模型の沈下量に及ぼす影響を、パラメトリックに調べた。

第四章では、前章の結果を承けて内容を分析している。本研究における実験の特徴は、基礎の沈下が加振中のみならず振動終了後にも継続し、後者の方がむしろ大きいことである。この事は静的荷重の下で地盤が流動的に大変形したことを意味し、実現象にも近いと考えられる。しかしこのような現象を観測できた実験報告は他にほとんど存在しない。液状化層厚を実物換算で最大17.5mと大きく設定できたことが、その理由であろう。また基礎の直下には液状化しない土塊が残存し、これとコンクリート基礎とが一体となって沈下することも見出された。

前節で触れた諸要因の影響については、液状化層が大きいほど沈下量は大きいものの、沈下の速度には差が無いことを見出した。逆に地表の非液状化層が厚くなると沈下は小さくなるので、後節の対策の提案に応用された。砂の密度を高めると沈下が減ることは予想通りである。砂の粒子を粗くすると沈下は減るが、全ての実験で透水係数と相対密度を一致させているので、粗い砂ほど間隙比が小さいことに注意を要する。さらに、基礎幅が広く上載荷重や接地圧が低い時ほど沈下は小さかった。

加振条件の影響としては、加速度が強いほど沈下は大きいものの150ガル以上では差が小さいこと、むしろ振動継続時間(波数)の影響の方が大きいことが、わかった。

第五章では、実験で測定された沈下量の妥当性が議論されている。測定値は、過去の実地震の事例で報告されている構造物の沈下量に比べて、小さめであった。その理由を明らかにするため、実験手法が検討された。もっとも詳細に議論されたのが、粘性流体を間隙流体として利用していることである。粘性流体の利用は、上述のように振動と圧密透水の時刻を合わせるために必要な実験技術ではある。しかしその結果模型地盤に不自然な粘性を付加し、基礎の沈下を過小評価している危険性が、意識された。既往の諸研究によると液状化砂には速度依存性が見られることが報告されており、粘性流体の使用はこの状況を過大にしている可能性がある。

第六章では、基礎四基が組み合わされて使われる実構造物を対象として、沈下軽減技術の研究が行なわれた。対策として想定されたのは、(B)四基を埋設した地表にコンクリート床版を設ける、(C)逆に基礎底面をつなぐ床板を設ける、(D)地表床版と地表層のレキによる置き換えの併用、(E)地表床板と周辺の地中壁締め切り、(F)地中壁の深部への延進、(G)地表床版と基礎直下地盤の固化、の六通りであった。これらを施工した模型実験結果を比べると、(C)で地中の間隙水圧上昇が少ないこと、(C)と(D)で沈下が30%に減ることがわかった。床版を多用しているのは第五章で基礎寸法を広げることによって沈下の減ることが見出されたからである。

第七章では、各々の対策技術のコストと沈下軽減効果の比率を試算し、最も有効な選択肢は(D)、次に(B)であることがわかった。

以上の経験から第八章では、模型地中の変位分布の経時変化と計測する技術が実験の有益性を高めるために必要であること、模型実験には粘性流体使用の可否などの意見統一が望まれること、を強調した。

第九章は全体の結論であり、その後に大量の実験データを添付している。

以上のように本研究は地震時の地盤液状化による建築及び土木構造物の基礎の被害軽減技術を実証的に研究したものであり、地震工学、地盤工学の進歩に対する貢献が大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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