No | 216938 | |
著者(漢字) | 古城,直道 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | フルシロ,ナオミチ | |
標題(和) | 逐次精密切削加工による試料内部3次元情報取得システムの開発 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 216938 | |
報告番号 | 乙16938 | |
学位授与日 | 2008.03.17 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第16938号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 精密機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年,ものづくり,医学および生物学の分野において,検査,診断のために3次元的な情報を取得することが不可欠となっている.現在は非破壊検査ではX線CTが,破壊検査では切片および断面観察がおこなわれている.破壊検査は,観察対象が生きている場合には使用することができないが,非破壊検査よりも微細かつ正確な情報を取得することができる.しかし,切片観察や研磨面観察には熟練を要し,断面観察では,対象の硬度が高い場合の観察に困難があった. そこで,本論文では,このような熟練が必要な作業および困難を軽減するため,高精度な断面の作製と,多様な情報取得を自動的におこなうことができるシステムの開発を目的として,研究をおこなった. 第1章は序論であり,近年の3次元情報取得技術への要求,従来の破壊,非破壊による3次元情報取得法について述べ,本論文の目的,構成について述べている.従来の熟練が必要な作業および困難を軽減するため,高精度な断面の作製と,多様な情報取得を自動的におこなうことができるシステムの開発を目的として,研究をおこなうことを述べる. 第2章では,本論文で研究,開発するシステムの開発指針について述べ,試作したシステムでおこなった予備実験について述べた. 開発するシステムでは断面の作製と,情報取得とを自動的に,かつ迅速に実現することが重要である.そこで,高精度な断面を作製する方式として,既存の超精密切削加工法である,Rバイトによる正面フライカット方式を選択した.試作したシステムでは,案内面に高精度,高剛性なV-Vころがり案内を有し,高精度,高速な精密空気静圧軸受主軸を有する超精密加工機を用いて予備実験をおこない,以下の結果を得た. a)フライカット方式による断面の作製は,生体軟組織と生体硬組織を含む樹脂包埋試料表面を,最大高さ0.4μm以下に仕上げることができる. b)切削加工した生体硬組織表面をSEM観察した結果,数μmオーダの微細構造についても輪郭部が明瞭であることから,表面に与える影響は小さく,安定した切削加工がおこなわれている. 第3章では,精密加工機をもとに,設計,開発した専用のシステムについて詳細を述べ,3次元情報取得システムとしての評価を述べた. 開発するシステムでは,以下の項目を満たすこととする. a)標準的な金属材料試験片,および小動物の頭部が観察可能となるよう,100×100×100mm程度の切削空間を有する. b)凍結試料を内部に設置し,保持可能な冷却空間を搭載した状態で,試料全体の観察を可能とする. c)断面情報取得部を機上に定置し,制御装置との連繋によって,断面作製と情報取得の自動化を実現する. d)記録する試料内部3次元情報の空間分解能として最小10μm以下を実現する. 開発したシステムの基本的な原理を図1に示す.(a)試料を固定する.(b)固定した試料をシステム上で精密切削し,(c)断面情報を取得する.(d)取得した断面情報を記録する.上記(b)~(d)工程を繰り返し,試料上端から下端までの情報を取得する.記録した断面情報をもとに(e)3次元再構築をおこなう. 開発したシステムを図2,3に示す.試料を移動させるX軸およびY軸は,有限形V-Vころがり案内,Z軸はリニアガイドを用い,NCによって0.1μm単位でスケールフィードバック制御する.回転主軸には,空気静圧軸受を用い,最高30000min-1で高速・高精度回転する.Z軸テーブルは,顕微鏡等の情報取得部設置のため定盤化し,回転主軸と断面情報取得部を設置する.試料は,XYテーブル上に設置する.最大100×100mmの試料を,切削痕の重なり無く切削加工するため,最大150mmのナイフホルダを使用する.情報記録部等の外部機器制御のため,NCからはX,Y,Z軸の位置をパルスにて出力する.また,NCからは,外部機器制御のためのトリガ信号を出力する.このことにより,切削加工,断面情報取得および断面情報記録の各工程を,NCを介し自動実行可能となる. 開発したシステムは,静的精度検査,動的精度検査,冷却試験,および無酸素銅,樹脂包埋アルミニウム試験片による検証をおこない,以下の結果を得ている. a)Rバイトを用いたフライカット方式により,無酸素銅に対し,最大高さ100nm以下の断面作製が可能である. b)機械精度の検証の結果,切削加工,断面情報取得ともに,±1μmの精度を有する. c)冷媒循環式の冷却機構により,冷却空間内は80分程度で凍結試料を保持可能な温度となる. d)アルミニウムと樹脂を良好に切削加工可能で,取得した断面情報からアルミニウムと樹脂とを個別に3次元再構築可能である. e)X線マイクロCTによる観察結果と比較し,開発したシステムは断面情報における歪みやアーチファクトの影響が小さく,また,高い空間分解能を有している. 第4章では,開発したシステムによる鋳造製品内部欠陥である鋳巣の観察および解析結果について述べた. 開発したシステムは,アルミニウム合金等の超精密切削加工に使用される,単結晶ダイヤモンドバイトによるフライカット方式を用いているため,観察対象として,アルミニウム合金等が適していると考えられる.しかし,通常の鏡面加工では,求められる表面粗さが非常に小さい場合にはバニッシングによって表面粗さを向上させている.本システムでは,試料断面からの情報取得,特に形状情報取得のためにも,バニッシングによる試料表面形状の変形を避けるべきである. そこで,情報取得に適した切削条件を調査し,選定した切削条件で,アルミニウム合金ダイカスト試験片の切削加工および断面情報取得をおこない,以下の結果を得た. a)切込み5μm,送り5μm/revで切削加工した表面をSEM観察した結果,表面に変形はみられず,微細構造についても輪郭部が明瞭であることから,安定した切削加工がおこなわれている. b)20×14×20mmのアルミニウム合金ダイカスト試験片内部3次元情報を,4×4×5μmの空間分解能で取得可能である. c)試料断面のレプリカの形状測定から,断面画像において巣の領域を抽出可能であることを確認した. d)アルミニウム合金ダイカスト試験片内部に多数存在する巣を,断面画像から抽出し,3次元再構築をおこなうことで,形状,体積分布の調査が可能となった. e)X線CTと比較し,本システムは微細な巣を検出可能であり,巣の微細な形状を明らかにした. 第5章では,開発したシステムを用いた生体硬組織試料である骨,および凍結マウス頭部の観察結果について述べた. 骨は生体の構造を支えているが,従来の生体試料観察方法では,軟組織は骨から取り外してから観察されることが多かった.しかし,骨から取り外すことで軟組織は容易に変形する.生きている状態に近い形状を観察するために,骨から取り外さずに観察する方法が求められている. 第2章で述べた予備実験では,生体硬組織に対しても,高精度な断面を作製可能であった.生体硬組織に対し,連続的に高精度な断面を作製するために,詳細な調査をおこない,以下の結果を得た. a)骨は切削加工に対し,構造に起因する異方性を有する. b)切込み10μm,送り10μm/revで切削加工した表面をSEM観察した結果,表面に変形はみられず,微細構造についても輪郭部が明瞭であることから,安定した切削加工がおこなわれている. c)骨内部の血管を断面画像から抽出し,3次元再構築可能であった. d)タイリング観察を用いることで,高分解能での試料断面全面からの情報取得が可能である. 続いて,生きている状態に近い形状で観察するため,軟組織と硬組織を含む生体試料を凍結包埋し,切削および観察をおこない,以下の結果を得た. a)切込み10μm,送り10μmで切削加工した表面を顕微鏡観察した結果,表面に変形は見られず,微細形状についても輪郭部が明瞭であったことから,安定した切削加工がおこなわれていたと考えられる. b)40×20×20mmの凍結包埋マウス頭部試料の内部3次元情報を,最小5×5×10μmの空間分解能で取得可能である. c)断面画像から血管領域を抽出し,3次元再構築することで,生きている状態に近い形状の脳内部血管の観察が可能となった. 第6章では,開発したシステムの応用および展望について述べた. 断面情報取得方法として,光学顕微鏡だけではなく各種の表面分析法が導入可能である.また,切削時の切削抵抗は断面情報として利用可能な知見となりうることを示した. 第7章では,本論文の総括を述べ,今後の課題について述べた. 本システムを用いることで,開発当初の目的どおり,熟練者でなくとも,高精度な試料断面作製を容易におこなうことができる.また,1断面あたり1分以内の切削加工が可能である.本システムにより,生きている状態に近い形状の生体試料内部構造情報の取得や,工業製品の内部欠陥情報の取得を実現した. 本システムは,金属材料,生体試料分野以外に,植物,食品等の内部構造観察,複合材料,樹脂等を含む工業製品,および多くの人工物の検査等の幅広い分野に応用可能であると考えられる.また,本システムにより取得した試料内部3次元情報は,ラピッドプロトタイピング等の3次元造形で利用可能な設計図となり得る. | |
審査要旨 | 本論文は「逐次精密切削加工による試料内部3次元情報取得システムの開発」と題し,金属材料試料内部欠陥や生体試料内部構造観察を実現するため,高精度な断面作製と高分解能断面情報取得とを迅速かつ連続的に行う自動化システムの開発を目的として行った研究の成果を纏めたものである. 本論文は,全7章から構成されている. 第1章「序論」では,本研究の背景と目的,本研究の対象である3次元情報取得法の概要,及び本論文の構成について述べている.近年のものつくりにおけるCAT技術への要求,現状の非破壊検査技術,破壊的手法を用いた3次元情報取得法について俯瞰している.従来,多くの手作業と時間が必要であった断面作製工程,および高分解能断面情報取得工程の自動化を目指す,本研究の目的を提示している. 第2章「逐次精密切削加工による試料内部3次元情報取得システムの提案と予備実験」では,システムの設計指針を明らかにしている.試作したシステムの仕様,構成を述べるとともに,逐次精密切削加工による試料内部3次元情報取得試験により,提案手法の有効性を実証するとともに,専用機の設計に必要となる項目を明らかにしている. 第3章「逐次精密切削加工による試料内部3次元情報取得システムの開発」では,専用機の開発をおこない,取得する情報の精度に関わる,切削精度および情報取得精度の安定性について試験をおこなっている.また,形状が既知である金属片と樹脂の複合試験片を用い,既存の非破壊検査技術との比較をおこなうことで,開発したシステムの有効性を示している. 第4章「金属材料試料内部3次元情報の取得」では,開発したシステムを用いて,金属材料試験片の観察をおこなっている.あらかじめ非破壊検査により内部に欠陥を有することが分かっている試験片に対し,開発したシステムにより10μm以下の分解能での内部3次元情報取得をおこなっている.取得した内部3次元情報を利用することで,試験片内部に多数存在する欠陥をより詳細に解析可能となることを示している. 第5章「生体試料内部3次元情報の取得」では,はじめに生体試料をより生きている状態に近い形状で観察するために必要な,生体硬組織試料の切削および内部3次元情報取得をおこなっている.従来,連続的な切断が困難であった生体硬組織試料に対し,開発したシステムを用いることで,安定的に連続切削可能な条件を見出し,内部3次元情報取得および3次元内部構造の可視化をおこなっている.続いて,生体硬組織と生体軟組織とを同時に含み,凍結包埋した試料に対し,開発したシステムを用いることで,連続的な切削加工,および内部3次元情報取得が可能であることを示している. 第6章「逐次精密切削加工による試料内部3次元情報取得システムの応用」では,開発したシステムに導入可能な断面情報取得方法,および切削加工時の情報利用等の応用および展望について述べている. 第7章「結論」では,本研究で得られた成果の総括をおこない,さらに今後の課題について述べている. このように,本論文では,従来高分解能な内部3次元情報取得が困難であった比較的大きな金属材料試料や生体試料に対し,精密切削加工による高精度な断面作製および逐次断面情報取得により,自動化された高分解能内部3次元情報取得システムの構築に成功している. 研究成果および本研究で得られた知見は,精密工学および生物学の発展に大きく貢献するものと言える. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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