学位論文要旨



No 216943
著者(漢字) 平田,泰雅
著者(英字)
著者(カナ) ヒラタ,ヤスマサ
標題(和) 高精細リモートセンシングによる林分構造の把握に関する研究
標題(洋)
報告番号 216943
報告番号 乙16943
学位授与日 2008.04.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第16943号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 露木,聡
 東京大学 教授 大政,謙次
 東京大学 准教授 溝口,勝
 東京大学 准教授 龍原,哲
 京都府立大学 教授 田中,和博
内容要旨 要旨を表示する

本研究は,高精細化の進むリモートセンシング技術を用いて森林の林分構造を把握することを目的として,航空機レーザースキャナーデータ及び高分解能衛星データがスギ及びヒノキ人工林の林分因子にどのように適用可能かを解明し,その適用性に関する知見を集積した。また,天然林のギャップの動態を把握し,森林のパッチ構造を捉え,材積や地上バイオマスの推定を行った。

航空機レーザースキャナーを用いた森林計測における問題点について検証し,単木情報の抽出を試みた。また,航空機レーザースキャナー計測から人工林及び天然林の林分特性を明らかにした。

まず,航空機レーザースキャナーデータからデジタル林冠モデル(DSM)やデジタル標高モデル(DEM)を作成する際のメッシュサイズについて検討した。その結果,実際の計測では理論的に各メッシュにデータが含まれる地上照射密度において,それぞれ約40%程度のデータの欠落したメッシュが存在することが明らかになった。従って,精度よくDSMやDEMを作成するためには,計測の斑を考慮した地上照射密度での計測が必要であることが明らかになった。

次に,間伐試験を実施しているスギ及びヒノキ人工林,展葉期と落葉期の落葉広葉樹林において航空機レーザースキャナーから照射されるレーザー光の林冠透過率を比較した。その結果,レーザー光の林冠透過率は,81年生のスギ人工林における強度間伐区,弱度間伐区,対照区で28.1%,26.8%,21.3%であり,53年生のヒノキ人工林において50.6%,43.1%,9.2%であった。さらに落葉広葉樹林においては展葉期に14.9%,落葉期に65.7%であった。

さらに,スギ及びヒノキ人工林の間伐試験地において,航空機レーザースキャナーを用いたレーザー光の高密度照射による森林計測を行い,間伐強度別に立木の抽出率を調べた。また,抽出された立木について航空機レーザースキャナーから算出されたデジタル林冠高モデル(DCM)から得られた樹高と現地調査よって得られた樹高との間で回帰分析を行った。さらに,DCMからの単木樹高の推定における誤差要因である地形の影響について考察した。0.25mメッシュでのDCMからの立木の抽出率はスギ人工林の強度間伐区,弱度間伐区,対照区で95.8%,86.5%,75.2%で,ヒノキ人工林では95.3%,89.2%,60.0%であった。抽出された立木のDCMによる樹高と地上での測定による樹高との比較の結果,スギ人工林におけるRSM誤差は1.09mであり,相関分析の結果,強い正の相関(r=0.92)が見られた。また,ヒノキ人工林におけるRSM誤差は0.75mであり,相関分析の結果,強い正の相関(r=0.93)が見られた。航空機レーザースキャナーデータから樹高を抽出する場合,立木が山側に傾いている場合は樹高が過小に算出され,谷側に傾いている場合には過大に算出される。それぞれの立木の根元位置におけるDEMの値よりもDCMから抽出された立木の梢端位置に対応するDEMの値の方が平均で0.2m低かった。また,ヒノキ人工林においても立木の根元位置におけるDEMに対するDCMから抽出された立木の梢端直下のDEMの差の平均は-0.34mであった。

立木の抽出及び樹高の計測にはレーザー光の地上照射密度の違いが影響すると考えられる。そこで,異なるレーザー光の地上照射密度のデータからメッシュサイズが0.25m×0.25m,0.5m×0.5m及び1m×1mのDCMを作成し,それぞれのDCMからどれだけの立木が抽出可能であるかを調べた。また,レーザー光の地上照射密度を減少させた場合,抽出された立木の樹高がどのように変化するかを調べた。レーザー光の地上照射密度が5点/m2以上の場合,0.25m×0.25mのメッシュサイズに対する0.5m×0.5m及び1m×1mのメッシュサイズでの立木の抽出割合はそれぞれ90%,60%程度であった。各地上照射密度において抽出された立木の樹高値と計測時の地上照射密度のデータから抽出された立木の樹高値の差の平均は,地上照射密度がその1/4の場合-0.1m~-0.2mで,1/64の場合-0.5m~-0.6mであった。この結果,地上照射密度が小さくなるにつれて梢端を含まないフットプリントが増加し,樹高の推定が過小になることが明らかになった。

次に,高密度の航空機レーザースキャナーデータを用いて,ヒノキ人工林における単木樹高と尾根からの距離,谷からの距離,斜面位置,斜面傾斜,斜面方位,標高といった地形因子との関係を解析した。航空機レーザースキャナーデータから抽出された優勢木の樹高を従属変数に,地形因子を独立変数にして重回帰分析を行った結果,重相関係数は0.71であり,ヒノキの樹高は斜面位置と標高に依存することが明らかになった。

さらに,高密度の航空機レーザースキャナーデータを用いて林分因子を推定した。,単木についての情報を航空機レーザースキャナーデータから抽出し,この情報を用いて立木密度,林分樹高,林分材積を推定し,現地調査の結果と比較した。立木密度については,DCMから得られた各プロットでの立木密度と現地調査から得られた立木密度との間に高い正の相関(R2=0.92)が見られ,RMS誤差は369.9本/haであった。DCMから推定された立木密度は過小推定の傾向が見られた。樹高については,DCMから得られた各プロットでの林分樹高と現地調査から得られた林分樹高との間に高い正の相関(R2=0.99)が見られた。林分材積について,DCMから得られた各プロットでの林分材積と現地調査から得られた林分材積との間には高い正の相関(R2=0.86)が見られ,RMS誤差は153.5m3/haであった。

落葉広葉樹林においてギャップの動態を解明するため,航空機レーザースキャナーデータを用いて時系列での林冠の状態を比較しギャップを抽出した。ここで抽出したギャップを用いてギャップの動態を把握し,ギャップの動態パターンについて考察した。2時期のデータから得られた落葉広葉樹林における林冠のギャップの動態は新規,拡大,縮小,消滅という4つのパターンに分類された。樹木の成長によるギャップの縮小及び消滅に着目し,これらの動態パターンに分類されるギャップについて2時期の間のギャップの減少面積を算出した結果,ギャップ面積とのギャップの減少面積とは累乗近似でき(R2=0.75),ギャップが閉鎖していく過程においてギャップの周辺木の樹冠が成長する場合,ギャップ面積が大きいものほど周辺木の本数が多くなり,結果としてギャップの閉鎖する面積は大きくなると考えられた。

高分解能衛星データは,森林観測において単木レベルでの観測が可能であり,林分構造に関連する因子が抽出されることが期待されている。そこで本研究では,高分解能衛星データを用いて人工林における立木密度,林分材積やマングローブ林における地上バイオマスといった林分因子を推定した。また,高分解能衛星データを用いて,ランドスケープレベルでの森林の空間分布の把握を試みた。

まず,高分解能衛星データから得られる単木レベルの樹冠情報を利用して,人工林における立木密度や林分材積といった林分因子をどの程度推定できるかを明らかにした。林分因子の異なるスギ及びヒノキの人工林において高分解能衛星データから立木密度を推定した結果,40年生以下の林分においては現地調査から得られた立木密度との間に相関が見られなかった。一方,41年生以上の林分においては正の相関が見られた(R=0.82)。スギ及びヒノキ人工林の41年生以上の林分において,高分解能衛星データから抽出された樹冠投影面積からアロメトリー式を用いて胸高直径を推定し,この胸高直径から樹高曲線により樹高を求めた。これらの変数を用いて2変数材積式から単木材積を算出し,それらの合計から林分材積を求めた。このようにして高分解能衛星データから得られた林分材積と現地調査から得られた林分材積との間には正の相関が見られた(R=0.78)。

高分解能衛星データを用いてマングローブの樹冠を抽出し,樹冠から地上バイオマスを推定する手法を開発した。現地で作成された樹冠投影図において幹直径から樹高曲線を用いて推定された各立木の樹高により階層関係を推定して,各立木の陽樹冠の投影面積を求めた。また,高分解能衛星データからも陽樹冠を抽出し,投影面積を算出した。これらの陽樹冠投影面積から樹冠投影面積を樹冠投影図と林冠表面図から得られた回帰式から推定し,推定された樹冠投影面積からアロメトリー式により幹直径を推定した。得られた幹直径及び樹高曲線を用いて,各器官及び全体の地上バイオマスを推定した。その結果,林冠表面図から推定した地上バイオマスは-2%から42%過小推定であったのに対し,高分解能衛星データから推定した地上バイオマスは,7%から27%過小推定であった。

最後に,高分解能衛星データからオブジェクト指向型分類を用いて森林の空間配置の把握を試みた。スペクトルや形状から算出される異質性の高低により,領域分割される森林のオブジェクト数やその面積がどのように変化するのかを検討した。高分解能衛星のオリジナルデータからeCognitionを用いてオブジェクト指向型分類によって林相区分を行う場合には,スケールパラメータが80~120の値を用いて,同一林相の林分を3~5のオブジェクトで表すような領域分割が実用上適していると考えられた。オブジェクト指向型分類により得られた林班毎の樹種の構成面積を森林簿の樹種構成面積と比較した結果,各林班においてそれぞれから得られた樹種毎の構成面積の割合がよく一致していた。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、高精細リモートセンシング技術を用いて森林の林分構造を把握することを目的として、航空機レーザースキャナー(ALS)データ及び高分解能衛星デ一タの人工林の林分因子推定および天然林のギャップ動態への適用性を解明し、その適用性に関する知見を集積した。

ALSによる森林計測は、従来の2次元でのリモートセンシングから3次元への拡張であり、林分情報抽出の高度化が期待される。そこで、ALSを用いた森林計測における問題点について検証し、人工林及び天然林の林分特性を明らかにした。

まず、人工林間伐試験地と落葉広葉樹林においてALSのレーザー光の林冠透過率を調べた。林冠透過率はスギ人工林の強度間伐区、弱度間伐区、対照区で28.1%、26.8%、21.3%であり、ヒノキ人工林において50.6%、43.1%、9.2%であった。また落葉広葉樹林では展葉期に14.9%、落葉期に65.7%であった。次に、ALSデータから作成された0.25mメッシュでのデジタル林冠高モデル(DCM)からの立木抽出率を調べた。抽出率はスギ人工林の強度間伐区、弱度間伐区、対照区で95.8%、86.5%、75.2%、ヒノキ人工林では95.3%、89.2%、60.0%であった。抽出された立木のDCMからの樹高と地上測定による樹高との比較の結果、スギ人工林におけるRMS誤差は1.09mであり、ヒノキ人工林におけるRMS誤差は0.75mであった。

次に、ヒノキ人工林における単木樹高と地形因子との関係を解析した。DCMから抽出された優勢木の樹高と地形因子との重回帰分析の結果、ヒノキの樹高は斜面位置と標高に依存することが明らかになった。

さらに、ALSデータを用いて林分因子を推定した。立木密度は、DCMからの各プロットの立木密度と現地調査による立木密度との間に高い正の相関(R=0.96)が見られ、RMS誤差は369.9本/haであった。林分樹高は、DCMからの樹高と現地調査による樹高との間に高い正の相関が見られた。林分材積は、DCMからの材積と現地調査による材積との問には高い正の相関が見られ、RMS誤差は153.5m3/haであった。

最後に、落葉広葉樹林でのギャップの動態を調べるため、時系列のALSデータを用いて林冠の状態を比較しギャップを抽出した。林冠のギャップ動態は新規、拡大、縮小、消滅というパターンに分類された。2時期のギャップ面積とギャップの減少面積とは累乗近似できた(R=0.87)。

高分解能衛星データは単木レベルでの観測が可能であり、林分構造に関連する因子が抽出されることが期待されている。そこで高分解能衛星データを用いて人工林及びマングローブ林での林分因子を推定し、森林の空間配置の把握を試みた。

まず、高分解能衛星データから得られる単木の樹冠情報を利用して、人工林における林分因子の推定を行った。人工林において立木密度を推定した結果、40年生以下の林分においては現地調査による立木密度との間に相関が見られなかったが、41年生以上の林分においては正の相関が見られた。人工林の41年生以上の林分において、高分解能衛星データから抽出された樹冠投影面積からアロメトリー式により胸高直径を推定し、樹高曲線から樹高を求めた。これらの変数から単木材積を算出し、その合計から林分材積を求めた。高分解能衛星データから得られた林分材積と現地調査による林分材積との間には正の相関が見られた.

次に、マングローブ林において高分解能衛星データを用いて樹冠情報から地上バイオマスを推定する手法を開発した。高分解能衛星データから陽樹冠を抽出し、この陽樹冠投影面積から現地調査から得られた回帰式により幹直径を推定した。この幹直径及び樹高曲線による樹高から地上バイオマスを推定した。その結果、高分解能衛星データから推定した地上バイオマスは、7%から27%過小推定であった。

最後に、高分解能衛星データからオブジェクト指向型分類により森林の空間配置を把握する際に、スペクトルや形状から算出される異質性のパラメータにより領域分割される森林のオブジェクト数やその面積がどのように変化するのかを検討した。高分解能衛星データからオブジェクト指向型分類を行う場合には、スケールパラメータが80~120の値を用いて、林分を3~5のオブジェクトで表す領域分割が実用上適していると考えられた。

以上のように本論文は、森林分野での利用が期待されているALSおよび高解像度衛星データについて、詳細な森林におけるデータ特性が明らかにされただけではなく、実務で用いてゆくために必要な体系的な研究であり、これらの技術の実利用に貢献するところが少なくない。よって審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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