学位論文要旨



No 216972
著者(漢字) 齋藤,英美
著者(英字)
著者(カナ) サイトウ,ヒデミ
標題(和) PTHrPの骨転移および悪液質への関与とヒト型化抗PTHrP抗体による治療効果
標題(洋)
報告番号 216972
報告番号 乙16972
学位授与日 2008.06.11
学位種別 論文博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 第16972号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 内藤,幹彦
 東京大学 教授 岩坪,威
 東京大学 教授 一條,秀憲
 東京大学 教授 堅田,利明
 東京大学 准教授 有田,誠
内容要旨 要旨を表示する

Paratgyriud hormone-related protein(PTHrP;副甲状腺ホルモン関連タンパク)は、カルシウム代謝を調節するホルモンであるParathyroid hormone(PTH;副甲状腺ホルモン)とN末端において相同性が高い。この領域を介しPTHおよびPTHrPは同一の受容体(Parathyroid hormone receptor1;PTH1R)に結合し、骨に作用して骨吸収を高め、腎に作用してカルシウムの再吸収を促進し血中カルシウム濃度を上昇させる。PTHrPは正常人の血中では検出されず、癌細胞から産生されHumoral hypercalcemia of malignancy(HHM;癌に伴う高カルシウム血症)をひきおこす。そこで抗P抗体のHHM治療薬として臨床応用が考えられ、ヒトに投与可能なヒト型化抗PTHrP抗体が作製されたP。THrその際にPTHとPTHrPの両方の阻害は低カルシウム血症をおこす可能性があるため、配列が全く同じではない点を利用しPTHrPを阻害しPTHは阻害しない抗体が作製された。ヒト型化抗PTHrP抗体はモデル動物においてHHMを改善することが確認され、臨床における効果が期待されている。しかしこれまでに、HHM以外の病態に関してヒト型化抗PTHrP抗体の治療効果は検討されていない。そこで今回の研究では抗PTHrP抗体の効果が期待される病態として乳癌骨転移と癌悪液質に着目し、それぞれの病態におけるPTHrPの関与とヒト型化抗体の治療効果を検討した。

1.乳癌骨転移におけるPTHrPの関与とヒト型化抗PTHrP抗体の治療効果

乳癌骨転移に関与する因子として様々な因子が報告されているが、その中でもPTHrPは骨吸収を促進する作用を持つことから乳癌の溶骨性骨転移に重要な役割を果たしている可能性が示唆されている。しかしこれまでにヒト型化抗PTHrP抗体を用いての乳癌骨転移に対する効果は検討されていない。そこで今回の研究では、乳癌の高骨転移株の樹立を行い、骨転移におけるPTHrPの関与とヒト型化抗体の効果を検討した。

ヒト乳癌細胞のMDA-MB-231(MDA-231)をマウスの心臓から移植すると副腎転移が頻繁に認められるものの骨転移の頻度は低い。そこでMDA-231をマウスの心臓から移植した後、形成された骨転移巣から細胞を回収しin vitroで培養し、再度心臓に移植するサイクルを繰り返した。サイクルを5回繰り返して得られた亜株MDA-5aは78%の頻度で骨へ転移し、10%の頻度を示す親株のMDA-231と比較して高い骨転移能を示した(図1)。一方、副腎転移頻度に関してはMDA-5a、親株とも60%前後で差がなかった。

MDA-5aと親株についてDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析を実施したところ、骨転移への関係が示唆されるPTHrP、IL-6、IL-8、IL-1β 、MMP-1の発現がMDA-5aにおいて上昇していることが明らかとなった。そこで培養上清を回収しそれぞれのタンパク量を確認したところ、親株に比較してMDA-5aにおいてはPTHrP(図2)、IL-6、IL-8、MMP-1の産生量が上昇していることが確認された。

次に、MDA-5a移植マウスの骨転移巣と副腎転移巣におけるPTHrP発現を免疫染色により検討したところ、PTHrPの発現量は副腎転移巣に比較して骨転移巣で高いことが明らかとなった。これは、乳癌患者において、骨転移巣のPTHrPの発現は原発巣や骨以外の転移部位に比べ高いという報告と合致している。そこで、MDA-5a移植マウスを用いてヒト型化抗PTHrP抗体の乳癌骨転移に対する効果を検討した。骨転移の程度は、X線写真上での骨転移巣の数と大きさに応じてスコア化することにより評価した。スコア化は、標準写真をもとに最も激しい骨転移を4、最も軽い骨転移を1とし、骨転移のない場合は0とした。このスコア化を両足に対して行い、合算したスコアを個体の骨転移スコアとした。その結果、骨転移スコアは病態コントロール群で4,0に対しヒト型化抗PTHrP抗体投与群は14を示し、ヒト型化抗体により骨転移が抑制されることが明らかとなった(図3)。一方、副腎転移の頻度については抗体投与による影響は認められなかった。

これらの結果から、PTHrPが乳癌骨転移に関与しており、ヒト型化抗PTHrP抗体が乳癌の溶骨1生骨転移を抑制することが示された

2.癌悪液質におけるPTHrPの関与ヒト型化抗PTHrP抗体の治療効果

癌悪液質は臨床上大きな問題となっている病態である。一方、これまでのHHMモデルを用いた検討から、HHMモデルで認められる体重減少が抗PTHrP抗体の投与によりほぼ完全に回復することが見出され、PTHrPが癌悪液質において重要な役割を果たしている可能性が示唆された。そこで、悪液質に対するPTHrPの関与とヒト型化抗PTHrP抗体の効果を検討した。マウス大腸癌株colon26をマウスの皮下に移植すると体重減少に代表される悪液質症状が認められるのに対し、同じcolon26細胞を肝臓に移植したマウスでは悪液質症状を示さない。従来より悪液質との関連が指摘されているIL-6の血中濃度は肝臓内移植マウスに比較して皮下移植マウスで高いことが報告されている。

まず、皮下移植マウスと肝臓内移植マウスにおける血中PTHrP濃度の比較を行った。colon26を皮下に移植すると移植後12日から体重が減少し始めるが、肝臓に移植したマウスでは移植後17日でも体重減少が認められない(図4)。血中PTHrP濃度を測定したところ、肝臓内移植マウスは移植後12日では検出限界以下、17日でも4.7pmol/Lであったのに対し、皮下移植マウスでは移植後12日で12pmol/L、17日には18pmol/Lと高値を示した(図5)。

次に、悪液質症状を示すcolon26皮下移植マウスを用いてヒト型化抗PTHrP抗体の効果を検討した。移植後17日の体重は、病態コントロール群で1&9gに対し抗体投与群では24.1gであった。血中カルシウム濃度は、病態コントロール群で15.6mg/dL、抗体の投与群では11.0mg/dLを示した。以上よりヒト型化抗体は、体重低下とカルシウムの上昇を抑制することが明らかとなった。一方、抗IL-6抗体は血中カルシウム濃度は改善せず体重減少を部分的に抑制したのみであった(図6)。

以上より、colon26皮下移植系の悪液質においてもPTHrPの関与が示唆され、ヒト型化抗PTHrP抗体の癌悪液質治療薬としての可能性が示された。

3.PTHrP発現誘導機構の解析

次にPTHrP発現誘導機序について検討を行った。Colon26移植モデルにおいて皮下移植した癌細胞と肝臓内移植した癌細胞とでは細胞周辺の微小環境が異なり、微小血管の密度は皮下に比較し肝臓のほうが高く皮下腫瘍は肝臓腫瘍よりも低酸素や低栄養の条件で成長している可能性が考えられた。そこで低酸素(1%酸素)や低グルコース条件での培養によりPTHrP産生が増大するか検討したところ、PTHrPの産生は低酸素、低グルコースのいずれの培養条件においても誘導されなかったが3次元のスフェロイド培養により産生量の増大が認められた(図7)

PTHrP誘導のメカニズムをさらに探るために、遺伝子発現解析を実施した。その結果、肝臓内腫瘍に比較して皮下腫瘍で3倍以上の高い発現を示す69遺伝子と単層培養腫瘍に比較してスフェロイドで3倍以上の高い発現を示す311遺伝子が明らかとなり、そのうち20遺伝子が皮下腫瘍とスフェロイドの両方に共通して高い発現を示した。この中がらプレリミナリーな検討を行った結果、COX-2がPTHrPの産生誘導に関与している結果が得られたためCO)藍2についてさらに検討を進めた。COX-2阻害剤のNS-398を用いてスフェロイドにおけるPTHrP産生誘導への影響を検討したところ、細胞の増殖には影響を与えない1uMのNS-398によりPTHrPの産生誘導は完全に抑制された(図8)。さらにin vivoでも、皮下移植マウスにおいて40mg/kgのNS-398の投与により腫瘍の増殖が抑制されることなく血中P濃度が低下することが明らかとなった(図9)。以上の結果より、皮PTHr下移植マウスとスフェロイドにおけるprHPの産生誘導がCOX-2に媒介されていることが示唆された。

さらにcox-2の上流の検討を進めた。PDGFは乳癌の骨転移巣で産生量が上昇しているという報告がありPTHrPの産生も骨転移巣で上昇することから、PIHrP産生誘導にPDGFが関与している可能性を検討した。PDGFはダイマー構造を持つことが知られているが、PDGFのB鎖のホモダイマーであるPDGF-BBは用量依存性にPTHrPの発現を誘導し、その誘導はNS-398により抑制された。また、血中PDGF-BB濃度が肝臓内移植マウスに比較し皮下移植マウスでは高いことを見出した。以上の結果からPTHrPの発現制御機構として図10のような模式図が考えられた。

以上、本研究において、癌に関連した2つの病態、乳癌骨転移と癌悪液質においてpm四が重要な役割を果たしていることを示した。また、ヒト型化抗PTHrP抗体の骨転移治療薬、悪液質治療薬としての可能性を示した。さらに、PIHrPの発現誘導にCOX-2が重要な役割を果たしていることを示した。

図1各サイクルにおける骨転移が認められたマウスの割合(%)。サイクルを繰り返すにしたがって骨転移頻度が上昇した。

図2MDA-231とMDA-5aの培養上清を回収し、PTHrPの産生量をRIAで測定しDNA含量で補正した。MDA-5aではMDA-231に比較してPTHrP産生量が上昇していた。

図3MDA-5aを移植したマウスにおいて、生食投与群に対しヒト型化抗PTHrP抗体投与群は低い骨転移スコアを示した。

図4colon26を皮下に移植すると体重が低下する。対照的にcolon26を肝臓に移植したマウスでは体重減少が認められない。

図5皮下移植マウスは肝臓内移植マウスよりも高い血中PTHrP濃度を示した。

図6colon26を皮下に移植後10日と14日にヒト型化抗PTHrP抗体投与を行い、移植後17日に体重測定を行った。ヒト型化抗PTHrP抗体により体重減少が抑制された。

図7colon26細胞をスフェロイド培養すると培養上清中のPTHrP量の増大が認められた。

図8COX-2阻害剤のNS-398により、スフェロイドにおけるPTHrPの産生誘導は完全に抑制された。

図9 colon26皮下移植マウスに40mg/kgのNS-398を投与すると腫瘍増殖を抑制することなく血中PTHrP濃度を低下させた。

図10PTHrPの発現制御機構の模式図

審査要旨 要旨を表示する

Parathyroid hormone-related protein(PTHrP;副甲状腺ホルモン関連タンパク)は、カルシウム代謝を調節するホルモンであるParathyroid hormone(PTH;副甲状腺ホルモン)とN末端において相同性が高い。この領域を介しPTHおよびPTHrPは同一の受容体(Parathyroid hormone receptor1;PTH1R)に結合し、骨に作用して骨吸収を高め、腎に作用してカルシウムの再吸収を促進し血中カルシウム濃度を上昇させる。PTHrPは正常人の血中では検出されず、癌細胞から産生されHumoral hypercalcemia of malignancy(HHM;癌に伴う高カルシウム血症)をひきおこす。そこで抗PTHrP抗体のHHm治療薬として臨床応用が考えられ、ヒトに投与可能なヒト型化抗PTHrP抗体が作製された。その際にPTHとPTHrPの両方の阻害は低カルシウム血症をおこす可能性があるため、配列が全く同じではない点を利用しPTHrPを阻害しPTHは阻害しない抗体が作製された。ヒト型化抗PTPTHrP抗体はモデル動物においてHHMを改善することが確認され、臨床における効果が期待されている。しかしこれまでに、HHM以外の病態に関してヒト型化抗PTHrP抗体の治療効果は検討されていない。齋藤英美は、抗PTHrP抗体の効果が期待される病態として乳癌骨転移と癌悪液質に着目し、それぞれの病態におけるPTHrPの関与とヒト型化抗体の治療効果を検討した。

1.乳癌骨転移におけるPTHrPの関与とヒト型化抗PTHrP抗体の治療効果

乳癌骨転移に関与する因子として様々な因子が報告されているが、その中でもPTHrPは骨吸収を促進する作用を持つことから乳癌の溶骨性骨転移に重要な役割を果たしている可能性が示唆されている。しかしこれまでにヒト型化抗PTHrP抗体を用いての乳癌骨転移に対する効果は検討されていない。そこでまず最初に乳癌の高骨転移株の樹立を行い、骨転移におけるPTHrPの関与とヒト型化抗体の効果を検討した。

ヒト乳癌細胞のMDA-MB-231(MDA-231)をマウスの心臓から移植すると副腎転移が頻繁に認められるものの骨転移の頻度は低い。そこでMDA-231をマウスの心臓から移植した後、形成された骨転移巣から細胞を回収しin vitroで培養し、再度心臓に移植するサイクルを繰り返した。サイクルを5回繰り返して得られた亜株MDA-5aは78%の頻度で骨へ転移し、10%の頻度を示す親株のMDA-231と比較して高い骨転移能を示した。一方、副腎転移頻度に関してはMDA-5a、親株とも60%前後で差がなかった。

MDA-5aと親株についてDNAマイクロアレイによる遺伝子発現解析を実施したところ、骨転移への関係が示唆されるPTHrP、IL-6、IL-8、IL-1β 、MMP-1の発現がMDA-5aにおいて上昇していることが明らかとなった。そこで培養上清を回収しそれぞれのタンパク量を確認したところ、親株に比較してMDAr5aにおいてはPTHrP、IL-6、IL-8、MMP-1の産生量が上昇していることが確認された。

次に、MDA-5a移植マウスの骨転移巣と副腎転移巣におけるPTHrP発現を免疫染色により検討したところ、PTHrPの発現量は副腎転移巣に比較して骨転移巣で高いことが明らかとなった。これは、乳癌患者において、骨転移巣のPTHrPの発現は原発巣や骨以外の転移に比べ高いという報告と合致している。そこで、MDA-5a移植マウスを用いてヒト型化部位抗PTHrP抗体の乳癌骨転移に対する効果を検討した。骨転移の程度は、X線写真上での骨転移巣の数と大きさに応じてスコア化することにより評価した。スコア化は、標準写真をもとに最も激しい骨転移を4、最も軽い骨転移を1とし、骨転移のない場合は0とした。このスコア化を両足に対して行い、合算したスコアを個体の骨転移スコアとした。その結果、骨転移スコアは病態コントロール群で4.0に対しヒト型化抗PTHrP抗体投与群は1.4を示し、ヒト型化抗体により骨転移が抑制されることが明らかとなった。一方、副腎転移の頻度については抗体投与による影響は認められなかった。

これらの結果から、PTHrPが乳癌骨転移に関与しており、ヒト型化抗PTHrP抗体が乳癌の溶骨性骨転移を抑制することが示された。

2.癌悪液質におるPTHrPの与ヒト型化抗PTHrP抗の治療効果

癌悪液質は臨床上大きな問題となっている病態である。一方、これまでのHHMモデルを用いた検討から、HHMモデルで認められる体重減少が抗PTHrP抗体の投与によりほぼ完全に回復することが見出され、PTHrPが癌悪液質において重要な役割を果たしている可能性が示唆された。そこで、悪液質に対するPTHrPの関与とヒト型化抗PTHrP抗体の効果を検討した。マウス大腸癌株colon26をマウスの皮下に移植すると体重減少に代表される悪液質症状が認められるのに対し、同じcolon26細胞を肝臓に移植したマウスでは悪液質症状を示さない。従来より悪液質との関連が指摘されているIL-6の血中濃度は肝臓内移植マウスに比較して皮下移植マウスで高いことが報告されている。

まず、皮下移植マウスと肝臓内移植マウスにおける血中PTHrP濃度の比較を行った。colon26を皮下に移植すると移植後12日から体重が減少し始めるが、肝臓に移植したマウスでは移植後17日でも体重減少が認められない。血中PTHrP濃度を測定したところ、肝臓内移植マウスは移植後12日では検出限界以下、17目でも4.7pmol/Lであったのに対し、皮下移植マウスでは移植後12日で12pmol/L、17日には18pmol/Lと高値を示した。

次に、悪液質症状を示すcolon26皮下移植マウスを用いてヒト型化抗PTHrP抗体の効果を検討した。移植後17日の体重は、病態コントロール群で18.9gに対し抗体投与群では241gであった。血中カルシウム濃度は、病態コントロール群で15.6mg/dL、抗体の投与群では11.0mg/dLを示した。以上よりヒト型化抗体は、体重低下とカルシウムの上昇を抑制することが明らかとなった。一方、抗IL-6抗体は血中カルシウム濃度は改善せず体重減少を部分的に抑制したのみであった。

以上より、colon26皮下移植系の悪液質においてもPTHrPの関与が示唆され、ヒト型化抗PTHrP抗体の癌悪液質治療薬としての可能性が示された。

3.PTHrP発現誘導機構の解析

次にPTHrP発現誘導機序について検討を行った。Colon26移植モデルにおいて皮下移植した癌細胞と肝臓内移植した癌細胞とでは細胞周辺の微小環境が異なり、微小血管の密度は皮下に比較し肝臓のほうが高く皮下腫瘍は肝臓腫瘍よりも低酸素や低栄養の条件で成長している可能性が考えられた。そこで低酸素(1%酸素)や低グルコース条件での培養によりPTHrP産生が増大するか検討したところ、PTHrPの産生は低酸素、低グルコースのいずれの培養条件においても誘導されなかったが3次元のスフェロイド培養により産生量の増大が認められた。

PTHrP誘導のメカニズムをさらに探るために、遺伝子発現解析を実施した。その結果、肝臓内腫瘍に比較して皮下腫瘍で3倍以上の高い発現を示す69遺伝子と単層培養腫瘍に比較してスフェロイドで3倍以上の高い発現を示す311遺伝子が明らかとなり、そのうち20遺伝子が皮下腫瘍とスフェロイドの両方に共通して高い発現を示した。との中からプレリミナリーな検討を行った結果、COX-2がPTHrPの産生誘導に関与している結果が得られたためCOX-2についてさらに検討を進めた。COX-2阻害剤のNS-398を用いてスフェロイドにおけるPTHrP産生誘導への影響を検討したところ、細胞の増殖には影響を与えない1uMのNS-398によりPTHrPの産生誘導は完全に抑制された。さらにin vivoでも、皮下移植マウスにおいて40mg/kgのNS-398の投与により腫瘍の増殖が抑制されることなく血中PTHrP濃度が低下することが明らかとなった。以上の結果より、皮下移植マウスとスフェロイドにおけるPTHrPの産生誘導がCOX-2に媒介されていることが示唆された。

さらにCOX-2の上流の検討を進めた。PDGFは乳癌の骨転移巣で産生量が上昇しているという報告がありPTHrPの産生も骨転移巣で上昇することから、PTHrP産生誘導にPDGFが関与している可能性を検討した。PDGFはダイマー構造を持っことが知られているが、PDGFのB鎖のホモダイマーであるPDGF-BBは用量依存性にPTHrPの発現を誘導し、その誘導はNS-398により抑制された。また、血中PDGF-BB濃度が肝臓内移植マウスに比較し皮下移植マウスでは高いことを見出した。

以上、本研究において齋藤英美は、(1)癌に関連した2つの病態、乳癌骨転移と癌悪液質においてPTHrPが重要な役割を果たしていること、(2)ヒト型化抗PTHrP抗体の骨転移治療薬、悪液質治療薬として有用である可能性、(3)PTHrPの発現誘導にCOX-2が重要な役割を果たしていること、を示した。これらの研究は、がん転移や悪液質を制御する薬剤開発の報告性を示すものであり、博士(薬学)の授与に値する内容であると判断した。

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