学位論文要旨



No 216976
著者(漢字) 中村,裕子
著者(英字)
著者(カナ) ナカムラ,ヒロコ
標題(和) 半導体リソグラフィーにおける微細パターン形成プロセスの開発
標題(洋) Development of Low-k1 Lithography Process
報告番号 216976
報告番号 乙16976
学位授与日 2008.06.23
学位種別 論文博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 第16976号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岩澤,康裕
 東京大学 教授 長谷川,哲也
 東京大学 教授 大越,慎也
 東京大学 教授 斉木,幸一郎
 東京大学 准教授 佐々木,岳彦
内容要旨 要旨を表示する

半導体リソグラフィにおいては、微細パターンを広マージンで形成することが求められている。リソグラフィーの微細化は主として露光波長の短波長化と露光装置の高開口数(NA)化により達成されてきた。しかしこれだけではデバイスパターンの微細化に追随できない。さまざまな工程で微細化に対応した技術が開発されている。本論文では、位相シフトマスク修正方法の開発、寸法均一性向上を目的としたKrFレジストにおける現像メカニズムの解明、Resolution enhancement technique(RET)による微細コンタクトホール(C/H)パターン形成方法の開発を行い、微細化に対応した技術の開発を行った。これについて報告する。

位相シフトマスクはRET技術の1つである。露光光がフォトマスクを通過するか否かによりパターンを形成する従来のバイナリーマスクに代わって、露光光の位相情報を利用してより微細なパターンを形成するフォトマスクである。集束イオンビーム(FIB)は高分解能を有しており、位相シフトマスク修正ツールとして期待されていた。しかしFIBによる修正においては、加工領域を設定するためのイメージングや欠陥の除去により、ガリウム(Ga)イオンが打ち込まれてしまい、透過率が低下してしまう問題があった。透過率が低下すると、フォトマスクパターンをウエハ上に転写した際、これが欠陥となってしまう。画像処理によりイメージングに必要なドーズ量を減らすことで、透過率低下なく、欠陥を認識できるようになった。また、XeF2ガスを使ったFIBアシストエッチングにより、透過率低下なく欠陥除去が行えるようになった。さらにはハーフトーン型位相シフトマスクの白欠陥を修正するのに、FIBアシストデポジションにより堆積したカーボン膜を使用できることがわかった。これにより欠陥が原因で不良となってしまうフォトマスクを修正して良品とすることができ、フォトマスクの歩留まりを向上させることができた。

微細化に伴い、許容される寸法変動が小さくなる。このためウエハ面内の寸法ばらつきをいかに小さくするかは大きな課題である。寸法は主として露光工程、ポストエクスポージャーベーク(PEB)工程、現像工程で決まり、これらの工程が寸法均一性に影響を及ぼす。本論文では、寸法均一性向上を目的に、KrFレジストの現像工程において、寸法を決定する主要因が何であるかを調べた。

一つ目の要因は現像中の現像液のアルカリ濃度変化である。露光工程で酸発生剤から酸が発生し、これが触媒となって、PEB工程でレジストの保護基がはずれ、レジスト樹脂の主鎖に結合したフェノールやカルボン酸が発生する。現像はアルカリ現像液で行われる。現像中、露光領域ではフェノールやカルボン酸が中和されるため、その近傍では局所的に現像液のアルカリ濃度が低下し、現像速度が遅くなる。そのため現像されるパターン周辺のパターン密度が異なると、同じパターンであっても寸法が変わってしまう。パターン周囲のパターン密度が大きく異なるパターンにおいてスキャン現像法を行うと、ノズルのスキャン方向と逆方向に溶解生成物が移動するために、スキャン方向による寸法差として、現像液のアルカリ濃度変化の影響が観察された。また、現像液濃度に対する溶解速度の変化率が小さいレジストほど、ノズルのスキャン方向による寸法差が小さいという関係も観察された。

もう一つの要因は半溶解層である。露光領域において、現像中レジストと現像液の境界部分ではレジスト樹脂が不完全に溶解している層ができる。この層は現像途中で現像液を乾燥させると、パターン間やパターン側壁に残留物として観察される。リンス液である水で洗浄すると、この残留物は除去され、パターンが得られる。半溶解層が寸法に影響を与えている事例は、スピンオフ現像法で観察された。スピンオフ現像法では現像液パドル形成後、ウエハを一定時間回転させ、その後、静止現像を行う。ラインの疎密による光学像には大きな差はない条件ではあるが、ウエハ回転数を上げると、孤立ラインと密ラインの寸法差が大きくなり、ついには孤立ラインが消失してしまった。現像中半溶解層がパターンを覆っているが、ウエハを回転させることで除去され、特に孤立パターンではその除去率が高いためと考えられる。

この知見に基づき、現像装置の改良、パターン被覆率の補正、レジスト材料選定評価項目化といった対策がとられた。この結果、寸法均一性は向上した。

微細化は露光波長の短波長化により達成されてきた。しかし次の光源として目されている極端紫外(EUV)光を使ったEUVリソグラフィー、光源はアルゴンフロライド(ArF)エキシマレーザー光ではあるが、露光装置のプロジェクションレンズとレジストの間を高屈折率液体で満たしてNAが1.55以上になるようにした液浸リソグラフィーは、デバイス生産が予定されている時期には間に合わないであろうと予測されている。このため、EUVリソグラフィーや高屈折率液体を使ったArF液浸リソグラフィーが立ち上がるまでの間、ArFドライ露光装置または水による液浸露光装置とRET技術によりデバイス生産を行う必要が出てきた。

C/Hパターンはラインアンドスペース(L&S)パターンに比べてプロセスウィンドウが狭く、形成が難しいパターンである。特に、ランダムなC/Hパターンを形成することは難しい。本論文では、直行する2種類のL&Sパターンを積層し、両者ともにスペースとなる部分をC/HのホールとするDouble L&S Pattern Formation Method (DLFM)を検討した。

DLFMは他のC/Hパターン形成方法と比較すると、広いプロセスウィンドウを有することがシミュレーションにより示された。これは、二重極照明を使ってL&Sパターンを形成すると、高コントラストの光学像が得られることと、レジストパターンを2層に重ねていることで、両者の光学像が重ねあわされることがなく、各々のパターンを高コントラストで形成できることによる。

実験により、パターン形成を行ったところ、k1ファクター0.3以下のC/Hパターンを広いプロセスウィンドウで形成することができた。形成できたパターンの最小k1ファクターは0.27、ハーフピッチ56 nmであった。k1ファクター0.27はNA 1.3では40 nmのC/Hに、NA 1.55では33 nmのC/Hに、 NA 1.7では30 nmのC/Hに相当する。

このように高解像度を有するDLFMであるが、欠点はコストが高いことである。通常はレジストのパターニングは1回だが、DLFMではこれが2回になる。コストを低減する目的で、二重極照明を使って2枚のL&Sパターンを有するマスクを使用する代わりに、1枚のC/Hパターンを有するマスクを使うことを検討した。二重極照明では一方向の解像性能は高いが、これと直行する方向の解像性能が低い。これを利用してC/HパターンマスクでL&Sパターンを形成する方法である。ウエハ上にL&Sパターンを形成した場合、L&SマスクであってもC/Hマスクであってもプロセスウィンドウは実験、シミュレーションともに一致した。このようなL&Sパターンを組み合わせたDLFMによりC/Hパターンをウエハ上に形成したところ、やはり、L&SマスクとC/H マスクで、ほぼ、プロセスウィンドウは一致し、2枚のL&Sマスクの代わりに1枚のC/Hマスクを使ってDLFMが行えることがわかった。

グリッド上にのっているランダムなC/HパターンもDLFMとPack and Coverプロセスの組み合わせで形成できた。先に密なC/HパターンをDLFMで形成し、所望のC/Hのみ開口させるようにカバーレジストパターンを形成する。カバーレジストパターン形成後のレジストパターンはエッチングマスクとして使用できるだけの十分な膜厚を有していた。

DLFMにより形成されたレジストパターンをエッチングのマスクとして、k1ファクター0.29、ハーフピッチ65 nmで厚さ500 nmの酸化膜C/Hパターンを形成できた。

DLFMにより形成された酸化膜C/Hパターンは、従来の方法で形成されたC/Hパターンがトップダウンイメージでほぼ円形なのに対し、角ばっている。このことは接触面積を増加させる利点もあるが、金属がきれいに埋め込まれず、ボイドができてしまうおそれがある。しかしバリアメタル、シード銅(Cu)共に酸化膜C/H側壁を覆うように形成され、CuめっきによりC/Hを埋め込んだところ、ボイドの発生なく、きれいに埋め込まれていることがわかった。

上記の結果を考え合わせると、DLFMとPack and Coverプロセスを組み合わせることで、k1ファクター0.3以下の、金属で埋め込まれたランダムなC/Hパターンを形成することも期待できる。さらに、EUVリソグラフィーや高屈折率液浸リソグラフィーが立ち上がるまでの露光装置のない時期をArFドライ露光装置または水による液浸露光装置とDLFMでしのげる可能性が出てきた。

このようにして、微細パターンを広マージンで形成するという半導体リソグラフィーの目的に寄与することができた。

審査要旨 要旨を表示する

半導体リソグラフィにおいては、微細パターンを広マージンで形成することが求められている。リソグラフィーの微細化は主として露光波長の短波長化と露光装置の高開口数化により達成されてきた。しかし、これだけではデバイスパターンの微細化に追随できないことから、さまざまな工程で微細化に対応した技術が開発されている。本論文では、位相シフトマスク修正方法の開発、寸法均一性向上を目的としたKrFレジストにおける現像メカニズムの解明、分解能増強法(RET)による微細コンタクトホール(C/H)パターン形成方法の開発を行い、微細化に対応したメカニズムの解明と技術の開発についてまとめたものである。本論文は6章よりなる。

第1章は、本論文のイントロダクションであり目的と背景を述べている。

第2章は、本論文で使用した実験装置および手法について述べている。

第3章は、 集束イオンビーム(FIB)によるフォトマスク修復について述べている。露光光がフォトマスクを通過するか否かによりパターンを形成する従来のバイナリーマスクに代わって、最近では、露光光の位相情報を利用してより微細なパターンを形成する位相シフトマスク(RET技術の1つ)が用いられる。FIBは高分解能を有しており、位相シフトマスク修正ツールとして期待されていたが、加工領域を設定するためのイメージングや欠陥の除去によりGaイオンが打ち込まれてしまい、透過率が低下してしまう問題があった。画像処理によるドーズ量減少、XeF2ガスを使ったFIBアシストエッチング、FIBアシストデポジションにより堆積したカーボン膜の使用等により、透過率低下なく欠陥除去が行えることを見出し、フォトマスク修復法を開発した。

第4章では、寸法均一性向上を目的に、KrFレジストの現像工程において、寸法を決定する主要因が何であるかを明らかにしている。要因の一つは現像中の現像液のアルカリ濃度変化であり、露光工程で酸発生剤から酸が発生し、これが触媒となって、ポストエクスポージャー(PEB)工程でレジストの保護基がはずれ、レジスト樹脂の主鎖に結合したフェノールやカルボン酸が発生し、パターン密度が変わり、同じパターンであっても寸法が変わってしまう。他の

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要因は、露光領域において、現像中レジストと現像液の境界部分での半溶解層形成であって、半溶解層が寸法に影響を与えていることをスピンオフ現像法で実証した。これらの知見に基づき、現在の実行程で、現像装置の改良、パターン被覆率の補正、レジスト材料選定評価項目化といった対策がとら れるようになり寸法均一性が向上していることは本論文提出者の貢献が大である。

第5章では、直行する2種類のラインアンドスペース(L&S)パターンを積層し、両者ともにスペースとなる部分をC/Hのホールとする新しい2重L&S パターン形成法 (DLFM)に関する研究成果をまとめている。DLFMは他のC/Hパターン形成方法と比較すると、広いプロセスウィンドウを有することがシミュレーションにより示された。そして実験により、k1ファクター0.3以下のC/Hパターンを広いプロセスウィンドウで形成できることを示した。さらに、コストを低減する目的で、二重極照明を使って2枚のL&Sパターンを有するマスクを使用する代わりに、1枚のC/Hパターンを有するマスクを使うことを検討した。その結果、L&SマスクとC/H マスクでほぼプロセスウィンドウは一致し、2枚のL&Sマスクの代わりに1枚のC/Hマスクを使ってDLFMが行えることが分った。これらの結果は、極紫外光リソグラフィーや高屈折率液浸リソグラフィーが立ち上がるまでの露光装置のない時期を、ArFドライ露光装置または水による液浸露光装置とDLFMでしのげる可能性を示すものである。

第6章は、本論文全体の結論を述べている。

以上、本論文提出者は、集束イオンビーム(FIB)によるフォトマスク修復法、KrFレジストの現像工程における寸法均一性向上要因、2重L&S パターン形成法(DLFM)を解析、開発した。これらの成果は物理化学に貢献するところ大である。なお、本論文の研究は、本論文提出者が主体となって考え実験を行い解析したもので、本論文提出者の寄与が極めて大きいと判断する。

従って、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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