学位論文要旨



No 216987
著者(漢字) 水谷,誠
著者(英字)
著者(カナ) ミズタニ,マコト
標題(和) 港湾の整備・管理制度の国際比較に関する研究 : 世界の主要港湾のコンテナターミナルを事例として
標題(洋)
報告番号 216987
報告番号 乙16987
学位授与日 2008.07.10
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16987号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 家田,仁
 東京大学 教授 吉田,恒昭
 東京大学 教授 大和,裕幸
 東京大学 准教授 堀田,昌英
 東京大学 准教授 清水,哲夫
内容要旨 要旨を表示する

本研究の目的は、わが国の主要な港湾を含む、世界の代表的な国際貿易港の整備・管理制度を同一の視点、基準から比較分析、評価を行うことによって、世界の主要な港湾の整備・管理制度の特徴を明らかにするとともに、その違いの要因を分析することである。このため、国際貿易において重要な役割を果たしている世界の23港(以下、主要港湾)を対象として、港湾が本来の機能を適切に発揮するためになくてはならない基礎的な施設である主要港湾施設(係留施設、外郭施設、水域施設、及びスーパーストラクチャー)の整備制度と、港湾が本来の機能を適切に発揮することに対して特に重大な影響を及ぼすコンテナターミナルの運営制度について、主要港湾ごとに国際比較を行った。比較にあたっては、主要港湾におけるこれらの制度を類型化し、類型ごとに分析・評価し、考察を加えた。主な結論は以下の通りである。

1.港湾管理者の組織の分析

港湾管理者の社会的な役割を把握するため、港湾管理者の組織の法主体分類を基に、港湾管理者の組織の目的を分析した。その結果、港湾管理者の組織の目的は、国益の追求、国益と地方公益の追求、地方公益の追求、営利の追求の4つに大きく分けられ、国益を追求する港湾管理者、及び地方公益を追求する港湾管理者の数が圧倒的に多いことがわかった。地域別には、日本を除くアジアの主要港湾は国益の追求を目的とする港湾管理者、ヨーロッパ大陸(フランスを除く)、アメリカ、日本の主要港湾は地方公益の追求を目的とする港湾管理者、フランスの主要港湾は国益と地方公益の双方の追求を目的とする港湾管理者、英国の主要港湾は営利の追求を目的とする港湾管理者が多かった。

港湾管理者の業務の効率性、組織の安定性等を判断するため、港湾管理者の所掌業務の専門性と財務的な自立性から、港湾管理者の組織の独立性を分析した。その結果、独立性が非常に強い港湾管理者、外部からの財政支援を受けているものの所掌業務の専門性から独立性が強いと判断される港湾管理者が多いことがわかった。地域別には、ヨーロッパとアメリカの主要港湾の港湾管理者は一般に独立性が強く、アジアの主要港湾では、独立性の弱い港湾管理者が多かった。

2.港湾整備制度の分析

港湾管理者が係留施設、外郭施設、水域施設のうちどの施設を整備するかという視点から、港湾整備における港湾管理者の役割を分類した。その結果、フルセット整備型、係留施設整備型、水域整備・係留施設委託型、係留施設委託型、フルセット委託型、水域整備型6つのタイプに分類できることがわかった。また、これらのタイプを主要港湾に適用すると、フルセット整備型、係留施設整備型の港湾が多く、両タイプが世界の主要港湾では一般的であった。一方、係留施設委託型及びフルセット委託型は該当する港湾がなかった。すなわち、港湾管理者がいずれの施設をも整備しない港湾は存在せず、どの主要港湾でも港湾管理者等は何らかの施設整備をしていることがわかった。

港湾整備に対する財政支援の有無及びその方法を分析した。その結果、港湾管理者が財政支援を受けずに全ての主要港湾施設を整備している主要港湾は世界では稀少であることがわかった。また、多くの主要港湾で港湾管理者等に対する財政支援が実施されており、港湾管理者が当該港湾の港湾管理者業務以外の業務も合わせて一括経理することにより他業務からの収益によって主要港湾施設の整備費用を実質的に負担させている方法、港湾管理者が実施する主要港湾施設の整備費用に対して行政機関がその一部ないし全部を負担している方法、港湾管理者以外の者が主要港湾施設の一部を自ら整備することにより港湾管理者に対して実質的に財政支援をしている方法が見られた。他方、港湾管理者が主要港湾施設を整備せず、民間事業者による整備に期待している主要港湾も世界では必ずしもまれではないことがわかった。

3.港湾整備制度の評価

主要港湾の港湾整備制度の特徴を明確化するため、港湾管理者の組織の4つの目的と、港湾整備における港湾管理者等の役割の6つのタイプを用いて、港湾整備制度を類型化した。その結果、港湾整備制度は、国フルセット型、国と地方フルセット型、地方フルセット型、地方係留施設型、委託型、民間型の6つの類型に類型化することができた。

港湾整備制度の類型、港湾整備に対する財政支援、及び港湾管理者の組織の独立性を主要港湾に適用し、各主要港湾の制度の特徴と、それぞれの制度を採用している理由を考察した。その結果、主要港湾の各制度は、各国、各地域、各主要港湾の特有の歴史や社会経済状状況によって影響を受けていること、また地域によって大きな類似性があることがわかった。

主要港湾の港湾整備制度を、6つの類型ごとに、国の意思の反映、手続きの迅速性、資金調達の容易性、コスト縮減圧力、公費負担の寡少性の5つの評価項目から評価した。その結果、国フルセット型のアジアの主要港湾、地方係留施設型のヨーロッパ大陸及びアメリカの主要港湾、国と地方フルセット型のフランスの主要港湾は、比較的課題の少ない整備制度であることがわかった。

4.コンテナターミナルの運営制度の分析

コンテナターミナルの運営主体と運営方法、及び官民の役割分担から、コンテナターミナルの運営制度を類型化した。その結果、コンテナターミナルの運営制度は、Service型、Tool II型、Tool I型、Landlord型、Concession型、Private型、Private Service型の7つの類型に類型化することができた。

コンテナターミナルの運営制度の各類型を、運営の効率性、運営主体の財務負担の小ささ、運営の自主性、運営市場の開放性、運営の安定性、運営収益の港湾管理者等への還元の6つの評価項目から評価した。その結果、Landlord型が大きな課題のない運営制度であることがわかった。

コンテナターミナルの運営制度の類型を主要港湾の各コンテナターミナルに適用し、各主要港湾におけるコンテナターミナルの運営制度の変遷等も加味し、主要港湾のコンテナターミナルの運営制度をパターンに分類した。その結果、主要港湾のコンテナターミナルの運営制度は、Service基本型、Landlord指向型、Landlord型、Concession併用型、Concession型、Private型、Private Service型の7つのパターンに分類されることがわかった。

5.港湾整備制度とコンテナターミナルの運営制度の総合評価

各主要港湾に、港湾整備制度の類型とコンテナターミナルの運営制度のパターンを組み合わせて適用し、主要港湾の港湾整備制度とコンテナターミナルの運営制度を総合的に評価した。その結果、世界の主要港湾の港湾整備制度とコンテナターミナルの運営制度は、地域別に5つのタイプにとりまとめられることがわかった。

6.結論

(1)ヨーロッパ大陸及びアメリカの主要港湾は、独立性の強い港湾管理者、公的機関からの財政支援、Landlord型あるいはLandlord指向型の運営制度という特徴を有し、先進国の整備・運営制度として課題の少ない制度となっている。

(2)英国の主要港湾は、コンテナターミナルの施設の整備から管理運営までを民間事業者が実施するという独特な制度を採用している。効率の良い整備、運営が可能であるが、他方、公的資金を投入して整備される近隣のヨーロッパ大陸の主要港湾と比べ、コスト面で不利になったり、長期的安定的な運営の確保という点でリスクを負う。

(3)日本の主要港湾は、地方公共団体が自ら港湾管理者となり、国とともに主要港湾施設を整備するという、独特の地方フルセット型の整備制度を有する。港湾整備のための公的資金の確実な調達の確保が可能であるが、国の意思の反映、整備の迅速性、コスト縮減に課題がある。

(4)アジアの主要港湾のうち、釜山港、高雄港、上海港、レムチャバン港では、コンテナ貨物需要の急速な増大に対応するため、国フルセット型で施設整備を行うとともに、港湾管理者の組織の改変や、委託型、Concession型の導入など、積極的に制度改革を行っている。成長著しい主要港湾として概ね妥当な方法を取り入れたといえる。

(5)アジアの主要港湾のうち、香港港、塩田港、シンガポール港、クラン港では、当初から、あるいは開発途中から民間資本を全面的に活用する方法を導入している。この方法では、国の意思の反映、運営の長期的安定性、運営収益の還元、独占の弊害等の課題が顕在化しないよう、地域の実情に適合した制度設計の工夫が必要である。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、わが国の主要な港湾を含む、世界の代表的な国際貿易港の整備・管理制度を同一の視点、基準から比較分析することによって、世界の主要な港湾の整備・管理制度の特徴とその歴史的変遷の過程を明らかにしたものである。このため、国際貿易において重要な役割を果たしている世界の23港(以下、主要港湾)を対象として、港湾が本来の機能を適切に発揮するためになくてはならない基礎的な施設である主要港湾施設(係留施設、外郭施設、水域施設、及びスーパーストラクチャー)の整備制度と、港湾が本来の機能を適切に発揮することに対して特に重大な影響を及ぼすコンテナターミナルの運営制度について、主要港湾ごとに国際比較を行い、諸港湾を制度体系の面から類型化し、その歴史的変遷の過程とその変遷の要因を分析したものである。

1.港湾管理者の組織の分析

港湾管理者の社会的な役割を把握するため、港湾管理者の組織の法主体分類を基に、港湾管理者の組織の目的を分析した。その結果、港湾管理者の組織の目的は、国益の追求、国益と地方公益の追求、地方公益の追求、営利の追求の4つに大きく分けられ、国益を追求する港湾管理者、及び地方公益を追求する港湾管理者の数が圧倒的に多いことがわかった。地域別には、日本を除くアジアの主要港湾は国益の追求を目的とする港湾管理者、ヨーロッパ大陸(フランスを除く)、アメリカ、日本の主要港湾は地方公益の追求を目的とする港湾管理者、フランスの主要港湾は国益と地方公益の双方の追求を目的とする港湾管理者、英国の主要港湾は営利の追求を目的とする港湾管理者が多かった。

港湾管理者の業務の効率性、組織の安定性等を判断するため、港湾管理者の所掌業務の専門性と財務的な自立性から、港湾管理者の組織の独立性を分析した。その結果、独立性が非常に強い港湾管理者、外部からの財政支援を受けているものの所掌業務の専門性から独立性が強いと判断される港湾管理者が多いことがわかった。地域別には、ヨーロッパとアメリカの主要港湾の港湾管理者は一般に独立性が強く、アジアの主要港湾では、独立性の弱い港湾管理者が多かった。

2.港湾整備制度の分析

港湾管理者が係留施設、外郭施設、水域施設のうちどの施設を整備するかという視点から、港湾整備における港湾管理者の役割を分類した。その結果、フルセット整備型、係留施設整備型、水域整備・係留施設委託型、係留施設委託型、フルセット委託型、水域整備型6つのタイプに分類できることがわかった。また、これらのタイプを主要港湾に適用すると、フルセット整備型、係留施設整備型の港湾が多く、両タイプが世界の主要港湾では一般的であった。一方、係留施設委託型及びフルセット委託型は該当する港湾がなかった。すなわち、港湾管理者がいずれの施設をも整備しない港湾は存在せず、どの主要港湾でも港湾管理者等は何らかの施設整備をしていることがわかった。

港湾整備に対する財政支援の有無及びその方法を分析した。その結果、港湾管理者が財政支援を受けずに全ての主要港湾施設を整備している主要港湾は世界では稀少であることがわかった。また、多くの主要港湾で港湾管理者等に対する財政支援が実施されており、港湾管理者が当該港湾の港湾管理者業務以外の業務も合わせて一括経理することにより他業務からの収益によって主要港湾施設の整備費用を実質的に負担させている方法、港湾管理者が実施する主要港湾施設の整備費用に対して行政機関がその一部ないし全部を負担している方法、港湾管理者以外の者が主要港湾施設の一部を自ら整備することにより港湾管理者に対して実質的に財政支援をしている方法が見られた。他方、港湾管理者が主要港湾施設を整備せず、民間事業者による整備に期待している主要港湾も世界では必ずしもまれではないことがわかった。

3.港湾整備制度の評価

主要港湾の港湾整備制度の特徴を明確化するため、港湾管理者の組織の4つの目的と、港湾整備における港湾管理者等の役割の6つのタイプを用いて、港湾整備制度を類型化した。その結果、港湾整備制度は、国フルセット型、国と地方フルセット型、地方フルセット型、地方係留施設型、委託型、民間型の6つの類型に類型化することができた。

港湾整備制度の類型、港湾整備に対する財政支援、及び港湾管理者の組織の独立性を主要港湾に適用し、各主要港湾の制度の特徴と、それぞれの制度を採用している理由を考察した。その結果、主要港湾の各制度は、各国、各地域、各主要港湾の特有の歴史や社会経済状状況によって影響を受けていること、また地域によって大きな類似性があることがわかった。

主要港湾の港湾整備制度を、6つの類型ごとに、国の意思の反映、手続きの迅速性、資金調達の容易性、コスト縮減圧力、公費負担の寡少性の5つの評価項目から評価した。その結果、国フルセット型のアジアの主要港湾、地方係留施設型のヨーロッパ大陸及びアメリカの主要港湾、国と地方フルセット型のフランスの主要港湾は、比較的課題の少ない整備制度であることがわかった。

4.コンテナターミナルの運営制度の分析

コンテナターミナルの運営主体と運営方法、及び官民の役割分担から、コンテナターミナルの運営制度を類型化した。その結果、コンテナターミナルの運営制度は、Service型、Tool II型、Tool I型、Landlord型、Concession型、Private型、Private Service型の7つの類型に類型化することができた。

コンテナターミナルの運営制度の各類型を、運営の効率性、運営主体の財務負担の小ささ、運営の自主性、運営市場の開放性、運営の安定性、運営収益の港湾管理者等への還元の6つの評価項目から評価した。その結果、Landlord型が大きな課題のない運営制度であることがわかった。

コンテナターミナルの運営制度の類型を主要港湾の各コンテナターミナルに適用し、各主要港湾におけるコンテナターミナルの運営制度の変遷等も加味し、主要港湾のコンテナターミナルの運営制度をパターンに分類した。その結果、主要港湾のコンテナターミナルの運営制度は、Service基本型、Landlord指向型、Landlord型、Concession併用型、Concession型、Private型、Private Service型の7つのパターンに分類されることがわかった。

以上の結果は、港湾の計画上・設計上極めて有用性の高いものであり、また、その変遷過程の類型性や歴史的合理性(傾向)に関する考察は極めて示唆に富んだもので港湾政策の遂行上も意義の大きなものとなっている。

以上より、本論文は博士(工学)の学位請求論文として十分な成果をもたらしたものであり、合格と認められる。

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