学位論文要旨



No 216991
著者(漢字) 浅川,鋼児
著者(英字)
著者(カナ) アサカワ,コウジ
標題(和) ナノエレクトロニクスを実現するためのトップダウンとボトムアップを用いたナノスケール高分子材料とプロセス
標題(洋) Nano-scale Polymeric Materials and Processes using Top-down and Bottom-up Methods for Nano-Electronics
報告番号 216991
報告番号 乙16991
学位授与日 2008.07.10
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第16991号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大久保,達也
 東京大学 教授 堂免,一成
 東京大学 教授 山口,由岐夫
 東京大学 特任教授 岡田,文雄
 東京大学 准教授 高井,まどか
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、ナノメータースケールの電子部品の作製に必要な加工法において、トップダウン手法であるリソグラフィー材料と、ボトムアップ手法である高分子の自己組織化材料を開発し、それらの融合を検討したものである。更に開発された材料、手法を用いて、半導体、ハードディスク、LED、配線基板などの試作を行っており、9章から構成されている。

第1章は緒論であり、微細加工の歴史、材料の変遷ならびに研究目的が述べられている。本論文では、トップダウン技術であるリソグラフィーに用いられるレジストの開発について述べたのち、ボトムアップである自己組織化を利用したナノ加工について論じている。

第2章では、ArFエキシマレーザー(λ=193nm)用レジストの開発が記述されている。ArF光はベンゼン環のπ共役結合に吸収されるため、ベンゼン環を用いない樹脂開発が求められていた。深紫外光に透過性のある脂肪族環状炭化水素が耐ドライエッチング性材料として代替されてきたが、疎水性が強く解像力が十分ではなかったことが述べられている。そこで、1つのモノマーに、親水性基、溶解抑止基、耐ドライエッチング性を組み込むことで、高解像性と耐ドライエッチング性を兼ね備えたレジストの開発に成功したことが述べられている。

第3章では化学増幅型レジストの反応機構の解析を、酸の拡散を中心に行っている。レジスト中の酸の定量的な拡散測定法を考案し、化学増幅型レジスト中での酸拡散の温度、時間、距離依存性が測定されている。高分子の自由体積理論を用いて残留溶媒の酸の拡散長への影響を定量的に明らかにしている。化学増幅型レジストで大きな問題であった露光後のレジストパターンの経時変化を解決する方法として、アミン添加が検討されていたが、本論文ではアミン強度の違いによる酸の拡散長の定量的な解析を行い、解像性能への影響を明らかにしている。

第4章では、ブロックコポリマーのミクロ相分離(分子内相分離)の自己組織化過程を利用し、10nm~1μm程度のパターンを簡便に形成する方法を開発している。ブロックコポリマーの構成ポリマー間で炭素と酸素の含有率が違うと、耐ドライエッチング性が違うことに着目し、反応性イオンエッチング(RIE)のみでブロックコポリマーの相分離パターンを半導体基板などに転写できることを見出している。本論文に記述されている手法の開発により、ブロックコポリマーを用いたリソグラフィーの電子デバイス応用への道を拓くことに成功した。

第5章ではブロックコポリマーの立体規則構造を損なわずに、電子線照射により片方の相のみを選択的に除去する方法の開発について述べられている。ここで使われた電子線は、医療品の殺菌などに使われるもので、非常に安価にナノ立体構造を得ることができるようになったことが報告されている。

第6章では、ブロックコポリマーを利用したハードディスク記録媒体作製のデモンストレーションを行っている。自己組織化パターンを任意の場所に発生させるための枠組みとして、ナノインプリント法を用いて数百nm程度の溝を作り、その中にポリマーの自己組織化で数十nm程度の超微細な規則パターンを発生させている。さらにこのパターンを鋳型にして磁性媒体を加工し、世界初となる2.5インチHDD用パターンドメディアの作製に成功している。

第7章ではブロックコポリマーリソグラフィーの高輝度LEDへの適応について記述している。発光素子の表面にナノメーターレベルの凹凸を付けることで、反射防止構造や回折格子を作製し光を多く取り出すことができることを示している。LED用基板表面にブロックコポリマーを用いたナノ凹凸加工を行った結果、光取り出し効率を1.8倍に引き上げることに成功している。

第8章では、配線とビアを一度の露光プロセスで作製する技術の開発と、この方法を用いて作製されたプリント配線基板のデモンストレーションをおこなっている。ナノ多孔体に感光剤を塗布し、紫外線を照射し鍍金を施すことにより、ナノ多孔体内部に金属配線を作製することができる。このとき、微細な孔の集合体で配線を作製し、ビアは白抜きパターンで作製すると、ビアと配線の同時形成が可能であることを示している。

第9章は、結論であり、本研究で得られた結果を総括し、トップダウンとボトムアップの融合の方向性を示している。

審査要旨 要旨を表示する

「Nano-scale Polymeric Materials and Processes using Top-down and Bottom-up Methods for Nano-Electronics (ナノエレクトロニクスを実現するためのトップダウンとボトムアップを用いたナノスケール高分子材料とプロセス)」と題した本論文は、ナノメータースケールの電子部品の作製に必要な加工法において、トップダウン手法であるリソグラフィー材料と、ボトムアップ手法である高分子の自己組織化材料を開発し、それらの融合を検討したものである。更に開発された材料、手法を用いて、半導体、ハードディスク、LED、配線基板などの試作を行っており、9章から構成されている。

第1章は緒論であり、微細加工の歴史、材料の変遷ならびに研究目的が述べられている。本論文では、トップダウン技術であるリソグラフィーに用いられるレジストの開発について述べたのち、ボトムアップである自己組織化を利用したナノ加工について論じている。

第2章では、ArFエキシマレーザー(λ=193nm)用レジストの開発が記述されている。ArF光はベンゼン環のπ共役結合に吸収されるため、ベンゼン環を用いない樹脂開発が求められていた。深紫外光に透過性のある脂肪族環状炭化水素が耐ドライエッチング性材料として代替されてきたが、疎水性が強く解像力が十分ではなかったことが述べられている。そこで、1つのモノマーに、親水性基、溶解抑止基、耐ドライエッチング性を組み込むことで、高解像性と耐ドライエッチング性を兼ね備えたレジストの開発に成功したことが述べられている。

第3章では化学増幅型レジストの反応機構の解析を、酸の拡散を中心に行っている。レジスト中の酸の定量的な拡散測定法を考案し、化学増幅型レジスト中での酸拡散の温度、時間、距離依存性が測定されている。高分子の自由体積理論を用いて残留溶媒の酸の拡散長への影響を定量的に明らかにしている。化学増幅型レジストで大きな問題であった露光後のレジストパターンの経時変化を解決する方法として、アミン添加が検討されていたが、本論文ではアミン強度の違いによる酸の拡散長の定量的な解析を行い、解像性能への影響を明らかにしている。

第4章では、ブロックコポリマーのミクロ相分離(分子内相分離)の自己組織化過程を利用し、10nm~1μm程度のパターンを簡便に形成する方法を開発している。ブロックコポリマーの構成ポリマー間で炭素と酸素の含有率が違うと、耐ドライエッチング性が違うことに着目し、反応性イオンエッチング(RIE)のみでブロックコポリマーの相分離パターンを半導体基板などに転写できることを見出している。本論文に記述されている手法の開発により、ブロックコポリマーを用いたリソグラフィーの電子デバイス応用への道を拓くことに成功した。

第5章ではブロックコポリマーの立体規則構造を損なわずに、電子線照射により片方の相のみを選択的に除去する方法の開発について述べられている。ここで使われた電子線は、医療品の殺菌などに使われるもので、非常に安価にナノ立体構造を得ることができるようになったことが報告されている。

第6章では、ブロックコポリマーを利用したハードディスク記録媒体作製のデモンストレーションを行っている。自己組織化パターンを任意の場所に発生させるための枠組みとして、ナノインプリント法を用いて数百nm程度の溝を作り、その中にポリマーの自己組織化で数十nm程度の超微細な規則パターンを発生させている。さらにこのパターンを鋳型にして磁性媒体を加工し、世界初となる2.5インチHDD用パターンドメディアの作製に成功している。

第7章ではブロックコポリマーリソグラフィーの高輝度LEDへの適応について記述している。発光素子の表面にナノメーターレベルの凹凸を付けることで、反射防止構造や回折格子を作製し光を多く取り出すことができることを示している。LED用基板表面にブロックコポリマーを用いたナノ凹凸加工を行った結果、光取り出し効率を1.8倍に引き上げることに成功している。

第8章では、配線とビアを一度の露光プロセスで作製する技術の開発と、この方法を用いて作製されたプリント配線基板のデモンストレーションをおこなっている。ナノ多孔体に感光剤を塗布し、紫外線を照射し鍍金を施すことにより、ナノ多孔体内部に金属配線を作製することができる。このとき、微細な孔の集合体で配線を作製し、ビアは白抜きパターンで作製すると、ビアと配線の同時形成が可能であることを示している。

第9章は、結論であり、本研究で得られた結果を総括し、トップダウンとボトムアップの融合の方向性を示している。

本論文はシステム工学的な考え方に基づき、超微細加工に用いる材料開発を熱力学的な観点から考察し、材料とプロセスの開発につなげている点は化学システム工学への貢献が大きいものと言える。また、新しい方法論によりデバイス試作まで行なっている点は材料工学への貢献が大きいものと考えられる。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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