No | 217010 | |
著者(漢字) | 関,悠介 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | セキ,ユウスケ | |
標題(和) | SQUIDグラジオメータと簡易磁気シールドを用いた心磁計システムの開発 | |
標題(洋) | Development of Magnetocardiography System using SQUID Gradiometers and Simple Magnetic Shield | |
報告番号 | 217010 | |
報告番号 | 乙17010 | |
学位授与日 | 2008.09.18 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第17010号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 心磁計は,心臓から発生する微弱な磁場を測定することにより,心臓の電気的活動を非侵襲かつ非接触に診断する装置である。心磁計は,心臓の電気的活動を計測するという点で心電計と同様であるが,磁場を計測するという点で,体表面の電位を計測する心電計とは異なる。心磁計の特長は,非侵襲性に加えて,優れた空間分解能と胎児心臓の電気的活動が測定可能である点にある。これらの特長は,人体の透磁率が組織に依らず空気の透磁率とほぼ等しいことに起因する。これまでに,心磁計の有効性を実証する臨床データが世界中で数多く報告され,心磁計に対するニーズは増加傾向にある。 心臓から発生する磁場の強度は数10 pT以下であるため,心磁図計測は通常SQUID(Superconducting Quantum Interference Device: 超伝導量子干渉素子)グラジオメータを用いて磁気シールドルーム内で行われる。心磁計に利用される磁気シールドルームは,1辺が数m程度の箱形のタイプが一般的であり,透磁率の高いパーマロイと電気伝導率の高いアルミニウムから構成される。このタイプの磁気シールドルームは,磁気シールド率が50 dB以上と高性能であり,安定した計測環境を実現するが,一方で,その大きさや費用が病院導入への障壁となっている。そのため,心磁計システムの大きさや費用を抑えるために磁気シールドの簡易化が求められている。このような背景から,本研究では,SQUIDグラジオメータと簡易磁気シールドを用いた心磁計システムを開発し,その有効性を実証することを目的とする。 第1に,円筒型磁気シールドと64個の同軸1次微分型low-Tc SQUIDグラジオメータを用いたオープン心磁計システムを開発した(第2章)。円筒型磁気シールドは,従来型の磁気シールドルームに比べて5分の1以下の大きさで,回転扉によって円筒側面からシールド内にアクセス可能な構造とした。磁気シールド率の周波数依存性及び空間分布を計測した結果,磁気シールド中心付近における磁気シールド率は50 Hz以下の周波数帯域において46 dB以上であった。また,開発したオープン心磁計システムを用いて心磁図計測を行い,P波のピークを明瞭に検出し,電流分布図も正確に表示することを確認した。 更に,オープン心磁計システムを更に小型化するために,超伝導リングを用いて磁気シールド開口端からの磁場侵入を低減する方法を検討した(第3章)。超伝導リングは高温超伝導テープ線材Bi2Sr2Ca2Cu3Oxを用いて作製し,円筒型磁気シールドはナノ結晶軟磁性シートを用いて作製した。この円筒型磁気シールドに対して超伝導リングの効果について評価実験を行い,超伝導リングが円筒型磁気シールドの小型化に有効であることを明らかにした。 第2に,磁気シールドレス心磁計システムの開発を目的として,2方向の磁場勾配を検出する2次元グラジオメータの検討を行った(第4章)。具体的には,コイル軸方向に2次微分され,かつコイル面内で1次微分された磁場勾配を検出する(2+1)次微分型検出コイルとlow-Tc SQUID を用いて2次元グラジオメータを作製し,その特性を評価した。作製した2次元グラジオメータの感度は53 fT/√Hzであり,計算値とよく一致した。また,2次元グラジオメータによる環境磁場の低減率は54 dBであった。更に,この2次元グラジオメータを用いて,磁気シールドレス環境において成人の心磁図波形をリアルタイムに検出した。また,SQUIDグラジオメータと磁気シールドの最適化について議論した。 次に,胎児の心磁図及び心拍数をモニタリングすることを目的として,2個の2次元グラジオメータを用いて磁気シールドレス胎児心磁計システムを開発した(第5章)。病院の磁気シールドレス環境において,開発した心磁計システムを用いて胎児の心磁図を計測した結果,25週の胎児の心磁図波形をリアルタイムに検出した。更に,加算平均処理によって心磁図波形のP波(25週)やT波(34週)も検出した。 最後に,心磁図検査を動物実験に適用することを目的として,64個の同軸1次微分型low-Tc SQUIDグラジオメータと小型磁気シールドルームを用いた動物用心磁計システムを開発した(第6章)。更に,カニクイザルの心磁図パラメータの正常値を得ることを目的として,開発した心磁計システムを用いて雄44頭,雌51頭の計95頭の正常なカニクイザルの心磁図を測定した。その結果,PQ時間,QRS幅,QT時間,及びQTcの平均値はそれぞれ,79 ± 14 ms,42 ± 7 ms,222 ± 23 ms,及び363 ± 25(mean ± SD)であり,雌雄間で有意差は見られなかった。 | |
審査要旨 | 本論文は,心磁計システムの小型化および低コスト化を目的として,超伝導量子干渉素子(SQUID)を用いたグラジオメータと簡易磁気シールドを用いた心磁計システムについて報告している。 第1章では,導入として心磁計の背景が述べられている。心磁計は,心臓から発生する微弱な磁場を計測することにより,心臓の電気的活動を非侵襲かつ非接触に診断する装置である。心臓から発生する磁場の強度は数10 pT以下であるため,心磁図計測は通常SQUID(Superconducting Quantum Interference Device: 超伝導量子干渉素子)グラジオメータを用いて磁気シールドルーム内で行われる。従来型の磁気シールドルームは高性能で安定した計測環境を実現するが,一方で,その大きさや費用が病院導入への障壁となっている。そのため,心磁計システムの大きさや費用を抑えるために磁気シールドの簡易化が求められている。このような背景から,本研究は,SQUIDグラジオメータと簡易磁気シールドを用いた心磁計システムを開発し,その有効性を実証することを目的としている。 第2章では,円筒型磁気シールドと64個の同軸1次微分型low-Tc SQUIDグラジオメータを用いたオープン心磁計システムについて述べられている。円筒型磁気シールドは,従来型の磁気シールドルームに比べて5分の1以下の大きさで,回転扉によって円筒側面からシールド内にアクセス可能な構造に設計された。磁気シールド率の周波数依存性および空間分布が計測され,磁気シールド中心付近における磁気シールド率は50 Hz以下の周波数帯域において46 dB以上であった。また,オープン心磁計システムを用いて心磁図計測を行い,P波のピークを明瞭に検出し,電流分布図も正確に表示することが確認された。これらの実験結果により,オープン心磁計システムが十分な性能を持つことが実証された。 第3章では,超伝導リングを用いたハイブリッド磁気シールドについて述べられている。具体的には,オープン心磁計システムをさらに小型化するために,超伝導リングを用いて磁気シールド開口端からの磁場侵入を低減する方法が検討された。超伝導リングは高温超伝導テープ線材Bi2Sr2Ca2Cu3Oxで作製され,円筒型磁気シールドはナノ結晶軟磁性シートを用いて作製された。この円筒型磁気シールドに対する超伝導リングの効果が実験的に評価され、超伝導リングが円筒型磁気シールドの小型化に有効であることが明らかにされた。 第4章では,2方向の磁場勾配を検出する2次元グラジオメータについて述べられている。具体的には,コイル軸方向に2次微分され,かつコイル面内で1次微分された磁場勾配を検出する検出コイルとlow-Tc SQUID を用いて2次元グラジオメータが作製され,その特性が評価された。作製された2次元グラジオメータの感度は53 fT/√Hzであり,計算値とよく一致した。また,2次元グラジオメータによる環境磁場の低減率は54 dBであった。さらに,この2次元グラジオメータを用いて,磁気シールドレス環境において成人の心磁図波形がリアルタイムで検出された。この結果は,2次元グラジオメータが磁気シールドレス計測に有効であることを示している。また,章末ではSQUIDグラジオメータと磁気シールドの最適化が総合的に述べられている。 第5章では,2次元グラジオメータを用いて開発した磁気シールドレス胎児心磁計システムについて述べられている。胎児心臓から発生する磁場強度は母体腹壁において数pT以下と非常に微弱であるが,開発された心磁計システムを用いて胎児の心磁図波形を病院の磁気シールドレス環境でリアルタイムに検出することに成功している。さらに,加算平均処理によって心磁図波形のP波やT波の検出にも成功している。胎児心磁図を磁気シールドレス環境で計測したことは特筆すべき結果であり,第4章で提案された2次元グラジオメータの有効性を実証している。 第6章では,64個の同軸1次微分型low-Tc SQUIDグラジオメータと小型磁気シールドルームを用いた動物用心磁計システムについて述べられている。さらに,開発した心磁計システムを用いて計95頭の正常なカニクイザルの心磁図が計測され,正常な心磁図パラメータが得られた。この結果により,霊長類を用いた動物実験を心磁図計測に適用することが初めて可能となった。 第7章では,本論文をまとめている。 以上を要すると,本研究は,新しいSQUIDグラジオメータの手法と新しい磁気シールドの手法を組み合わせることにより,従来にはない高性能な心磁計システムを実現したものである。さらに,開発された心磁計システムを用いて実際に心磁図波形を計測することにより,本研究で提案された新しい手法の有効性が実証された。以上の結果は,心磁図計測のみならず,広く磁気計測分野の研究に一石を投じるものであり,物理工学および医用工学の発展に寄与するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。 | |
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