学位論文要旨



No 217039
著者(漢字)
著者(英字)
著者(カナ) デューティン,アントワン
標題(和) 一面せん断試験による様々な粒子形状の粒状材料における粘性特性
標題(洋) Viscous properties of granular materials having different particle shape in direct shear
報告番号 217039
報告番号 乙17039
学位授与日 2008.11.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17039号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 古関,潤一
 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 准教授 桑野,玲子
 東京大学 准教授 内村,太郎
 東京理科大学 教授 龍岡,文夫
内容要旨 要旨を表示する

各種の粘性タイプとせん断変形に伴う遷移: 本研究を含む最近の一連の研究によると、地盤材料の粘性タイプは多様であり、Isotach, Combined, TESRA とPositive & Negative (P&N)のように四つの異なる基本タイプが存在する。Isotachタイプ粘性は最も古典的なものである。粘性に起因する応力成分を とすると、連続単調載荷において「非可逆(すなわち非弾性)せん断変形増分 ( )、あるいはその速度増分( ) 、あるいはその両者によって生じる増分( )は、その後の載荷で が増加しても減衰しない。従って、現在の の値は現在の と の値によって一義的に決まり、一定のせん断変形速度 の単調載荷での強度は が大きいほど大きい。他の三つの粘性タイプでは、上記の は載荷中に の増加に伴って異なる残留値に向かって減衰する。TESRAタイプ粘性では、 は究極的にゼロに減衰するので、 が一定の単調載荷での強度は に依存しない。'TESRA' は、"Temporary Effects of Strain Rate and strain Acceleration"の略である。Combinedタイプ粘性は、IsotachタイプとTESRAタイプの複合である。P&Nタイプ粘性では、正の値の は負の値に向かって減衰するので、 が一定の単調載荷での強度は が大きいほど小さくなる。

本研究では、各種自然砂とガラスビーズなど多様な粒子形状を持つ貧配合の粒状体の空気乾燥供試体を用いて系統的な一面せん断試験を行い、広範囲でのせん断変形における粘性を研究した。その結果、粒状体の粘性は基本的に粒子径に依存しないが、粒子の形には大きく影響されることが分かった。また、一種類の粒状体を用いた一つの一面せん断試験でも、粘性タイプはせん断変形の増加に伴って、ピーク応力前のひずみ硬化段階→ピーク応力状態→ピーク後のひずみ軟化段階→残留状態と移動して行くと変化することが分かった。粒子が角張っている粒状体の密な供試体では、粘性タイプはピーク前のTESRAタイプから残留状態のP&Nタイプに遷移する。緩い供試体では、この遷移はピーク応力状態以前から始まる。粒子が丸い粒状体の密な供試体では、粘性タイプは、ピーク応力前に既にP&Nタイプであり、ピーク応力後のひずみ軟化段階では、P&Nタイプの粘性を示すと同時に速度に依存しない「特異な不安定(unstable)現象」を示す。この不安定現象は、一様粒度のガラスビーズで最も明確に生じるが、この現象は粒子径が大きいほどより明確になる。この現象は、所謂粒子間のstick-slip運動に依るものである。これらの一連の実験は、粒状体の粘性のタイプとその遷移現象は、粒子特性(本研究では主に粒子形状)に強く依存することを示している。

粘性の定量的評価: 上記のような粒状体の載荷速度に依存する応力ひずみ関係を表現できる数学モデルを開発するためには、粘性を適切なパラメータで表現する必要がある。本研究によると、次の三つのパラメータによって、所定の粒状体の粘性を適切にかつ定量的に表現できる。1)粘性応力の大きさを表現する"載荷速度感応係数"; 2)粘性タイプを表す"粘性タイプパラメータ"; 3)粘性応力増分のせん断変形の増加によって減衰する率を表現する"減衰パラメータr1"。これらのパラメータは、全て粒子の角張り度(the degree of particle angularity)と相関している。

クリープ変形特性: 粒状体のクリープ変形特性は、様々な地盤工学の実務問題において重要な課題の一つである。粒径が丸い粒状体と角張った粒状体(複数)を用いて、一定のせん断変形速度 の単調載荷の途中で複数の持続載荷試験を行った結果、クリープ変形量は粒子形状に大きく依存することが分かった。他の試験条件が同じで、それぞれのせん断強度に対するせん断応力レベルが同一な持続載荷を行った場合、クリープ変形量は粒子が角張っている方が大きいことが分かった。特に、クリープ変形量と粒子の角張り度(degree of angularity)は良く相関している。また、持続載荷を開始する直前の単調載荷でのせん断変形速度 が大きいほど、持続載荷によるクリープせん断変形量が大きくなる。また、密な豊浦砂の一面せん断試験において、ピークせん断強度に近いせん断応力で持続載荷を行えば、クリープ破壊が生じることを実証した。

非常に広範囲のせん断変形速度における粘性: 粒状体に変形強度特性に及ぼす載荷速度の影響も、地盤工学においてしばしば問題となる。空気乾燥した豊浦砂を用いて、せん断変形速度 (すなわち、上箱と下箱の間のせん断変位速度、あるいはせん断層のせん断変形速度)の範囲を10万倍の範囲で変えて「せん断変形速度 一定の一面せん断試験」を行った。密な供試体のピークせん断強度は に対して基本的に独立である一方、残留強度は が増加すると減少する。すなわち、密な豊浦砂の粘性はピークせん断強度を発揮するまではTESRAタイプであり、残留状態ではP&Nタイプである。緩い豊浦砂では、ピーク強度と残留強度いずれも が増加すると減少するが、残留状態の方がその程度が著しい。これは、緩い豊浦砂の粘性はピーク応力状態で既にP&Nタイプであることを示している。これらの傾向は、前述の試験結果と定性的にも定量的にも整合している。

モデル化とシミュレーション:新しい非線形三要素弾粘塑性モデルの枠組みで、一面せん断試験においてせん断変形の広い範囲で観察され粘性をシミュレーションできるモデルを開発した。応力変数が一つの場合の定式化を行い、本研究において様々な載荷履歴に対して行った実験の結果をシミュレーションした。粘性タイプに対する粒子形状の影響を考慮することにより、異なる粘性タイプ、粘性の遷移過程、異なる大きさの粘性の全ての現象を正確にシミュレーションできた。クリープ破壊現象も正しくシミュレーションできた。

理論的研究: 応力変数が一つのモデルから多変数の場合の粒状体の粘性を表現できるモデルへの展開を、一面せん断試験、三軸圧縮試験、平面ひずみ圧縮試験とねじりせん断試験の結果に基づいて試みた。粘性の"openタイプ"と"closedタイプ"の定式化を考察し、載荷速度感応係数を最大及び最小主応力で定式化した。実験結果に基づいて、"openタイプの定式化によってこれらの異なるせん断試験での載荷速度感応係数を統一的に表すことを示した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文はViscous properties of granular materials having different particle shape in direct shear (一面せん断試験による様々な粒子形状の粒状材料における粘性特性)と題した英文の論文である。

地盤を構成する土粒子が砂や礫である場合、地盤全体としてのマクロな特性は、土粒子自体の強度に加えて土粒子同士のかみあわせ状態の影響を受ける。このような粒状材料のせん断強度変形特性は粘性を有することが知られているが、ピーク応力前のひずみ硬化段階から、ピーク応力状態、ピーク後のひずみ軟化段階、および残留応力状態へとせん断変形が増加していく過程において、この粘性特性がどのように変化するかについては、十分な知見が得られていない。また、実験的な検討において実現可能なせん断速度の大きさには装置の仕様に応じた技術的限界があり、極めて広範囲にせん断速度を変えた試験を行うことはこれまで困難であった。

以上の背景のもとで、本研究では様々な粒子形状を有する粒状材料を対象として、ピーク応力前のひずみ硬化段階から、その後に残留応力状態へと至るひずみ軟化段階までの粘性特性に関して、一面せん断試験装置を用いた実験的な検討を実施している。また、せん断速度を最大105倍のオーダーの範囲で変化させる特殊な試験を実施することにより、粘性特性に及ぼす影響を詳細に調べている。さらに、以上の試験結果に基づいて、これらの粒状材料の粘性特性を適切にモデル化することを目的とした検討を実施している。

第一章では、粒状材料の粘性特性に関する既往の研究をまとめたうえで、本研究の目的を設定し、論文の構成について説明している。

第二章では、試験に用いた材料の産地や粒子形状などに関する特性と、一面せん断試験装置の詳細を記述するとともに、変位や応力の計測・計算方法と試験手順について述べている。また、豊浦砂を対象とした既往の試験結果との比較を通じて、試験結果の妥当性と再現性を検証している。

第三章では、さまざまな砂とガラスビーズを対象に、単調載荷の途中でせん断速度を段階的に変化させる試験を実施した結果について記述している。ピーク応力前のひずみ硬化段階とその後のひずみ軟化段階では発揮される粘性特性のタイプが異なり、材料の粒子形状や密度によっても異なる粘性特性が発揮されることを明らかにしている。

第四章では、第三章と同じ材料を対象に、せん断の途中で一定応力状態を保つクリープ載荷を段階的に実施した結果について記述している。クリープ変形量が材料の粒子形状に応じて異なることを明らかにするとともに、クリープ載荷を開始する直前の単調載荷過程におけるせん断速度の影響も受けることも見出している。

第五章では、豊浦砂を対象に、せん断速度の変化範囲を105倍のオーダーまで拡大させた試験結果について記述している。ピーク強度と残留強度に及ぼすせん断速度の影響は異なる特性として表れ、さらに、これらの特性は材料の密度の影響も受けることを明らかにしている。

第六章では、三要素モデルを用いたシミュレーションを行い、単調載荷の途中でせん断速度を変えた場合の挙動とクリープ載荷時の挙動が、統一的に説明可能であることを示している。さらに、より多様な応力条件下でも適用できる一般化モデルの検討も行っている。

第七章では、以上の検討成果を結論としてとりまとめ、さらに、今後の課題を整理している。

以上をまとめると、本研究では、様々な分子形状の粒状材料における粘性特性として、せん断速度の影響およびクリープ載荷時の挙動を高精度かつ系統的な室内土質試験により明らかにするとともに、そのモデル化にも成功している。このことは地盤工学の進歩への重要な貢献である。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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