学位論文要旨



No 217052
著者(漢字) 鯉渕,賢
著者(英字)
著者(カナ) コイブチ,サトシ
標題(和) 「失われた10年」の銀行の企業救済とショック療法
標題(洋)
報告番号 217052
報告番号 乙17052
学位授与日 2008.12.10
学位種別 論文博士
学位種類 博士(経済学)
学位記番号 第17052号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 福田,慎一
 東京大学 教授 植田,和男
 東京大学 教授 伊藤,隆敏
 東京大学 教授 松村,敏弘
 東京大学 准教授 柳川,範之
内容要旨 要旨を表示する

1990年代以降の日本経済の長期低迷は「失われた10年(15年)」と呼称され,その主因とされる全要素生産性(TFP)成長率の低迷がどのような要因によってもたらされたかについて多くの研究が行われてきた.その議論の一つが,1990年代以降の長期化した不良債権問題が結果的に日本経済の回復を遅らせたとする主張であり,今日では研究者間で広く受け入れられている.こうした議論は,経済の金融的側面が企業再建という経路を通じて,サプライサイド(供給面)に影響を与えた可能性を模索する新しい試みであり,銀行部門の問題がクレジットクランチを通じて総需要項目である企業設備投資を低迷させるとする従来の議論からの大きな転換であった.

一方,1990年代以降の「失われた10年」は,1980年代初めに始まった銀行中心の金融システムから資本市場中心の金融システムへの転換期の最終段階でもあった.1990年代の銀行問題の多くの要因は,かつては有効に機能した従来型の金融システムが新たな経済環境の下で深刻な機能不全となる一方で,新しい金融システムの構築が遅れたことに由来しているという主張も,今日では研究者間で広く受け入れている.

本研究は,以上の議論を背景として,「失われた10年」における金融システムの変化,特に過剰債務企業に対する銀行の企業救済スキームの変化に焦点を当てた前半の3論文(第1章から第3章〉と,銀行が従来の融資戦略を大きく転換する契機となった大手銀行3行の破綻に関する後半の2論文(第4章と第5章)から構成されている.

本研究の目的は次の3点に集約される.第1は,日本経済が「失われた10年」に陥った理由として,銀行部門における不良債権問題の長期化が要因の一つとして挙げられるが,その不良債権問題の長期化がどのようなメカニズムによって発生したかを明らかにすることである.これは,この期間における銀行一企業間関係の変化,特に1990年代から2000年代前半における主な大企業の債権放棄事例における債権放棄スキームの変遷を通じて検証する.

第2は,銀行が伝統的な銀行一企業間関係に基づいて不採算な企業に対する融資を継続したことが,経済にどのようなコストをもたらしていたかを,1990年代後半の大手銀行3行の破綻を題材として考察することである.銀行が従来の融資戦略を大きく転換し,不採算な企業を集中的に淘汰し始めたときどのような帰結がもたらされたかを,破綻銀行の顧客企業のパフォーマンスを通じて検証する.

第3は,ソフトな予算制約問題過剰債務問題等の近年のマクロ経済学及びコーポレート・ファイナンスにおける新たな重要概念を現実の日本のデータを用いて実証的に分析することである.

本研究における実証研究は,主にケーススタディ(事例研究)の手法によって行われる.ケーススタディは潜在的に共通する特徴を持つ事例を抽出した上で,事象の発生に影響する可能性のある事例間の様々な要因をコントロールした上で,注目する特定の事象が理論仮説の規定する特定の要因によって発生したかを分析する手法である.本研究では,このケーススタディを上場企業や銀行の株価を用いたイベントスタディ,非上場企業を含む大規模財務データを用いた実証分析によって補完する.

第1章は,最近の債権放棄事例におけるメインバンクの超過負担を,産業再生機構の案件における事例や,1990年代前半以前に行われた債権放棄事例との比較を行うことによって検討している.最近の事例でも,産業再生機構の案件を例外とすれば,大口の債権者が小口の債権者よりも多くの損失を負担するスキームが標準的であった.しかし,金融環境の大きな変化に伴って,メインバンクが高い債権放棄比率を負担して借り手を救済するインセンティブは大きく減ってしまった.一方,長引く経済低迷の中で,ソフトな予算制約問題による債権放棄は増加した.また.産業再生機構による支援企業では,債権放棄負担比率がほぼ融資比率に対応する比例配分法になっており,メインバンクの超過負担は観察されなかった.以上の結果は,「イザというときの貸し手」として顧客企業を救済したメインバンク主導の企業救済の有効性が,近年急速に変化していることを示唆するものである.

伝統的な日本の銀行・企業間関係を巡る議論では,顧客企業の財務危機時にメインバンクがどの程度積極的に企業救済を主導するかは,銀行一企業間関係におけるメインバンクの「名声の維持」の問題として考えられてきた.第2章では,協力ゲームの理論の枠組みを用いて,1998年から2004年にかけての主要な債権放棄事例において観察されたメインバンクの債権放棄負担の決定要因を分析した.その結果,サンプル事例間のメインバンクの超過負担の程度の相違は,債権放棄に至るまでの長期安定的な銀行一企業間関係の親密度と統計的に有意な相関を示しており,観察される超過負担の大きさが債権者調整におけるメインバンク主導の程度を表す適切な指標であることを見出した.一方,過去からの関係性を持たない産業再生機構がメインバンクに代わり債権者調整を主導した事例では,融資比率に応じた均等な負担を求める債権放棄負担の新しい配分ルールが達成されメインバンクの超過負担は大幅に軽減された.

第3章は,産業再生機構支援事例におけるメインバンクの超過負担の大幅な軽減に焦点を当て,産業再生機構主導の債権者調整という新しい企業再建スキームの導入が銀行部門に与えたインパクトを,銀行の株価を用いたイベントスタディによって分析している.銀行の不良債権の裏側にある企業の過剰債務問題の解決には多数の債務者間での債権放棄負担の配分を調整しなくてはならない.伝統的なメインバンク主導の債権放棄は,メインバンクが非対称に大きな債権放棄負担を担うことで企業再建を主導するスキームであったため,顧客企業の債権放棄のアナウンスはメインバンクの株価に負のインパクトを与える傾向があった.産業再生機構はメインバンクに代わる委託された交渉者として,小口の債権者にも融資比率に応じた均等な負担を求める債権放棄負担の新しい配分ルールを導入することに成功した.産業再生機構の出現は,伝統的に企業再建における過度の負担を担ってきたメインバンクの負担を大幅に軽減し,債権放棄のアナウンスはメインバンクの株価に有意に正のインパクトを持つようになった.

以上の第1章から第3章の結果は,伝統的なメインバンク主導の企業救済の機能不全が,日本の不良債権問題の長期化の一因であったことを強く示唆するものである.1990年代後半において,ほとんどの日本の大手銀行の自己資本は長年の不良債権処理によって大きく殿損し,もはや大きな債権放棄負担を担う体力が限られていたにも関わらず,企業との長期継続的な関係性を持っメインバンクが非対称に大きな損失負担を担う古い配分ルールに基づいて過剰債務問題を解決する役割を担わざるを得なかった.こうした債権放棄負担における非対称に大きな負担は,財務状態の脆弱なメインバンクにとって,顧客企業の過剰債務問題を迅速に処理しようとするインセンティブを大きく削ぐこととなり,伝統的な銀行主導の企業救済の有効性は大きく損なわれた.メインバンクの負担を大幅に軽減する債権放棄負担の新しい配分ルールは,2003年の産業再生機構の出現まで,銀行部門が自発的に導入することはなかった.結果として,1990年代から2000年代前半にかけての日本経済では,企業の過剰債務問題と銀行の不良債権問題が長期化し,大企業においてソフトな予算制約が顕在化した.

第4章と第5章は,銀行部門が顧客企業にソフトな予算制約を継続することのコストについて日本の大手銀行の破綻処理方法の相違に着目したケーススタディを行っている.

銀行破綻は様々な負の影響を顧客企業に与えるが,そうした負の影響が中長期的にどのように軽減されるかは,破綻銀行を引き継いだ新銀行の融資戦略に大きく依存する.第4章では,日本の大手銀行3行(拓銀,長銀,日債銀)の破綻に注目し,新銀行引継ぎ後の上場している顧客企業のパフォーマンスを倒産件数及び株価の推移によって検証した.新銀行が不良企業を短期間に集中的に淘汰するショック療法を採用した長銀顧客企業は,倒産件数の劇的な増加に直面したものの,存続企業の株価は新銀行引継ぎ後に顕著に改善した.一方,新銀行がソフトな予算制約を継続した日債銀顧客企業は,倒産件数の増加に直面しなかったものの,存続企業の株価も低迷したままだった.この結果は,ショック療法とソフトな予算制約のどちらを採用するのかという銀行の融資戦略の選択が,日本の大企業の不良債権問題に顕著に相違する帰結をもたらしたことを示唆している.

こうした銀行によるショック療法の効果は大企業と中小企業の顧客企業で大きく異なる可能性がある.大企業は多様な資金調達手段を持つものの,中小企業は極めて少数の銀行からの借入に依存するのが一般的だからである.第5章では,非上場の中小企業を含む大規模データベースを用いて,長銀と日債銀の顧客企業に注目し,銀行破綻以降に起こった様々なイベントが,大企業と中小企業の顧客企業の会計上の利益率に異なる影響を与えたかどうかを検証した.ショック療法に直面した長銀顧客企業の中で,大企業の利益率は顕著な改善を示したものの,中小企業の利益率は改善しなかった.対照的に,日債銀顧客企業のうち,新銀行が融資関係を打ち切った中小企業の利益率は顕著に悪化した.以上の結果は,ソフトな予算制約のコストは大企業にとっては極めて大きなものである一方で,中小企業にとっては銀行との融資関係が継続される便益と比較するとそれほど大きなものではない可能性を示唆している.

審査要旨 要旨を表示する

論文の内容

1980年代後半の資産価格バブルの崩壊以後、日本経済は長期的不況を経験した。日本経済の「失われた10年」には多くの要因があるものの、不良債権問題が長期的不況の主要な原因の一つであることは広く認識されている。伝統的な「メインバンク・システム」のもとでは、企業が経営危機に陥った場合、メインバンクが「イザというときの貸し手」として顧客企業を率先して救済する傾向にあった。メインバンクの役割は、既存の債権者間の利害調整をスムーズに行い、過剰債務問題に直面した企業を救済することであったとも解釈できる。しかしながら、金融の自由化・国際化や日本経済の構造的な変化によって、日本でも銀行の役割は大きく変容している。そうした中で、メインバンクが従来のように顧客企業を救済するインセンティブも、かなり小さくなったと考えられる。

特に、「ソフトな予算制約」の下で、日本のメインバンクは、財務状態の悪い企業、特に実質的債務超過に陥っていた多くの「ゾンビ企業」への融資を継続する誘因を持っていた。いくつかの先行研究では、銀行は過剰債務を持つゾンビ企業からの債権放棄要請を受け入れ、新規資金を供給し続けていたことが指摘されている。「ソフトな予算制約」は、企業の倒産から生じる一時的な調整コストを減少させるかもしれない。しかし、その一方で、生産性の低い経済主体を淘汰するような市場規律は機能しないままとなる。したがって、主力行が債務超過企業を支援し続けたならば、銀行借入に大きく依存しているきわめて効率性の低い企業が、収益性の低い投資計画を実行し続ける結果をもたらすことになる。逆に、このような状況下において、もし銀行が非効率な企業をすみやかに排除し、健全な企業のみに貸出を継続するような「ショック療法」によって不良債権問題をいち早く解決していたならば、銀行の顧客企業の市場価値に正の影響を与えた可能性がある

鯉渕氏の博士論文は,このような問題意識から、1990年代後半から2000年代前半にかけて行われたわが国の銀行による債権放棄のあり方やそれによる顧客企業への影響を、詳細なミクロ・データを用いてさまざまな角度から分析した力作である。博士論文は大きき分けると2つのパートからなる。第一のパートは「私的整理」におけるメインバンクによる債権放棄比率の決定要因およびその変遷に関する分析,もう一つのパートは「ショック療法」の有無が顧客企業に与えた影響に関する分析である。

第一のパートでは、産業再生機構の案件を例外とすれば、大口の債権者が小口の債権者よりも多くの損失を負担する債権放棄のスキームが標準的であるという最近の日本における債権放棄の現状が示される。同じ金額の債権放棄であっても、大口の債権者の債権放棄と小口の債権者の債権放棄では企業再生にもつ意味合いは大きく異なるので、債権放棄の際には、小口の債権者を優遇し、大口の債権者がその融資比率以上に負担することはある種の経済合理性をもつ。しかしながら、標準的な「協力ゲームの理論」から債権放棄の際の大口債権者の超過負担を計算してみた場合、大口債権者に顧客企業を存続させることに特別な理由がなければ、その超過負担の大きさは限定的である。このため、「協力ゲームの理論」の観点からメインバンクなど主力行が大きな損失を負担する債権放棄のスキームを正当化するには、メインバンクの「名声(reputation)」や「情報の優位性」など、メインバンクに顧客企業を存続させる特別な理由を考えなければならないことが指摘される。

論文では、また、最近の債権放棄事例におけるメインバンクの超過負担を、産業再生機構の案件における債権放棄の事例と、1990年代前半以前に行われた債権放棄事例との比較を行うことによって検討が行われている。産業再生機構による支援企業で注目すべき点は、債権放棄負担比率がほぼ融資比率に対応する比例配分法になっており、事業会社の債権放棄事例に見られたようなメインバンクの超過負担は観察されなかったことである。この結果は、従来の債権放棄事例でメインバンクに大きな超過負担が発生したのとは全くの好対照である。伝統的な「メインバンク・システム」のもとではメインバンクが「イザというときの貸し手」として積極的な債権放棄を行い、過剰債務問題に直面した企業を救済することに成功していたものの、近年、その役割が低下している。今日では、メインバンクが、1回限りのゲームでは到底正当化されない大きな負担を債権放棄の際に負う必然性もなくなっている。産業再生機構の案件で起こった債権放棄の負担比率は、メインバンクの役割が崩壊し、新しい金融システムの構築がされていく中での債権放棄のあり方に一定の示唆を与えるものであることが示唆されている。

第二のパートは、「ソフトな予算制約」と「ショック療法」という2つの全く異なる銀行の経営戦略が、それぞれ、大企業及び中小企業の顧客企業のパフォーマンスの改善においてどのように異なる帰結をもたらしたかを、日本の破綻した大手銀行2行――日本長期信用銀行(長銀)及び日本債券信用銀行(日債銀)――の顧客企業に注目し、分析したものである。分析では、2行の営業が新銀行に引き継がれた後、顧客企業の利益率がどのように変化したかを検証されている。この2行の破綻はいずれも、日本の金融規制当局が「ツゥービック・ツゥーフェイル(too-big-to-fail, 大きすぎるため潰せない)」政策をもはや追求しなくなったという意味で、政策の転換点を示す重要な出来事であった。また、2行はいずれも長期信用銀行で、貸出先も類似していた。しかし、破綻銀行がその後どのような経済主体に引き継がれたかという観点では、この2行は大きく異なる特徴を持っていた。長銀は、日本の金融改革において初めての大胆な試みとして、アメリカ流の経営方針を導入した米系の投資家グループに売却された。これにより、長銀の顧客企業は、「ショック療法」に直面し、新銀行の営業開始と共に劇的な倒産の増加が起こった。対照的に、日債銀は、日本の伝統的な経営慣行を踏襲する国内投資家グループに売却され、その顧客企業には顕著な倒産の増加は起こらなかった。日債銀の顧客企業には、「ソフトな予算制約」が継続されたといえる。博士論文では、2行の辿った異なる経緯が、それぞれ中小企業及び大企業の顧客企業の収益性にどのような影響となって現れたかを検証された。

借り手企業の株価を用いたイベントスタディによって検証した結果によれば、長銀の存続企業の株価に顕著な上昇がみられるものの、日債銀の存続企業の株価には同様の上昇は観察されなかった。この結果は、新銀行による「ショック療法」が、顧客企業の市場価値の改善にとって有益であったことを示している。1990年代後半の日本の銀行破綻における顕著な特徴は、破綻銀行が不良債権問題を先延ばしするために、破綻前に真実の不良債権額を大幅に過少申告していたということである。伝統的な日本の銀行規制や監督行政では、経営の悪化した銀行が問題のある融資先に厳格に対処しなくても済むモラル・ハザードを生み出す環境があった。このため、不良債権が実質的に増大したときでも、不良債権償却のための引当金積み増しが更なる自己資本の毀損をもたらすことを回避するため、銀行は問題のある融資先に追い貸しを続けたことも少なくなかった。追い貸しは、倒産を遅延させて問題の顕在化を回避ために、敢えて問題企業への融資を継続するものだった。論文の実証結果は、このような状況において、もし銀行が大口の借り手に対して「ショック療法」を採用していたならば、不健全な大企業を淘汰し、健全な大企業による効率的な投資を増加させ、長期的に望ましい経済的帰結をもたらしたことを示唆するものである。

もっとも、日本の中小企業の資金調達においては、リレーションシップ・バンキングは依然として優位な役割を保持し続けている。したがって、銀行-企業間関係を不安定にする「ショック療法」は、大企業と中小企業に異なる影響をもたらした可能性がある。「ショック療法」のもとでは、銀行による仲介機能を一時的に大きく低下するので、情報の不完全性と契約の不完備性の程度が深刻ならば、「ショック療法」は、代替的な資金調達手段をほとんど持たない中小企業のパフォーマンスには悪影響を与えるかもしれない。第二のパートの最後の実証分析では、この点を上場・未上場企業を含む日本企業50万社の個別企業情報を用いて検証し、「ショック療法」が大企業と中小企業とでは異なる帰結を与えたことを見出している。

評価

以上で要約したように,鯉渕氏の博士論文は,「私的整理」におけるメインバンクによる債権放棄比率の決定要因およびその変遷に関する実証分析と、「ショック療法」の有無が顧客企業に与えた影響に関する実証分析から成っている。いずれも長期的不況を経験した日本経済の「失われた10年」がなぜ発生したかに関して、金融面から明快な解答を導いており、この分野における重要な貢献となっている。特に、鯉渕氏の博士論文で取り扱った分野は、その重要性にもかかわらず、詳細なミクロ・データを用いた地道な作業が必要なため、これまでに研究の蓄積が少ない。長引く経済の低迷の中で、メインバンクのソフト・バジェット問題が原因の債権放棄も増加したことは、さまざまな研究者によって指摘されてきたことではあるが、それを実際の債権放棄比率を具体的に計算して地道に分析する作業は以外にもこれまで数少なかったといえる。その点でも、この博士論文の希少価値はきわめて高い。

なお,博士論文のうちいくつかの章が共著論文であることについては,鯉渕氏の貢献がどの程度なのかという意見があった。しかし、この点については,面接における鯉渕氏の解答の明快さや、論文には書かれていないさまざまな関連分野の知識に関する説明から判断して、全く問題ではないということで審査員の意見は一致した。

論文審査の結論

鯉渕氏の博士論文は5つの主要な章からなっており,2章を除く4つの章に関連した論文は、すでにJapanese Economic Review, Pacific-Basin Finance Journal, 『経済研究』、『金融経済研究』という権威ある学術雑誌に publish されている。加えて、上記の評価から明らかなように,どの章も各分野での明瞭な貢献を含んでおり,それらを拡張した研究は、適当な学術雑誌に投稿すれば,今後も受理される可能性は高い。学会への有意な貢献を含む章が複数あるという意味で,鯉渕氏の博士論文は,本研究科が要求する論文博士の基準を十分に満たしていると考えられる。したがって,この審査委員会は,本論文により博士(経済学)の学位を授与するにふさわしいと全員一致で判断した。

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