学位論文要旨



No 217054
著者(漢字) 土橋,浩
著者(英字)
著者(カナ) ドバシ,ヒロシ
標題(和) 分合流部を有するシールドトンネル拡幅構造接合部の応力伝達機構の実験的検証および数値解析による評価
標題(洋) Verification of Stress Transfer Mechanism of Shield Tunnel Connection with Ramp Tunnel by means of Structure Experiment and Numerical Analysis
報告番号 217054
報告番号 乙17054
学位授与日 2008.12.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17054号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 堀,宗朗
 東京大学 教授 藤野,陽三
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 教授 古関,潤一
 東京大学 准教授 小国,健二
内容要旨 要旨を表示する

過密都市部に高速道路を建設する際,近年ではトンネル構造が使われることが多く,特に周辺環境への負荷を低減するため,シールド工法が増えてきている.しかし,道路トンネルの場合,シールド断面は12mを超える大断面となることから施工実績は少なかった.また,道路トンネルでは,出入口や既設高架道路との連結路を本線トンネルと接続する分合流部が必要となる.構造が複雑な分合流部をシールド工法により施工することが重要な技術課題となってきている.

上記を背景に,本論文では,本線シールドトンネルが出入口トンネルなどと接続する拡幅構造接合部の応力伝達機構,破壊形態および耐力を明らかにし,その設計方法および照査式を提案することを目的とする.分合流部は,シールドトンネルを掘進した後にトンネルの鋼製セグメント(以下,鋼殻)を一部撤去して接合させるという構造となる.この拡幅構造接合部は,鋼殻主桁が出入口などの鉄筋コンクリート躯体(以下,躯体)に埋め込まれる合成構造となる.

拡幅構造接合部の軸力の伝達機構に関して,実験的検討を行った.接合部では鋼殻の縦リブを切断した鋼板をシアコネクタとし,このシアコネクタを介して軸力は鋼殻主桁から躯体にせん断力として伝達される.拡幅構造接合部を模擬した大型2面せん断実験の結果から,「鋼コンクリートサンドイッチ構造設計指針(案)」(以下,指針案)から算出される耐力を使うと,このせん断耐力を安全側に評価できることを確認している.拡幅構造接合部は鋼殻主桁が躯体に埋め込まれているため,指針案が扱っている鋼コンクリートサンドイッチ構造と異なり,シアコネクタの数が軸力の伝達耐力に支配的な要因となる.1/2縮尺の供試体を用いた押し抜き破壊実験の結果から,シアコネクタが10枚以下であれば,拡幅構造接合部のせん断伝達耐力算出にあたって,指針案の算定式を良好に利用できることが判明した.また,シアコネクタの枚数を考慮した新たな算定式も提案した.

軸力が大きい場合,シアコネクタのみでは躯体のせん断伝達耐力が不足する可能性がある.シアコネクタにスタッドを組み合わせて押し抜き破壊実験を行い,スタッドによるせん断伝達耐力について確認した.スタッドは鋼殻主桁の短辺側および長辺側に設置することとした.一般的にスタッドがずれ止めとして使用されているが,シアコネクタのせん断伝達が発揮されている段階ではスタッドはせん断力をほとんど伝達しないが,軸力が増加しシアコネクタの伝達力が耐力に近づくとスタッドもせん断力を伝達するようになる.短辺側と長辺側に設置されたスタッドに対し,既往の算定式を基にこのせん断伝達耐力の算定式を提案した.

押し抜き破壊実験の結果を使って,非線形FEM解析の解析精度を検証した.数値計算の結果,主桁に沿った鉛直方向のひび割れなど内部の破壊状況が再現できることが確認された.また,主桁の短辺側の面に発生するせん断応力は主桁近傍の鉛直面に発生するせん断応力に比べ約2倍程度になる.この結果から,せん断応力は主桁の周辺で均等に分布しているのではなく,シアコネクタ短辺側でのせん断伝達力が大きく,3次元的な荷重伝達効果が確認された.

非線形FEM解析に代わりシアコネクタのせん断伝達耐力を算出する簡便な方法として応力伝達モデルを構築した.せん断伝達耐力を支配する載荷端の近くに設置されたシアコネクタについては,実験値と応力伝達モデルによる解析値はよく一致している.また,シアコネクタの設置間隔が狭い場合,最大荷重時の伝達力の解析値は,概ね実験と一致した.さらに,短辺スタッドと長辺スタッドのせん断伝達力の評価も応力伝達モデルに組み込んだ.この結果,応力伝達モデルによるシアコネクタ,短辺スタッドおよび長辺スタッドのせん断伝達耐力の解析値は実験値とよく一致しており,拡幅構造接合部のせん断伝達耐力の算出にあたって,提案した応力伝達モデルの適用の妥当性が検証された.

次に,曲げモーメントとせん断力の伝達機構を解明するため,1/2縮尺の供試体を用いた水平押し抜き実験を行なった.水平押し抜き破壊が確認され,支圧応力は設計荷重レベルではほとんど発生せず,破壊時に供試体上面に局所的なコンクリートの支圧破壊が確認された.また,主桁フランジを拡幅することによる支圧補強が可能であり,補強効果はフランジ幅の拡幅比率以上であることが明らかになった.水平押し抜きに抵抗する鉄筋位置を支点とする躯体を仮想梁としてモデル化し,補強鉄筋量を算出することを試みた.

実験と数値解析で解明された拡幅接合部の伝達機構を基に,施工履歴を考慮した逐次解析および完成系での単独解析に加え,躯体の有効剛性を考慮した鋼殻の設計法を提案した.また,軸力に対するせん断伝達耐力の算定式,曲げモーメントおよびせん断力が作用する場合の支圧応力度,割裂および水平押し抜きに対する断面照査方法も提案した.合わせてシアコネクタと短辺・長辺スタッドのせん断伝達耐力算定式,支圧破壊・割裂破壊・水平押し抜き破壊に対する鉄筋による補強の照査方法を提案した.

提案した構造照査方法に基づき, 1/2縮尺の供試体であるが,性能確認実験を行った.施工時の荷重レベル全てのケースに対して,発生応力が短期許容応力度あるいは降伏応力以下であることを確認した.押し抜き耐力については,提案式から算出されるせん断伝達耐力に対して約2倍の安全率が確保されていることを確認した.以上の結果,提案した拡幅構造接合部に対する設計手法の妥当性が検証された.

本研究により得られた知見は,過密都市でのシールド工法の適用範囲を拡大するとともに,シールドトンネルの分合流部のより合理的な設計手法・施工方法の開発に貢献する.今後ますます利用が期待されている大深度地下空間利用におけるシールド工法の適用に対して,より合理的,経済的な設計・施工に貢献できるものと考えられる.

審査要旨 要旨を表示する

本論文の題目は「分合流部を有するシールドトンネル拡幅構造接合部の応力伝達機構の実験的検証および数値解析による評価」であり,近年,建設された大口径シールドトンネルを対象として,本線と地上出口の分合流部において設置された拡幅構造部接合部での,軸力・せん断・曲げに起因する応力の伝達機構の耐力や特性を,模型実験,実大実験,数値解析によって評価したものである.

本論文の構成に沿って審査を行った.最初に,拡幅構造接合部の軸力の伝達機構に関して模型実験を使った検討を行った.接合部ではシアコネクタを介して軸力が鋼製セグメント主桁から鉄筋コンクリート躯体にせん断力として伝達される.拡幅構造接合部を模擬した大型2面せん断実験の結果から,経験式から算出される耐力を使うことでせん断耐力を安全側に評価できることを確認している.拡幅構造接合部では鋼製セグメント主桁が鉄筋コンクリート躯体に埋め込まれているため,シアコネクタの数が軸力の伝達耐力に支配的な要因となる.1/2縮尺の供試体を用いた押し抜き破壊実験の結果から,シアコネクタが10個以上あれば,拡幅構造接合部のせん断伝達耐力算出にあたって,経験式を良好に利用できることが判明した.また,シアコネクタの個数を考慮した新たな算定式も提案した.軸力が大きい場合,シアコネクタのみでは鉄筋コンクリート躯体のせん断伝達耐力が不足する可能性がある.シアコネクタにスタッドを組み合わせて押し抜き破壊実験を行い,スタッドによるせん断伝達耐力について確認した.軸力が増加しシアコネクタの伝達力が耐力に近づくとスタッドもせん断力を伝達するようになることを実験で確認した.短辺側と長辺側に設置されたスタッドに対し,既往の算定式を基にこのせん断伝達耐力を算定した.

次に,押し抜き破壊実験の結果を使って,非線形有限要素法の解析精度を検証した.この検証を踏まえ,主桁の短辺側の面に発生するせん断応力の大きさを調べた.主桁近傍の鉛直面に発生するせん断応力に比べ,この船団応力は約2倍程度の大きさになることが計算された.この結果から,せん断応力は,主桁周辺で均等に分布するのではなく,シアコネクタ短辺側で大きくなることが推測された.すなわち,3次元的な荷重伝達効果が確認された.

非線形有限要素法に代わり,シアコネクタのせん断伝達耐力を算出する簡便な方法として応力伝達モデルを構築した.せん断伝達耐力を支配する載荷端の近くに設置されたシアコネクタについては,構築された応力伝達モデルによる解析値は実験値とよく一致している.特にシアコネクタの設置間隔が狭い場合,最大荷重時の伝達力に対する応力伝達モデルの解析値は,概ね実験値と一致する.さらに,短辺スタッドと長辺スタッドのせん断伝達力の評価も応力伝達モデルに組み込んだ.この結果,応力伝達モデルによるシアコネクタ,短辺スタッドおよび長辺スタッドのせん断伝達耐力の解析値は実験値とよく一致することとなった.

次に,曲げモーメントとせん断力の伝達機構に対し,1/2縮尺の供試体を用いた水平押し抜き実験を行なった.水平押し抜き破壊が観察され,支圧応力は設計荷重レベルでは発生しないものの破壊時に発生し,供試体上面に局所的な支圧破壊を起こすことが確認された.この支圧破壊に対し,主桁フランジを拡幅することで補強は可能であり,補強効果はフランジ幅の拡幅比率以上であることが明らかになった.

模型実験と数値解析で解明された拡幅接合部の伝達機構に基づいて,施工履歴を考慮した逐次解析および完成系での単独解析に加え,躯体の有効剛性を考慮した鋼殻の設計法を提案した.合わせて,軸力に対するせん断伝達耐力の算定式,曲げモーメントおよびせん断力が作用する場合の支圧応力度,割裂および水平押し抜きに対する断面照査方法も提案した.シアコネクタと短辺・長辺スタッドのせん断伝達耐力算定式,支圧破壊・割裂破壊・水平押し抜き破壊に対する鉄筋による補強の照査方法も提案した.

最後に,提案した構造照査方法に基づき, 1/2縮尺の供試体を使った性能確認実験を行った.荷重レベル全てのケースに対して,発生応力が短期許容応力度あるいは降伏応力以下であることを確認した.特に押し抜き耐力については,提案式から算出されるせん断伝達耐力に対して十分な安全率が確保されていることを確認した.この結果,提案した拡幅構造接合部に対する設計手法の妥当性が検証された.

審査では,上記の論文内容を審議するとともに,文合流部を有するシールドトンネル拡幅構造部の応力伝達機構に対し,模型実験・数値解析・実証実験を用いた包括的な検討の妥当性を議論した.十分妥当であることは確認され,さらに,本論文で構築された応力伝達モデルや,各種照査方法の実用性は高いと判断した.このような知見と成果は,過密都市でのシールド工法の適用範囲を拡大するとともに,シールドトンネルの分合流部のより合理的な設計手法・施工方法の開発に貢献すると考えられる.また,学位申請者が学位に値する専門的な学識を有していることも了解された.この結果,学位にふさわしい論文であると判断された.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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