学位論文要旨



No 217102
著者(漢字) 伊東,雅之
著者(英字)
著者(カナ) イトウ,マサユキ
標題(和) 集束イオンビーム注入法を用いた量子細線形成における高品質化とそのメソスコピック輸送特性評価
標題(洋) Fabrication of High-quality Quantum Wires by Focused-Ion-Beam Implantation and Their Mesoscopic Transport Characterization
報告番号 217102
報告番号 乙17102
学位授与日 2009.02.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17102号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 荒川,泰彦
 東京大学 教授 榊,裕之
 東京大学 教授 樽茶,清吾
 東京大学 教授 平川,一彦
 東京大学 教授 田中,雅明
 東京大学 准教授 高橋,琢二
 東京大学 准教授 岩本,敏
内容要旨 要旨を表示する

本論文は「Fabrication of High-quality Quantum Wires by Focused-Ion-Beam Implantation and Their Mesoscopic Transport Characterization(集束イオンビーム注入法を用いた量子細線形成における高品質化とそのメソスコピック輸送特性評価)」と題し、デバイス小型化、高集積化のために半導体加工技術のポテンシャルと電子伝導メカニズム解明を目的として、最新の半導体超微細構造加工技術を応用して低次元構造である高品質半導体の形成を試み、とりわけ集束イオンビーム注入法を用いて量子細線構造の高品質な形成法とその問題点を論じ、装置改造を含む解決策を探りながら量子細線構造形成に伴う加工要因的電子移動度低下を極力抑制し、かつ大きなメソスコッピック物理現象観測のための条件を検討して新しいメソスコピック構造形成の可能性を実験的に検証した研究成果についてまとめたものであり、全六章より構成され、英文で記されている。尚、本論文における"高品質(High-quality)"の定義については (1)元ウェハから加工する際の電子移動度劣化が少ないこと、(2)大きな(支配的な)メソスコピック現象が観測できること、以上の二点を満たすこととした。

Chapter 1. Introduction

本研究の導入としてメソスコピック系のスケールと特徴的現象を示し、高機能デバイス作製のためのキーとなる結晶成長、加工技術についての現状を概観している。新しいメソスコピック構造デバイス作製のための高品質低次元構造の形成法と電子輸送特性、メソスコピック物理現象を解析する本研究の意義と目的を明確化し、最も単純な低次元系構造である量子細線を取り上げ、高品質化追求のための検討方針を立案して提示した。

Chapter 2. Quantum Wires Fabricated by Reactive Ion-Beam Etching (RIBE) andthe One-Dimensional Carrier Concentration

RIBEを用いた量子細線の形成法と電子輸送特性について議論している。二層レジストを用いた電子ビーム(EB)露光とシャロウRIBEを組み合わせた作製法により、従来困難であった細くて長い低ダメージである量子細線の形成に成功し、高い電子移動度を有することを示した。次にこの系で磁場中でのメソスコピック系の電子伝導現象特有な磁気的ディポピュレーション効果の簡単なフィッティング法から、二つのパラメータ((1)閉じ込め周波数;□o 、(2)一次元キャリア濃度;Nl)を直接同時に導出した。更にこの一次元キャリア濃度Nlのパラメータとしての妥当性について実験的にC-V測定から検証した結果について示し、RIBE量子細線の品質性について論じた。

Chapter 3. Low-Landing-Energy Focused-Ion-Beam (FIB) System and its Improvement

超微細構造、新しいメソスコピック構造形成のために不可欠であった新型低エネルギー注入FIB装置(JIBL-104AS)の問題点と改善のための検討、最終的に装置の機械的改良を行って解決を図った経緯を論じている。この装置のGa-FIB注入時にみられた二種類の大きなバックグラウンドノイズ((1)ラフサーフェイス(Rough Surface), (2)スクラッチネス(Scratchiness))の徹底的な原因究明とその低減化について努めた。具体的にはノイズビームの拡がりに関する実験、分析より類推した各種ノイズ発生要因を考察し、ノイズの簡単な低減モデルをたてた検討から実際に装置改造後にはこの二種のノイズの大幅な低減化に成功したことを示した。また更にFIB注入時のビーム状態をリアルタイムに把握する簡単なビームモニタシステムを考案し、装置改造とこのモニタシステムの導入によって超微細構造、メソスコピック構造形成のためのFIB注入環境を飛躍的に整備できたことを説明した。

Chapter 4. Quantum Wires Fabricated by Ga-Focused-Ion-Beam (Ga-FIB) Shallow Implantation

"Ga-FIB浅留めイオン注入法"による量子細線の形成法と電子輸送特性について議論している。注入エネルギーを従来(100 keV)に比べ大幅に低下(69, 30 keV)させ注入ドーズ量も極限値まで減少させる"浅留めイオン注入法"を考案して開発し、量子細線形成における従来の大きな二種の問題点((1)高エネルギー(100 keV)注入による大きな結晶性ダメージ、(2)チャネル内に侵入する多数の予期せぬ注入イオン)の解決を図り、従来に比べ大きく増強されたバリスティック輸送現象を観測した。従来のGa-FIB量子細線や他の形成法による量子細線と電子輸送特性の比較を行った結果、構造線幅0.882 μmで電子移動度の最高値(5.5 x 105 cm2/Vs)、スペキュラリティ係数の最高値(P = 0.842)を得て、本技術"Ga-FIB浅留めイオン注入法"の優位性を明らかにした。また予期せぬ注入イオンと装置固有要因に起因する"バックグラウンド効果"と電子移動度変化から推定する簡単なビーム形状モデルについても考察し、Ga-FIB浅留めイオン注入量子細線の品質性について論じた。

Chapter 5. New Mesoscopic Structures Fabricated by Combination of Focused-Ion Beam (FIB) Instrument and Molecular Beam Epitaxy (MBE) Instrument

従来の問題点であった成長中断の効果を極力抑制したFIB装置とMBE装置の新しい接続システムを構築し、高真空を維持しながらFIB注入後にMBE再成長を行って形成した低次元構造の詳細な形成法と電子輸送特性について論じている。新FIB-MBE接続システムによる変調ドープ構造形成実験でFIB注入後にMBE再成長を行うと、Au+- FIB, Au2+- FIBでは空乏化よりダメージ層形成がメインであるのに対し、Be+- FIB では空乏層領域がイオン注入上方向に拡がることが分かった。この結果を用いて新しい技術である"埋め込みイオン注入法"を開発した。すなわちこの技術をチャンネル狭窄に用いることにより、予期せぬ注入イオンを排除した量子細線の形成、いわば"イオンフリーチャネル狭窄"技術を有する"Be-FIB埋め込みイオン注入量子細線"の形成に初めて成功した。この量子細線は従来のイオン注入による空乏化の欠点であった注入層と空乏層の分離に初めて成功した量子細線であり、新しいメソスコピック構造デバイス作製の可能性を示した。このBe-FIB埋め込みイオン注入量子細線の品質性を論じ、更なる量子細線形成高品質化への可能性、残された課題、今後の研究の発展性について述べた。

Chapter 6. Concluding Remarks

デバイス小型化、高集積化を指向し、新しいメソスコピックデバイス作製のための量子細線形成における高品質化の追求について、新規に開発した重要なナノ形成技術の観点から量子細線のメソスコピック輸送特性の結果をもって振り返り、各章の主要な研究成果をまとめて総括し本論文の結論を述べている。

審査要旨 要旨を表示する

半導体量子細線の輸送現象を明らかにするためには、高品質な量子細線の作製技術の確立が不可欠である。本論文は、「Fabrication of High-quality Quantum Wires by Focused-Ion-Beam Implantation and Their Mesoscopic Transport Characterization(集束イオンビーム注入法を用いた量子細線形成における高品質化とそのメソスコピック輸送特性評価)」と題し、集束イオンビーム注入法を用いて量子細線構造の高品質な形成法とその問題点を論じ、量子細線構造形成のための加工プロセスに伴う電子移動度の低下を極力抑制することにより、新しいメソスコピック構造形成の可能性を実験的に検証した研究成果についてまとめたものであって、英文で記されており全6章より構成されている。

第1章は、「Introduction(序論)」と題して、本研究の導入として、メソスコピック系のスケールと特徴的現象を示し、とりわけ化合物半導体、GaAs系の高機能デバイス作製のための鍵となる結晶成長、加工技術についての現状を概観し、新しいメソスコピック構造デバイス作製のための高品質低次元構造の形成法と電子輸送特性、メソスコピック物理現象を解析する本研究の意義と目的を明確化している。

第2章は、「High-quality Quantum Wires Fabricated by Reactive Ion-Beam Etching (RIBE) and the One-dimensional Carrier Concentration(反応性イオンビ-ムエッチング(RIBE)による高品質量子細線と一次元キャリア濃度)」と題して、RIBEを用いた量子細線の形成法と電子輸送特性について議論している。二層レジストを用いたEB露光と"浅いRIBE"を組み合わせた作製法により、従来困難であった細くて長い量子細線を低損傷で形成することに成功した。また、新しく導入したパラメータである一次元キャリア濃度Nlの妥当性について実験的にC-V測定から検証した結果についても論じた。

第3章は、「Low-landing-energy Focused-Ion-Beam (FIB) System and its Improvement(低エネルギー注入集束イオンビーム(FIB)システムとその改良)」と題して、超微細構造、メソスコピック構造作製のために不可欠であった新型低エネルギー注入FIB装置の問題点の解決を図った経緯を論じている。その結果、この装置のGa-FIB注入時にみられた2種類の大きなバックグラウンドノイズ(Rough Surface, Scratchiness)の徹底的な原因究明とその低減化を行った。また、更にFIB注入時のビーム形状をリアルタイムに把握する簡単なビームモニタシステムを考案した。

第4章は、「Quantum Wires Fabricated by Ga-FIB Shallow Implantation [Ga-FIB Shallow-Inplanted Quantum Wires]("Ga-FIBの浅い注入法"で作製された量子細線)」と題して、注入エネルギー を従来(100keV)に比べ大幅に低下(69, 30keV)させドーズ量も臨界値まで低下させる、"浅い注入法"を考案して量子細線形成の高品質化に成功し、従来に比べ大きく増強されたバリスティック輸送現象を観測した結果を述べている。

第5章は、「New Mesoscopic Structures Fabricated by Combination of FIB and Molecular Beam Epitaxy [New FIB-MBE System](FIB装置と分子線エピタキシ(MBE)装置接続システムによる新しいメソスコピック構造)」と題して、従来の問題点であった成長中断の効果を極力抑制したFIB装置とMBE装置の新しい接続システムを構築した。特に、"埋め込みイオン注入法"をチャンネル狭窄に用いることにより、不本意な注入イオンの無い高品質量子細線の形成の形成に成功した。この量子細線では、従来のイオン注入による空乏化の欠点であった注入層と空乏層の分離がなされている。

第6章は「Concluding Remarks(結論)」であり、各章の主要な研究成果をまとめて総括し、本論文の結論を述べている。

以上これを要するに、本論文では、集束イオンビーム注入法を用いた高品質量子細線の形成技術について論じ、電子移動度の低下を抑制するために、イオンビーム注入に起因する諸問題を克服することにより、量子細線中の電子輸送特性について有用な知見を明らかにしたものであり、電子工学に貢献するところが少なくない。

よって、本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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