学位論文要旨



No 217142
著者(漢字) 小池,新
著者(英字)
著者(カナ) コイケ,アラタ
標題(和) ブロードバンドネットワークでの高品質通信プロトコルに関する研究
標題(洋) Study on High-Quality Communication Protocols for Broadband Networks
報告番号 217142
報告番号 乙17142
学位授与日 2009.03.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17142号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 森川,博之
 東京大学 教授 若原,恭
 東京大学 教授 浅見,徹
 東京大学 教授 相田,仁
 東京大学 准教授 瀬崎,薫
 東京大学 准教授 中山,雅哉
内容要旨 要旨を表示する

ブロードバンドネットワーク時代の到来に伴い、エンドホスト間での広帯域通信が実現可能となり、それを支える通信ネットワークプロトコルにも大きな影響を及ぼしてきた。

End-to-endでシームレスな広帯域通信を実現する上では、途中に存在する様々なボトルネックポイントの解消が必須である。また多数のユーザを多重しつつ個々のユーザの要求に応じた品質を提供可能なQoS(Quality of Service)制御技術も公衆ネットワークを提供する上で必要となる。これらを実現するためのネットワークのインフラストラクチャに関しては、1990年以降のATM(Asynchronous Transfer Mode)に始まる広帯域通信技術の開発により、広域での安価な広帯域ネットワークが実現され、さらにそこで培われた様々なQoS制御技術がIP(Internet Protocol)技術ベースのネットワークへ適用されることなどによって、必要な機能の充実が実現しつつある。これらの進展に伴い、そこで使用されている通信プロトコルに関しても、ブロードバンドネットワークへの対応のために、様々な改良が試行錯誤を通じて取り入れられている。

本研究では、こうした技術動向を背景としながら、ネットワークやアプリケーションとその間を取り持つ高品質通信プロトコルとして、フィードバック型通信プロトコルに着目している。公衆網での提供を考えると、通信網の共有が必要となる。その中でEnd-to-Endでの高品質な通信を実現するということは、通信の信頼性と安定性が必要とされることであると言える。この実現手段として、フィードバック型通信プロトコルの利用が考えられる。そこで本研究ではブロードバンドネットワーク時代に適合した、よりよい高品質なend-to-endの通信を実現し、安定したネットワークを構築することを目的として、ネットワークで得られる情報をフィードバック型制御へ反映させる方式の検討を行ってきている。公衆ネットワークサービス提供の点からは、ネットワーク資源の有効利用とユーザ間の公平性とが併せて要求される。本論文は、こうしたブロードバンドネットワークでのフィードバックに基づく通信プロトコルの性能と設計に関する一連の研究成果をまとめるものである。

ブロードバンドネットワーク環境において、フィードバック型プロトコルが抱える課題要因は主として制御遅延に伴う要因である。ネットワークの利用効率を上げるためには、広帯域化にともないネットワーク内に滞留するデータ量を増大させる必要があるが、このことは他方、end-to-endの制御のみでは制御遅延を招く。そのような状況でも適切な制御を実現するための方法を検討することは、必要な課題である。またブロードバンドネットワークでやりとりされるコンテンツあるいはブロードバンドアプリケーション自体には多様な特性を持つものが存在する。フィードバックベースの通信プロトコル利用の元で、アプリケーションあるいはコンテンツの多くは、安定したネットワークを暗黙のうちに仮定している。このネットワークの安定性という要求条件を満たすための適切なトラヒック制御も必要な課題となる。本研究においては、一貫してこれらの課題に焦点をあて、フィードバック制御をベースとする高品質通信プロトコルに対して、ネットワーク情報に基づいて、連携方法や利用方法に対する様々な面からのアプローチと検討結果を論ずる。

第一章においては、本研究の背景と目的をより明確にするため、まず、ブロードバンドネットワーク環境での高品質通信プロトコルの課題について概略を述べる。特に、本研究での検討の中心となるフィードバック型の高品質通信プロトコルとしてATMでのABR (Available Bit Rate)サービスカテゴリおよびIP上のTCP(Transmission Control Protocol)に関する課題を簡略に述べる。その後本研究の概要と目的、論文構成をまとめる。

第二章においては、上述のABRサービスカテゴリに関する事項を論ずる。本章では上位レイヤでの制御の影響などを除外し、ネットワークの与える輻輳情報とABRの制御自体との関係に関しての検討を加える。まず、ABRサービスカテゴリの設計目標とその具現化である輻輳制御方法であるレート制御型のフィードバック制御に関して詳述する。そしてネットワーク中のスイッチが与える輻輳情報の与え方について概観する。本章では特に、ネットワーク中のスイッチが1ビットの輻輳情報しか提供しない場合について、制御パラメータ設定の方法に関する議論を行われ、パラメータ設定方法についての提案がなされる。また輻輳情報の送信端末への返送方法を工夫することで、どのような性能上の差異が生じるかについての検討結果を論ずる。

第三章においては、ABRとTCPという2つの異なる通信レイヤに存在するフィードバック制御プロトコルの間での連携について論ずる。2つのレイヤに独立に存在するフィードバック制御がend-to-endでの通信性能に及ぼす影響を明らかにし、両者の連携方法を探ることが本章の課題である。まず第2章で述べた方法などによりABRをバックボーンネットワークに適応することでセル廃棄が生じないATMバックボーンネットワークを構築したとしても、上位レイヤで実施されている制御であるTCPによる制御との整合が取れず、エッジルータなどでパケット廃棄が発生し、結果としてend-to-endの性能劣化を招く自体が生じうることに着目する。さらにこれらを背景にABRでのレート制御情報を上位レイヤで扱うための新たなAPI(Applications Programming Interface)構築の必要性を論ずる。従来のATM用のAPIは固定的な帯域情報の要求や遅延要求の設定などの機能に限られて構築されていた。本研究では上位レイヤとの連携を考えると、動的に変動するABRのレート情報を通信途中で上位レイヤのプロトコルとやりとりする新たなAPIが必要となることを指摘し、実現するためのAPIを提案する。さらに本章ではこれらのAPIのプリミティブについて詳述する。そしてこれらのABR用の制御情報を扱うAPIを使うことで、end-to-endの性能改善がどのようになされるかに関する一連の検討結果を詳述する。この制御情報の利用によるABRとTCPの連携方法として、ABRのレート制御情報と連動したルータ等でのTCPのAck(Acknowledgement)パケット間隔の制御方法が本研究の中では提案され、その効果についての解析結果について論ずる。

第四章においては、ネットワーク自身が持つ潜在的な情報をどのようにend-to-endのTCP制御に適応するかを論ずる。特にブロードバンドネットワークの時代となり、end-to-endのフィードバック制御のみでは、ネットワーク資源の有効利用やend-to-endの性能改善に様々な問題が生じることが明らかになってきた。この種の問題の一例にTCPコネクション間の公平性の問題がある。これらを解決する手法の検討が本研究の課題である。本章ではend-to-endでの制御だけでなく、ネットワーク自身がアクティブに介在する手法を提案し、一連の検討を論ずる。本章ではまず類似の手法についての概観を簡潔に行い、前章で述べたAckパケット間隔を調整する方法の適用を論ずる。本章では、下位レイヤにABR使用して、そのフィードバック情報を明示的に使用した前章での研究とは異なり、そのような下位レイヤから明示的に伝えられる情報を使わない環境でのAckパケット間隔調整方法の実現方法の提案とその効果に関する一連の検討を論ずる。特に本章ではネットワーク内にボトルネックルータがある場合を検討する。シミュレーションによる解析により、end-to-endでのTCPの性能改善とともに、TCPコネクション間の公平性についても改善についても論ずる。

第五章では、本論文で述べた内容をまとめるとともに、ネットワーク情報の利用についての展望を述べた。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「Study on High-Quality Communication Protocols for Broadband Networks (ブロードバンドネットワークでの高品質通信プロトコルに関する研究)」と題し、ブロードバンドネットワーク時代に適合した公平かつ安定したネットワークを構築し高品質なend-to-endの通信を実現することを目的とし、フィードバック制御をベースとする高品質通信プロトコルに対して、ネットワークで得られる情報をフィードバック型制御へ反映させるための連携方法や利用方法に対する様々な面からのアプローチの提案及び評価を行っている。

第1章は「Introduction(序論)」であり、本研究の主題となるブロードバンドネットワーク環境での高品質通信プロトコルの課題について概観すると共に、本研究での検討の中心となるフィードバック型の高品質通信プロトコルとしてATMでのABR (Available Bit Rate)サービスカテゴリおよびIP上のTCP(Transmission Control Protocol)に関する課題を簡略に述べ、本研究の概要と目的、論文構成を示している。

第2章は「Parameter Settings for ATM ABR protocols(ATM ABRプロトコルに関するパラメータ設定)」と題し、上位レイヤでの制御の影響などを除外し、ネットワークの与える輻輳情報とABRの制御自体との関係に関しての検討を加えている。まず、ABRサービスカテゴリの設計目標とその具現化である輻輳制御方法であるレート制御型のフィードバック制御に関して詳述している。そしてネットワーク中のスイッチが与える輻輳情報の与え方について概観している。特に、ネットワーク中のスイッチが1ビットの輻輳情報しか提供しない場合について、制御パラメータ設定の方法に関する議論が行われ、パラメータ設定方法についての提案がなされた。また輻輳情報の送信端末への返送方法を工夫することで、どのような性能上の差異が生じるかについての検討結果を論じている。

第3章は「APIs for Flow Control and ABR/TCP Interworking as Their Applications (フロー制御のためのAPIとそのアプリケーションとしてのABR/TCPインターワーキング)」と題し、ABRとTCPという2つの異なる通信レイヤに存在するフィードバック制御プロトコルの間での連携について論じている。2つのレイヤに独立に存在するフィードバック制御がend-to-endでの通信性能に及ぼす影響を明らかにし、両者の連携方法を探ることを課題としている。まずABRをバックボーンネットワークに適応することでセル廃棄が生じないATMバックボーンネットワークを構築したとしても、上位レイヤで実施されている制御であるTCPによる制御との整合が取れず、エッジルータなどでパケット廃棄が発生し、結果としてend-to-endの性能劣化を招く自体が生じうることに着目している。さらにこれらを背景にABRでのレート制御情報を上位レイヤで扱うための新たなAPI(Applications Programming Interface)構築の必要性を論じている。従来のATM用のAPIは固定的な帯域情報の要求や遅延要求の設定などの機能に限られて構築されていた。本研究では上位レイヤとの連携を考えると、動的に変動するABRのレート情報を通信途中で上位レイヤのプロトコルとやりとりする新たなAPIが必要となることを指摘し、実現するためのAPIを提案している。さらにこれらのAPIのプリミティブについて詳述している。そしてこれらのABR用の制御情報を扱うAPIを使うことで、end-to-endの性能改善がどのようになされるかに関する一連の検討結果を詳述している。この制御情報の利用によるABRとTCPの連携方法として、ABRのレート制御情報と連動したルータ等でのTCPのAck(Acknowledgement)パケット間隔の制御方法が本研究の中で提案し、その効果についての解析結果について論じている。

第4章は「Proposal and Evaluation of a Network-Initiated TCP Control(ネットワーク駆動型TCP制御の提案と評価)」と題し、ネットワーク自身が持つ潜在的な情報をどのようにend-to-endのTCP制御に適応するかを論じている。特にブロードバンドネットワークの時代となり、end-to-endのフィードバック制御のみでは、ネットワーク資源の有効利用やend-to-endの性能改善に様々な問題が生じることが明らかになってきている。この種の問題の一例にTCPコネクション間の公平性の問題がある。これらを解決する手法の検討を本研究の課題として扱っている。end-to-endでの制御だけでなく、ネットワーク自身がアクティブに介在する手法を提案し、一連の検討を論じている。まず類似の手法についての概観を簡潔に行い、Ackパケット間隔を調整する方法の適用を論じている。下位レイヤにABR使用して、そのフィードバック情報を明示的に使用した前章での研究とは異なり、そのような下位レイヤから明示的に伝えられる情報を使わない環境でのAckパケット間隔調整方法の実現方法の提案とその効果に関する一連の検討を論じている。特にネットワーク内にボトルネックルータがある場合を検討している。シミュレーションによる解析により、end-to-endでのTCPの性能改善とともに、TCPコネクション間の公平性についても改善についての結果も論じている。

第5章は「Conclusions(結論)」であり、本論文で述べた内容を総括し、ネットワーク情報の利用についての展望について論じている。

以上これを要するに,本論文は,フィードバック制御をベースとする高品質通信プロトコルの実現のため、ネットワークで得られる情報をフィードバック型制御へ反映させるための連携方法や利用方法に対する様々な面からのアプローチを提案し、さらにシミュレーションによりその有用性を示したものであり,情報通信工学上貢献するところが少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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