学位論文要旨



No 217145
著者(漢字) 佐藤,祐也
著者(英字)
著者(カナ) サトウ,ユウヤ
標題(和) タンニン酸を用いたRO/NF膜の改質技術とモデル解析に関する研究
標題(洋)
報告番号 217145
報告番号 乙17145
学位授与日 2009.03.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17145号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 中尾,真一
 東京大学 教授 山口,由岐夫
 東京大学 教授 迫田,章義
 東京大学 教授 大久保,達也
 東京大学 教授 滝沢,智
内容要旨 要旨を表示する

本研究では、市販のRO/NF膜性能のコントロールに着目し、タンニン酸を中心とした改質剤を用いて、市販のNF膜の改質処理、及び実際の装置にて使用し、酸化劣化を引き起こしたRO膜の回生処理を行うことで、膜の性能がどのように変化するかを検討した。そして、改質処理によるNF膜の性能変化を、NF膜に存在するナノオーダーの欠陥部が原因であるとして、SHPモデルやTMSモデルなどの理論モデルを用いた解析を試みた。さらにモデル計算を用いて、分離性能の低いRO/NF膜を、改質処理によってどの程度の性能コントロールが可能であるか、定量的に考察し、性能向上処理の指針を示した。最後に、本改質処理の応用例として、タンニン酸の酸化防止効果に着目し、タンニン酸を用いた改質処理によって、ポリアミド系RO/NF膜の酸化劣化防止技術を検討した。

第2章では、近年の物理的欠陥をもたない、市販のNF膜に対して、タンニン酸による改質処理を行い、分離性能や透過水量にどのような影響を与えるかについて検討した。さらに、実際の装置にて使用し、酸化劣化を引き起こしたRO膜についても、同様なタンニン酸処理によって、性能の回復が可能であるかどうかの検討を行った。その結果、市販のNF膜として、日東電工社製のLES90を用いて、タンニン酸による改質処理を実施したところ、五倍子タンニン酸が最も高い分離性能向上効果を持つことが分かり、長期的な安定性も確認できた。また、処理方法、処理時間、処理濃度等の最適化を行った。酸化劣化を引き起こしたRO膜について、回生処理を検討した結果、分離性能の回復効果があることが分かった。

第3章では、比較的RO膜に近い分離性能を有するNF膜であるLES90に、透過性の低い正常部分と、透過性の高い欠陥部分の2種類の部分があり、タンニン酸による改質処理によって、欠陥部分が修復され、LES90の分離性能が向上するものと仮定した。そしてこの現象を、非平衡熱力学モデルやSHPモデル、TMSモデルなどを用いて理論的な検討を加え、中性溶質及び電解質を用いた透過実験結果との比較を試みた。その結果、実験値と計算値は、良い一致を示し、本解析方法は、タンニン酸によるNF膜の修復現象を表現するのに妥当であることが分かった。

第4章では、第3章にて妥当性を検証した、NF膜のモデル解析手法を用いて、ある分離性能を持つRO/NF膜を、目的の性能に向上させるために、タンニン酸を用いた処理をどのように行えばよいかについて検討した。低分離性能のRO/NF膜として、(1) 欠陥の絶対量が多い、(2) 欠陥部分のゼータ電位が小さい、(3) rp=1 nmとrp>1 nmの欠陥細孔が共存する、という3つのケースを想定した。その結果、(1)改質前のσを設定することにより、改質後にある分離性能とするために必要な補修率を見積もることが可能であり、低分離性能膜の改質設計指針となり得ることが分かった。(2)欠陥部分のゼータ電位が小さいほど、改質による分離性能向上効果が大きくなっていることが分かった。(3)正常部分の割合が低い膜の場合、補修できない欠陥細孔の存在によって、分離性能向上を目的とした改質処理を施しているにもかかわらず、逆に分離性能が低下する場合があることが分かった。

第5章では、タンニン酸による膜改質の応用技術として、市販のNF膜やRO膜に対してタンニン酸を用いた改質処理を施し、酸化剤耐性を付与できるかどうかについて検討した。その結果、市販のNF膜に対して、タンニン酸による定期的な酸化剤耐性処理を行った結果、0.1~0.3 mgCl/L程度の次亜塩素酸ナトリウムを連続添加しても、膜の酸化劣化を大幅に抑制できることが分かった。一方、市販のRO膜に対して同様の処理を行った結果、一定の酸化劣化抑制が確認できたものの、NF膜のような大きな効果は認められなかった。

以上のように、本研究では、タンニン酸という物質に着目し、それがRO/NF膜に与える影響について実験的・理論的な検討を行った。タンニン酸は、RO/NF膜の性能向上作用、酸化劣化膜回生作用を持ち、さらに酸化剤耐性作用を持つことが明らかとなった。NF膜が正常部分と欠陥部分という2つの部分から構成されているという仮定のもと、モデル計算の結果、その妥当性が示され、さらにRO/NF膜の後処理による性能コントロール方法の指針を示すことができた。

以上

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「タンニン酸を用いたRO/NF膜の改質技術とモデル解析に関する研究」と題し、タンニン酸を用いた市販RO/NF膜の改質処理による膜性能のコントロール技術および膜の酸化剤劣化防止技術を検討し、更に膜性能変化を記述するモデル解析法を提案したもので、全6章からなっている。

第1章は序論であり、研究の背景と目的を述べている。現在、海水淡水化や超純水製造、廃水処理や浄水処理において、逆浸透(RO)膜やナノろ過(NF)膜が広く使われているが、市販RO/NF膜の性能グレードが少ないことから必ずしも用途に最適な膜性能を選択できないことや、現在主流の膜では酸化剤耐性がほとんどないことなどを問題点として指摘している。そこで簡易でかつオンサイトで膜性能のコントロールが出来、同時に膜の酸化剤耐性も付与できる技術の開発を本研究の目的として設定している。また、開発技術による膜性能の向上を定量的に予測するための解析モデルの構築も目的としている。

第2章では、まず物理的欠陥をもたない、劣化等のない市販のRO/NF膜に対して、タンニン酸による改質処理を行い、分離性能や透過水量にどのような影響を与えるかについて検討している。さらに、実際の装置で使用し、酸化劣化を引き起こしたRO/NF膜についても、同様なタンニン酸処理により性能の回復が可能であるかどうかの検討を行っている。その結果として各種検討した改質剤の中では五倍子タンニン酸が最も高い分離性能向上効果を持つことを明らかにし、また改質効果の長期的な安定性も確認している。

第3章では、比較的RO膜に近い分離性能を有するNF膜の構造モデルとして、膜は純水透過性が低く塩阻止性の高い正常部分と、純水透過性が高く塩阻止性の低い欠陥部分の2つの部分からなるモデルを提案し、タンニン酸による改質処理にり欠陥部分が修復され、膜の分離性能が向上するものと仮定している。そして分離性能向上効果を定量的に解析するモデルとして、正常部分の透過現象を記述する非平衡熱力学モデルや欠陥部分の透過性を記述する立体障害細孔モデル、膜の荷電効果により塩阻止性能を記述するTeorell-Mayer-Sieversモデルを組み合わせたモデルを新たに提案し、中性溶質および電解質を用いた透過実験結果の解析を試みている。その結果、実験値とモデル解析結果とは良い一致を示したことから、本モデルおよび解析方法はタンニン酸によるNF膜の修復現象を表現するのに妥当であることを示している。

第4章では、第3章において妥当性を検証したNF膜のモデル解析手法を用い、ある分離性能を持つRO/NF膜を目的の性能に向上させるために、タンニン酸を用いた処理をどのように行えばよいかについて検討している。低分離性能のRO/NF膜としては、(1) 欠陥の絶対量が多い、(2) 欠陥部分のゼータ電位が小さい、(3) タンニン酸改質可能なサイズの欠陥細孔とそれより大きなサイズの欠陥細孔とが共存する、という3つのケースを想定している。検討の結果、改質前の塩阻止性能を設定することにより、改質後に目的分離性能を得るために必要な欠陥細孔補修率を見積もることが可能であり、低分離性能膜の改質設計指針となり得ることを明らかにしている。また、改質できない大きなサイズの欠陥細孔のある分離性能の低い膜では、分離性能向上を目的とした改質処理を施しているにもかかわらず、逆に分離性能が低下する場合があることも明らかにしている。

第5章では、タンニン酸による膜改質の応用技術として、市販のNF膜やRO膜に対してタンニン酸を用いた改質処理を施し、酸化剤耐性を付与できるかどうかについて検討している。その結果として、市販のNF膜に対して、タンニン酸による定期的な酸化剤耐性処理を行うことにより、0.1~0.3 mgCl/L程度の次亜塩素酸ナトリウムを連続添加しても、膜の酸化劣化を抑制できることを明らかにしている。

第6章では本研究の総括を述べるとともに、本研究で開発した膜改質技術の更なる展開のために、エンジニアリング上非常に重要な今後の研究開発課題を述べている。

以上に示すように、本研究は、タンニン酸改質処理がRO/NF膜の性能向上作用、酸化剤耐性作用を持つことを明らかにしたものであり、また新たに提案した膜構造モデルに基づき膜性能の解析法を導出したもので、膜分離技術の更なる開発、普及に大いに資するものであり、化学システム工学に貢献するものである。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク