学位論文要旨



No 217149
著者(漢字) 藤田,信夫
著者(英字)
著者(カナ) フジタ,ノブオ
標題(和) 埋設パイプラインの継手部挙動の解明と曲線布設・柔構造底樋への適用
標題(洋)
報告番号 217149
報告番号 乙17149
学位授与日 2009.03.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第17149号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 田中,忠次
 東京大学 教授 塩沢,昌
 東京大学 教授 宮崎,毅
 東京大学 教授 古関,潤一
 東京大学 准教授 西村,拓
内容要旨 要旨を表示する

地中に埋設されるパイプラインは,周辺地盤の影響を受けて様々な挙動を示す.その水理的・構造的な安全性は地盤との相互作用によって規定されるといっても過言ではない.継手を接続して構築される"継手構造管路"では,軟弱地盤における不同沈下や地震時に発生する地盤変位などを吸収するように,管路内の各継手が伸縮・屈曲することを特長とする.圧力パイプラインの継手部は管体と同等の水密性能を有しているが,伸縮・屈曲の機能に関しては設計に十分反映されているとはいえない.その理由のひとつには,継手の伸縮屈曲に対する余裕量の評価に未解明の部分が残されていることがあげられる.継手の挙動に最も大きく影響を与えるのは大規模地震動による地盤ひずみであるが,地震時に管路全体の継手がどのように伸縮・屈曲の変化を示すか,調査報告された事例は極めて少ない.

継手構造管路においては,継手の特性がパイプラインの軸方向挙動を規定していることから,その挙動を明確にすることが被害の軽減や経済的な施設構築に結びつく.また,地震以外にも局所的な変位が発生する可能性として,内圧による不平衡力の作用する屈曲部や,圧密による不同沈下などが課題にあげられる.継手の伸縮余裕を評価することは,これらの課題解決の基礎となる設計諸元を明らかにすることであり,その機能を積極的に活用する上でも重要である.

本論文では,地盤とパイプの相互作用という観点から,パイプライン継手部の挙動を明らかにし,継手が有する伸縮屈曲機能の有効性と設計への適用について論述する.まず第一に,大規模地震動を経験したパイプラインの継手部挙動を個別的・統計的に分析し,安全性評価のための指標を導入して伸縮・屈曲に対する余裕量を評価した.次に,既往の曲管に替えて,継手管路を曲線布設して屈曲点に対応する場合の不平衡力に対する挙動を明らかにするとともに,設計手法を提示した.さらに,既往のコンクリート製のため池底樋に替えて,継手管路で構築した柔構造底樋を適用する場合に課題となる沈下追従性と水みち抑止の効果を明らかにするとともに,設計手法を提示した.

本論文は5章で構成される.以下に各章ごとの要旨を述べる.

第1章では,本研究の背景と目的ならびに継手構造の埋設パイプラインに関する既往の研究について記述した.

第2章では,埋設管の継手が最も大きな影響を受ける地震時の挙動から,継手の伸縮余裕を評価した.大口径の農業用パイプラインとして実績が豊富なFRPM管とダクタイル鉄管を対象に,大規模地震動を経験した実管路の計測結果を収集し,3事例について統計的に分析した.

その結果,口径・管種・布設条件の異なる3事例に共通する特徴として,地震動による全ての継手の伸縮変化を平均して比較すると,地震前後の差は2mm以下と小さく,また変化の増分は正規分布で表現できることが明らかとなった.

また,基礎材に拘束効果の高いソイルセメントやセメント改良土を適用した区間では,通常の砂基礎区間と比較して伸縮変化のバラツキを抑制する効果が高いことがわかった.

過去の地震ではコンクリート構造物や異形管のきわで相対変位が増大し,被災する事例が多いことが明らかとなっている.管路内の継手の順列に着目し,構造物・異形管からの離隔を指標として分析すると,3事例とも構造物(屈曲部)からの離隔が継手の地震時挙動に極めて大きな影響を与え,構造物から3~5本を境界として傾向が大きく変化することが明らかとなった.

そこで,異形管きわの継手と直線部の継手とで伸縮余裕の違いを把握するため,安全性評価の指標を用いて検証した.その結果,直線部の継手の被害確率は非常に小さく,初期屈曲に伴う伸出しを考慮しても,異形管きわの継手より抜出しに対する安全性が高いことが明らかとなった.継手構造管路の耐震設計においては,継手の許容曲げ角度θaまでの屈曲に伴う伸出しを見込んで照査値が定められている.地震時挙動の観測結果からは,その1/2の範囲,すなわち設計曲げ角度θd相当の伸出し範囲までは設計に反映させることが可能と判断される.

第3章では,第2章で安全性を評価した範囲内で継手の機能を活用し,管路の曲線布設を実施する際に課題となる内圧負荷時の不平衡力に対するパイプの挙動を解明した.φ250mmのパイプによる模型実験に対して有限要素解析と現行の設計値とを比較検証し,その設計方法について検討した.また,それらを踏まえてφ2000~1800mmの実管路に曲線布設を適用し,1年間の挙動観測から安全性と有効性の検証を行った.

曲線布設は屈曲内部に複数の継手が配置された管路形態であるが,模型実験の結果,内圧スラスト力を分散し,同一角度の曲管と同等の反力をより広い範囲で均等に得る効果があることが明らかとなった.また,反力土圧は現行の曲管に準じた設計値と合致することも明らかとなった.

有限要素解析からの検討では,シェル要素とバネ要素で構成した3次元解析モデルは継手の効果を反映し,曲管と曲線布設とで異なる変形モードを示す実験値を管路全体として再現できることが確認できた.また,地盤特性を考慮した2次元弾塑性解析は,管軸方向に均等な挙動を示す曲線布設部の実験値と符合し,背面土圧分布や3次元解析のバネ定数の評価にも有用であることが明らかとなった.

これらの結果から,曲線布設部に作用する内圧スラスト力の検討は,屈曲箇所ごとに両側の管の1/2づつの背面長さを考え,曲管の場合と同様に設計することができると判断される.

さらに,φ2000~1800mmの大口径パイプラインにおける実証確認は,17屈曲点(100本)の曲線布設部とその前後(91本)の直線部について,施工精度と施工後1年間の通水による影響を検証した.その結果,各継手は適正に施工管理がなされており,屈曲角度の精度も設計値に対して±1°以内であることが確認できた.また1年間の通水に伴う継手間隔の変化は,曲線布設の有無による影響は認められないことが明らかとなった.

第4章では,継手の機能を活用して,ため池底樋の柔構造化への適用を図るため,模型実験と数値解析を行い,水みち抑止効果と沈下追従性について検証した.その上で,極めて大きな局部沈下が予測されたため池堤体の改修に柔構造底樋を適用し,2年以上にわたる挙動観測を実施した.これらの結果より,以下のことが明らかとなった.

底樋と地盤の接触面における浸透は動水勾配の増大に伴って卓越し,土粒子の移動を生じて水みちが形成される.定常浸透解析の手法を用い,接触面の透水係数の変化を指標とすることで,模型実験結果の圧力・流量変化を表現できることが確認できた.また,この下流側から進展する水みちに対して,止水壁の設置は限界動水勾配の向上に効果があるが,設計で考慮する浸透経路長の拡大より,土粒子の流亡を抑止する機能が重要と判断される.

一方,沈下に伴って形成される水みちは,上流側の水圧が空隙に直接作用して亀裂が進展するモードを示す.継手構造の底樋は沈下に追従することで管体に沿って浸透する流量がより少なく,より高い圧力水頭まで地盤との密着度を保持する.このことが接触面での空洞発達を抑制し,パイピングに対する抵抗性を向上させる効果を明らかにした.また水平方向の浸透流解析では,水みちが形成されるまでの定常状態における解析値は実験値をよく再現している.管底圧力分布に着目し,実験値が解析値から乖離して低下する過程から水みち形成を判断できることを明らかにした.

実際の構造物では,接触面の浸透が卓越して生じる下流側からの水みちと,沈下によって生じた空隙に内圧が作用する上流側からの水みちとが複合あるいは並存して進展すると考えられるが,継手を有する底樋管路はいずれのモードに対しても効果を発揮することが明らかとなった.

実証確認では,口径800mmのダクタイル鉄管による柔構造底樋が,布設時から施工2年後までの間に350mmに達する局部沈下に追従し,管路を構成する各継手が許容値以内で伸縮・屈曲することが明らかとなった.さらに最も大きな沈下を示した底樋表面での有効土圧の変化から,沈下後も周辺地盤との密着性は保持され,接触面での空洞発達を抑止していると判断される.

第5章では,第2章から第4章で得られた結論を総括した.

審査要旨 要旨を表示する

農業用パイプラインは,これまでに建設された基幹水利施設に限っても10,000kmを超えるストックを形成している.今後も水利用形態の高度化・効率化等に対応し,老朽化した開水路の更新等でパイプラインが重要な役割を担うものと考える.

継手を有する単位管を接続して構築された"継手構造管路"は,軟弱地盤における不同沈下や地震時に発生する地盤変位などを吸収するように管路内の各継手が伸縮・屈曲することを特長とする.圧力パイプラインの継手部は管体と同等の水密性能を有しているが,伸縮・屈曲の機能に関しては布設時の施工誤差や布設後の地盤変動に対する余裕と見なされ,設計に十分反映されているとはいえない.その理由のひとつには,継手の伸縮屈曲に対する余裕量の評価に未解明の部分が残されていることがあげられる.継手の挙動に最も大きく影響を与えるのは大規模地震動による地盤ひずみであるが,管路内のウィークポイントの抽出と被害を最小限にするための方策は示されているものの,管路全体の継手が地震前後でどのように伸縮・屈曲の変化を示すか,調査報告された事例は極めて少ない.

継手構造管路においては,継手の特性がパイプラインの軸方向挙動について決定的な役割を果たしていることから,その挙動を明確にすることが被害の軽減や経済的な施設構築に結びつく.また,地震以外にも局所的な変位が発生する可能性として,内圧スラスト力を受ける屈曲部,圧密による不同沈下などが課題にあげられる.継手の伸縮余裕を評価することは,.これらの課題解決の基礎となる設計諸元を明らかにすることであり,その機能を積極的に活用する上でも重要である.

本輪文は,埋設パイプラインの継手が有する伸縮屈曲機能を評価するとともに,その機能を活用して新たな分野へ展開するための課題の解明を行ったものである.

第一に,大規模地震動を経験したパイプラインの継手部挙動を個別的・統計的に分析し,安全性評価のための指標を導入して伸縮・屈曲に対する余裕量を評価した.布設条件の大きく異なる3件の管路調査事例を分析した結果,次の共通する特徴が得られた.(1)地震前後の継手伸縮増分は正規分布で表現でき,平均値の変化は小さい.現行の耐震設計の前提条件は妥当と考えられる.(2)構造物(屈曲部)からの離隔が継手の地霞時挙動に極めて大きな影響を与える.(3)構造物きわと直線区間の継手を比較すると,初期屈曲を加味しても直線部の継手の方が抜出しに対する安全性が高い.すなわち,安全性評価の指標を用いて検証した結果,継手の伸縮余裕は定められた許容屈曲角の1/2相当の範囲で設計・施工に適用できることが明らかにされた.

第二に,継手の機能を活用し,管路を曲線布設してパイプラインの屈曲点に対応する場合の土中挙動を解明した.既往の曲管に替えて,屈曲区間の内部に複数の継手が配置された管路形態であっても,内圧スラスト力を分散し,曲管と同等の反力をより広い範囲で均等に得る効果があることが明らかとなった.また継手効果を表現した数値解析手法により実管路の挙動をよく再現できることが確認された.内圧スラスト力の検討は,既存の曲管の設計に準じた手法で,屈曲箇所ごとに設計することができることが分かった.

第三に,継手の機能を活用し,大きな局部沈下を生じるため池の底樋に適用する場合の土中挙動を解萌した.既往のコンクリート製の剛構造の底樋に替えて,継手管路で構築した柔構造底樋を適用する場合に課題となる沈下追従性と水みち抑止効果を検証した.模型実験と数値解析により,底樋と地盤の接触面における浸透は動水勾配の増大に伴って卓越し,土粒子の移動を生じて水みちが形成されるが,定常浸透解析の手法でも接触面の透水係数の変化を指標として結果を表現できることが確認できた.この下流側からの水みち進展に対して,止水壁は限界動水勾配の向上に効果があるが,浸透経路長の拡大よりも土粒子の流亡を抑止する機能が重要と判断される.また沈下に伴って形成される水みちは,上流側の水圧が空隙に直接作用して亀裂が進展するモードを示す.継手構造の底樋は沈下に追従することで接触面での空洞発達を阻害し,パイピングに対する抵抗性が向上する効果を明らかにした.さらに現地適用による有効性の検証でも350mmに達する局部沈下に追従し、周辺地盤との密着性を保持する結果が得られた.

以上,本論文は、埋設パイプラインの継手が有する伸縮屈曲機能を評価し、その機能を活用して新たな分野へ展開するための課題解明を行ったものであり、学術上寄与するところが大きい。よって、審査委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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