学位論文要旨



No 217162
著者(漢字) 下園,武範
著者(英字)
著者(カナ) シモゾノ,タケノリ
標題(和) 統一的な浅海水理モデルの開発
標題(洋) Development of a Universal Model for Nearshore Hydrodynamics
報告番号 217162
報告番号 乙17162
学位授与日 2009.04.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17162号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 佐藤,愼司
 東京大学 教授 磯部,雅彦
 東京大学 教授 石原,孟
 東京大学 准教授 田島,芳満
 東京大学 講師 鯉渕,幸生
内容要旨 要旨を表示する

浅海波浪解析における課題は,砕波のような不連続を含む現象の取り扱いである.従来,砕波モデルといったサブモデルを組み込むことで問題に対処してきた.しかしながら経験的なパラメータを数多く含んだこれらの手法ではその適用範囲に限界がある.一方,ボアに代表されるような双曲型保存則で記述できる不連続面については,弱解の考え方を導入することで解析的な取り扱いが可能となることが古くから知られている.近年,双曲型の問題における不連続面の取り扱いについて衝撃捕捉法と総称される手法が注目され,水理分野でも特に津波遡上や洪水氾濫,ダム崩壊解析といった急変流の問題への適用例が増えている.これらは波形情報を参照しながら,解の単調性を維持するために必要な減衰を自動的に与えるものであり,結果として数値解を保存則の弱解へと収束させることを意図している.この手法は本来,双曲型保存則に向けて開発されたものであるが,双曲性を弱めるような生成項を含む問題についても適用することが可能である.もし,この種の手法を非線形分散波式に適用することができれば,浅海波浪変形を統一的に記述可能なモデルの開発につながることが期待される.そのためには非線形分散波式が不連続な弱解を有していることが前提となるが,近年,非線形分散方程式と不連続解の問題はさかんに研究が行われており,すでに砕波解を弱解として含むような方程式もいくつか見出されている.

本研究の目的は,衝撃捕捉法を非線形分散波式に適用することで統一的に浅海波浪変形を記述できるような新しいモデルの開発を行うことである.一般にTVD法に代表されるような衝撃捕捉法では不連続な部分以外でも減衰が導入されてしまうため,とくに短周期波のような振動的な振る舞いをする解を扱うとき,伝播に伴い波高が減少する結果になる.したがって,この点について何らかの修正が必要であり,本研究では衝撃捕捉法の中で減衰を担う項を取り出し,スイッチ関数とともに通常の高精度差分法に明示的に加えるという方法をとっている.これにより解の滑らかな領域は数値粘性や数値分散を含まない高精度な差分法により計算し,スイッチ関数により解が不連続と判断される領域では減衰を加えることで,両領域での計算精度を両立させることができる.これらの数値計算法を適用するに当たり,既存の非線形分散波式の精度比較を行うとともに,新たな方程式を導出した.この方程式は静水深に拠らない完全非線形分散波式に,いくつかの修正項を加えたものであり,数ある修正パラメーターの決定には従来の解析的な指標に加え,保存波の高次解を用いた数値的な検討を通して決定した.得られた方程式に上記の計算手法を適用することで,浅海波浪場を統一的に記述できるモデルを構築した.このモデルを用いて不連続を含んだ様々な浅海水理現象のシミュレーションを行い,実験結果との比較を通してモデルの適用性について検討を行った.本モデルは砕波や遡上といった不連続面を含む問題でその有効であり,さまざまな条件での砕波帯内の波高や平均水位の変化まで精度よく再現できることが明らかとなった.沖から遡上域までの波浪変形を統一的に扱うことが本モデルは,従来モデルに比して任意性が小さく,安定であるなど多くの利点を有している.

審査要旨 要旨を表示する

浅海波浪解析における課題は,砕波のような不連続を含む現象の取り扱いである.従来,砕波モデルといったサブモデルを組み込むことで問題に対処してきた.しかしながら経験的なパラメータを数多く含んだこれらの手法ではその適川範囲に限界がある.一方,ボアに代表されるような双曲型保存則で記述できる不連続現象については,弱解の考え方を導入することで解析的な取り扱いが可能となることが古くから知られている.近年,双山型の問題における不連続面の取り扱いについて衝撃捕捉法と総称される手法が注目され,水理分野でも特に津波遡上や洪水氾濫,ダム崩壊解析といった急変流の問題への適用例が増えている.これらは波形情報を参照しながら,解の単調性を維持するために必要な減衰を自動的に与えるものであり,結果として数値解を保存則の弱解へと収束させることを意図している.これらの手法は本来,双曲型保存則に向けて開発されたものであるが,双曲性を弱めるような生成項を含む問題についても適川することが可能である.もし,この種の手法を波浪場の支配方程式である非線形分散波式に適用することができれば,浅海波浪変形を統一的に記述可能なモデルの開発につながることが期待される.そのためには非線形分散波式が不連続な弱解を有していることが前提となるが,近年,非線形分散方程式と不連続解の問題はさかんに研究が行われており,すでに砕波解を弱解として含むような方程式もいくつか見出されている.

本研究の目的は,衝撃捕捉法を非線形分散波式に適用することで統一的に浅海波浪変形を記述できるような新しいモデルの開発を行うことである.一般にTVD法に代表されるような衝撃捕捉法は解の単調性を維持するための十分条件に基づくため,不連続な部分以外でも減衰が導入される.その結果,とくに短周期波のような振動的な振る舞いをする解を扱うとき,波の伝播に伴い波高が低減してしまう.この周題に対して,本研究では衝撃捕捉法の中で減衰を担う項を取り出し,スイッチ関数とともに通常の高精度差分スキームに加えたハイブリッドスキームを構築した.これにより解の滑らかな領域は数値粘性や数値分散を含まない高精度な差分法により計算し,スイッチ関数により解が不連続と判断される領域では減衰を加えることで,両領域での計算精度を両立させることができる.

本研究では、これらの数値計算法を適用するに当たり,既存の非線形分散波式の精度比較を行うとともに,新たなモデル方程式を導出した.この支配方程式は静水深に拠らない完全非線形分散波式に,いくつかの修正項を加えたものであり,数ある修正パラメータの決定には従来の解析的な指標に加え,保存波の高次解を用いた誤差評価を通して決定した.得られた方程式は従来式と比較して短波長側への適用範囲が広い.この方程式に上記の計算手法を適用することで,浅海波浪場を統一的に記述できるモデルを構築した.開発したモデルを用いて不連続を含んだ様々な浅海水理現象のシミュレーションを行い,実験結果との比較を通してモデルの妥当性について検討を行った.本モデルは砕波や遡上といった不連続面を含む問題に対して有効であり,さまざまな条件での砕波帯内の波高や平均水位の変化を精度よく再現できることが明らかとなった,沖から遡上域までの波浪変形を統一的に扱うことが本モデルは,従来モデルに比して任意性が小さく,安定であるなど多くの利点を有している.今後,不規則波や重合波,多方向波といった従来モデルでは扱いが国難であった問題への適川が期待される.

以上,要するに,本研究により,従来,経験的なパラメータを数多く含み、適川範囲に限界のあった浅海波浪の数値モデルにおいて、衝撃捕捉法を非線形分散波式に適川することで統一的に浅海波浪変形を記述できるような新しいモデルの開発を行った.これにより,従来モデルに比して任意性が小さく,安定な予測モデルが確立されたのみならず,不規則波や重合波,多方向波といった従来モデルでは扱いが困難であった複雑な問題への適用が可能となることが期待でき,発展性・実用性が高い,

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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