学位論文要旨



No 217186
著者(漢字) 二見,吉雄
著者(英字)
著者(カナ) フタミ,ヨシオ
標題(和) 浮体式洋上アクセス施設の計画に関する研究
標題(洋)
報告番号 217186
報告番号 乙17186
学位授与日 2009.06.18
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17186号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鈴木,英之
 東京大学 教授 木下,健
 東京大学 特任教授 末岡,英利
 東京大学 教授 粟飯原,周二
 東京大学 教授 林,昌奎
内容要旨 要旨を表示する

国土の平野部が狭く、大都市に人口が集中する我が国では、従来から都市部に近接した丘陵部、沿岸部に空間が求められてきた。特に海に周囲を囲まれた地形の特徴から、沿岸を利用した海洋空間の開発では、単に都市周辺の平面的な空間を拡大するにとどまらず、海上にあることによる新たな価値を見出すことが期待されている。近年では、海上にあること、免震性があること、市街地から離れることの価値、利点を活用するために、種々のプロジェクトや試みがなされ、工業用地の埋め立て造成のほかに、海上空港、防災基地、物流基地、石油備蓄基地、アメニティ空間としての居住区域など、沿岸とは独立した埋め立て地盤、洋上浮体構造による空間の創造が図られ提案されており、忘れてならないのがアクセス施設である。

洋上施設への連絡路(以下アクセスと呼ぶ)は、埋め立て、橋梁、桟橋、トンネルなどの例があるが、それぞれ大水深、軟弱地盤、地盤沈下などへの対応に課題がある。一方、大水深、軟弱地盤のような厳しい条件をクリアするために、北欧のフィヨルド、米国の五大湖では、多くの浮体橋が建設されている。

本論文では、埋め立てあるいは浮体構造による洋上施設に必要とされる、浮体式洋上アクセス設備の計画時において、求められる機能とそれを満足するための方式について考察した。

通常のアクセスでは、埋立地盤、浮体間で両者の相対変位が少ない、平坦性の要求が厳しくない、比較的荷重が小さい、などの条件のもとでは桟橋、浮体橋が採用できる。

一方、航空機を移動させる誘導路のように、浮体~浮体、埋立島~埋立島間をむすび、長さ・幅も大規模で活荷重も大きく、平坦性の要求が厳しい場合は別途考慮が必要である。本論文における記述の構成は以下のとおりである。

第1章では、浮体式洋上アクセス設備の計画に関する研究の必要性について述べた。

第2章においては、はじめに洋上施設の現状ついて実績および提案・試設計の具体例を調査した。埋立て、浮体構造によるによる洋上施設について用途を列挙し、それぞれの方式の特徴を述べた。特に浮体構造については大型化と適用可能性の拡大が可能であり、その長所を生かして実用化することが可能である。そして、埋立て方式においては地盤沈下、浮体構造においては潮位変動に対応できるアクセス施設が必要であることを示した。

第3章においては、洋上アクセス施設として埋立て施設(沖合い)、浮体橋梁、洋上浮体構造について、その適用例を調べ、アクセス施設に求められる要件と課題についてまとめた。具体的には、(1)十分な剛性を有する(2)耐震性を有する(3)接続部の不連続性への対応が可能(4)建造、設置が容易(5)継続的に利用が可能(6)地盤変位、潮位変動の影響を少なくする

などの条件が求められることを示した。

そして、洋上アクセス施設のコンセプトを求めるために地盤変位、潮位変動の両者の影響を受ける典型的な例として、陸から数百m以上沖合いの洋上施設を念頭に種々の構造方式の長短を比較し、地盤変位、潮位変動の影響が少ないセミサブ型両端支承方式が適当であることを示した。そして、セミサブ型両端支承方式の特徴として、径間長さが長くなるとスパン中央部のたわみが長さの影響が少なくなり一定の値に収束することが計算結果により明らかになった。また、強度上の観点から、初期ホギングモーメントを設置時に生じさせることが有利であることを示すとともに、類似技術の例としてプラントバージ、半潜水式重量物運搬船、斜張橋が挙げられることを示した。

第4章においては、海上空港における主要施設のひとつである、アクセスおよび連絡誘導路について、関西空港のI期/II期空港島をむすぶ連絡誘導路を例に、技術的課題と対応策についてまとめた。その結果、得られた知見として、地盤変位、潮位変動、航空機荷重に対し、洋上アクセス施設は、洋上にあることにより、浮力を利用し種々の方式が考えられるが、セミサブ両端支承方式が現実的であることがわかった。

第5章においては、前章までに述べたセミサブロワーハル方式の適用性に関して、アクセス施設の載荷荷重によるたわみがどのような特徴を持ち、径間長さ、全体深さ、コラム径などの主要寸法がたわみと応力にどのような影響を及ぼすかを調査するために一連の計算を行なった。その結果以下の知見が得られた。

(1)車両による分布荷重の場合、連絡路の強度、傾斜角度の問題が生ずるのは、主に護岸の支持点からの特性距離の範囲と考えられる。

(2)全体構造深さ(剛性)を増加させると、スパンが長い場合、特性距離の範囲では曲げモーメントは増加する。また、コラム径(浮力バネ定数)を増大させることは、スパンが短い場合は効果が少ないが、スパンが長くなるにしたがい、曲げモーメント、応力の低減効果が顕著になることがわかった。

(3)潮位変動による荷重を受けた場合、全体深さを大きくすると曲げモーメントは増大するものの、上部桁応力は、断面係数の増加により低減できる。また、コラム径を増加させると潮位変動の影響を受け、曲げモーメントと上部桁応力はともに増加する。

(4)スパンが長い場合は、コラム径を増加させると潮位変動の影響が大きくなり、波浪による影響も大きくなる。したがって全体剛性を増加させるか初期ホギングモーメントの導入が有効である。

(5)スパンが短い場合は全体構造深さ(剛性)を増加させることが有効であるが、設置区域の水深、経済的制約により、困難な場合があり、さらに、全体計画、コストに及ぼす影響が大きいため、プロジェクトの成否に関わる場合がある。

第6章においては、空港における浮体式連絡誘導路の設計・計画について、具体的に、第4章で述べた関西空港(以下関空と呼ぶ)のI/II期埋め立て空港島を結ぶ長さ200mの連絡誘導路を対象に洋上アクセス設備の計画例について述べた。そして第3章までに述べたセミサブ型両端支承方式の特徴を生かした連絡誘導路の試設計を行なうとともに、種々の設計上の検討を行ない、その結果、以下の成果が得られた。

(6)初期設計により構造重量と、設置時に必要なバラスト重量を求めて荷重バランスを設定した。そして設計時・建造時における重量管理が重要であることを示した。

(7)セミサブ式ロワーハル構造の場合、設計パラメータの自由度が大きく、さらに浮力を利用していることから、軽量化によるコスト削減が可能な余地があることを述べた。

さらに、関空連絡誘導路を対象として、東京大学で開発された超大型半潜水式波浪中構造応答解析プログラム「VODAC」(Very Large Floating Structure Oriented Dynamic Analysis Code)を用いて波浪中弾性応答解析を実施した。

そして波浪中弾性応答解析の結果から、関空連絡誘導路を浮体式の浮体式セミサブロワーハル方式で計画した場合、次のような知見が得られた。

(8)波浪中の応答値はたわみ、応力ともに波向き90°(橋軸直角方向の波)の場合の応答が卓越しており、応答のピークが生ずる周波数は水中桁の間隔が影響すると考えられる。

(9)また、波浪中弾性応答の有義値は、上下変位については潮位変動および活荷重によるものの約20%である。

(10)端部傾斜角度、加速度、ガーダーの応力の有義値はともに小さな値であった。

(11)セミサブ両端支承方式の構造の計画・設計においては、第5章、第6章で述べたように静的な強度を確認するとともに、設置海域における波浪中弾性応答解析を実施し、問題がないことを確認した。また、過大な応答が生ずる場合には、共振を回避するために、水中桁の間隔、形状、全体剛性などの更なる検討により問題を解決しなければならない。

第7章においては、空港における浮体式連絡誘導路の設計・計画について、洋上アクセス施設に求められる性能を整理し、前章までの検討の過程で得られた知見をもとに設計の流れと主要寸法の設計根拠を考察しまとめた。そして構造の最適化についてその方法と具体例について記述し、以下の成果が得られた。

(12)超大型浮体を海洋空間利用のための基盤施設として使用する場合に求められる諸性能として、安全性、機能性、耐久性、経済性などが挙げられる。洋上アクセス施設の計画・設計においても同様の性能が要求されると同時に、さらに視程、端部の連続性などのアクセス施設独自の性能が要求されることを述べた。

(13)初期設計からの構造重量低減の検討を行ない、そこで得られた知見を取り入れて設計検討フロー、主要寸法の設計根拠、最適化手順としてまとめた。

(14)浮力を利用するセミサブ式ロワーハル構造の特徴として、コラム本数、水中桁の位置(喫水)と形状を最適化することにより、大幅な構造重量低減が可能であり、特に上部桁を軽量化することにより、水中桁の縮小を図ることが可能であり、全体の鋼材重量の低減が可能であることを示した。

第8章においては、浮体式洋上アクセス施設の実現に向けて必要な技術としての長期耐用技術について日本海事協会の鋼船規則B編を準用し、保守管理の考え方としてまとめた。セミサブ両端支承方式による浮体式洋上アクセス施設が橋軸方向に5列の水中桁構造を有することから、この1列を代表船として検査レベルと検査のインターバルを設定し構造の健全性を確認する方法とした。

第9章においては、大型浮体構造の舗装の補修工事について、工程上の検討を行なった。大型浮体構造の舗装においては、グースアスファルトの施工がその防水性、たわみ追従性に着目し検討されている。一方、グースアスファルトは硬く、短時間の打ち換えが困難との懸念がある。特にグースアスファルトの舗装時の温度が250℃と高いため、施設の事情によっては冷却時間を短縮し、供用時間を確保することが求められる。

本章では夏季の深夜にグースアスファルトの舗装打ち換え実験をメガフロート浮体上で実施した結果について述べた。具体的には、

(15)グースアスファルトの補修工事は、夏季においても夜間の5時間以内に施工できる。

(16)基層グースは、内部温度で65℃以下、表層改質は内部温度で55℃以下になればわだちの発生がないことが確認された。

(17)舗装体と鋼板との接着力試験を実施した結果、表層のアスファルト部分で破壊し、グースと鋼板の接着力は、この破壊強度以上と判断された。

第10章においては、浮体式洋上アクセス設備の建造費、維持管理費のライフサイクルコストについて関空北側連絡誘導路の試設計を例に概算の見積もりを行なった。そして、設計変更によるコスト変化について工事費用の区分毎の内訳を求めた。

その結果、上部桁、水中桁の軽量化の効果は大きく、高張力鋼の採用の効果も認められた。工事費用の内訳は、本体構造の費用が60-70% を占め、基礎構造(護岸、支承)が20%程度である。残りの20-30%は接続構造と維持管理費であることがわかった。

本論文の要旨は全体として以下のようにまとめることができる。

1)洋上施設、洋上アクセス施設の現状と実績を調査し、浮体式洋上アクセス施設の計画・設計における技術的課題を整理し、あるべき姿のコンセプトをまとめた。

2)そして、洋上アクセス設備には埋立、浮体、軟着底などの方式が考えられるが、水深、海底の地盤沈下などを考慮して制約が少ないのは浮体式セミサブ両端支承方式と考えられた。実際に地盤沈下、潮位変動の影響を受ける典型的な例として、関西空港のI期/II期空港島をむすぶ連絡誘導路を例に試設計を行い、静的、動的な応答解析を実施した結果、このようなコンセプトによる構造方式が十分に実用に供し得る。

3)上記の検討を行なう中で得られた知見を取り入れて、浮体式洋上アクセス設備の計画、設計における設計検討手順、主要寸法決定根拠、最適化手順として取りまとめた。

4)主要寸法を変化させて静的な計算を行ない、浮体式セミサブ両端支承方式の連絡路が車両荷重、潮位変動に対してどのようなたわみ、応力の挙動を示すかを明らかにした。

5)波浪中弾性応答解析を行ない、得られた応答関数から橋軸直角方向(χ=90°)の波向きの応答が卓越し、静的計算では得られない挙動としての共振ピークが存在することが明らかとなった。初期計画時における水中桁の配置と波長の関係など共振を回避するために注意すべき事項が明らかとなった。

6)本方式を実現するために必要な技術として長期耐用技術、アスファルト舗装の短時間における補修実験について述べ、技術的に十分実現性があることを示した。

7)ライフサイクルコストについては、設計変更に応じてコストがどのように変化するかを工事区分ごとに求めた。

以上の検討を通じて、本論文がこの種の構造物の実現に向けて計画、設計の考え方の一助になることが期待できる。

審査要旨 要旨を表示する

国土の平野部が狭く、大都市に人口が集中する我が国では、洋上に海上空港、防災基地、物流基地、石油備蓄基地、アメニティ空間などの施設を展開することが提案されている。これらの施設において重要となるのが、アクセス施設である。洋上施設へのアクセス施設には、埋め立て、橋梁、桟橋、トンネルなどの例があるが、それぞれ大水深、軟弱地盤、地盤沈下などへの対応に課題がある。大水深、軟弱地盤のような厳しい条件をクリアするために、北欧のフィヨルド、米国の五大湖では、多くの浮体橋が建設されている。

本研究では、まず、我が国を含む世界で実現されている洋上施設とアクセス施設を概観し、その上で、アクセス施設に求められる活荷重への対応や平坦性への要求など求められる機能とそれを満足するための方式について考察を加えた。その上で、セミサブ両端支承方式の適用範囲が広く一般性があることに着目し、浮体の特性について数値計算による詳細な検討を加え、支配パラメータを明らかにした。その上でアクセス施設の設計を行い、その結果に基づいて設計フローと構造部分の最適化のフローを提案した。さらに、これらのフローを適用した設計を実施して、軽量化の観点から有効であることを示した。その上で、アクセス施設として実際に実現する観点から重要となる長期耐用技術、舗装、ライフサイクルコストについて考察を加えた。

第1章においては、浮体式洋上アクセス設備の計画に関する研究の必要性について述べている。

第2章では、洋上施設の現状ついて実績および提案・試設計の具体例を調査し、埋立、浮体による洋上施設について用途と特徴を調べ、浮体構造については大型化と適用可能性の拡大が可能であり、埋立て方式においては地盤沈下、浮体構造においては潮位変動に対応できるアクセス施設が必要であることを示した。

第3章では、アクセス施設に求められる要件と課題について検討し、求められる機能要件として、1)十分な剛性、2)耐震性、3)接続部の不連続性への対応、4)建造、設置が容易さ、5)継続的な利用の可能性、6)地盤変位、潮位変動の影響が少ない、などの条件が求められることを示した。その上で、地盤変位、潮位変動の影響を受ける典型的なアクセス施設として、陸から数百m以上沖合いの洋上施設を念頭に種々の構造方式を比較し、地盤変位、潮位変動の影響の少ない形式としてセミサブ型両端支承方式が有効であることを示した。さらに、セミサブ型両端支承方式の特徴として、径間長さが長くなるとスパン中央部のたわみが一定の値に収束することを数値計算より示した。また、強度上の観点から、初期ホギングモーメントを設置時に生じさせることが有利であることを示した。

第4章では、海上空港における主要施設となるアクセス施設および連絡誘導路について、関西空港のI期/II期空港島をむすぶ連絡誘導路を例に、技術的課題と対応策について検討し、地盤変位、潮位変動、航空機荷重に対し、種々のアクセス施設について検討を加え、セミサブ両端支承方式が最も現実的であることを示した。

第5章では、セミサブ両端支承方式のアクセス施設について、載荷荷重によるたわみに対して、径間長さ、全体深さ、コラム径などの主要寸法がどのような影響を及ぼすかを明らかにした。その結果、1)車両による分布荷重の場合、連絡路の強度、傾斜角度の問題が生ずるのは、主に護岸の支持点からの特性距離の範囲となること、2)全体構造深さ(剛性)を増加させると、スパンが長い場合、特性距離の範囲では曲げモーメントは増加すること、3)コラム径(浮力ばね定数)を増大させることは、スパンが短い場合は効果が少ないが、スパンが長くなるにしたがい、曲げモーメント、応力の低減効果が顕著になること、など構造工学の観点から特徴を詳細に明らかにした。

第6章では、関西空港(以下関空と呼ぶ)のI/II期埋め立て空港島を結ぶ長さ200mの連絡誘導路を対象にセミサブ型両端支承方式のアクセス施設の試設計を行なうとともに、詳細な波浪中弾性応答解析を実施した。その結果、波向き90°(橋軸直角方向の波)の場合の応答が卓越し、なおかつ顕著な応答のピークが生ずることを明らかにした。さらにこのピークが水中桁の空間的配置の規則性と入射波の波長との関係で顕われることを明らかにした。

第7章では、安全性、機能性、耐久性、経済性などの観点に加え、視程、端部の連続性などのアクセス施設独自の要求性能について、設計検討フロー、主要寸法の設計根拠、最適化手順としてまとめた。浮力を利用するセミサブ式構造の特徴として、コラム本数、水中桁の位置(喫水)と形状を最適化することにより、大幅な構造重量低減が可能であり、特に上部桁を軽量化することにより、水中桁の縮小を図ることが可能であり、全体の鋼材重量の低減が可能であることを示した。

第8章では、実現に向けて必要な技術として、長期耐用技術について保守管理の考え方をまとめた。

第9章では、舗装の補修工事について、工程上の検討を行ない、補修工事が実際で可能であることを確認した。

第10章では、建造費、維持管理費のライフサイクルコストについて関空北側連絡誘導路の試設計を例に具体的に見積もりを行ない、上部桁、水中桁の軽量化の効果は大きく、高張力鋼採用の効果もあるなど、設計変更によるコスト変化について、工事費用の区分毎の内訳を明らかにした。

本研究はセミサブ両端支承方式のアクセス施設に着目し、構造体の構造工学的特性を明らかにして、実際に実現する上で必要な実務的な観点を重視した設計フローと最適化フローを提案し、その有効性を示し、当該分野の学術的進展に貢献した。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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