学位論文要旨



No 217219
著者(漢字) 伏木,匠
著者(英字)
著者(カナ) フシキ,タクミ
標題(和) プローブカーの効果的利用に向けた必要台数のモデル化と処理手法に関する研究
標題(洋)
報告番号 217219
報告番号 乙17219
学位授与日 2009.09.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17219号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桑原,雅夫
 東京大学 教授 柴崎,亮介
 東京大学 准教授 羽藤,英二
 東京大学 講師 田中,伸治
 名古屋大学 教授 森川,高行
内容要旨 要旨を表示する

交通情報提供システムは、ITS(Intelligent Transport Systems)の代表アプリケーションとして広がりをみせており、特にカーナビゲーション向けの情報提供サービスとして日本国内のみならず、世界各国で実用化している。従来の交通情報提供システムは、路上に設置された各種センサの情報を収集、加工し、提供するものが主であったが、近年は通信技術の進歩に伴い車両自体を動くセンサとして利用するプローブカーシステムが広がりをみせており、世界各地で実験、一部実用化の動きがある。

交通情報提供システムの要件、特にカーナビゲーション向けの交通情報提供システムの要件は、

(1)提供情報が正しいこと(高精度・高信頼

(2)広いエリアの情報提供がなされること(高カバレッジ)

(3)システムの構築・運用費用が小さいこと(低コスト)

と考えることができる。プローブカーシステムに関して上記要件を当てはめてみると、(1)に関してはプローブカーの情報が実際の交通状況自体を表しており、高精度の情報源として活用できる。また、従来の交通情報システムで利用される路上センサは設置された箇所の情報のみを収集するのに対して、プローブカーは走行さえすれば場所を選ばず情報の収集が可能であり、上記(2)の要件に対してもメリットを発揮し得る。プローブカーシステムは上記の(3)の要件に対するメリットが大きく、従来の交通情報システムで必要だった路上にセンサを設置する莫大なコストが不要となり、車載端末と通信手段さえあれば簡便に交通情報が収集できる点にある。

しかし、上記のプローブカーのメリットはプローブカーシステムを利用する上での課題ともなる。すなわち、

(a)特定の場所に着目すると、路上センサはセンサが設置された箇所であれば安定して確実に情報収集が可能であるのに対して、プローブカーは走行した時間帯の情報しか取得できず不安定・不確実な情報収集となること

(b)情報の品質に着目すると、路上センサは通過したほぼ全ての車両から情報を生成するため統計的な信頼性が高まるのに対して、プローブカーは一部の車両から情報を生成するため偏り、外れ値を含む可能性があり統計的な信頼性が低いこと

(c)情報のカバレッジに着目すると、プローブカーは台数が少ないと十分なカバレッジが得られないこと

の3点が、プローブカーシステムが交通情報システムとして活用するための課題である。

本論文では、上記(a)(c)の課題に関しては、プローブカーの台数とカバレッジの関係をモデル化し、台数によるプローブカーシステムの実現可能性を明らかにした。このモデル化によりプローブカーシステムが達成できるカバレッジを明らかにし、実データ評価により10ポイント内の誤差精度でカバレッジを推定できることを確認した。上記(b)(c)の課題に関しては、収集時間間隔の大きなプローブカーデータの有効活用に関するデータ処理手法、過去の蓄積データを活用した外れ値の除去手法、過去の蓄積データとリアルタイムデータを活用した渋滞区間推定手法について提案した。収集時間間隔の大きなプローブカーデータの処理手法に関しては、車両の進行方向を考慮したマップマッチングと時間優先コストを利用した最短経路探索によりタクシーやトラックといった動態管理に用いられるプローブカーデータの利用を可能とした。外れ値の除去手法に関しては、上限値フィルタの生成により外れ値を除去しつつ約7割のリアルタイムプローブデータの活用を実現した。過去の蓄積データを活用した渋滞区間推定手法に関しては、既走行区間の走行軌跡と過去走行軌跡との対比により、約6割の精度で前方区間の渋滞区間推定が可能となった。以上の研究成果により、本論文はプローブカーシステムに付随する交通情報の信頼性に関する課題を解決し、交通情報システムとしての実現性に貢献するものである。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、近年利用が進みつつあるプローブカーデータについて、プローブカー台数とデータ収集エリアとの関係を明らかにするとともに、収集時間間隔の長いプローブカーデータの活用手法、過去の蓄積データを活用した異常値の除去手法、過去の蓄積データとリアルタイムデータを活用した渋滞区間推定手法を提案し、それらを実フィールドデータにより検証を行ったものである。

第1、2章では、これまでのプローブカーデータの解析について、内外の文献レビューを行い、(1)システムの構築・運用費用が割安であること、(2)提供される情報が正しいこと、(3)広い範囲の情報の収集と提供が行われること、という実用化に向けて重要な課題整理を行っている。これらの整理により、普及途上にあるプローブデータであっても実務に活用する方法はないか、という本研究の位置づけが明確となっている。

第3章では、必要な情報を得るために必要なプローブカーの台数について検討を行っている。線形都市における必要台数と収集情報量との関係を表す簡便なモデル式を提案し、それを日立市における実データで検証するとともに、主要都道府県におけるプローブカーの必要台数を試算し、実務的に有用な知見を提供している。

第4章では、収集時間間隔の長いプローブデータを積極的に利用するための手法を提案している。収集時間間隔が長いと、プローブカーが走行した経路の特定が難しくなるが、プローブカーの進行方向情報を活用した経路特定手法の提案を行っている。本手法は、実フィールドで収集されているタクシープローブデータを用いて検証を行い、60%程度については収集間隔が長いデータであっても、正しい交通情報を提供できる可能性を示した。

第5章では、プローブデータの異常値を過去の蓄積データを参照しながら除去する手法を提案している。本手法により、異常値の除去が効率的に行えるため、データの利用率が70%程度にまで向上することを報告している。

第6章では、過去の蓄積データを活用した渋滞判定手法の提案を行っている。国道における実験データを用いて、過去のデータを活用することにより渋滞判定の精度が、60%程度まで改善できることを実証的に示している。

以上のとおり、本論文はプローブカーデータが収集できるエリアの大きさ、異常値データの除去手法、収集間隔の長いプローブデータの活用方法、過去蓄積データ活用方法という実務上有用な手法の提案を行うとともに、実データを使ってこれらの手法を検証したものである。本研究では、まだまだ普及率の低いプローブカーであっても、それを実務に活用させたいという立場をとっており、学術的な独創性を持つだけでなく、プローブカーデータの実務への利用についても有用な知見を与えるものと認められる。

よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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