学位論文要旨



No 217226
著者(漢字) 村上,誠
著者(英字)
著者(カナ) ムラカミ,マコト
標題(和) 光増幅中継伝送システムの大容量化および実用化のための伝送特性解明と設計・評価技術に関する研究
標題(洋)
報告番号 217226
報告番号 乙17226
学位授与日 2009.09.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17226号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 教授 大津,元一
 東京大学 教授 菊池,和朗
 東京大学 教授 中野,義昭
 東京大学 教授 山下,真司
 東京大学 准教授 何,祖源
内容要旨 要旨を表示する

1980年代末の実用的光ファイバ増幅器の登場は光信号を電気に変換する再生中継器を必要とせずに光信号の直接増幅による光ファイバ伝送の可能性をもたらした。従来の再生中継伝送方式では光中継器内電子回路の速度限界により伝送容量が決まっていたが、光増幅中継伝送方式では光中継器が基本的に信号速度や形式に依存しないことや波長多重伝送が可能であることから、経済的な大容量光ファイバ伝送システム実現の期待が高まった。このような光増幅器のもつ特性は、特にサイズ、重量、消費電力に厳しい制限が科せられる光海底中継伝送システムへの応用にまさしく相応しいものであった。そのため、光増幅中継伝送方式による海底ケーブルシステム実用化へ向けて各国で精力的な研究開発が進められることになった。しかしながら、光信号を光増幅のみによって長距離伝送するシステムの大容量化、長距離化の検討の過程において、それまでの再生中継伝送システムにはなかった種々の問題が顕在化することになった。

本論文は1990年代初頭から世界的に実用化に向けた研究開発が始まった光増幅による中継伝送システムに関する研究結果について述べたものである。まず、光ファイバ増幅器を用いた長距離光伝送実験を通じて得られた特性と課題について明らかにするとともに特性評価法について論じている。さらに、課題の克服技術と実用化のためのシステム設計について議論し、それら結果を応用して世界に先駆けて開発した光増幅中継による商用海底ケーブルシステムの実用化技術とその特性について述べている。また、その後のトラフィック需要増大に対して、波長多重伝送技術を用いて既敷設海底ケーブルシステムの陸上装置更改のみにより費用対効果に極めて優れた方法で大容量化を果たした実用化システムの概要、設計、適用技術について論じている。最後に、長距離波長多重伝送システムの大容量化において重要な進展をもたらした光ファイバ高次分散管理法とその詳細設計技術、伝送特性についても述べている。

第1章は序論で、光増幅技術、光増幅中継伝送システムの概要と進展について述べるとともに、その応用として有望とされる海底ケーブルシステムについて概説している。さらに、このような光増幅中継伝送システムの実現における種々の課題と本論文の構成について述べている。

第2章は光増幅器を用いた長距離コヒーレント光伝送システムの検討結果に関するものである。光増幅器の発生する雑音が光ファイバ非線形性によって過剰な位相雑音増大を起こすことによる光信号スペクトル変化について理論的に検討し、その結果を実験的に確認している。さらに、コヒーレント変復調方式による長距離伝送実験により、その特性限界と光増幅器出力の関係について明らかにするとともに、パラメータ最適化により世界最長の2,500kmにわたるコヒーレント長距離伝送を達成した結果について述べている。

第3章は強度変調・直接検波による長距離光増幅中継伝送システムについての実験結果について述べている。伝送速度2.5Gb/sの長距離伝送実験において光増幅器出力増大にともなう光ファイバ非線形性による劣化について明らかにし、結果として4,500km伝送に成功している。その結果を踏まえて、中継間隔の短縮化等の改善策を適用することで世界最長の10,000km超の伝送実験に成功している。さらに伝送速度を10Gb/sに高速化した長距離伝送実験を行い、大洋横断距離の6,000km伝送を成功させている。最後に、40Gb/s超高速信号を波長多重伝送する実験を行ない、光伝送路分散特性の影響について明らかにするとともに1,200kmに渡る波長多重伝送を成功させている。

第4章では、長距離光増幅中継伝送システムにおいて重要なパラメータとして光ファイバの零分散波長を取り上げ、光通過帯域制限のある条件下でこの零分散波長を高精度に測定する方法について論じ、実際に2000km長のシステムにおいて実験的にその有効性を確認している。さらに、光ファイバ非線形性による過剰強度雑音増大について、詳細特性評価実験によって光伝送路分散特性と雑音増大の関係について明らかにし、実用システム設計のために有用な結果を示している。

第5章では、実用的海底光ケーブルシステムに必要不可欠な遠隔監視制御機能を光増幅中継伝送システムで実現するための検討結果について述べている。光増幅器特有の性質を利用した新たな監視制御信号伝送方式を提案し、その構成と設計について議論している。また、実験結果に基づいたパラメータ設定法を明らかにすることで上記方式の実現可能性を示している。

第6章は光増幅中継伝送技術を用いて実用化、商用導入された海底ケーブルシステムについて述べている。システム全体構成、光増幅中継器および光ファイバ等の構成とともに、実用システムへの適用に有用な詳細設計法を示している。また、光ファイバや光増幅器を接続した実際のシステム特性として重要となる各種パラメータの長距離累積特性や2.5Gb/sおよび10Gb/s伝送特性等のあらゆる面から詳細な特性評価実験を行い、本システムの構成、設計の実用可能性を実証している。

第7章は波長多重技術を適用することによって、既に敷設した商用海底ケーブルシステムの陸上装置の更改のみにより経済的に大容量化することに成功した実用化システムについて述べている。まず、端局装置の構成と概要、大容量化における課題について述べるとともに波長多重時のシステム設計法を示している。次に、容量を増加するために必要な伝送品質向上技術とともに、波長多重信号伝送において起こり得る信号伝送特性劣化を回避するために適用した克服技術に関する詳細な検討結果について述べている。これら検討の結果、従来に比べて4倍まで容量増大することが実現可能であることを示している。

第8章は波長多重による長距離光増幅中継伝送システムを大容量化する上で問題となっていた光ファイバ分散特性による伝送帯域制限を克服するために、符号の異なるファイバを組み合わせて高次分散まで管理し広帯域化する方法を新たに提案している。まず、本方法を適用するための基本的設計法を示し、光ファイバ非線形効果の抑圧について論じている。次に、10Gb/s信号伝送特性について詳細な検討を行い、システムパラメータ最適化の方法を示している。結果として、25波の10Gb/s信号を9,288kmにわたって長距離伝送する実験に成功している。さらに、光ファイバのRaman増幅による光信号伝送特性向上について検討し、48波の20Gb/s信号を5,700kmにわたって長距離伝送する実験に成功している。

第9章では本研究の成果をまとめとして総括している。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「光増幅中継伝送システムの大容量化および実用化のための伝送特性解明と設計・評価技術に関する研究」と題し9章より構成され、1990年代初頭から世界的に実用化に向けた研究開発が進められた光増幅による中継伝送システムに関する研究成果について述べたものである。

第1章は序論で、光増幅技術、光増幅中継伝送システムの概要と進展について述べるとともに、その応用として有望とされる海底ケーブルシステムについて概説している。さらに、このような光増幅中継伝送システムの実現における種々の課題と本論文の構成について述べている。

第2章は光増幅器を用いた長距離コヒーレント光伝送システムの検討結果に関するものである。光増幅器が発生する雑音が光ファイバの非線形性によって過剰な位相雑音の増大を起こすことによって光信号スペクトルに変化が生じる。本論文では、この現象について理論的に検討し、その結果を実験的に確認している。さらに、コヒーレント変復調方式による長距離伝送実験により、その特性限界と光増幅器出力の関係について明らかにするとともに、パラメータの最適化によって世界最長の2,500kmにわたるコヒーレント長距離光伝送を実現した結果について述べている。

第3章は強度変調・直接検波による長距離光増幅中継伝送システムについての実験結果について述べている。伝送速度2.5Gb/sの長距離伝送実験において、光増幅器の出力増大にともなって光ファイバの非線形性により伝送特性が劣化する現象を明らかにし、結果として4,500km長の伝送に成功している。この結果を踏まえて、中継器間隔の短縮化等の改善策を適用することで、世界最長の10,000km超の伝送実験にも成功している。さらに伝送速度を10Gb/sに高速化した長距離伝送実験を行い、大洋横断距離である6,000km伝送も成功させた。最後に、40Gb/sの超高速信号を波長多重伝送する実験も行ない、光伝送路の分散特性の影響について明らかにするとともに1,200kmに亘る波長多重伝送を成功させている。

第4章では、長距離光増幅中継伝送システムにおいて重要なパラメータとなる光ファイバの零分散波長を取り上げ、光通過帯域制限のある条件下でこの零分散波長を高精度に測定する方法について論じ、実際に2,000km長のシステムにおいて実験的にその有効性を確認している。さらに、光ファイバの非線形性による過剰強度雑音増大について、詳細な特性評価実験によって光伝送路分散特性と雑音増大の関係を明らかにして、実用システムを設計するために有用な結果を示している。

第5章では、実用的な光海底ケーブルシステムに必要不可欠である遠隔監視制御機能を光増幅中継伝送システムで実現するための検討結果について述べている。光増幅器に特有の性質を利用した新たな監視制御信号伝送方式を提案し、その構成と設計について議論している。また、実験結果に基づいたパラメータ設定法を明らかにすることで上記方式の実現可能性を示している。

第6章は光増幅中継伝送技術を用いて実用化され、商用導入された光海底ケーブルシステムについて述べている。システムの全体構成、光増幅中継器および光ファイバ等の構成とともに、実用システムへの適用に有用な詳細設計法を示している。また、光ファイバや光増幅器を接続した実際のシステム特性として重要となる各種パラメータの長距離累積特性や、2.5Gb/sおよび10Gb/sでの伝送特性等のあらゆる面からの詳細な特性評価実験を行い、本システムの構成、設計の実用可能性を実証している。

第7章は波長多重技術を適用することによって、既に敷設された商用海底ケーブルシステムにおける陸上装置を更改するだけで、より経済的に大容量化することに成功した実用化システムについて述べている。まず、端局装置の構成と概要、大容量化における課題について述べるとともに、波長多重時のシステム設計法を示している。次に、容量を増加するために必要な伝送品質向上技術とともに、波長多重信号伝送において起こり得る信号伝送特性の劣化を回避するための技術に関して詳細な検討結果を述べている。これら検討の結果、従来に比べて4倍まで伝送容量を増大することが実現可能であることを示している。

第8章は波長多重による長距離光増幅中継伝送システムを大容量化する上で問題となっていた光ファイバの分散特性による伝送帯域制限を克服するために、分散特性の符号が異なる光ファイバを組み合わせて高次分散までをも管理して広帯域化する方法を新たに提案している。まず、本方法を適用するための基本的設計法を示し、光ファイバの非線形効果を抑圧する方法を論じている。次に、10Gb/sでの信号伝送特性について詳細な検討を行い、システムパラメータの最適化方法を示している。結果として、25波の10Gb/s信号を9,288kmに亘って長距離伝送する実験に成功した。さらに、光ファイバRaman増幅による光信号伝送特性の向上についても検討し、48波の20Gb/s信号を5,700kmに亘って長距離伝送する実験にも成功している。

第9章は結論であり、本研究の成果をまとめるとともに今後の課題を展望している。

以上のように本論文は、まず光ファイバ増幅器を用いた長距離光伝送実験を行なって課題を抽出し、その課題を克服して実用化するためのシステム設計について論じるとともに、その成果を応用して世界に先駆けて開発した光増幅中継による商用海底ケーブルシステムの技術と特性を述べ、つづいて既設海底ケーブルシステムにおいて陸上装置更改のみによって大容量化を果たすための波長多重伝送システムの設計、適用技術を論じ、さらに長距離波長多重伝送システムの大容量化において重要な進展をもたらした光ファイバ高次分散管理法とその詳細設計技術ならびに本技術による伝送特性の改善について述べたものであって、電子工学の発展に大きな貢献を果たしている。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク