No | 217243 | |
著者(漢字) | 斎藤,純治 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | サイトウ,ジュンジ | |
標題(和) | 構造が精密制御された高機能化ポリオレフィンの開発 | |
標題(洋) | Development of High Performance Polyolefins Having a Precisely Controlled Structure | |
報告番号 | 217243 | |
報告番号 | 乙17243 | |
学位授与日 | 2009.10.15 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第17243号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1.緒言 ポリエチレン、ポリプロピレンに代表されるポリオレフィンは、優れた機械強度・成型加工性・化学的安定性を有する汎用材料として、自動車部品、産業資材、生活資材等の幅広い分野で用いられており、その生産量は全世界で年間1億トン以上に及んでいる。しかし、製造技術の均等化、安価な原料の利用による中東諸国、中国の躍進により、付加価値を有する高機能ポリオレフィン材料の開発が強く求められている。高機能ポリオレフィン材料を創製するためには、用途に応じた材料設計に基づくポリマー構造の精密制御が重要であり、オレフィンの精密重合やポリマー反応制御を利用したポリマー合成が必要となる。本研究はこのような観点から、高度に立体構造を制御したポリ(α-オレフィン)、官能基含有ポリオレフィンの合成、ポリオレフィン/極性ポリマーブロック及びグラフト共重合体の合成、およびそれらの物性検討を行った。 2.イソタクチックポリプロピレンの合成 イソタクチックポリプロピレンは世界で年間4千万トン以上生産されているが、その95%以上はマルチサイト触媒であるMgCl2担持型TiCl4触媒によって製造されている。今後、ポリプロピレンの物性をより向上させるために、シングルサイト触媒を用いた高立体規則性、狭組成分布を有するポリプロピレンの開発が期待されている。本研究では、立体規則性重合に必要なC2対称性を有するビスサリチルアルジミン4族遷移金属錯体触媒(1)-(3)を用いたポリプロピレン合成を検討した。MAO助触媒との組み合わせでTi触媒1は活性を示さず、Zr触媒2、Hf触媒3は低分子量液状オリゴマーのみを与えたが、iBu3Al/Ph3CB(C6F5)4助触媒との組み合わせにより、1は超高分子量アタクチックポリプロピレン、2及び3は融点101℃(mm45%)、123℃(mm69%)のイソタクチックポリプロピレンを与えることを見出した。生成ポリマーの構造解析より、プロピレン重合時のモノマー挿入は触媒規制機構で進行する事を明らかにした。 更に、活性種構造についてDFT計算によって解析した結果、イミノ基でなくiBu2Al基が結合したアミノ基を有する活性種構造においてもC2対称性を保持している事が示唆された。これより、本触媒系の置換基構造を制御する事で、イソタクチックポリプロピレンの立体規則性を向上させ得る事がわかった。 3.シンジオタクチックポリプロピレンおよびブロック共重合体の合成 置換基にフッ素原子を有するビスサリチルアルジミンTi触媒(4)/MAOは、エチレン重合をリビング的に進行させ、ポリエチレンベースのブロック共重合体を合成できる事がわかっている。本触媒系を用いたプロピレン重合を検討した結果、重合はリビング的に進行し、融点137℃、mm 87%の高シンジオタクチックポリプロピレンが生成する事がわかった。生成ポリマーの立体構造解析を詳細に行った結果、プロピレン挿入が末端規制機構かつ、Ti錯体触媒としては稀有である2,1-挿入で重合が進行することを明らかにした。また、ポリマーの立体構造が、レジオブロック的なユニークな構造を有する事が示唆された。 更に、本触媒系を用いてブロック共重合体(s-PP-b-poly(ethylene-co-propylene))を合成し、その相構造を観察した結果、本来相溶しない2成分がミクロ相分離し、本材料が相溶化剤や高耐熱性エラストマーとして用いられる可能性を有することを明らかにした。 4.立体、位置不規則ポリ〓―オレフィンの合成 ポリプロピレン以外のポリα-オレフィンの合成について、触媒1/ iBu3Al/Ph3CB(C6F5)4を用いて検討した。その結果、高分子量のポリ(1-ヘキセン)、ポリ(1-オクテン)、ポリ(1-デセン)、ポリ(4-メチル-1-ペンテン)が生成することを見出した。得られた重合体の立体構造を解析した結果、立体規則性はアタクチックでかつ位置規則性が不規則(頭-尾結合に対し、頭-頭、尾-尾結合の割合が半分以上)というユニークな構造であった。このように、高分子量でありながら位置不規則であると同定された重合体は最初の報告例である。 本触媒系は立体的に嵩高いモノマーの方が高い反応性を示し、また重合速度が見かけ上モノマー濃度に比例しないユニークな特徴を示す事から、NMR、DFT計算を活用して触媒活性種の構造解析を行った。その結果、iBu2Al基が結合したアミノ基を2つ有する活性種は、モノマーの挿入時にひとつのアミノ基と中心金属Tiとの結合がはずれ、広い配位空間と高い配位不飽和度を有している事が示唆され、触媒構造と重合挙動、ポリマー立体構造が相関している事がわかった。 5.末端官能化ポリエチレンの合成 官能基含有ポリオレフィンは、本来無極性のポリオレフィンに接着性、塗装性、他基質との反応性を付与できるため、高機能ポリオレフィン材料として期待されている。イソプロピル基含有ビスサリチルアルジミンZr触媒(4)/MAO系によるエチレン重合時、有機アルミニウム化合物によって連鎖移動が起こり、末端アルミニウム含有ポリエチレンが生成する事を本研究で見出した。この連鎖移動反応について詳細に検討した結果、MAO単独及びトリメチルアルミニウムとMAOを併用した系の比較から、分子量(Mw)1万~72万、分子量分布2.0-2.6の末端アルミニウム含有ポリエチレンが生成することを明らかにした。例えば、分子量1万の場合、片末端の92mol%にMe2Al基が付加したポリエチレンが生成している事になり、高密度にアルミニウムを導入できることがわかった。更に、酸素と反応させる事で、末端水酸基含有ポリエチレンが生成する事を示した。 6.ポリオレフィン/極性ポリマーブロック、グラフト共重合体の合成と物性検討 ポリオレフィンと極性ポリマーが化学結合で繋がったブロック、グラフト共重合体は、ポリオレフィンに極性ポリマー由来の物性を賦与できるため、高機能ポリオレフィンとして期待される材料である。本研究では官能基含有ポリオレフィンを極性モノマーの原子移動ラジカル重合(ATRP)のマクロ開始剤として用いる事によりポリオレフィン/極性ポリマーブロック、グラフト共重合体を合成し、それらの機械物性、親水性、相溶化剤としての物性を検討した。はじめに、メタロセン触媒で合成したプロピレン/ウンデセノール共重合体とブロモイソブチロイルブロミドの反応で生成したエステル体をマクロ開始剤とし、ATRPによってPP-g-PMMA、PP-g-AS、PP-g-PMCCを合成した。PP-g-PMMA、PP-g-ASは、PP単体、及びPPとPMMAの混合物と比べて高い曲げ強度(FS)、曲げ弾性率(FM)を示し、化学結合した極性ポリマーがポリプロピレンの機械強度を向上させることを示した。また、PP-g-PMCCから成型したシートが、ポリプロピレン単独と比べて低い表面抵抗値(PP:1.0×1018→PP-g-PMCC:2.2×107)を示し、高い電気伝導性を有する帯電防止シートとして有望な材料である事も見出した。 また、末端水酸基含有ポリエチレンからATRPによって合成したブロック共重合体(PE-b-PMMA)が、ポリ乳酸とエチレン/ブテン共重合体(EBR)からなるアロイ材料の相溶化剤として両成分を微分散化させる事を見出した。この結果、ポリ乳酸の欠点である衝撃強度が大幅に向上(Izod衝撃強度71.5J/m→378J/m)する事を示した。 7.極性ポリマーでコートされたポリプロピレンシートの合成と物性検討 ATRPを用いたポリオレフィンと極性ポリマーを結合させる手法を、ポリプロピレン成型体の表面修飾に応用し、従来の物理的、化学的な表面変性による材料と異なるポリオレフィン材料の創成を検討した。すなわち、ポリプロピレンマクロ開始剤のシート成型物の表面上で、極性モノマーのATRPを実施した。極性モノマーとしてメタクロイルコリンクロリドを用いて合成したポリプロピレンシートは、表面の水接触角が重合前の94°から11°まで下がると共に、表面抵抗値も7.2×107まで下がり、高親水性かつ高電気伝導度を有する事がわかった。また、大腸菌、黄色ブドウ球菌に対して高い抗菌性を有する事も見出し、本材料が高機能ポリオレフィン材料としての有望である事を明らかにした。 8.結言 本研究は、高機能ポリオレフィン材料を開発する目的で高度に立体を制御したポリ(α-オレフィン)、官能基含有ポリオレフィンの合成検討、ポリオレフィン/極性ポリマーブロック、グラフト共重合体の合成と物性検討を行った。C2対称性を有するビスサリチルアルジミン4族遷移金属錯体触媒により、イソタクチックポリプロピレン、レジオブロック構造を有するシンジオタクチックポリプロピレン及びエチレン/プロピレン共重合とのブロック共重合体、立体および位置不規則なポリ(α-オレフィン)、末端官能化ポリエチレンを合成し、さらに、触媒の活性種構造、重合機構について検討した。また、官能基含有ポリオレフィンから原子移動ラジカル重合を利用してポリオレフィン/極性ポリマーブロック、グラフト共重合体を合成し、その機械物性、高親水性、相溶化剤等の性能を明らかにする事ができた。更に、本技術を適用する事で、親水性、電気伝導性、抗菌性を有する表面修飾ポリプロピレンシートが合成できる事を見出した。今後、このような付加価値を有する高機能性ポリオレフィン材料が、新規ポリオレフィン製品として展開される事を期待される。 | |
審査要旨 | 本論文は,高い価値を有したポリオレフィンを開発する目的で行なわれた,構造が精密に制御された高機能化ポリオレフィンの合成と物性評価に関する研究の成果について纏めたものであり,8章より構成されている。 第1章は序論であり,ポリオレフィンの構造制御,高機能性ポリオレフィン等について現状を俯瞰し,それらの問題点と研究動向について論じ,本研究の目的と意義を述べている。 第2章では,高度に立体制御されたポリプロピレンを合成すべく,重合触媒の検討を行っている。まず,C2対称性を有するビス(サリチルアルジミン)錯体触媒(中心金属:チタニウム,ジルコニウム,ハフニウム)を用いてポリマー合成を試み,それらの重合挙動,生成ポリマーの構造および反応機構を検討している。メチルアルモキサン(MAO)を助触媒として用いると,中心金属にかかわらず重合反応が進行しないか,したとしても油状オリゴマーのみを与えるのに対し,チタニウム錯体とトリイソブチルアルミニウム/ボレート化合物を組み合わせた触媒系を用いると,プロピレンが立体選択的に重合し,超高分子量のイソタクチックポリプロピレンを与えることを明らかにしている。さらに,この重合反応の機構について詳細に検討し,触媒規制機構によって進行していることを明らかにしている。 第3章では,他の立体制御されたポリプロピレンを得るための重合触媒の検討を行っている。その結果,フッ素含有ビス(サリチルアルジミン)チタニウム錯体とMAOからなる触媒系を用いると,プロピレンの重合はリビング的に進行し,単分散のシンジオタクチックポリプロピレンが得られることを明らかにしている。さらに,重合機構の詳細な検討により,本重合反応は末端規制機構により進行していることを明らかにしている。また,この重合系を活用し,シンジオタクチックポリプロピレンとエチレン/プロピレン共重合体とのブロック共重合体を合成してその相構造を詳細に調べ,これらの重合体が相溶化剤,熱可塑性エラストマーの構成成分として高いポテンシャルを持っていることも明らかにしている。 第4章では,第2章で明らかにした結果を基に,高機能化ポリオレフィンとして期待されているポリ(高級〓-オレフィン)の合成を試みている。その結果,ビス(サリチルアルジミン) チタニウム錯体とトリイソブチルアルミニウム/ボレート化合物を組み合わせた触媒系が,1-ヘキセン,1-オクテン,1-デセン,4-メチル-1-ペンテンなどの高級α-オレフィンの重合に対して極めて高い活性と選択性を示し,それによって立体選択性がランダムでありながら高分子量であるというユニークな新規ポリマーが得られることを見出している。得られたポリオレフィンの物性から,これらが接着剤,相溶化剤などとして利用可能であることを明らかにしている。 第5章では,高機能化ポリエチレンの創製について述べている。まず,配位子中にイソプロピル基を含むビス(サリチルアルジミン)ジルコニウム錯体が,トリメチルアルミニウム存在下で定量的に連鎖移動を起こすことを見出している。このことを基に,低分子量の末端Al含有ポリエチレン,末端水酸基含有ポリエチレンなどを効率的に合成する手法を確立し,それらがマクロ開始剤として利用可能であることを明らかにしている。このようにして得られた末端修飾ポリエチレンは高機能化ポリオレフィンの構成成分として利用が期待されるとしている。 第6章では,新しいブロックおよびグラフト共重合体の合成と物性について述べている。まず,メタロセン触媒を用いて合成したプロピレン/アルケニルアルコール共重合体をエステル化したポリマーを原料とし,原子移動ラジカル重合(ATRP)の手法を取り入れることで,ポリプロピレンとポリメタクリル酸メチル,スチレン/アクリロニトリル共重合体,ポリメタクリロイルコリンクロリドあるいはポリ乳酸成分を有するブロック,グラフト共重合体の合成に成功している。さらに,これらの共重合体が,ポリオレフィンの機械強度や電気電導性を向上させること,ポリ乳酸とポリオレフィンの相溶化剤として極めて有効であり,衝撃強度を飛躍的に向上させることを見出している。 第7章では,見出したグラフト法をポリプロピレンシートの表面修飾に適用して,表面にポリメタクリル酸2-メチルヒドロキシエチルあるいはポリメタクリロイルコリンクロリド層を有するシートを合成している。特に,ポリメタクリロイルコリンクロリド層を有するシートは,高い親水性,電気電導性,抗菌性を有しており,ポリオレフィンの高機能化に成功している。 第8章では本研究を総括すると共に,将来展望を述べている。 以上のように本論文では,構造が精密制御された高機能ポリオレフィンの開発を目指した重合反応・修飾反応の開発,ポリマー構造解析・機能評価の結果を述べている。その成果は,高分子化学,高分子工業化学,金属錯体化学の進展に寄与するところ大である。 よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク |