学位論文要旨



No 217263
著者(漢字) 高野,敦
著者(英字)
著者(カナ) タカノ,アツシ
標題(和) 一般異方性円筒殻の座屈に関する研究
標題(洋)
報告番号 217263
報告番号 乙17263
学位授与日 2009.11.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17263号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 青木,隆平
 東京大学 教授 小野田,淳次郎
 東京大学 教授 武田,展雄
 東京大学 教授 樋口,健
 東京大学 教授 藤本,浩司
 東京大学 准教授 横関,智弘
内容要旨 要旨を表示する

本論文は「一般異方性円筒殻の座屈に関する研究」と題し、7章からなっている。

薄肉あるいはやや厚肉の円筒殻は、基本的な構造要素であって、衛星のセントラルシリンダやストラット、航空機の胴体など、さまざまな構造物で使用されている。これらの構造物は年々長大化しており、かつ軽量化が要求されるため、複合材料を用いた積層円筒殻及び、複合材料を表皮としたサンドイッチ円筒殻などが採用されることが多い。しかしながら、これらの円筒殻は、必ずしも直交異方性とは限らず、設計上の制約によってカップリング剛性の存在する一般異方性となる場合が多々ある、またやや厚肉の積層円筒殻や、ハニカムサンドイッチ円筒殻については、その面外剪断変形の影響が無視できなくなる。これらの円筒殻について、座屈荷重を正確に推定することは設計上重要な課題であり、過去に多くの研究が行われていたが、それらは

1)長さの影響

2)面外剪断変形の影響

3)一般異方性の影響

のうち、1つあるいは2つの影響に着目したものであって、上記3つを同時に考慮した座屈に関する評価法は存在しなかった。

このような現状を受けて、本論文では、円筒殻の長さにかかわらず適用できる、面外剪断変形を考慮した一般異方性円筒殻の座屈について設計に適用できる評価方法を得ることを目的としている。

第1章は導入であり、本研究の背景を述べ、先行する研究を概説した上で、本研究の目的及び意義を明らかにしている。

第2章は基礎式の導出であり、幾何学的非線形性を考慮した歪の定義から出発し、変分法を用いて座屈に関する基礎式を導出している。幾何学的非線形性を考慮した歪の定義には、従来伝統的に用いられているGreen-Lagrangeの歪と、近年それに代わるものとして提案されているJaumannの歪の2種類についての統一的な表記を用いている。さらに、Green-Lagrangeの歪から出発した場合、得られた座屈に関する基礎式は、面外剪断に関する項を無視することにより、Fluggeにより導出された座屈の基礎式に一致することを述べている。

第3章では、導出された基礎式のうち、Green-Lagrangeの歪に基づく基礎式を用いて実際に数値計算を行い、軸圧縮、捻り、及びそれらの複合荷重における座屈について、先行する各種の解析法による解と比較することで妥当性の確認を行っている。その上で、先行する各種の解析法では行えなかった、面外剪断変形、一般異方性及び長さの効果を同時に考慮した解析を実施し、面外剪断変形を考慮した一般異方性円筒殻の軸圧縮、捻り及びそれらの複合による座屈の全貌を明らかにしている。

第4章では、第5章において、Jaumannの歪に基づいた軸圧縮座屈に関する閉じた解を導出するための準備として、Green-Lagrangeの歪に基づく基礎式による解と、Jaumannの歪に基づく基礎式による解の比較をして、有意な差がないことを示している。

第5章では、軸圧縮座屈に関して、設計に適用することを目的として、数値計算が容易となる閉じた解を導出している。歪の定義は、最終的に得られる閉じた解が座屈荷重に対して2次式になる利点があることからJaumannの歪を用いている。Jaumannの歪に基づく基礎式から出発し、境界条件を近似的に満足することによって、軸圧縮座屈に関する閉じた解を導出している。さらに、閉じた解を用いて数値計算を行い、境界条件を厳密に満足する解と比較し、極端にカップリング剛性が大きい場合を除き、良く一致していることを示している。

第6章では、実験結果と解析結果の差が大きいと言われている軸圧縮座屈について、公知の文献に示された実験結果と、境界条件を満足する厳密な解と比較することで、Knockdown factorを求め、同時に統計的な処理を行い、その下限値を求めている。さらに、設計の便を考慮し、5章で求めた閉じた解を基準として設計値を見積もる方法についても言及している。また、従来の各種の解析法を基準とした場合のKnockdown factorを求め、その変動係数を比較することで、本論文で得られた解析法が最も精度が良いことを示している。

第7章は結論であり、本研究で得られた成果を総括している。

以上のように、本論文は、従来定まった評価法が存在しなかった、一般異方性円筒殻の座屈について、面外剪断変形を考慮した新たな解析方法を提案し、さらにその座屈挙動の全貌を明らかにしたとともに、その有効性を公知の実験結果と比較することで示したものである。

審査要旨 要旨を表示する

修士(工学)高野敦提出の論文は「一般異方性円筒殻の座屈に関する研究」と題し、7章からなっている。

薄肉あるいはやや厚肉の円筒殻は、基本的な構造要素であって、衛星のセントラルシリンダやストラット、航空機の胴体など、さまざまな構造物で使用されている。これらの構造物は年々長大化しており、かつ軽量化が要求されるため、複合材料を用いた積層円筒殻及び、複合材料を表皮としたサンドイッチ円筒殻などが採用されることが多い。しかしながら、これらの円筒殻は、設計・製造上の制約によって、必ずしも直交異方性とは限らず、カップリング剛性の存在する一般異方性となる場合が多々ある。またやや厚肉の積層円筒殻や、ハニカムサンドイッチ円筒殻については、その面外勇断変形の影響が無視できなくなる。この様な円筒殻について、座屈荷重を正確に推定することは設計上重要な課題であり、過去に多くの研究が行われていたが、それらは(1)長さの影響、(2)面外勇断変形の影響、(3)一般異方性の影響のうち、1つあるいは2つの影響に着目したものであって、上記3つを同時に考慮した座屈に関する評価法は存在しなかった。

このような現状を受けて、本論文では、円筒殻の長さにかかわらず適用でき、面外剪断変形を考慮した一般異方性円筒殻の座屈について設計に適用できる評価方法を得ることを目的としている。

第1章は導入であり、本研究の背景を述べ、先行する研究を概説した上で、本研究の目的及び意義を明らかにしている。

第2章は基礎式の導出であり、幾何学的非線形性を考慮した歪の定義から出発し、変分法を用いて座屈に関する基礎式を導出している。幾何学的非線形性を考慮した歪の定義には、従来伝統的に用いられているGreen-Lagrangeの歪と、近年それに代わるものとして提案されているJaumannの歪の2種類についての統一的な表記を用いている。さらに、Green-Lagrangeの歪から出発した場合、得られた座屈に関する基礎式は、面外勇断に関する項を無視することにより、Fluggeにより導出された座屈の基礎式に一致することを述べている。

第3章では、導出された基礎式のうち、Green-Lagrangeの歪に基づく基礎式を用いて数値計算を行い、軸圧縮、ねじり、及びそれらの複合荷重における座屈について、既存の各種の解析法による解と比較することで、基礎式の妥当性を確認している。その上で、既存の各種の解析法では行えなかった、面外勇断変形、一般異方性及び長さの効果を同時に考慮した解析を実施し、面外剪断変形を考慮した一般異方性円筒殻の軸圧縮、ねじり及びそれらの複合による座屈の全貌を明らかにしている。

第4章では、Green-Lagrangeの歪に基づく基礎式による解と、Jaumannの歪に基づく基礎式による解とを比較して、有意な差がないことを示している。

第5章では、軸圧縮座屈に関して、設計に適用することを目的として、数値計算が容易な、閉じた解を導出している。歪の定義は、最終的に得られる閉じた解が座屈荷重に対して2次式になる利点があることから、Jaumannの歪を用いている。Jaumannの歪に基づく基礎式から出発し、境界条件を厳密には満足しないことを許容することによって、軸圧縮座屈に関する閉じた解を導出している。さらに、閉じた解を用いて数値計算を行い、境界条件を厳密に満足する解と比較し、極端にカップリング剛性が大きい場合を除き、良く一致していることを示している。

第6章では、実験結果と解析結果の差が大きいと言われている軸圧縮座屈荷重について、公知の文献に示された実験結果と、境界条件を満足する厳密な解とを比較し、ノックダウンファクタを求めている。更に、統計的な処理を行うことにより、設計に用いることを想定してその下限値を求めている。また、設計への適用を考慮し、5章で求めた閉じた解を基準として座屈荷重を簡便に見積もる方法にも言及している。更に、従来の各種の解析法を基準とした場合のノックダウンファクタを求め、その変動係数が本論文で提案した解を基準とした場合に比べて大きいことから、本論文で得られた解析法が従来の解析法に比べて精度が良いと主張している。

第7章は結論であり、本研究で得られた成果を総括している。

以上要するに、本論文は、従来定まった評価法がなかった、一般異方性円筒殻の座屈について、面外剪断変形を考慮した新たな解析方法を提案し、さらにその座屈挙動の全貌を明らかにしたとともに、公知の実験結果と比較することでその有効性を示したものであり、航空宇宙構造力学、複合材料工学に貢献するところが大きい。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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