学位論文要旨



No 217294
著者(漢字) 林,久允
著者(英字)
著者(カナ) ハヤシ,ヒサミツ
標題(和) 胆汁酸トランスポーターBile salt export pump (BSEP/ABCB11)の発現量制御機構を標的とした肝機能障害改善薬の探索
標題(洋)
報告番号 217294
報告番号 乙17294
学位授与日 2010.02.10
学位種別 論文博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 第17294号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 杉山,雄一
 東京大学 教授 新井,洋由
 東京大学 教授 村田,茂穂
 東京大学 准教授 紺谷,圏二
 東京大学 准教授 伊藤,晃成
内容要旨 要旨を表示する

[序論]

胆汁酸は肝細胞内でコレステロールの代謝物として合成後、胆汁中へと排泄される。胆汁排泄により生じる浸透圧差は胆汁流形成の主要な駆動力であるため、胆汁酸の胆汁排泄障害は肝内胆汁うっ滞という肝細胞の異常に起因する胆汁流形成不全を招く。胆汁酸は肝細胞内でタウリン、あるいはグリシン抱合され、水溶性物質として存在するため、細胞膜透過過程には輸送担体が必要となる。特に肝細胞から胆汁中への毛細胆管側膜を介した膜輸送には、Bile salt export pump(BSEP/ABCB11)というトランスポーターが必須であることが、BSEP遺伝子の変異により発症する進行性家族性肝内胆汁うっ滞症2型(PFIC2)患者において、胆汁中胆汁酸濃度及び胆汁流量の顕著な低下が認められることから明らかとなっている(図表1)。

BSEPの機能不全による胆汁酸の胆汁排泄障害は、肝内胆汁うっ滞を招くとともに、肝細胞内の過剰な胆汁酸蓄積を引き起こす。高濃度の胆汁酸は細胞障害性を有しているため、PFIC2患者は生後間もなく肝機能障害となり、思春期前に肝硬変へと至る。また、遺伝的要因によるPFIC2に限らず、感染症、薬物、アルコールに起因する肝機能障害においても、BSEPの機能不全による肝内胆汁うっ滞が惹起され、肝機能障害が増悪することが知られている。これらの病態時におけるBSEPの機能不全は、主に毛細胆管側膜におけるBSEPの発現量低下が原因であることが私や他のグループの研究より明らかとなっている(図表1)。しかしながら、BSEPの細胞膜発現量制御機構については詳細が不明であるため、BSEPの機能不全が関与する肝機能障害に対しては、BSEPを直接薬効標的とした内科的療法は確立しておらず、症状が重篤になった場合には、現状では唯一の治療法は生体肝移植である。生体肝移植は、高額な手術費、免疫抑制剤の生涯にわたる服用など、患者に多大な負担を強いる。また現状では、移植の需要に対して施術例数が追いついていない。これらの問題点を解決するために、新規肝機能障害改善薬の開発は必須であると考えられる。

そこで本研究では、BSEPの細胞膜発現制御機構を標的とする肝機能障害の新規内科的療法の開発を目的とし、前半ではBSEPの細胞膜発現量を増加させる化合物の探索を行い、後半では、探索から同定した化合物の1つである4-phenylbutyrate(4PBA)によるBSEPの細胞膜発現量増加作用の機序について解析を行った。

[本論]

1. BSEPの細胞膜発現量の増加作用を有する低分子化合物の探索

イヌ腎臓由来の極性細胞であるMadine Darby Canine Kidney II(MDCKII)細胞にBSEP組換えアデノウイルスを用いてBSEPを過剰発現させた所、肝細胞における局在と一致したapical膜へのBSEPの局在が観察された。また、BSEP発現MDCKII細胞では対照細胞に比して、BSEPの典型的基質である放射標識タウロコール酸([3H]TC)のbasal側からapical側への有意に高い経細胞輸送が認められた。経細胞輸送実験は、基質添加の一定時間後にBuffer中の基質濃度を測定するのみの簡便な実験系である。従って本研究では、BSEP発現MDCKII細胞を用いて、試験化合物処理後に[3H]TCのbasal側からapical側への経細胞輸送の変動を検出する、すなわち試験化合物によるBSEPの発現量変化を、輸送能の変化から間接的に評価する実験系で試験化合物のスクリーニングを実施し、BSEPの細胞膜発現量の増加作用を有する低分子化合物を探索した。

将来的な臨床への適用を考慮し、他疾患に対して既承認の薬物や低毒性の化合物を試験化合物として選択し、スクリーニングを行った。その結果、尿素サイクル異常症の治療薬として用いられている4PBAを臨床濃度で24時間処理したBSEP発現細胞では、非処理細胞に比してbasal側からapical側への経細胞輸送が有意に増大した。対照細胞においては、4PBAの作用は見られなかった。次に、細胞内の[3H]TC濃度の測定によるapical膜を介した輸送の算出及び、細胞膜分画を用いたウエスタンブロッティングを行うことで、4PBAがBSEPの基質輸送能、細胞膜発現量へ及ぼす影響を直接的に評価した結果、それぞれ約2.5倍の増加が認められ、MDCKII細胞において4PBAは細胞膜発現量の増加作用を介して、BSEPによる胆汁酸輸送を促進していることが示唆された。4PBAによる当該作用はPFIC2型BSEP変異体(E297G, D482G)を発現させたMDCKII細胞においても観察された。一方、MDCKII細胞において、BSEPと同様にapical膜に局在するP-glycoprotein (P-gp) (過剰発現), dipeptidyl peptidase IV (DPPIV) (内因性)に対しては、4PBAの当該作用は認められなかった。

BSEP発現MDCKII細胞で認められた4PBAの薬効が、in vivoにおいて発現することを確認するため、SDラットへの投与実験を行った。尿素サイクル異常症患者に対する認可相当量(0.6g/kg/day)を5, 10, 15日間連続投与後、[3H]TCを定速静注し、定常状態における[3H]TCの肝内濃度、胆汁排泄速度を測定することで、毛細胆管側膜を介した物質輸送を表わすパラメーターである肝内濃度で規定した胆汁排泄クリアランス(CL bile, liver)を算出した。その結果、[3H]TCのCL bile, liverは約1.5(5日間)~2.5(10, 15日間)倍の上昇が認められ、4PBA投与によりBSEPが機能亢進していることが示唆された。また、10日間連続投与したSDラット肝臓から調整した毛細胆管側膜分画を用いてウエスタンブロッティングを行った結果、約3倍のBSEP発現量の増加がみられた。一方、P-gp, DPPIVでは4PBAによる発現量増加作用は認められなかった。

以上の結果より、4PBAが、臨床での認可投与量で、BSEPの毛細胆管側膜における発現量を増加させ、胆汁酸の胆汁排泄を促進する新たな薬効を有することを見出した(図表1)。従って、PFIC2などの現在内科的療法が確立していないBSEPの機能不全が関与する肝疾患に対する改善作用が期待される。また、BSEP発現MDCKII細胞における[3H]TCのbasal側からapical側への経細胞輸送を指標とした本実験系より、ヒット化合物として同定した4PBAが、in vivoにおいても同様の薬効を示したことから、本実験系はBSEPの毛細胆管側膜発現量を増加させる化合物、すなわち肝機能障害改善薬を探索する有用なツールである可能性が考えられる。

2. 4PBAによるBSEPの細胞膜発現量増加作用の機序解析

SDラットを用い、4PBAの薬効発現に必要な最低投与量について検討した所、臨床用量であるものの比較的多い服用が必要になることが推測された。患者の負担の軽減、コンプライアンスの向上などを考慮すると、より低用量で薬効発現する化合物の開発が望まれる。従って、本研究では将来的により高活性の肝機能障害改善薬を開発する際の基盤構築を目的とし、4PBAによるBSEPの細胞膜発現量増加作用についてBSEP発現MDCKII細胞を用いて機序解析を行った。はじめに、BSEPの合成、細胞膜へのトラフィッキング、細胞膜からの分解に対する作用を検討することで、4PBAの作用段階の同定を試みた。

SDラットを用い、4PBAの薬効発現に必要な最低投与量について検討した所、臨床用量であるものの比較的多い服用が必要になることが推測された。患者の負担の軽減、コンプライアンスの向上などを考慮すると、より低用量で薬効発現する化合物の開発が望まれる。従って、本研究では将来的により高活性の肝機能障害改善薬を開発する際の基盤構築を目的とし、4PBAによるBSEPの細胞膜発現量増加作用についてBSEP発現MDCKII細胞を用いて機序解析を行った。はじめに、BSEPの合成、細胞膜へのトラフィッキング、細胞膜からの分解に対する作用を検討することで、4PBAの作用段階の同定を試みた。側膜上におけるBSEP発現量を増加させている可能性が考えられる。

細胞膜からの膜タンパク質の内在化及び、分解促進因子の1つとしてユビキチン化が知られている。ユビキチン化はE1, E2, E3の酵素反応のカスケードよりなる反応である。また標的タンパク質を認識するE3はゲノム情報上ヒトにおいて約1,000遺伝子存在することから、ユビキチン化はE3ごとに標的タンパク質が異なる基質選択性の高い反応であると推定される。4PBAによる細胞膜からの分解抑制作用は、P-gp, DPPIVに対しては認められず、比較的基質選択性が高い現象であること、さらに実際にユビキチン化が4PBAの当該作用の発現に関与していた場合には、基質選択性が高い、すなわち副作用が低いことが期待される魅力的な肝機能障害改善薬の創薬ターゲットの同定につながることから、現在、ユビキチン化に焦点を当て、4PBAによる細胞膜上BSEPの分解抑制機構について検討を進めている。これまでに、BSEP発現MDCKII細胞、ラット肝毛細胆管側膜分画を用いた検討から、細胞膜上には2~3分子のユビキチンで修飾されたBSEPが存在すること、そしてユビキチン化されているBSEP量は、4PBA処理により顕著に低下することを明らかにしている。また、BSEPにユビキチンを融合させたキメラタンパク質を用いた検討などから、BSEPの細胞膜からの分解がユビキチン化により促進されることを示唆するデータも得ている(図表2)。今後、4PBAによる細胞膜上BSEPの分解抑制作用に対するユビキチン化の寄与について、より詳細な解析を進める予定である。

[総括]

以上、前半はBSEP発現MDCKII細胞を用いたin vitro実験系による化合物探索から、4PBAが臨床における認可用量で、BSEPの毛細胆管側膜発現量を増加させる薬効を有し、新規肝機能障害改善薬となりうることを見出した(図表1)。また後半では、4PBAによるBSEPの毛細胆管側膜発現量増加作用の発現機構について解析を行い、細胞膜上BSEPの分解抑制作用が、その薬効発現に関与していることを明らかとした(図表2)。

現在、BSEPの機能不全が関与する肝機能障害に対する内科的療法の実現に向け、帝京大学医学部、東京大学薬学部倫理委員会の指針に基づき、4PBAの肝疾患患者に対する臨床試験を実施している。また、将来的に4PBAに比して高活性の化合物を開発すべく、本研究の化合物スクリーニングに用いた実験系のハイスループット化へ向けた改良に取り組むとともに、4PBAの細胞膜上BSEPの分解抑制作用について、ユビキチン化に焦点を当てながら、分子機構の解析を進めている。

図表1 4PBAによる細胞膜上BSEPの発現量増加作用

図表2 4PBAによる細胞膜上BSEPの発現量増加作用に関する作用機序解析

審査要旨 要旨を表示する

Bile salt export pump(BSEP/ABCB11)は肝毛細胆管側膜に局在し、肝細胞から胆汁中への胆汁酸排泄過程を担うトランスポーターである。胆汁酸の胆汁排泄は、胆汁流の主要な駆動力であるため、BSEPの機能不全による胆汁酸の胆汁排泄障害は、肝内胆汁うっ滞と称される胆汁形成不全を招くとともに、肝細胞内の過剰な胆汁酸蓄積を引き起こす。BSEPの遺伝子変異により発症する進行性家族性肝内胆汁うっ滞症2型(PFIC2)や、感染症、薬物、アルコールに起因する肝機能障害時においてはBSEPが機能不全となり、肝細胞内に過剰の胆汁酸が蓄積する。高濃度の胆汁酸は細胞障害性を有しているため、BSEPの機能不全が慢性化した場合には、肝硬変へと至る。これらの病態時におけるBSEPの機能不全は、主に毛細胆管側膜におけるBSEPの発現量低下に起因することが、これまでの申請者らの研究から明らかにされているものの、BSEPの細胞膜発現量制御機構については詳細が不明であるため、BSEPの機能不全が関与する肝機能障害に対しては、BSEPを直接薬効標的とした内科的療法は確立しておらず、症状が重篤な場合、唯一の治療法は肝移植である。

以上の背景より、申請者は、BSEPの細胞膜発現制御機構を標的とする肝機能障害の新規内科的療法の開発を目的として本研究を遂行し、BSEPの細胞膜発現量を増加させる化合物の探索を行った結果、4-phenylbutyrate(4PBA)を同定することに成功した。さらに、4PBAによるBSEPの細胞膜発現量増加作用の機序について解析を行い、細胞膜上BSEPの分解抑制作用がその薬効発現に関与することを見出した。以下に、詳細を示す。

[本論]

1.BSEPの細胞膜発現量の増加作用を有する低分子化合物の探索

申請者は、イヌ腎臓由来の極性細胞であるMadine Darby Canine Kidney II(MDCKII)細胞において、強制発現させたBSEPが、肝細胞における局在と一致したapical膜に局在することから、MDCKII細胞を本研究のin vitro実験のモデル細胞として用いた。経細胞輸送実験は、基質添加の一定時間後にBuffer中の基質濃度を測定するのみの簡便な実験系であることから、申請者は、BSEP発現MDCKII細胞を用いて、試験化合物処理後に[3H]taurocholate(TC)のbasal側からapical側への経細胞輸送の変動を検出する、すなわち試験化合物によるBSEPの発現量変化を、輸送能の変化から間接的に評価する実験系で試験化合物のスクリーニングを実施し、BSEPの細胞膜発現量の増加作用を有する低分子化合物を探索した。

申請者は、将来的な臨床への適用を考慮し、他疾患に対して既承認の薬物や低毒性の化合物を試験化合物として選択して、スクリーニングを実施し、尿素サイクル異常症の治療薬として用いられている4PBAをヒット化合物として見出した。さらに申請者は、4PBAのBSEPに対する影響を直接的に検討するために、apical膜を介した[3H]TC輸送を算出するとともに、細胞膜分画を用いたウエスタンブロッティングを行い、4PBAは細胞膜発現量の増加作用を介して、BSEPによる胆汁酸輸送を促進していることを示した。さらに、4PBAの当該薬効は、PFIC2型BSEP変異体(E297G,D482G)に対しては認められる一方で、BSEPと同様にapical膜に局在するP-glycoprotein(P-gp)、dipeptidyl peptidase IV(DPPIV)に対しては認められず、4PBAの作用に特異性があることも見出した。

次に、申請者は4PBAのin vivoにおける薬効を実証すべく、尿素サイクル異常症患者に対する認可相当量(0.6g1kglday)をSDラットに5,10,15日間連続投与後、[3H]TCを定速静注し、毛細胆管側膜を介した物質輸送を表わすパラメーターである肝内濃度で規定した胆汁排泄クリアランス(CL bile,liver)を算出した。その結果、[3H]TCのCL bile,liverは約1.5(5日間)~2.5(10,15日間)倍の上昇が認められ、4PBA投与によりBSEPが機能亢進していることが示唆された。また、10日間連続投与したSDラット肝臓から調製した毛細胆管側膜分画を用いてウエスタンブロッティングを行った結果、約3倍のBSEP発現量の増加がみられた。一方、P-gp,DPPIVでは4PBAによる発現量増加作用は認められなかった。

以上の結果より、申請者は、4PBAが、臨床での認可投与量で、BSEPの毛細胆管側膜における発現量を増加させ、胆汁酸の胆汁排泄を促進する新たな薬効を有することを見出した。本成果は、PFIC2などの現在内科的療法が確立していないBSEPの機能不全が関与する肝疾患の新たな薬物治療の可能性を拓いた重要な知見である。また、申請者が本研究で開発した経細胞輸送を指標とした化合物スクリーニング系において、ヒット化合物として同定された4PBAが、in vivoにおいても同様の薬効を示したことから、本実験系はBSEPの毛細胆管側膜発現量を増加させる化合物、すなわち肝機能障害改善薬を探索する有用なツールとしての可能性が期待される。

2.4PBAによるBSEPの細胞膜発現量増加作用の機序解析

申請者は、上記のSDラットを用いたin vivo実験から、4PBAの薬効発現に必要な最低投与量について検討した所、臨床用量であるものの比較的多い服用が必要になることを見出したため、患者の負担の軽減、コンプライアンスの向上を目的とし、将来的により高活性の肝機能障害改善薬を開発する際の基盤構築をすべく、以下に示す4PBAによるBSEPの細胞膜発現量増加作用について、機序解析を行った。はじめに、BSEPの合成、細胞膜へのトラフィッキング、細胞膜からの分解に対する作用を検討し、4PBAの作用段階の同定を試みた。

定量的PCR法、Brefeldin Aを用いたwashout実験の結果などからBSEPの合成、細胞膜へのトラフィッキングに対して、4PBAの作用が認められなかったため、細胞膜非透過性のSulfo-NHS-SS-biotinによるbiotinylation法を用いて、細胞膜上BSEPの分解速度を測定した。その結果、申請者は、4PBAは細胞膜上BSEPの分解を顕著に抑制していることを見出した。以上の結果から、申請者は、MDCKII細胞においては、細胞膜上BSEPの分解抑制作用が、4PBAによるBSEPの細胞膜発現量増加に関与していることを示した。

細胞膜からの膜タンパク質の内在化及び、分解促進因子の1つとしてユビキチン化が知られている。ユビキチン化はE1,E2,E3の酵素反応のカスケードよりなる反応である。また標的タンパク質を認識するE3はゲノム情報上ヒトにおいて約1,000遺伝子存在することから、ユビキチン化はE3ごとに標的タンパク質が異なる基質選択性の高い反応であると推定されている。申請者は、4PBAによる細胞膜からの分解抑制作用は、P・gp,DPPIVに対しては認められず、比較的基質選択性が高い現象であること、さらに実際にユビキチン化が4PBAの当該作用の発現に関与していた場合には、基質選択性が高い、すなわち副作用が低いことが期待される魅力的な肝機能障害改善薬の創薬ターゲットの同定につながることから、現在、ユビキチン化に焦点を当て、4PBAによる細胞膜上BSEPの分解抑制機構について検討を進めている。これまでに、BSEP発現MDCKII細胞、ラット肝毛細胆管側膜分画を用いた検討から、細胞膜上には2~3分子のユビキチンで修飾されたBSEPが存在し、4PBA処理によりその量が顕著に低下することを明らかにしている。また、BSEPにユビキチンを融合させたキメラタンパク質を用いた検討などから、BSEPの細胞膜からの分解がユビキチン化により促進されることを示唆するデータも得ている。

以上本研究は、BSEP発現MDCKII細胞を用いたin vitro実験系による化合物探索から、4PBAが臨床における認可用量で、BSEPの毛細胆管側膜発現量を増加させる薬効を有し、新規肝機能障害改善薬となりうることを見出した。さらに、4PBAによるBSEPの毛細胆管側膜発現量増加作用の発現機構について解析を行い、細胞膜上BSEPの分解抑制作用が、その薬効発現に関与していることを明らかにした。

これらの成果は、現在内科的療法が開発されていないBSEPの機能不全が関連する肝機能障害の薬物治療の可能性を見出した重要な知見であるとともに、今後の医薬品開発に貢献できることを提起しており、博士(薬学)の学位を授与するに値するものと認めた。

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