学位論文要旨



No 217330
著者(漢字) 安,宰徹
著者(英字)
著者(カナ) アン,ジェチョル
標題(和) 建築材料及び部品の易分解性を考慮したセメント系接合技術の開発
標題(洋)
報告番号 217330
報告番号 乙17330
学位授与日 2010.03.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17330号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 野口,貴文
 東京大学 准教授 塩原,等
 東京大学 教授 野城,智也
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 准教授 加藤,佳孝
内容要旨 要旨を表示する

廃棄物と再生資源との性状の相違はその均質性にある。一般に廃棄物の性状は様々な物質の混合物であり、また分解困難な複合的な構成物である。これに対して再生資源の性状は、比較的均質性が高く、また分解可能な構成物であるという特徴がある。つまり、廃棄物の再生資源への転化の重要かつ必要な条件は、様々な物質の混合物をできるだけ単純で均質な物質に分解・分別するということである。この分解分別過程によって「負の使用価値」から「正の使用価値」に転換されるのである。しかし、多くの場合、廃棄物から各素材を完全に分離回収することは困難であり、結果的に不純物を含む劣質素材にしか再生できない場合も少なくない。

このように、物質間の複雑な接合状態が循環を妨げる原因になり、分解とは、物的な構成方法、つまり材の組み立てられ方に左右される。したがって、本研究では建築物の全ライフサイクルにおいて排出される環境負荷発生の主な原因を建築システム内の各材料及び部品結合の分解性設計の観点で接近した。したがって、建築物の強度及び耐久性の側面で広く利用されているが、今まで分解性が考慮されて来なかったセメント系接合技術に対して、省エネルギーで效率的に組立及び分解が可能な接合性能を付与することを目的とした。分解性設計のメカニズムとしては、マイクロ波加熱及び誘導加熱で代表される高周波加熱方法を利用し、各加熱方法を分解性メカニズムとして利用したセメント系接合部の組立性及び分解性実験を通じてその適用性を論じた。

第1章では、本研究の背景、目的及び論文の構成について述べた。

第2章では、「環境配慮型建築のための接合部の分解性設計」について研究を行った。

まず、製品の環境配慮設計において環境負荷を低減させるための多様な戦略モデルと分解性設計との関係を文献を通じて調査した。

そして、既存集合住宅の接合事例を仕上げ材を中心で分析し、分解性が考慮されてない順工程生産システムで製造されたセメント系材料のリサイクルにおいて、品質とエネルギー效率に対するトレードオフ的問題点を導出した。

また、建築部品及び材料の解体において、日本と韓国の標準歩掛りと実績資料を調査し、様々な解体目的において分解性を評価する側面での限界性を指摘することができた。したがって、建築分野での分解性評価を定量的に行うため、加速度計を利用することで分解性の力学的な側面での評価可能性を予備実験を通じて分析した。この結果により、建築物のライフサイクルにおいて様々な解体過程及び解体目的で、人間の労動力による分解時の所要エネルギー測定を通じて分解性の定量的評価ができることを分かった。

以上のような理論的考察及び調査研究を通じ、本研究で対象とするセメント系接合部の分解性設計のために高周波加熱方法の適用可能性を導出し、組立性と分解性を共に考慮した順逆工程生産システムの開発のための総合設計の流れを提示した。

第3章では、「マイクロ波誘電加熱を利用したセメント系接合部の分解技術」について研究を行った。

本章では、易解体性を考慮したセメント系接合部を開発するため、マイクロ波加熱により接合部の急速な加熱が可能であるサセプターを選定し、これを用いた改質材を開発した。改質材を用いたセメント系接合部の組立性及びマイクロ波加熱による分解性を総合的に検討した結果、以下の知見が得られた。

(1) マイクロ波加熱効率を考慮した改質材のサセプターとして鉄系物質が優れた昇温特性を示した。

(2) 酸化鉄粉末は、純鉄及び炭素粉末に比べ優れたマイクロ波加熱効率を示し、セメント系改質材のサセプターとして最適であると考えられる。酸化鉄を利用したセメント系改質材は、絶乾状態でS/B1.0、厚さ1mmの場合に、700Wで30秒、1800Wで20秒以内のマイクロ波加熱でセメントペーストの脆弱化が可能な温度に到達することができる。

(3) 酸化鉄サセプターを利用した改質材をセメント系接合部として利用する場合、付着性能が優れるポリマー系材料を利用することで、普通の内外装材接合モルタルに比べて同等以上の組立性能を示した。

(4) マイクロ波加熱を分解性設計のメカニズムとして用いたセメント系接合部は、改質材調合S/B=1.0、EVA=20%の場合マイクロ波出力750W 30秒、1800W15秒の加熱条件で残存付着強度がほとんどない完全な分解性を示した。

(5) マイクロ波加熱メカニズムを利用した分解性設計がなされたセメント系接合部は、タイル及び内外装材の解体において既存工法の10%以内のエネルギー消費及び温室ガス排出性能を示し、親環境的建築の具現のための要素技術として效果が期待される。

以上のような結論をもとで、マイクロ波加熱を分解性メカニズムとして利用したセメント系接合部は、建築物の利用時には優秀な組立性の確保が可能であり、解体時には省エネルギーで被付着材との完全な分解が可能な分離性を示すことを確認した。

今後、様々な建築部品及び素材の付着及び複合化において、本接合部を適用する場合、再生シナリオにより資源循環及び温室ガス発生量の低減效果を得ることができると考えられる。

第4章では、「誘導加熱を利用したセメント系接合部の分解技術」について研究を行った。

本章では、誘導加熱メカニズムを分解性設計として導入し、接合部の急速な加熱及び脆弱化が可能であるセメント系接合部を開発した。導電性抵抗体の昇温特性及びセメント系接合部の組立性と分解性を総合的に検討した結果、次のような結論を得ることができた。

(1) 導電性抵抗体を利用したセメント系接合部は、普通の仕上げ材の接合モルタルに比べて同等以上の優秀な組立性能を示した。特に、鋼繊維を混入した場合、構造材料及び部材で要求される圧縮強度と曲げ強度、そして内外部の仕上げ材の付着のための付着強度などにおいて最も優秀な組立性を示した。

(2) 導電性抵抗体としてはステンレスの方が鉄に比べて均一な昇温特性を示し、抵抗体形態としてはパンチングメタルが内部渦電流の発生が容易であったため、誘導加熱及びセメント系接合部の脆弱化による分解性能が最も優れた。

(3) 誘導加熱を利用したセメント系接合部の温度上昇及び脆弱化は、高周波出力及び加熱コイルから導電性抵抗体までの距離に大きく影響を受ける。

(4) 導電性抵抗体は建築物各部位の接合材料及び接合部形状・環境により様々な選択が可能である。金属網を利用する場合は付着力が低下しない範囲内で10マッシュ位のできるかぎり鉄線間隔が狭いものが熱伝導によるモルタルの脆弱化に適切である。パンチングメタルの場合は付着モルタルの間の広い界面を形成し組立性を低下する恐れがあるため、o5mm 以上を使うのが組立性と分解性の側面で良いと判断される。また、13mmの鋼繊維を2%以上混入する場合で優れた分解性能を示し、誘導加熱による爆裂時に鋼繊維飛散の恐れがあるためポリマー含有率を10%範囲で利用するのが適切である。

(5) 誘導加熱メカニズムを利用した分解性設計がなされたセメント系接合部は、2.25kW・30秒加熱して僅かの荷重で解体が可能であり、仕上げ材の接合部解体を基準として小型ピックハンマによる既存工法の凡そ2倍のエネルギーが必要とした。しかし、解体材料及び部品を完全に分解し再使用できる長所があるため、高価の材料の再生及び再使用が要求される部品の解体に利用することが適切であると判断される。

第5章では、結論として本論文で得られた成果を章毎に取り纏め後、易分解性が考慮されたセメント系接合技術の実用化のための提案を行った。

以上のように、本研究では、乾式接合方法に比べて分解性が悪いセメント系接合部に対して、マイクロ波誘電加熱及び誘導加熱で代表される高周波加熱方法を分解メカニズムとして利用した易分解性技術を開発した。本章では以上のような研究結果を取り纏め後、建築材料及び部品の易分解性を考慮したセメント系接合技術の実用化のための提案をした。本研究の成果に基づいて、持続可能な社会構築のための循環型建築の実現において基礎資料として提供できれば幸いだと思う。

審査要旨 要旨を表示する

安宰徹氏から提出された「建築材料及び部品の易分解性を考慮したセメント系接合技術の開発」は、建築物のライフサイクル全体における環境負荷の低減、特に廃棄物の発生抑制を図ることを目的として、建築物の様々な部位において無機系建築材料同士の接合に用いられることの多いセメント系接合技術を対象として、建築物の新築時に省エネルギーで効率的に接合ができるだけでなく、建築物の改修時・解体時に省エネルギーで効率的に分解が可能となる技術の開発およびそれを取り込んだ分解性設計手法の構築を試みたものである。分解性設計においては、部材・部品・材料の接合部に電磁波誘電加熱技術および高周波電磁誘導加熱技術の導入を図ることで、易解体性を確保しようとしており、体系的な実験を通じて、これらの技術の適用性が明らかにされている。

本論文は5章から構成されており、各章の内容については、それぞれ下記のように評価される。

第1章では、本研究の背景、目的、特色などが的確に述べられている。

第2章では、建築以外の製品における分解性設計の導入状況、建築物における部品・材料の接合部・接着部に関わる技術・仕様の変遷およびその特徴、分解性の定量評価に関わる既往の研究事例などに関する文献調査を通じて、建築物の改修時・解体時における問題点が整理されており、工事の歩掛りによる分解性評価の限界が指摘されている。さらに、加速度センサーを用いた解体エネルギーの定量評価実験、および電磁波誘電加熱および高周波誘導加熱に関する既往の研究事例の整理もなされており、建築物における部品・材料の接合部・接着部の分解へのそれらの適用可能性についての考察がなされている。

第3章では、電磁波誘電加熱による部品・材料の易分解性を確保したセメント系接合技術を確立することを目的として、接合部分の加熱効率を高めるサセプター材料の種類およびサセプター混入接合材料の幾何学的条件を明らかにするための体系的な実験が行われ、酸化鉄粉末をサセプターとして用いた厚さ1cmのポリマーセメントモルタルは、使用時の高い付着性が確保されるだけでなく、改修時・解体時には省エネルギーで被付着材との完全な分解が可能な材料であることが見出されている。

第4章では、高周波電磁誘導加熱による部品・材料の易分解性を確保したセメント系接合技術を確立することを目的として、種類・形状の異なる様々な導電性抵抗体を挿入したセメント系接合材料の考案がなされ、体系的な実験を通じて、建築物の各部位に用いられる接合材料、接合形状および周辺環境に応じて、接合部分の急速な加熱および脆弱化を可能とする適切な導電性抵抗体が存在することを明らかにしている。内外装材の接合部において付着性能と易分解性能を両立させる場合には、導電性抵抗体として、鉄線間隔の狭い金網、孔径5mm以上のパンチングメタル、13mmの鋼繊維が2%以上混入されたポリマーセメントモルタルなどが適していることを明らかにしている。また、高周波電磁誘導加熱技術を部材同士の接合部の分解に応用する場合の注意点についても考察がなされている。

第5章では、本論文の結論と今後の課題が要領よくまとめられている。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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