学位論文要旨



No 217346
著者(漢字) 申,光憲
著者(英字)
著者(カナ) シン,コウケン
標題(和) 構成要素の変位を静定的に考慮した圧延機の最適設計に関する研究
標題(洋)
報告番号 217346
報告番号 乙17346
学位授与日 2010.04.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17346号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 柳本,潤
 東京大学 教授 光石,衛
 東京大学 教授 吉川,暢宏
 東京大学 准教授 割澤,伸一
 東北大学 教授 藤田,文夫
内容要旨 要旨を表示する

圧延機は、荷重が重型でまた圧延材寸法高精度の要求に応え普遍に広幅4列ベアリングを使う特徴を持つ産業機械である。

本論文は、圧延機の圧延荷重によるロール微小撓みと交差の挙動に着目したロール機構の微小変位等価機構学の自立提案に基づき、高剛性二段棒線圧延機と四段圧延機の構成要素の微小変位を考慮した機構学的静定条件を満足する数と総合分析、実機チョックの微小回転運動の測定試験、ロールのスラスト力可視化測定試験とベアリング負荷特性の境界要素法解析の系統的研究を行い、微小撓み超静定性ロール機構がベアリングに超大の偏荷重を発生させベアリングの損傷を起こすメカニズムとロール微小交差の不静定性ロール機構がロールらの微小交差挙動を起こして超大のスラスト力を与えスラストアンギュラ玉ベアリングの短寿命と焼付き損傷を発生させるメカニズムを解明し、現在存在する圧延機のロール機構の骨組は「骨不足と弱い関節」から構成された不安全機構であることを明らかにした。従って、圧延機をマクロから見れば強く且つよく走るように設計されたけれども、実際の能力は弱く平均的にその半分位しか使えられていないものである。

強度と剛性論を核心とする圧延機設計理論の上に、圧延機の構成要素の微小変位を考慮した静定式ロール機構の動的設計原理を提案し補充することを目的としている。

本論文は、下記のような7章より成っている。

第1章 緒論では、現在存在する新鋭圧延機のベアリングの短寿命と焼き付き損傷問題の解決について、本研究の必要性と位置づけ並びの概要を述べている。

第2章 微小変位を考慮する等価機構学では、ミルロール機構各部の微小変位を扱う理論を基礎とする「微小変位等価機構学の枠組」を提案した。即ち、一個の曲げ変形を表わす弾性棒体は、1個の仮想回転ペアで連結される2個の剛性リンクと等価であるとするアプローチ(図1)を、機構学スケルトンの数と総合に扱う原理とする。この微小変位等価機構学により、圧延機に存在するロールバレルの弾性撓みによるロールネックの微小傾斜回転に伴う静定条件の圧延状態における維持、破壊の両種類状態の変化を解明することができる。

圧延機の圧延運動基礎機械であるロール機構に関し、またその高荷重と広幅ベアリング特徴について、構成要素の微小変位を考慮したロール機構の機構学等価数と総合分析法を構築・提案し、初めて高剛性二段棒線圧延機と四段圧延機のロール機構静定条件分析へ実用したのである。言い換えれば、圧延機のロール彎曲撓みによるロールネックの微小傾斜回転挙動は、広幅ベアリング荷重の異常的不均一分布を起こしその短寿命と焼付け損傷を招くメカニズムを機構学等価数と総合分析法で明らかにした。

第3章 三次元ベアリング荷重特性の境界要素法では、ベアリング三次元負荷特性解析に適合する境界要素法と専用プログラムを開発した。円筒ローラから玉と円錐ローラのすべての形状(図2)を持つベアリングへ適応でき、またロールバレル・ロールネック・ベアリング内外輪及びローラやチョック等ロール機構の全ての部品を一同に合わせ2個弾性体摩擦接触問題として解くことができ、ベアリングだけではなく、またミル剛性の計算にも簡便にシミュレーションすることができる。

圧延機に使う広幅ベアリングの寿命計算法は、不可知の「確率現象」の観点によるモントカロ法を使う必要はなく、制御可能である微小等価機構学的挙動の観点に従い、普通の機械設計理論にある計算法でベアリング全体でなくローラ毎に変更して使えればよい。重点はベアリングのローラ毎の荷重分布を定量的に把握することにある。

第4章 ロールの微小撓みを考慮した静定的ミルでは、現代精密高速高剛性二段棒線圧延機と四段板圧延機のロール機構に対して、微小変位等価機構学によるロール機構にて、系統的スケルトン分析を行い、ロールの微小撓みによるロールネックの微小傾斜回転挙動は必ずロール機構静定条件に影響し、且つベアリングに焼付き損傷を与え短寿命に終わらせる主な原因となることを定量的に解明した。微小空間撓み静定式高剛性二段棒線圧延機(図3)と2050mmCVC熱板仕上圧延機の微小撓み静定式ワークロール装置の開発と稼動の成果は、微小変位挙動を扱う等価機構学原理の正しさを証明することができた。

第5章 微小交差静定式四段ミル(圧延機)では、ハウジングを持つ圧延機において、ロールチョックはハウジング窓口内間に微小ギャップを有することにより、機構自由度過剰の不静定的等価ロール機構となる。異常のスラスト力の存在はワークロールとバックアップロール間の微小交差挙動(図4)にあることを見出し、これはロール機構の動態安全性を低下させる根源となる。振れ回り外乱モメントによるドライブロールのジャイロ運動()と摩擦力によって加わるモーメント()による連合微小交差挙動やロールチョックの熱膨張による逆向け交差挙動はPC圧延機のマクロ交差と違う交差挙動であることを掲示し、それは止むを得ないギャップの存在とオフセットに対する誤り認識にあることを指摘し、その制御が可能であることを明らかにした。この結果、従来の四段圧延機ロール機構オフセットロールの水平位置決め拘束手法は無効であることを立証した。これにより、アンギュラ玉ベアリングの許容スラスト力と実機測定で得たスラスト力との比較により、ベアリングの寿命が1/27に減少し短寿命と焼付き損傷の主な原因となることも解明したのである。また、チョックを通してロールの微小交差挙動を阻止し同時に熱膨張を許容するする拘束法の方案設計を提案する。

近代相続いて出現したドイツSMS製2050CVC四段圧延機と4300中厚板四段圧延機、イギリスDAVY製四段圧延機や三菱重工製1580交差(PC)四段圧延機は、全部オフセット値(3~13mm)を与えているが、そのオフセット拘束法は、剛性でない弾性ロールの圧延荷重による扁平変形の場合で無効になり、ロール同士の微小交差挙動を阻止できない不確定性を持つことである。

圧延機のスラスト力の発生メカニズム関して、スラスト力測定システムの開発と実機測定実験によって対策前のスラスト力と圧延荷重の比を0.05レベルから対策後0.003レベルに引き上げ、スラスト力はロール交差角がゼロに近づく程漸近線形的に小さくなるのではなく、突変急激低下反対向けになり、跳躍波動している状態であることが判った。またスラスト力に影響を及ぼす圧延速度の関係も得た。

第6章 ロール微小撓みと交差静定式ミル(圧延機)では、微小空間撓みと交差静定性を持つ600mm半密閉型二段圧延機(ベアリングの採用)を設計し、圧延生産に投入して4年以上になった。このミルのベアリング寿命は半年以上あり、高強度鋼の圧延が可能で圧延材の寸法精度の確保ができたのである。

第7章 結論では、本論の成果として、圧延機構成要素の微小変位を考慮した微小静定式ロール機構の設計原理を提案した。これは強度・剛性を核心とするミル設計理論の補充発展である。こりにより創り出した微小撓み静定式高剛性二段棒線圧延機、微小空間撓み静定式高剛性二段棒線圧延機とユニバッサル微小空間撓み静定式高剛性型鋼圧延機等合わせ50mm/430mm/530mmの3規格ある17台の微小空間撓み静定式二段棒線圧延機は工業的に使用されている。その結果高剛性二段棒線圧延機ベアリングの長寿命化が進歩し、巨大な経済効益を生み出したのである。

2050mmCVC仕上四段圧延機に対し、微小撓み静定式装置を開発して元のロールベンディング力0.6MNを1MNに増加させ、フリースケジュール圧延技術を実施する条件を整えるに寄与したのである。

本論の圧延機構成要素の微小変位挙動探求の展望として、、圧延機圧下ねじ装置ナツトの快速磨耗問題の探求、四段圧延機ロールバレル対称線の無負荷と圧延荷重状態の交換における微小撓み挙動と四段圧延機の圧延荷重支反力偏差起因の解明等課題がまたあるのである。

21世紀の圧延機において、その基礎部品であるベアリングは圧延設備の高荷重(70MN)、高速度(2000m/min)及び高精密(製品精度許容差0.05mm)化の厳しい要求に直面して、更新換代の新品となるもっと強くてよく走る圧延機を創造しなければならない。

図1

図2

図3 微小空間撓み静定式高剛性二段棒線ミル

図4

審査要旨 要旨を表示する

鉄鋼、銅、アルミニウムに代表される構造材料は、建築・土木用材料、機械部品用材料、電子部品用材料などとして利用されることで広く産業の基盤を支え、より豊かな社会の実現に貢献している。これらの構造材料の生産量は社会の豊かさと関連している。例えばわが国の鉄鋼生産量は、終戦後1950年代半ばには戦前の最大値(765万トン/年)を超え、1970年代半ばには11,000万トン/年の生産量を記録し現在も同水準を維持している。中国では2009年に57,000万トンの生産を記録しており、10年間で5倍以上の伸びを見せている。鉄鋼製品に代表される構造材料の生産には圧延加工が深く関わっており、寸法精度が高い素材の高速での安定した生産には高度な圧延技術を欠かすことができない。圧延技術の核となるのは高精度かつ高生産性の圧延機であり、構造材料製造の為のマザーマシンとして世界各国で長年にわたり、研究開発が行われている。

圧延機には、被圧延材の幅1m当たり最大数千トンの荷重を受けつつ毎分1000m以上の高速度で被圧延材に塑性変形を与え、なおかつ板厚の偏差は厚さの1/100台、例えば3mmの板を圧延する場合には30μm以下の精度で圧延することが要求される。そのためには圧延機を構成する各機械要素やこれらを総合した機構全体として、この要求を満足する様に最適設計が行われねばならない。圧延機を構成する各機械要素については綿密な検討が行われているのに比べ、機械要素を総合した機構全体として圧延機を最適設計しようとする試みは少なく、このことが、予期せぬベアリング損傷事故による生産性の低下や、ロールの変形に起因する寸法精度の低下の原因となってきた。本論文は「構成要素の変位を静定的に考慮した圧延機の最適設計に関する研究」と題し、著者の長年にわたる圧延機設計の実務経験をもとに理論的考察を加えることで、圧延機の機構全体としての静定性を保ちつつ生産性および精度が高い圧延機を実現するための最適設計方法が、豊富な事例と共に述べられている。論文は7章から構成されている。

第1章は序論であり、研究の背景と目的について述べている。第2章では、圧延機を構成する機械要素、すなわちワークロール、バックアップロール、ハウジング、ベアリング等に、待機中ならびに圧延加工中に生じる微小な変位について考察し、圧延機全体としての静定性を保つこと、すなわち、各機械要素の自由度よりこれらの結合関係による拘束条件を減じた圧延機の機構全体としての自由度が1となる状態となるよう圧延機を設計することの重要性を示した。この考察によって、圧延中のベアリングの異常損耗、焼きつきが、機構の自由度不足つまり超静定構造であることに起因していることを示した。第3章ではベアリングの各部分に発生する接触応力を計算するための境界要素法の定式化を示し、作成したプログラムを検証することで手法の妥当性を示した。第4章では、代表的な2つの圧延機として、2段棒線材圧延機と4段薄板圧延機を取り上げ、これらの圧延機の機構を3次元的に解明して最適設計を行った。この設計に基づき実機圧延機を改造しベアリング圧力分布等のデータを取得するとともに、ベアリング圧力分布の境界要素法で解析した結果や実機圧延試験結果と照合することで、本研究で提案する手法の妥当性を示した。第5章では、箔の4段圧延機に発生するスラストベアリングの異常損耗について検討し、熱膨張の影響をも考慮した上でこの以上損耗の原因が圧延中のワークロールとバックアップロールの間での交差運動の進展に起因していることを見出した。第6章では、第5章の結果を受けて、ワークロールとバックアップロールの間での交差運動を抑止するための圧延機の最適設計法を述べた。第7章は結論であり、本研究の成果をまとめ今後の展望を記した。

本研究は、圧延機の最適設計に機械要素を総合した機構全体としての考えを行う重要性を指摘した点、また豊富な事例をもとにこれを検証した点で工業的な価値は高い。また、本論文の内容が、5編の原著論文(内4編は英文)として公表されていることは、工学的にも高く評価できる。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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