学位論文要旨



No 217357
著者(漢字) 西口,哲也
著者(英字)
著者(カナ) ニシグチ,テツヤ
標題(和) 高濃度オゾンガスを用いた半導体の低温酸化プロセスに関する研究
標題(洋)
報告番号 217357
報告番号 乙17357
学位授与日 2010.05.20
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17357号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 岡野,達雄
 東京大学 教授 市川,昌和
 東京大学 教授 前田,康二
 東京大学 教授 福谷,克之
 東京大学 教授 吉信,淳
内容要旨 要旨を表示する

本研究では、次世代半導体デバイス(およびその他電子デバイス)の製造プロセスにおいて現状600~900℃程度の高温処理が要求されている各種酸化プロセス(基板の直接酸化、改質、CVD等の堆積プロセス)の低温化を目指し、半導体プロセス適用を念頭に置いた100%近い高濃度オゾンガスの(安定、大流量)製造供給技術、利用技術(高濃度オゾンガスの安定輸送、低金属汚染のための材質)の開発を行った。次に高濃度オゾンガスの高効率な利用を実現するために、従来明らかにされていなかったオゾンによるシリコンの酸化メカニズムを、高精度のオゾン濃度計を用いた実験および計算(熱流体化学シミュレーション)により、初めて明らかにした。さらにその結果を活用し、高濃度オゾンガスを用いた200℃の酸化プロセスを構築した。以下に詳細を述べる。

第2章「高濃度オゾン発生、利用技術の開発」では、半導体プロセス用酸化剤供給装置として要求される、(1)大流量の供給(大型基板の均一処理)、(2)24時間連続かつオゾン濃度およびオゾンガス流量が時間的に安定した供給、(3)ガス中の低不純物濃度(低金属不純物量)の全てを満たす、高濃度(90vol.%以上)オゾン発生装置を開発した。(1)の大流量供給を実現するためには、オゾン/酸素混合ガスから低温(90K前後)で液体オゾンを分留貯蔵する際の液化率を常時高く保つ必要があるが、これは、オゾン/酸素混合ガスを製造する放電管(オゾナイザー)に(H2OやCO2等の低蒸気圧の反応副生成物の少ない)仕様のものを用いること、さらに定期的に液体オゾン貯蔵部にトラップされた不純物ガスを脱ガスする工程を設けることで、可能となった。(2)24時間連続安定供給、に関しては、液体オゾン貯蔵部を3個並列に設置、各貯蔵ベッセルの温度を共通の冷凍機からの熱抵抗をガススイッチの原理により自由に制御できるようにすることで、ベッセルごとに液体オゾンの蓄積、オゾン処理炉への高濃度オゾンの供給等、任意のタイミングで、ベッセルごとに別のフェイズの動作を実現することで可能となった。(3)高純度(低金属不純物)に関しては、減圧高濃度のオゾンガス中のオゾン濃度をその場(リアルタイム)で高精度(有効数字2桁で)計測が可能な「高精度オゾン濃度計」を新たに開発し、供給配管やオゾン処理炉(特に高温部)等接オゾンガス部で用いる材質に関して詳細な検討を行った。結果、高濃度オゾンガスの輸送配管、オゾン処理炉、シール部等の構成材質に関して、室温部(50℃以下)には、(事前に高濃度オゾンガス暴露を実施し表面に保護膜を作製させた)電界研磨したステンレス、アルミニウム合金を用いることができること、200℃以上の高温部には、石英、SiCセラミック等の材料が高放熱、高耐熱、高熱伝導材料として利用できることを明らかにした。接オゾンガス部をこれら材質に制限することで、オゾンガス中に混入する重金属汚染量を(ゲート酸化膜作製に要求される程度の)十分に低いレベルまで低減できることを示した。

第3章「オゾンによる酸化メカニズムの解明」では、2章で開発した高精度オゾン濃度計測技術を利用し、新たに設計した200mmシリコン基板オゾン熱処理炉システムの排気ガス中のオゾン濃度をシリコン熱酸化中にリアルタイムで計測、(1)本処理システムの物理的形状、境界条件、(2)オゾンの熱、輸送物性、(3)オゾンの気相の化学反応、(4)シリコン表面でのオゾン解離反応、を適切に組み込んだ熱流体計算との合わせこみを実施し、新たなオゾン酸化のモデルを構築し、同時に高効率なオゾン酸化法(=高濃度に酸素原子を発生させる手法)を明らかにした。具体的には、(1)シリコンの表面温度が400℃以上におけるオゾン酸化(シリコン酸化膜:1~3nm)おいては、従来無視していたシリコン表面でのオゾンの解離反応(O3(g)+SiO2(s)→O2(g)+O(s)+SiO2(s)、式1、(g)はガス、(s)は表面(に吸着)を示す)は無視できない。また紫外光照射+高濃度オゾン(紫外光励起オゾン)による酸化時においても、200℃~300℃において、オゾンの表面解離反応が起きていると考えられ、解離率は温度に依存せず3.3%前後であることが明らかになった。また計算と実験結果の合わせこみにより、オゾン酸化時(400℃以上)および紫外光励起オゾン酸化時(200℃~300℃)において、シリコン酸化膜表面からの酸素原子の(SiO等の形で)の脱離は、酸素酸化に比べ激しい(すなわちオゾン酸化は、酸化反応とエッチング反応が競合しつつ進む酸化である)と推定されたが、オゾン酸化中の酸化膜表面をSTMにより直接観察した過去の文献、(紫外光励起)オゾンの持つポテンシャルエネルギーを考えると表面のエッチング反応が激しいことは妥当であると考えられる。また以上のように表面でのオゾンの解離反応を考慮したモデルにより、計算で得られた酸素原子濃度(分布)で、成長したシリコン酸化膜厚(分布)を定性的、定量的に説明できた。例えば表面での酸素原子濃度が1014[cm-3]台以上の領域においてのみ、500℃30分処理で5nm以上の熱酸化膜作製という高速な酸化処理が実現できることが明らかになった。さらに、高濃度オゾン酸化によるシリコン熱酸化速度において、見かけ上500℃より低温側と高温側で酸化速度のB定数(d2=Bt、ここでdは酸化膜厚、tは酸化時間)の活性化エネルギーが異なる(500℃より高温側の活性化エネルギー:0.53eV、低温側:0.8eV)ように観察される原因は、低温側でのオゾンから酸素原子の生成効率の低下、高温側でのオゾンの輸送効率の低下、の両効果が合わさった結果であることが示された。前者の生成効率の低下を引き起こす要因は、オゾンから酸素原子を生成する際に必要な解離エネルギー(=1.05eV)であり、後者の高温での輸送効率の低下を引き起こす要因は、シリコン表面でのオゾン解離反応の結果新たに発生する酸素分子(式1参照)は高温ほどオゾンとの反応速度定数が大きく、高温ほどガスの流れに沿ったオゾン分子の消滅速度が大きいことである。これらの対策として、(1)オゾンの表面解離反応が低い(あるいは問題にならない)200℃程度の低温でオゾン雰囲気に紫外光を照射すること(=紫外光励起オゾン処理)、あるいは(2)オゾン分子を(ガスの粘性の影響により輸送律速とならないよう)真空中で超音速ビーム状(オゾンの運動エネルギー>オゾンの解離のエネルギー(1.05eV))で供給することが有益であり、これら手法により酸化のB定数の活性化エネルギーは、酸素原子の酸化膜中の拡散の活性化エネルギー(0.14eV程度)まで小さくでき、その結果200℃での高速酸化が可能になることが明らかにされた。

第4章「高濃度オゾンによる低温酸化プロセスの開発」では、3章の結果を踏まえ、比較的均一に広領域に最も高濃度に酸素原子を供給できる紫外光励起オゾン処理(=「紫外光照射+高濃度オゾン供給」法)を利用して、低温(200℃)でシリコン基板の直接酸化、既製CVD膜の改質、CVD膜の製膜のプロセスを新たに構築した。具体的には、200℃で従来の600℃処理並の酸化速度でのシリコンの直接酸化が可能であり、出来た酸化膜は、絶縁性に優れ、良好な(理想的なバリア高さを有する)シリコン酸化膜/シリコン界面が形成されることを明らかにした。また既製の600℃前後で製膜したCVD膜の改質(不純物の脱ガス、酸素欠損の修復)が200℃で可能であること、さらに600℃程度で製膜した従来TEOSCVD膜にも勝る膜質を有する(膜中不純物含有量が少なく絶縁性が優れた)高品質なCVD-SiO2膜が200℃で製膜可能であることを示した。一方で、紫外光がシリコン酸化膜や下地基板(シリコン)に照射されることが原因で、改質や製膜の過程において長時間紫外光を照射した場合には、シリコン酸化膜/シリコン界面に歪が蓄積し、シリコン酸化膜の信頼性の劣化が引き起こされることを示した。また処理炉排気ガスのオゾン濃度を2章で開発した「高精度オゾン濃度計」にて±1%以下の精度で計測することで、CVD膜の製膜中にCVD膜と光学特性の異なる下地基板(シリコン)の間で光干渉が起きることを観測できた。光干渉の結果CVD膜堆積中の膜表面での酸素原子濃度はCVD膜の膜厚の変化に連動して周期的に変動していると予想され、実際最も酸素原子濃度が高いと思われる時間帯にCVDソースガスの供給を停止しCVD膜の改質を行ったところ、効果的な改質が実現できた。すなわち製膜中の排ガスのオゾン濃度の高精度計測がリアルタイムプロセスモニターとして活用できること、これを活用した新しいプロセス構築が可能であることを明らかにした。

審査要旨 要旨を表示する

半導体デバイス製造において必須な酸化層形成プロセスを低温化することにより、デバイスの微細化や基板材料の多様化などの面で大きな飛躍が生まれることが期待されている。本論文は「高濃度オゾンガスを用いた半導体の低温酸化プロセスに関する研究」と題し、従来試みられていなかった高濃度オゾンガスを用いた半導体表面の酸化プロセスに関する一連の研究成果をまとめたものである。論文提出者は、高濃度オゾンのプロセス利用において不可欠な高濃度オゾン濃度計を開発し、この濃度計を用いて計測されたデータを表面反応プロセスの熱流体化学反応シミュレーションと組み合わせることにより、半導体表面での酸化プロセスにおけるオゾンの反応過程を明らかにすることに成功した。また、オゾンの表面反応過程に関する知見を基にして、紫外光照射とオゾン酸化の各々の利点を生かした紫外光励起オゾン処理法を確立し、従来に比べて格段に低い温度においてシリコン基板の直接酸化が可能であることを実証した。

論文は全5章から成っている。

第1章は序論であり、半導体表面の低温酸化技術の研究開発の歴史を概説した上で、高濃度オゾンガスを用いることにより、従来にない酸化プロセスが実現できることを論じている。

第2章は、「高濃度オゾン発生、利用技術の開発」と題し、半導体プロセスに適用可能な高濃度オゾン供給システムの開発とオゾン濃度のリアルタイム高精度計測法について論じている。半導体プロセス用酸化剤供給装置として要求される項目の全てを満たす90vol.% 以上の高濃度オゾン発生装置が開発され、真空用材料の改良を経て、高純度オゾン供給システムが完成した。オゾン濃度計測法に関して、著者は紫外線吸収式オゾン濃度計とオゾン完全分解型濃度計を巧妙に組み合わせた測定器を考案し、この測定器によって、実際のプロセス時と同等の圧力・流量条件の下で、10-100 vol.%のオゾン濃度を有効数字2桁の精度でリアルタイム計測しうることを実証した。

第3章は、「オゾンによる酸化メカニズムの解明」と題し、200mmφの水素終端Si(001)基板を試料として、オゾン熱処理炉を用いて行われたオゾンガスによるシリコン熱酸化プロセスに関する研究成果を論述している。反応炉出口でのオゾン濃度計測データと熱流体化学反応シミュレーションを組み合わせることにより、オゾンガスによるシリコン酸化層形成過程に関して、以下のような新しい知見を得た。(1)400℃以上の表面温度では、シリコン表面でのオゾン解離反応が進行する、(2)紫外光照射を併用することにより、200℃~300℃においても、オゾンの表面解離反応が有意に存在し、表面解離率は3.3%前後である、(3)オゾン酸化過程において、基板表面からの酸素原子の脱離過程が共存している、(4)高濃度オゾンによるシリコン熱酸化速度の活性化エネルギーが、500℃を挟んで低温側と高温側で変化するのは、低温側でオゾンから酸素原子の生成効率が低下することと高温側で酸素分子との反応のためにオゾンの輸送効率が低下するという2つの要因が複合している結果である。

第4章は、「高濃度オゾンによる低温酸化プロセスの開発」と題し、第3章で得られたオゾンの表面反応過程に関する知見から導き出された新しい低温酸化プロセスについて論じている。この低温酸化プロセスは、高濃度に酸素原子を広領域に供給できる紫外光励起オゾン処理法を利用するものであり、低温においてシリコン基板の直接酸化を可能とするのみならず、C V D 膜の改質やC V D製膜プロセスにも適用することが可能となった。オゾンガスとHMDSガスを用いたCVD法の場合、200℃で従来の600℃処理に匹敵する酸化速度での直接酸化が可能であり、形成された酸化膜は、絶縁性に優れ、理想的なバリア高さを有することを実証した。また、紫外光照射によるC V D 膜の劣化を修復するためのオゾンアニールにおいて、第2章で開発した「高精度オゾン濃度計」をプロセスモニターとして有効に活用できることを明らかにした。

第5章は、本研究の成果の要約と今後の研究開発の課題に関する考察である。

以上を要約すると、論文提出者は、プロセス用高濃度オゾンの高純度化に取り組むと同時に、オゾン濃度を正確にモニターすることのできる計測手法を完成させ、この計測手法をオゾン酸化プロセスの熱流体化学反応シミュレーションと組み合わせることにより、半導体表面での酸化プロセスにおけるオゾンの表面反応を解明することに成功した。また、表面反応に関する知見を基にして、紫外光照射と高濃度オゾンガスを組み合わせた低温酸化プロセスを設計し、従来の方法に比較して格段に低温で高品質な酸化膜の形成が可能となることを実証した。これらの研究成果は、半導体基板表面とオゾンの表面反応の理解を深化させると同時に、半導体プロセスの高度化に大きく寄与したものであり、物理工学として顕著な貢献があった。よって、本論文は博士(工学)の学位申請論文として合格と認められる。

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