学位論文要旨



No 217371
著者(漢字) ペリー,史子
著者(英字)
著者(カナ) ペリー,フミコ
標題(和) アーバン・インテリアの空間構成に関する研究 : 実態・意識・感覚に基づく実証的分析
標題(洋)
報告番号 217371
報告番号 乙17371
学位授与日 2010.06.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17371号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 西出,和彦
 東京大学 教授 岸田,省吾
 東京大学 教授 平手,小太郎
 東京大学 准教授 千葉,学
 東京大学 准教授 大月,敏雄
内容要旨 要旨を表示する

第1章 序 論

人間が歩行者として、自由にアクセスできる都市公共歩行者空間は、都市における人々の生活活動・行為を支え、都市の魅力を高める重要な空間である。そこに人が集まることで、都市の活力の源となるため、都市づくり・まちづくりにおける空間形成の主要なターゲットとなっている。このような都市公共歩行者空間は、都市社会の要請に応じて、例えば公園のようなオープンスペース(空地)、自動車交通空間との対比においての歩行者専用空間、室内化された街路、あるいは、歩行者が自由にアクセスできる自由空間として取り上げられたりし、そのような枠組みの中で、それぞれ特有の性質・役割を担う空間として研究されてきた。

近年では、種々の都市開発が、より豊かな都市空間を目指して形成されるのに伴って、多様なかたちの質の高い歩行者空間が、地下空間、建築物の内空間、建築物に取り囲まれた内部性の高い外空間としてつくられてきている。これらは将来的にも拡大されて、今後の都市歩行者空間の形成・再編成において重要な位置を占めるものと考えられる。しかしながら、このような新しいタイプの歩行者空間は、従来の、都市歩行者空間を地下街のような内部空間と街路空間や建築周囲の空間などの外部空間とに分けた枠組みでは捉えきれないところがある。新しい空間の出現を認識し、新たな枠組みで歩行者空間を捉え直す必要があると考えられる。

そこで、本研究では、都市公共歩行者空間を、内空間(少なくとも天井、屋根で覆われている空間)、外空間(天井、屋根に覆われていない空間)という物的な空間属性に着目して区分する。そして、物的な内空間・外空間に、内部性(内空間に特徴的であるような空間性)・外部性という質的な空間特性を加え、内空間および、内部性の高い外空間をアーバン・インテリアと規定して、これを研究対象とする。アーバン・インテリアという概念的枠組みにおいて都市公共歩行者空間を捉え、その特性やあるべき方向性を明らかにすることから、都市公共歩行者空間形成の新しい地平を切り開くことを試みる。

本論文は全5章で構成され、第1章では、本論文の背景、目的、研究対象を明らかにしている。第2章では、アーバン・インテリアの事例収集によってその変遷を概観し、その実態と特性を述べている。第3章では、アーバン・インテリアの有する人間的意味(アーバン・インテリアに対する利用者の意識)を現地意識調査に基づいて分析し、今後の空間構成やデザインの方向性、可能性を示す。第4章では、第3章の結果を踏まえ、空間を構成しているフィジカルな要素・要因と人の空間感覚との関係を実験調査から明らかにし、空間デザインの指針を挙げる。第5章では、第2章から第4章までの結果をまとめ、本研究の意義を述べると共に、今後の課題・発展性を記述している。

第2章 アーバン・インテリアの実態と特性

本章では、まず、空間の物的な内・外、質的な内部性・外部性を整理し、文献分析から、アーバン・インテリアに求められる空間性として、(1)内部性(保護性、安全性)、(2)外部性(好ましい自然性、眺望性)、(3)利便性、(4)ヒューマン・スケール性を導き出した。

次に、アーバン・インテリアの内、内空間に関してその歴史を展望し、少なくとも古代ギリシアの頃から現代に至るまで様々なかたちで登場していることを明らかにした。内空間を生み出すときに重要となる採光の違いによって空間の作られ方が異なる事を見いだし、それを要因としてアーバン・インテリアの流れは「直接光期」、「透過自然光期」、「電気照明期」、「ポスト人工照明期」に分類できること、これを踏まえて日本の内空間アーバン・インテリアにおいても、空間の壮大化が見られることを導き出した。外空間アーバン・インテリアに関しては、多様な空間形態の分析からその空間特性を求め、「歩行者占有性」、「空間演出装置による都市的スケールから人のスケールへのスケール・ダウン」、「内空間アーバン・インテリアとの繋がり」にまとめることができた。そして、日本における近年のアーバン・インテリアの傾向として、空間の壮大化、及び、内空間・外空間アーバン・インテリアの総合化を導き出した。

アーバン・インテリアの空間的様態の類型分析からは、多様な平面・断面のデザイン、及び空間スケールがあること、結節空間のデザインは空間の一体化に影響を及ぼすこと、その機能的特性は「広場(交流の場)」、「通路」、「ショートカット」、「ネットワーク」に大きく分類できること、また、アーバン・インテリアは、歴史的にも多様な目的や手法をもって形成されてきたことが明らかになった。

このように、多様なアーバン・インテリアを概観・類型化することによって、アーバン・インテリアの実態と特性を明らかにすることができた。より豊かなアーバン・インテリア構築のために、個別的、具体的な空間を対象として人々の意識や感覚の調査・分析を行い、空間構成やデザインの可能性・指標を導き出すことの必要性が見出された。

第3章 アーバン・インテリアの空間意識 -地下空間を中心として-

本章では、アーバン・インテリアの人間的意味を解明することを目的として、アーバン・インテリア空間に対する利用者の意識・感覚と空間的様態との関係を分析した。調査対象としては、日本における代表的アーバン・インテリアであり、また、都市計画的にも意義の高い地下空間(地下街、地下通路)に焦点をあて、それらの個別空間に対して現地意識調査を実施した。

まず、地下街空間に関しては、以下のことが明らかになった。

(1)地下街空間における定位に関しては、地下意識は、下りるという行為や知っていると言う事実、及び、「光がない」「狭い」と言う空間自体の明るさや規模から生じており、空間の広さやデザインという空間属性の操作、空間構成によって、否定的なイメージに結びつく地下空間という意識は払拭することが可能である。

(2)新しいタイプの地下街空間の主イメージは、「広く、明るく、きれい」であること、そして、これらは単に広いというのはなく、外空間のように広く、自然光や空という好ましい自然が持ち込まれていて屋外のように明るいということである。

次に、距離の長い地下連絡通路を対象とした意識調査では、外空間である地上と比較することより、(1)外空間と内空間での空間の捉え方には違いがある事、(2)外空間の捉え方は、雰囲気や移り変わりという全体性や眺望性に着目している事、(3)内空間では床や壁や照明、オブジェという空間構成要素や個別的空間等より具体的な空間把握をなしている事、がわかった。また、歩行時間では、地下空間の方が地上空間に比べて長く感じられ、その主要因として、風景の単調さが指摘された。

アーバン・インテリアに対する利用者の空間意識を捉え、地下空間のデザインの方向性や可能性、様々なデザイン的工夫されている地下通路空間における検討課題を示すことができた。

第4章 アーバン・インテリアの空間構成と空間感覚

本章では、3章の結果を踏まえ、空間を構成しているフィジカルな要素・要因と人の空間感覚との関係を明らかにすることを目的とし、仮想現実空間を用いて空間評価実験を実施した。

評価項目には、広がりに対する感覚と時間的感覚を取り上げ、以下の成果を得た。

(1)アトリウム空間において、容積が同じ場合は、横断面の形状が縦長であるよりも横長の方が広がり感の評価が高く、幅員が広がり感評価に最も影響する。

(2)幅の次に大きな影響力を持つのは、天井の透明性である。

(3)ガラス素材でない場合、照明等との組み合わせによって頭上の開放感につながるような明るさが表現できれば、広がり感を増大させることができる。

(4)アトリウム空間の高さと広がり感評価は直線の関係にあり、天井高が高い程、広がり感評価は高い。

(5)同一空間の場合、ガラス天井の構造体デザインによっても広がり感評価は左右され、ガラス面が多く見える方が評価は高い。

これらより、この種のアトリウム空間において広がり感をもったデザインをするためには、高さよりも幅を重視する必要があり、また、透明なガラスを使用することの有効性が立証された。一方、ガラス素材が使用できない場合にも、照明等の工夫によって頭上の開放感を演出できれば広がり感を増大させることがわかったことの意義は大きい。同じ空間であっても、天井のガラス面が多く見えることによる透明性、構造体が多く見えない事による空間の軽やかさは広がり感評価に影響を与え、構造体細部のデザインの重要性が示唆されたと言える。

時間的感覚に関しては、地下通路に面して設けられている隣接するビルへの地下レベルのエントランスのデザインによって、歩行時間を短く感じさせることが可能であることがわかった。通路空間からこのエントランスに向けての眺望を生み出すような、エントランスを含めたアーバン・インテリアの結節空間としてのデザイン工夫が必要であり、効果的であると考えられる。

第5章 結 論

本章では、第2章から第4章までの結果をまとめ、本研究の意義を述べると共に、今後の課題・発展性を記述した。

本研究では、アーバン・インテリアの実態と特性を明らかにし、アーバン・インテリアの進むべき方向性やアーバン・インテリアの空間構成と利用者の空間感覚に関する具体的なデザイン指標を現地調査・実験調査に基づいて示すことができた。

今後は、アーバン・インテリアの総合化からもその重要性が伺われるネットワーク化に関わる事柄、広がり感・時間的感覚以外の空間感覚や空間認識の側面、アーバン・インテリア空間情報把握のための容易な視覚的表示システムの構築を取り上げることによって、人々のための、より魅力的なアーバン・インテリアの創出が導かれるものと考えられる。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、都市公共歩行者空間を、内空間、外空間に区分し、内部性・外部性という質的な空間特性を加え、内空間および、内部性の高い外空間をアーバン・インテリアと規定して、都市公共歩行者空間を捉え、その特性やあるべき方向性を明らかにし、その新しい地平を切り開くことを試みるものである。

都市公共歩行者空間は重要であり、近年多様な質の高い歩行者空間がつくられてきているが、このような新しいタイプの歩行者空間は、従来の枠組みでは捉えきれないという背景がある。

本論文は全5章で構成される。

第1章では、本論文の背景、目的、研究対象を明らかにしている。

第2章では、アーバン・インテリアの事例によりその変遷を概観した。

まず、文献分析から、アーバン・インテリアに求められる空間性として、内部性(保護性、安全性)、外部性(好ましい自然性、眺望性)、利便性、ヒューマン・スケール性を導き出した。

次に、古代ギリシアから現代に至るまで歴史を展望した。採光によって空間の作られ方は異なり、アーバン・インテリアは直接光期、透過自然光期、電気照明期、ポスト人工照明期に分類でき、日本の内空間アーバン・インテリアにおいて、空間の壮大化が見られることを導き出した。外空間アーバン・インテリアは、歩行者占有性、空間演出装置による人のスケールへのスケール・ダウン、内空間アーバン・インテリアとの繋がりがあるとした。日本における近年の傾向として、空間の壮大化、及び、内空間・外空間アーバン・インテリアの総合化を導き出した。

アーバン・インテリアは、多様な平面・断面のデザイン、スケールがあること、結節空間のデザインは空間の一体化に影響を及ぼすこと、その機能的特性は、広場(交流の場)、通路、ショートカット、ネットワークに分類できること、歴史的にも多様な目的や手法をもって形成されてきたことを明らかにした。

第3章では、日本における代表的アーバン・インテリアであり都市計画的にも意義の高い地下空間(地下街、地下通路)を対象として人間的意味(利用者の意識)を現地意識調査によって分析し、今後の空間構成やデザインの方向性、可能性を示した。

地下街空間における地下意識は、下りるという行為や知っているという事実、及び、「光がない」「狭い」と言う空間自体の明るさや規模から生じており、空間の広さやデザインの操作、空間構成によって、否定的なイメージを払拭する可能性を示した。新しいタイプの地下街空間の主イメージは、「広く、明るく、きれい」であり、外空間のように広く、自然光や空が持ち込まれて屋外のように明るいということを示した。

次に、距離の長い地下連絡通路を対象とした意識調査から、外空間である地上と比較すると、外空間は、雰囲気や移り変わりという全体性や眺望性に着目しているが、内空間では床や壁や照明、オブジェという空間構成要素や個別的空間等によりとらえている事を明らかにし、歩行時間は、地下空間の方が地上空間に比べて長く感じられ、その主要因として、風景の単調さを指摘した。

第4章では、第3章の結果を踏まえ、空間を構成しているフィジカルな要素・要因と人の空間感覚との関係を実験調査から明らかにし、空間デザインの指針を挙げた。

仮想現実空間を用いて広がりに対する感覚と時間的感覚についての空間評価実験を実施し、アトリウム空間において広がり感をもったデザインをするためには、高さよりも幅を重視する必要があり、また、透明なガラスを使用することの有効性を立証した。一方、ガラス素材が使用できない場合にも、照明等の工夫によって頭上の開放感を演出できれば広がり感を増大させることを明らかにした。同じ空間であっても、天井のガラス面が多く見えることによる透明性、構造体が多く見えない事による空間の軽やかさは広がり感評価に影響を与え、構造体細部のデザインの重要性を示唆した。

時間的感覚に関しては、地下通路に面して設けられている隣接するビルへの地下レベルのエントランスのデザインによって、歩行時間を短く感じさせることが可能であることを明らかにした。アーバン・インテリアの結節空間のデザインの工夫が必要であることを示唆した。

第5章では、第2章から第4章までの結果をまとめ、本研究の意義、今後の課題・発展性を述べた。

以上のように本論文は、アーバン・インテリアの実態と特性を明らかにし、アーバン・インテリアの進むべき方向性やアーバン・インテリアの空間構成と利用者の空間感覚に関する具体的なデザイン指標を現地調査・実験調査に基づいて示すことができた。

本論文は、今後の都市公共歩行者空間の計画に重要な知見を提示するものであり、建築計画学の発展に大いなる寄与を行うものである。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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