No | 217382 | |
著者(漢字) | 森,啓年 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | モリ,ヒロトシ | |
標題(和) | 泥濘化・土砂流出による河川堤防の進行性被災に関する解析的研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 217382 | |
報告番号 | 乙17382 | |
学位授与日 | 2010.07.08 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第17382号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本研究では、河川堤防の進行性の被災について、SPH(Smoothed Particle Hydrodynamic)法を用いた検討を実施した。その結果、泥濘化を伴う堤防の大変形や土砂流出による地盤のゆるみ・空洞の発生など、これまでの解析技術では再現が困難であった地盤工学の問題について、それらのメカニズムに関する仮説の提示とその仮説に基づいた調査・対策手法を提案した。 本研究の主な成果は以下の五点である。 (1)堤防ののり面すべり実験のSPH法による再現 堤防の大型模型を活用したのり面すべり実験のSPH法による再現を検討した。その結果、堤体内水位による間隙水圧、浸透水及び表流水によるのり尻部の強度低下(泥濘化)及び不飽和領域のマトリックス・サクションの設定により実験結果を良く表現することができた。 (2)堤防の大変形の発生メカニズムに関する仮説の提示と対策手法の提案 実験の再現解析により、泥濘化によるのり尻部の強度低下は進行性ののり面すべりを伴う堤防の大変形の一因となる可能性を示唆した。泥濘化を防止するためには、堤防内の浸潤線がのり面に達しないこととのり面表層を流下する雨水の排水処理が重要であり、のり尻部へのドレーン工や空積み擁壁の設置などの対策が有効であることを示した。 (3)土砂流出による地盤のゆるみ・空洞発生実験のSPH法による再現 模型地盤を活用したゆるみ・空洞発生実験のSPH法による再現を検討した。その結果、地下水による間隙水圧に起因する土砂流出及び不飽和領域のマトリックス・サクションの設定により実験結果を良く表現することができた。 (4)堤防の陥没の発生メカニズムに関する仮説の提示と調査手法の提案 実験の再現解析により、地下水位の上昇に伴いゆるみ・空洞が上方に発達する様子も解析において確認でき、地盤の深部で発生した土砂流出が地盤の表層で陥没となって顕在化する可能性を示唆した。樋管の周辺堤防におけるゆるみ・空洞の把握には、従来の樋管下だけでなく樋管上部の調査も重要であることを示した。 (5)地盤工学における問題に適したSPH法の提案 SPH法を地盤工学に適用するにあたり、新たな境界処理方法、土-水連成方法を提案した。新たな境界処理方法として、境界部分のせん断ひずみをほぼゼロにする修正仮想粒子IIを提案した。また、ビオの法則に基づく土-水連成方法を提案し、その挙動を土の定ひずみ速度載荷による圧密試験などの計算の実施により確認した。 今後の検討課題として、泥濘化も含めた地盤の大変形時の挙動の精度を高めるため、実験や被災調査などをもとに地盤材料のモデル化の検討を進めたい。また、さらなる計算速度の向上とともに、河川堤防の洪水時の挙動など長時間に及ぶ浸透問題と短時間に発生する変形問題が相互に関連する問題を解析するため、飽和・不飽和浸透流解析とSPH法を組み合わせた解析手法の開発を実施したい。 | |
審査要旨 | 本論文は、"泥濘化・土砂流出による河川堤防の進行性被災に関する解析的研究"と題した和文論文である。 河川堤防の代表的な被災形態である、河川水および雨水の浸透に起因する進行性のり面すべり、樋門・樋管などの堤防内構造物周辺の漏水・水みちによる脆弱部の形成は、河川堤防の従来の設計・施行・維持管理のプロセスや理論体系の範囲内では捉えきれない現象である。全国の河川堤防の点検において約4割が浸透に対する安全性不足と判定される現状の下、堤防の耐浸透機能を精度よく把握するために、まずそのメカニズムを解明することが必要とされる。本論文は、SPH(Smoothed Particle Hydrodynamic)法を用いて、泥濘化を伴う堤防の大変形や土砂流出による地盤のゆるみ・空洞発生など、これまでの解析技術では再現が困難であった問題について検討したものである。 第一章では、研究の背景と目的を述べ、論文の構成を説明している他、本論文の対象としている堤防の進行性被災事例について紹介している。 第二章では、SPH法の原理について説明し、計算コードの開発過程、およびを計算の高速化のための工夫について述べている。 第三章では、土または水の単相の解析について、境界条件、およびその処理方法について検討した。SPH法を地盤工学に適用するにあたり、新たな境界処理方法、土-水連成方法を提案した。新たな境界処理方法として、境界部分のせん断ひずみをほぼゼロにする修正仮想粒子IIを提案した。また、ビオの法則に基づく土-水連成方法を提案し、その挙動を土の定ひずみ速度載荷による圧密試験などの計算の実施により確認した。 第四章では、土-水練成を考慮した複相のSPH法による解析について、その連成手法を含めて考案した。土-水連成を考慮した計算コードについて、有効応力・間隙水圧問題、土の定ひずみ速度載荷による圧密試験等を計算し、土-水連成方法の妥当性を検証すると共に、不飽和帯における浸透流の挙動について検討した。 第五章では、開発した計算コードを用いて、堤防の浸透によるのり面すべり現象に関する大型盛土実験の結果の再現を試みた。その中で、浸潤線による間隙水圧、浸透水および表流水によるのり尻部の強度低下(泥濘化)、および不飽和領域のマトリックス・サクションが崩壊時の挙動に与える影響について検討した。その結果、堤体内水位による間隙水圧、浸透水及び表流水によるのり尻部の強度低下(泥濘化)及び不飽和領域のマトリックス・サクションの設定により実験結果を良く表現することができた。実験の再現解析により、泥濘化によるのり尻部の強度低下は進行性ののり面すべりを伴う堤防の大変形の一因となる可能性を示唆した。泥濘化を防止するためには、堤防内の浸潤線がのり面に達しないこととのり面表層を流下する雨水の排水処理が重要であり、のり尻部へのドレーン工や空積み擁壁の設置などの対策が有効であることを示した。 第六章では、堤防内の構造物周りの土砂流出による進行性のゆるみ・空洞発達に関する土槽実験結果の再現を試みた。地下水位上昇に伴う流出孔からの土砂流出および不飽和領域のマトリックス・サクションが空洞発達に与える影響について検討した。実験の再現解析により、地下水位の上昇に伴いゆるみ・空洞が上方に発達する様子が確認でき、地盤の深部で発生した土砂流出が地盤の表層で陥没となって顕在化する可能性を示唆した。樋管の周辺堤防におけるゆるみ・空洞の把握には、従来の樋管下だけでなく樋管上部の調査も重要であることを示した。 第七章では、本研究の成果、および今後の展望についてとりまとめている。 以上をまとめると、河川堤防の進行性の被災について、SPH法を用いて検討し、泥濘化を伴う堤防の大変形や土砂流出による地盤のゆるみ・空洞の発生など、これまでの解析技術では再現が困難であった地盤工学の問題について、それらのメカニズムに関する仮説の提示とその仮説に基づいた調査・対策手法を提案した。このことは地盤工学の進歩への重要な貢献である。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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