学位論文要旨



No 217451
著者(漢字) 岡本,英樹
著者(英字)
著者(カナ) オカモト,ヒデキ
標題(和) 可燃性ガスの地中での移動特性に関する実証的研究 : ガス電力・プラント業界の埋設配管の保安確保への活用
標題(洋)
報告番号 217451
報告番号 乙17451
学位授与日 2011.02.10
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17451号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 加藤,信介
 東京大学 教授 荒木,孝二
 東京大学 教授 古関,潤一
 東京大学 教授 岸,利治
 東京大学 教授 大岡,龍三
内容要旨 要旨を表示する

ガス・電力や化学プラント業界など大量の可燃性物質を扱う事業者では、主要な設備として可燃性ガスなどを輸送するための大規模な埋設配管を保有しており、生命線といっても過言ではない。これらの万一の事故は甚大な人的・物的被害をもたらすと同時に、企業の社会的信頼を損ない如いては存続をも脅かすもので、決して起こしてはならないものである。これら埋設配管の安全管理には、配管材料の長期信頼性の評価だけでなく、万一ガスが地中で漏出した場合の周辺への漏出ガスの移動範囲や速度など、移動特性に関する知見が極めて重要である。これらの実証的な検証および様々な埋設条件下で効率的に漏出ガスの挙動を確認できる数値シミュレーションは、安全な設備の設計や維持管理、万一のトラブルなど緊急時の適切な対応を策定する上での重要な基盤となるものである。

これまでガス拡散に関する研究は、一般的に室内や屋外など大気中におけるガス拡散状況については数多く発表されているが、それに比べ地中におけるガスの移動特性について調査・研究した例は少なく、基礎的なものが主であった。実大規模の実証実験やそれを基にした数値シミュレーションの適用性の検証、更に数値シミュレーションを用いたケーススタディなどによって、様々な埋設状況下で実証かつ実践的に保安を検証した例は殆んどなかった。

本研究では、まず代表的な可燃性ガスの埋設配管からの漏出を想定し、アスファルト、砕石、山砂などの基本的な埋設時の地盤構成での実大規模の漏出実験を行った。これにより、地中での移動範囲や速度などの基本的な移動特性が実大規模レベルで確認できた。万一のガス漏えい時の保安対策の基礎知見となるものである。

次に、実大規模の実験結果と数値シミュレーションによる解析結果の比較検証を行った。これにより、実大規模の埋設配管を想定したレベルにおいても数値シミュレーションの適用が確認できた。様々な埋設状況下での地中におけるガスの移動特性の確認が簡易にでき、保安検討が効率的に行えるものである。

最後に、これらの実験手法および結果や数値シミュレーション技術の実践的な活用として、将来のクリーンエネルギーとして期待される水素の埋設導管の保安検討を行った。水素は国の温暖化対策の重要施策の一つで、埋設導管による供給も考えられている。この実用化には、保安確保が必須である。都市ガスの埋設条件に基づいた実大規模の水素ガス漏出実験と数値シミュレーションを用いたケーススタディを行った。これらにより、万一の水素の埋設配管からの漏えい時の周辺への移動特性を解明した。更に、現在法律で義務付けられている都市ガスの漏洩調査方法の適用性なども確認できた。将来の水素導管を実用化する上で最優先課題となる保安確保の基盤となるものである。

これまで地中におけるガスの移動の研究分野については基礎的なものが主であったが、ガス・電力や化学プラント業界などの実際の埋設配管を想定した実大規模の実証実験により、実際に近いかたちで移動特性を明確にすることができた。またこれらの実験結果を活用して、様々な埋設条件における保安検討に対応できる実践的な数値シミュレーションツールを実用化することができた。将来的に益々地下空間の活用は広がると考えられ、これらの実験手法や結果および解析技術の必要性がよりいっそう高まり、活用されると考えられる。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「可燃性ガスの地中での移動特性に関する実証的研究 -ガス 電力・プラント業界の埋設配管の保安確保への活用-」と題して低圧の埋設ガス配管からの可燃性ガスの漏洩に関し、地中での漏洩ガスの移動特性を実大実験にて検討すると共に、その数値予測手法を開発し、保安対策を論じたものである。

ガス・電力の供給業者や化学プラント業者など大量の可燃性物質を扱う事業者は、主要な設備として可燃性ガスなどを輸送するための大規模な埋設配管を保有している。これら埋設配管は一般の市街地などにも数多く埋設されており、万一の事故は甚大な人的・物的被害をもたらす。これら埋設配管の安全管理には、配管材料の長期信頼性の評価だけでなく、万一ガスが地中で漏出した場合の周辺への漏出ガスの移動範囲や速度など、移動特性に関する知見が極めて重要である。本論文は、直接、この課題に取り組み、様々な埋設条件下での漏出ガスの挙動を実験的に確認し、またこれを流体シミュレーションにより予測する実用的な技術を開発したものである。

本論文は、研究目的、既往の研究のレビューを記した第一章序論より、実大規模の漏洩ガスの地中での挙動を検討した第二章、流体シミュレーションによる予測法を論じた第三章、水素搬送用の埋設ガス配管に関する検討を行った第四章、論文を総括した第五章より成り立っている。

第一章ではまず、既往の研究のレビューを行っている。ガス拡散に関する研究は、室内や屋外など大気中におけるものについては数多く発表されているが、それに比べ地中におけるガスの移動特性について調査・研究した例は少ないことを指摘している。このため研究では、地中の漏洩ガスの挙動に関して、実証的な検討すなわち、実大規模の実証実験やそれを基にした数値シミュレーションの適用性の検証、更に数値シミュレーションを用いたケーススタディなどによって、様々な埋設状況下で実証かつ実践的に保安を検証することの必要性を論じ、本研究の研究目的としている。

第二章は、研究目的に沿って行われた日本のみならず世界でも初めてとなる大規模な漏洩ガスの地中での挙動を検討した実験の概要と主要な結果を論じている。研究では、まず代表的な可燃性ガスの低圧埋設配管からの漏出を想定し、アスファルト、砕石、山砂などの基本的な埋設時の地盤構成での実大規模の漏出実験を行っている。これにより、地中での移動範囲や速度などの基本的な移動特性を実大規模レベルで確認し、万一のガス漏えい時の保安対策の基礎知見を得ている。これにより従来の定期的な埋設配管からのガス漏洩検知は、想定しうるガス漏洩の範囲で有効であることを実証的に検証している。この様なデータがこれまで多角的に採取されたことはほとんどなく、本研究で得られた実験データは、低圧埋設配管からの可燃性ガス漏出の特性を知る極めて貴重なものとなっている。

第三章は、流体シミュレーションによる地中漏洩ガスの拡散挙動の予測法を開発し、その精度を顕彰している。既存のポーラスな物体中のガスの拡散方程式に基づき、土の性状をパラメーター化してモデルに組み込み、そのシミュレーション結果と実大規模の実験結果の比較検証を行っている。土の性状のパラメーター化は従来の知見を準用できることをこの比較検討で明らかにし、提案された数値シミュレーションの適用の有用性を実大規模の埋設配管を想定したレベルにおいて確認している。これは、様々な埋設状況下での地中におけるガスの移動特性の確認を簡易に行うことを可能にするものであり、保安検討を効率的に行うことを可能にするものである。

第四章では、これらの実験手法および結果や数値シミュレーション技術の実践的な活用として、将来のクリーンエネルギーとして期待される水素の埋設導管の保安検討を行っている。水素は国の温暖化対策の重要施策の一つで、埋設導管による供給も考えられている。この実用化には、保安確保が必須である。都市ガスの埋設条件に基づいた実大規模の水素ガス漏出実験と数値シミュレーションを用いたケーススタディを行った。これらにより、万一の水素の埋設配管からの漏えい時の周辺への移動特性を解明している。更に、現在法律で義務付けられている都市ガスの漏洩調査方法の適用の有効性もあわせて確認している。この研究結果は、将来の水素導管を実用化する上で最優先課題となる保安確保の基盤となるものと考えられる。

以上のように、本研究はこれまで地中におけるガスの移動の研究分野については比較的基礎的なものが主であったのに対し、ガス・電力や化学プラント業界などの実際の埋設配管を想定した実大規模の実証実験により、実際に近いかたちで移動特性を明確にし、また様々な埋設条件における保安検討に対応できる実践的な数値シミュレーションツールを実用化したものである。

本論文は、工学的有用性、社会的有用性が極めて高く、可燃性ガスの埋設配管による輸送の安全確保に大きく貢献するものであり、建築環境工学の発展に寄与するところ大である。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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