学位論文要旨



No 217469
著者(漢字) 渡邉,貴夫
著者(英字)
著者(カナ) ワタナベ,タカオ
標題(和) トランスポーターが関与するアニオン性薬物の体内動態の定量的予測 : 生理学的薬物速度論モデルの利用と肝取り込み過程の重要性
標題(洋) Prediction of pharmacokinetics of anionic drugs involving drug transporters : application of a physiologically based pharmacokinetic model and importance of the hepatic uptake process
報告番号 217469
報告番号 乙17469
学位授与日 2011.03.09
学位種別 論文博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 第17469号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 杉山,雄一
 東京大学 教授 松木,則夫
 東京大学 准教授 楠原,洋之
 東京大学 准教授 伊藤,晃成
 東京大学 特任准教授 樋坂,章博
内容要旨 要旨を表示する

メカニズムに基づき薬物動態、薬効、毒性を精度高く予測することで、医薬品臨床開発の成功確率が向上するものと大きく期待されている。生理学的薬物速度論(PBPK)モデルは、実体に即したパラメータを利用することで、医薬品の薬効・毒性の決定因子として重要な血中および臓器中濃度-時間推移を予測することに広く用いられており、特に病態、薬物間相互作用、遺伝子多型などによる生理的あるいは薬物固有のパラメータの変動が薬物の体内動態に与える影響を定量的に予測する上で有用である。

生体内の主要な異物排泄臓器である肝臓では、薬物トランスポーター(以下TP)は医薬品の肝取り込みおよび胆汁中への排泄に関わり、これまでにTPに関連する薬物間相互作用や遺伝子多型が薬物動態の個体間変動の要因となることが複数報告され、肝臓のTPが薬物の体内動態を規定する重要な因子であることが臨床においても実証されている。従って、医薬品開発の早期に、候補化合物についてTPの関与する薬物動態、薬物間相互作用および個体間変動を定量的に予測することは、個人差の小さく、安全性の高い医薬品の創製につながる。そこで本研究では、in vitro試験に基づいたTPを介する膜輸送クリアランスの予測法を確立し、さらにTPによる膜透過過程を組み入れたPBPKモデルを構築することにより、ヒト薬物動態の予測および薬物間相互作用や遺伝的要因によるTPの活性変動が薬物動態に与える影響を定量的に予測することを目的とした。

本研究では、高脂血症治療薬として広く使用されているHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)をモデル薬物として選択した。肝臓はスタチンの薬効標的臓器ならびにクリアランス臓器である。スタチンの副作用は筋障害であり、極めて重篤なものとして横紋筋融解症が知られている。スタチンの肝臓および筋肉への暴露は、それぞれ薬効および副作用の決定因子となる。プラバスタチンはOATP1B1によって肝臓に取り込まれ、MRP2によって胆汁中に排泄される。OATP 1B1の機能低下を伴う遺伝子多型では、(1)スタチンの血漿中曝露は高いが、薬効にほとんど差は認められないこと、(2)筋障害の発現頻度が有意に高いこと、が報告されている。また、アトルバスタチンとシンバスタチンは主にCYP3A4による代謝が主消失経路であるが、CYP3A4の強力な阻害剤であるイトラコナゾールと併用すると、アトルバスタチンの血漿中AUCの上昇はシンバスタチンのそれと比較して小さいこと、一方、取り込みトランスポーターの阻害剤であるシクロスポリンAは、どちらのスタチンのAUCも同程度上昇させることが報告されている。これらの事象を合理的に説明するために、肝消失を取り込み、バックフラックス、胆汁排泄および代謝の素過程に分解して、モデリング&シミュレーションの手法により解析するとともに、予測した素過程を再統合することで体内動態予測を行った。

第1章では、肝臓コンパートメントにTPによる膜輸送過程を組み入れた全身のPBPKモデルを構築し、プラバスタチンの体内動態の予測およびTPの活性変動が薬物動態に与える影響の定量的予測を試みた。まず、ラットにおけるPBPKモデリングを行った。肝取り込み(PSinf)、シヌソイド膜上の単純拡散、胆管側膜上での胆汁排泄(PSbile)および代謝(CLmet,int)の肝クリアランスを構成する各素過程の固有クリアランスを種々のin vivo実験により見積もり、PBPKモデルに組み入れることによって、プラバスタチンを静脈内または十二指腸内投与したときの血漿中濃度および胆汁排泄の時間推移を精度よく再現することに成功した。さらに、肝取り込み、胆汁排泄および代謝の各固有クリアランスのKm値を使用することにより、静脈内投与後の血漿中濃度および累積胆汁排泄量の非線形性を再現することも可能であった。また、肝取り込み、胆汁排泄および代謝の各素過程のクリアランスで決定される肝臓中濃度推移を用量依存性も含めて再現できた。非線型性も含めてin vivo体内動態を再現できたことから、このPBPKモデルはプラバスタチンのラットにおける体内動態を記述するのに妥当なモデルであると考えられた。次に、同じPBPKモデルを用いてプラバスタチンのヒトにおける体内動態の予測を試みた。ラットの肝細胞、胆管側膜ベシクルおよび肝S9を用いてin vitroのPSinf、PSbileおよびCLmet,intを求め、それぞれについてin vivoパラメータに対する比(in vivo/in vitro)を求めた。この比をスケーリングファクター(SF)とし、ヒトにおけるPSinf、PSbileおよびCLmet,intのin vivoパラメータは、ラットと同様のin vitro実験により得た値に、このSFを乗ずることによって算出した。これらのパラメータを使用してヒトの静脈内あるいは経口投与後の血漿中濃度推移をシミュレーションしたところ、臨床試験での報告値を再現することに成功した。

素過程の変動が血中動態ならびに肝臓中動態に与える影響をシミュレーションした結果、肝取り込み活性の変動は血漿中濃度に大きな影響を与えたが、胆汁排泄活性やバックフラックス活性の変動は、血漿中濃度にほとんど影響を与えなかった。反対に、取り込み活性の変動は肝臓中濃度(薬効標的部位)にはほとんど影響を与えなかったのに対し、胆汁排泄活性の変動は、肝臓中濃度に大きく影響した。以上より、取り込みTP活性の低下は血漿中濃度ひいては筋肉中濃度の上昇を引き起こし、ミオパチーの発現を増長する可能性が示唆された。また、取り込みTP活性の低下は薬効標的臓器である肝臓中の濃度には大きな影響を与えないことから、薬効発現にはほとんど影響しないことが示唆された。これらの予測結果は、いずれも臨床報告と一致するものであった。

ヒト凍結肝細胞を用いて測定したプラバスタチンのin vitro取り込みクリアランスをin vivoへと外挿したところ、その絶対値はoverall肝固有クリアランス(CLint,all)と等しく、プラバスタチンの肝クリアランスは取り込み過程が律速段階であることが示唆された。そこで、第2章においては、プラバスタチンと同様にアニオン性官能基を有する他のスタチンも含め、肝クリアランスの律速段階について検討した。主に胆汁排泄によって消失するピタバスタチン、シトクロム P450による代謝によって消失するアトルバスタチンおよびフルバスタチンについて検討した。ラットin vivo試験により、各スタチンのCLint,allを求め、さらに取り込みクリアランスをin vivoに近い肝灌流系であるMultiple Indicator Dilution(MID)法によって取得した。プラバスタチン、アトルバスタチンおよびフルバスタチンでは、MID法で得た肝取り込みクリアランスはCLint,allと同程度であり、ラットの肝クリアランスにおいて取り込み過程が律速段階であると考えられた。また、代謝クリアランスの予測に最も汎用される肝ミクロソームまたはS9フラクションから得た代謝固有クリアランスでは、CLint,allを過小評価しており、CLint,allを予測するためには、取り込み過程を考慮すべきであると考えられた。次に、ラットで定義したSFを用いて、ヒトin vitroの実験値からヒトのin vivoの取り込みクリアランスを外挿し、ヒトのCLint,allと比較を行った。ヒト凍結肝細胞では、いずれのロットでも飽和性が認められ、肝取り込みにTPの関与が示唆された。ヒト肝細胞から得た取り込みクリアランスにラットSFを乗じたヒトin vivoの取り込みクリアランスの推定値は臨床報告値から算出したCLint,allと同程度であり、ヒトにおいても取り込み過程が肝クリアランスの律速段階であることが示唆された。第1章のシミュレーション結果とあわせて考察すると、取り込みTPの活性変動はこれらスタチンの有害作用発現のリスク要因となるものの、薬効には影響を与えないこと、ならびに各スタチンの胆汁排泄/代謝過程の活性変動は有害作用発現には大きな影響を与えないものの薬効には強く影響を与えることが示唆された。CYP3A4の阻害剤であるイトラコナゾールがアトルバスタチンのAUCをそれほど変動させなかった現象は、肝取り込み過程がアトルバスタチンの肝クリアランスの律速段階であるためであることが示唆された。

本研究において、プラバスタチンをモデル薬物として、TP基質の体内動態を記述できるPBPKモデルを構築し、動物実験を併用することで、ヒトのin vitro実験パラメータからヒトの体内動態を予測することができることを示した。また、スタチン類の肝クリアランスにおいて、取り込み過程が律速段階であり、体内動態の予測には取り込み過程を考慮することの重要性を明らかとした。さらに、取り込み過程の変動は有害作用のリスク要因となること、および肝細胞内からの消失過程の変動は薬効に強く影響を与えることが示唆された。本研究で得た知見は取り込み過程にTPが関わる他のアニオン性薬物の体内動態予測にも応用可能であり、本研究成果は創薬段階におけるヒト薬物動態予測の精度向上に貢献するものと考えられる。なお、本研究内容は、FDAおよび国際トランスポーターコンソーシアムから発表された医薬品開発におけるTP研究に関する白書(Nature Reviews Drug Discovery誌)において、TPのin vivoにおけるインパクトを推定する方法論として有用であると紹介された。

審査要旨 要旨を表示する

近年、新薬開発にかかる費用および期間は増大しているが、その成功確度はむしろ年々低下する傾向にあり、メカニズムに基づき薬物動態、薬効、毒性を精度高く予測することで、医薬品臨床開発の成功確率が向上するものと大きく期待されている。生理学的薬物速度論(PBPK)モデルは、実体に即したパラメータを利用することで、医薬品の薬効・毒性の決定因子として重要な血中および臓器中濃度-時間推移を予測することに広く用いられており、特に病態、薬物間相互作用、遺伝子多型などによる生理的あるいは薬物固有のパラメータの変動が薬物の体内動態に与える影響を定量的に予測する上で有用である。本研究で取り上げられた肝臓は生体内の主要な異物処理臓器であり、循環血中からの排泄のほか、経口型医薬品の経口投与後、循環血中への移行率を決定する要因の1つでもある。肝細胞には種々の代謝酵素が発現しているほか、類洞側・胆管側膜上に、薬物トランスポーターが発現し、医薬品の肝胆系輸送機構を形成している。これまでにトランスポーターに関連する薬物間相互作用や遺伝子多型が薬物動態の個体間変動の要因となることが複数報告され、肝臓のトランスポーターが薬物の体内動態を規定する重要な因子であることが臨床においても実証されている。従って、医薬品開発の早期に、候補化合物についてトランスポーターの関与する薬物動態、薬物間相互作用および個体間変動を定量的に予測することは、個人差の小さく、安全性の高い医薬品の創製につながると考えられる。本研究で、申請者はin vitro試験に基づいたトランスポーターを介する膜輸送クリアランスの予測を行い、さらにトランスポーターによる膜透過過程を組み入れたPBPKモデルを構築することによって、トランスポーターの関与するヒト薬物動態を予測することに成功した。加えて、薬物間相互作用や遺伝的要因によるトランスポーターの活性変動が薬物動態に与える影響を定量的に予測することにも成功している。研究の詳細を以下に示す。

第1章では、肝臓コンパートメントにトランスポーターによる膜輸送過程を組み入れた全身のPBPKモデルを構築し、プラバスタチンの体内動態の予測およびトランスポーターの活性変動が薬物動態に与える影響の定量的予測を試みている。モデル薬物として用いたプラバスタチンは高脂血症治療薬として広く使用されているHMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)の一つである。肝臓はスタチンの薬効標的臓器であると同時にクリアランス臓器でもある。また、スタチンの副作用は筋障害であり、極めて重篤なものとして横紋筋融解症が知られている。スタチンの肝臓および筋肉への暴露は、それぞれ薬効および副作用の決定因子となる。これまで私が主宰する分子薬物動態学教室で長らくプラバスタチンの体内動態・薬効に関連するトランスポーター研究を行っており、肝取り込みにはOATP1B1が、胆管側の排出はMRP2によって行われることを明らかにしている。OATP 1B1の機能低下を伴う遺伝子多型が、スタチンの血漿中曝露の個体間変動を生じることを報告した。その後の研究により、OATP1B1のSNPは、コレステロール低下作用にほとんど影響を与えないものの、他のスタチン(シンバスタチン)において筋障害の発現頻度が有意に高いことが報告されている。

申請者は、ラットにおけるPBPKモデリングを行っている。肝取り込み(PSinf)、シヌソイド膜上の単純拡散、胆管側膜上での胆汁排泄(PSbile)および代謝(CLmet,int)の肝クリアランスを構成する各素過程の固有クリアランスを種々のin vivo実験により見積もり、PBPKモデルに組み入れることによって、プラバスタチンを静脈内または十二指腸内投与したときの血漿中濃度および胆汁排泄の時間推移を精度よく再現することに成功した。さらに、肝取り込み、胆汁排泄および代謝の各固有クリアランスのKm値を使用することにより、静脈内投与後の血漿中濃度および累積胆汁排泄量の非線形性をも再現することに成功した。肝取り込み、胆汁排泄および代謝の各素過程のクリアランスで決定される肝臓中濃度推移を用量依存性も含めて再現できることを示している。非線型性も含めてin vivo体内動態を再現できたことから、このPBPKモデルはプラバスタチンのラットにおける体内動態を記述するのに妥当なモデルであると考察している。

次に、構築したPBPKモデルを用いてプラバスタチンのヒトにおける体内動態の予測を試みている。ラットの遊離肝細胞、胆管側膜ベシクルおよび肝S9を用いてin vitroのPSinf、PSbileおよびCLmet,intを求め、それぞれについてin vivoパラメータとの比(in vivo/in vitro)をスケーリングファクター(SF)として定義した。ヒトにおけるPSinf、PSbileおよびCLmet,intのin vitroパラメータを、ヒト凍結肝細胞、胆管側膜ベシクル、肝S9を用いて測定した。さらに、SFには種差がないとの仮定のもと、ラットで測定したSFを乗じることで、in vivoパラメータへと外挿した。これらのパラメータを使用して、ヒトの静脈内あるいは経口投与後の血漿中濃度推移をシミュレーションした結果、いずれの投与経路においても報告値を再現することに成功している。素過程の変動が血中動態ならびに肝臓中動態に与える影響をシミュレーションし、以下の結果を得ている。肝取り込み活性の変動は血漿中濃度に大きな影響を与えたが、胆汁排泄活性やバックフラックス活性の変動は、血漿中濃度にほとんど影響を与えなかった。反対に、取り込み活性の変動は肝臓中濃度(薬効標的部位)にはほとんど影響を与えなかったのに対し、胆汁排泄活性の変動は、肝臓中濃度に大きく影響した。すなわち、取り込みトランスポーター活性の低下は筋肉中濃度の上昇を引き起こし、ミオパチーの発現頻度を高める一方で、薬効標的臓器である肝臓中の濃度には大きな影響を与えないことから、薬効発現にはほとんど影響しない。申請者は、これらの薬物動態的な現象はプラバスタチンの肝消失において肝臓への取り込み過程が律速段階となっていることに起因すると考察し、取り込み過程を考慮することの重要性を提案した。なお、これらの予測結果は、いずれも臨床報告と一致している。

第2章においては、プラバスタチンと同様にアニオン性官能基を有する他のスタチンも含め、肝クリアランスの律速段階について検討している。プラバスタチン同様、胆汁排泄型であるピタバスタチンの他、代謝型であるアトルバスタチンおよびフルバスタチンを検討対象として選択した。ラットin vivo試験により、各スタチンの肝固有クリアランス(CLint,all)を求め、さらに取り込みクリアランスをMultiple Indicator Dilution(MID)法によって測定した。プラバスタチン、アトルバスタチンおよびフルバスタチンでは、MID法で得た肝取り込みクリアランスはCLint,allと同程度であり、ラットの肝クリアランスにおいて取り込み過程が律速段階であることを明らかとした。ピタバスタチンについては、取り込みクリアランスがCLint,allの2倍程度であり、肝取り込み過程のみで肝クリアランスが規定されているわけではないことを示している。また、アトルバスタチンおよびフルバスタチンの代謝固有クリアランスを、肝ミクロソームまたはS9フラクションを用いてin vitroで評価した。in vivoへと外挿した代謝固有クリアランスでは、CLint,allを過小評価していることも、これらアニオン性スタチンの肝消失は、取り込み過程が律速段階となっていることを示唆している。

ラットで定義したSFを用いて、ヒトin vitroの実験値からヒトのin vivoの取り込みクリアランスを外挿し、ヒトのCLint,allと比較を行った。ヒト凍結肝細胞では、いずれのロットでも飽和性が認められ、肝取り込みへのトランスポーターの関与が示唆された。ヒト肝細胞から得た取り込みクリアランスにラットSFを乗じて外挿したヒトin vivoの取り込みクリアランスの推定値は、臨床報告値から算出したCLint,allと同程度であり、ヒトにおいてはいずれのスタチンにおいても、取り込み過程が肝クリアランスの律速段階であることが示唆された。第1章のシミュレーション結果をあわせて考慮することにより、取り込みトランスポーターの活性変動はこれらスタチンの有害作用発現のリスク要因となるものの、薬効には影響を与えないことが推察される。一方で、各スタチンの胆汁排泄/代謝過程の活性変動は有害作用発現には大きな影響を与えないものの、薬効には強く影響を与えるものと考察している。臨床研究において、アトルバスタチンとシンバスタチンは主にCYP3A4による代謝が主消失経路であるが、CYP3A4の強力な阻害剤であるイトラコナゾールと併用すると、アトルバスタチンの血漿中AUCの上昇はシンバスタチンのそれと比較して小さいことが報告されている。イトラコナゾールがアトルバスタチンのAUCをそれほど変動させなかった現象は、肝取り込み過程がアトルバスタチンの肝クリアランスの律速段階であると考えることによって説明可能としている。

申請者は本研究において、(1)プラバスタチンをモデル薬物としてトランスポーター基質の体内動態を記述できるPBPKモデルを構築し、動物実験を併用することで、ヒトのin vitro実験パラメータからヒトの体内動態を予測可能であることを示した。また、(2)スタチン類の肝クリアランスにおいて、取り込み過程が律速段階であり、体内動態の予測には取り込み過程を考慮することの重要性を示し、さらに、取り込み過程の変動は有害作用のリスク要因となること、および肝細胞内からの消失過程の変動は薬効に強く影響を与えることを示唆した。本研究内容は、FDAおよび国際トランスポーターコンソーシアムから発表された医薬品開発におけるトランスポーター研究に関する白書(Nature Reviews Drug Discovery誌)において、トランスポーターのin vivoにおけるインパクトを推定する方法論として有用であると引用され、高く評価されている。本研究で得た知見は取り込み過程にトランスポーターが関わる他のアニオン性薬物の体内動態予測にも応用可能であり、本研究成果は創薬段階におけるヒト薬物動態予測の精度向上、ひいては個人差の小さく、安全性の高い医薬品の創製に貢献するものであり、申請者に博士(薬学)の学位を授与するに値するものと認めた。

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