学位論文要旨



No 217475
著者(漢字) 海藤,勝
著者(英字)
著者(カナ) カイドウ,マサル
標題(和) 建設契約における公正・正義および契約管理者と仲裁人の行為規範に関する研究 : 公共工事システムおよびエンジニアの職能の日英国際比較
標題(洋)
報告番号 217475
報告番号 乙17475
学位授与日 2011.03.09
学位種別 論文博士
学位種類 博士(国際協力学)
学位記番号 第17475号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 國島,正彦
 東京大学 教授 中山,幹康
 東京大学 教授 小澤,一雅
 東京大学 教授 堀田,昌英
 東京大学 准教授 鎗目,雅
内容要旨 要旨を表示する

国外にはグローバル化する建設市場と国際競争に対応でき、国内では公共サービスへの社会及び国民のニーズの多様化に対応できる公共工事調達と公共工事システムへの改革が求められ、その透明性、公正性、競争性を向上させ、国際標準化へ向けて民主的で機能的なものへ変革する必要があると考えられる。

英国の公共調達制度と公共工事システム、特に三者制スキームと建設契約の公正性、確実性、完備性と機能性そして普遍性は公共調達と公共工事システムの国際標準と成っていることを検証した。その建設契約をコントロールするジ・エンジニア(契約管理者)の行為規範と契約当事者のセーフティネット(ジ・エンジニアの不当な判断・決定に対する)の役割を果たす仲裁を管轄する仲裁人の行為規範を考察した。そして建設契約及びジ・エンジニアと仲裁人の行為規範の基盤は公平・公正と正義にあることを明らかにした。

公平・公正と正義および国際標準の視点から公共工事システムの日英国際比較を行い、相違を明らかにして我が国の公共工事システムの構造改革と国際標準化への道筋を明らかにした。同時にジ・エンジニアの職務に焦点をあて、公共工事システムを担う土木技術者の新しい職能を提示した。

本論文の構成と概要は以下に示す通りである。

第1章は「序論」である。研究の背景、目的、手順と方法、構成を述べた。

第2章の「英国の公共工事調達」では、英国の公共工事システム(三者制スキームと契約システム等)と公共調達の背景と現状を述べ、「公共調達規則2006」を分析し、公共調達の透明で公正なルールとなっていることを検証した。

第3章の「英国法と契約と権利・義務」では、英国のコモンローおよび契約法の背景を述べ法と正義の関係を検証し、契約3根本原則を明らかにして契約における公正と権利の関係を考察し、英国における法と正義と権利を検証した。

第4章の「英国の建設契約とICE契約約款」では、英国の建設契約を述べ、ICE契約約款の役割と機能そして問題解決のメカニズム(手続)を分析し、その公正性・確実性・完備性を検証した。ジ・エンジニアの決定権限とジ・エンジニアの不当な決定に対して当事者を救済する仲裁のセーフテイネットワークとしての役割を明らかにした。

第5章の「ジ・エンジニアの職務と行為規範」では、英国における土木技術者(シビルエンジニア)とジ・エンジニアの歴史および伝統的な三者制スキームの背景を考察した。併せて、英国土木学会及びコンサルティングエンジニア協会の歴史とジ・エンジニアとコンサルティングエンジニア企業(工事の設計、請負者の工事の監理と契約の運用管理を業務とする)の独立性も検証した。役務契約約款、ICE契約約款そしてFIDIC契約約款におけるジ・エンジニアの義務と権限、その役割と職務を検証した。そしてジ・エンジニアの公正・正義に基づく行為規範を考察した。

第6章の「仲裁と仲裁人の行為規範」では、英国の仲裁の歴史を述べ、英国仲裁法1996における仲裁手続・仲裁審理および仲裁人の役割と職務を検証し、自然正義(紛争当事者に公平で公正に対処する)に基づく仲裁人の行為規範を考察した。

第7章の「日本の公共工事調達と公共工事請負契約」では我が国の入札契約を含む公共工事システムと公共工事標準請負契約約款を考察し、課題を整理した。我が国の調停と仲裁についても考察した。

第8章の「公共工事システムの日英国際比較」では、英国の公共工事システムの特徴を整理し、国際標準との関係を明らかにした。国際標準に関して、公共工事システムの日英国際比較・分析を行い、我が国の公共工事システムのグローバル化と国際標準化への対応を論述した。

国際標準化の対象とした重要項目は次の通りである。

(1)「公共調達法令・規則」の適用

(2) 公正な請負契約と三者制スキーム

(3) 価格(数量)内訳表と出来高払および数量精算契約

(4) 公平な仲裁による紛争の最終解決(セーフテイネット機能)

第9章の「結論」において本研究の成果を整理して述べた。

(1)我が国の入札契約に関する統一したルールとなる新しい「公共調達規則」を適用・施行し、建設市場参加者に透明で公正な調達ルールを設定する。

(2)現在の工事請負契約約款のもっている契約の片務性、不確実性、不公平性を排除し、請負契約約款の改正を行い、その公正性、確実性、完備性を確保できるようして、独立の第三者(ジ・エンジニア/設計・監理者)に契約をコントロールさせて契約を機能させ、契約遵守・優先にしていく。

(3)国際標準となっている三者制スキームに移行し、建設コンサルタントを独立させる。これは、公共工事システムの構造改革であり以下に示す変革が実現できる。

(1) 請負契約の構造改革と契約約款の運用の公正化および機能化(契約優先)

(2)「内なる国際化」の実現と公共工事システムの国際標準化、そして国際競争力の向上

(3) 公共工事システムの効率性・経済性の向上

(4) 土木技術者の職能意識とステータスの向上

(4)建設コンサルタントが設計・監理者となって設計と工事監理・契約運用管理に責任をもつ三者制スキームになれば、完成度の高い入札図書に依る公正な入札競争及び公平な契約運用管理が期待できる。建設コンサルタントの設計・監理者の職務は土木技術者に新たな職能を提示できる。

(5)数量内訳明細書(価格内訳書)使用による出来高払と、併せて最終実施数量に基づく数量精算契約とする。

(6)仲裁がセーフティネットの役割を担うためには、公平・公正な仲裁人(又は仲裁廷)を当事者が自主的に選定・任命できるようにする。

審査要旨 要旨を表示する

我が国の公共工事システム(調査・計画-入札・契約-工事完成・引渡)は、国外においてグローバル化する世界の建設市場や国際競争への対応を迫られ、国内においては社会のグローバル化や成熟化による社会・国民のニーズの多様化に対応できる質の高い公共サービスの調達への対応を迫られている。これは、我が国の公共調達と公共工事システムの透明性、公正性、競争性を向上させ、建設市場のグローバル化および公共工事システムの国際標準化への要請といえる。

本論文は、英国の公共調達と公共工事システムを、世界の建設市場における国際標準の共通基盤として位置づけ、我が国の公共調達のグローバル化および公共工事システムの国際標準化への道筋を明らかにすることを目的としている。

英国の公共調達規則、契約法、建設契約・ICE契約約款等の歴史的経緯と現状を調査研究して、英国の公共工事システムは、事業者(発注者)、請負者およびコンサルティングエンジニア企業(工事の設計を行い、工事監理者・契約管理者(ジ・エンジニア)となる)の三者によって執行される三者制スキームであること、事業者は、役務契約にてコンサルティングエンジニア企業を調達し、建設工事契約にて請負者を調達して事業を執行すること、役務や工事の調達は「公共契約規則2006」に従って行われていること、この調達規則は、ステークホルダーにとって透明で、共通な統一した調達のルールとなっているので公正な競争が期待できること等を示した。さらに、英国の建設工事契約が、契約当事者(発注者と請負者)の合理的な権利・義務を確定的にし(確実性)、当事者へのリスク分担を公正にし(公正性)、契約履行中に発生してくる諸問題の解決の手続(メカニズム)を明示している(完備性)こと、ジ・エンジニアは役務契約および工事契約にて定められた権限と義務に従って、請負者の工事を公正に監理すると共に当事者の権利・義務を公正に監督・管理することを通して契約をコントロールする義務と責任を有すること、この義務の履行にあたってジ・エンジニアは、自然正義(当事者に公平で公正に処すること)および手続的正義(定められた手続を順守する)を守るものとしていること、等の特徴を有することを示した。ジ・エンジニアの判断・決定が、著しく発注者に偏向していて不合理な場合、定められた手続に違反した場合、あるいは不当な場合は、請負者はそのような決定の見直し・撤回を仲裁に求め権利の救済を受けることができること、仲裁人は、裁判所に代わって、公正と正義に基づいて請負者の権利の救済の是非を判断するので、仲裁が当事者の救済へのセーフティネットの役割を果たしていること、等を明らかにした。

本論文は、公平・公正と正義が、英国の三者制スキーム、建設工事契約およびジ・エンジニアと仲裁人の行為規範の基盤になっていることを検証し、世界の建設市場に広く採用されているFIDIC契約約款および三者制スキームにおいても、英国に準じ、公平・公正と正義が国際標準の共通な基盤となっていることを明らかにした。

我が国と英国の公共調達および公共工事システムを国際比較分析して、我が国の公共工事システムが世界の建設市場の国際標準と著しく異なる建設契約における4分野、すなわち (1)建設市場参加者に透明で公正な調達ルールを設定するための公共調達規則が存在しないこと (2)請負契約約款の公正性、確実性、完備性を確保し、独立した第三者(ジ・エンジニアまたは設計・監理者)が契約をコントロールする三者制スキームが確立していないこと (3)価格(数量)内訳明細書の使用による毎月出来高払および竣工時の実施数量に依る数量精算契約ができないこと (4)当事者が公正で独立した仲裁人を選定・任命する公平な仲裁による紛争の最終解決(セーフティネット機能)システムが存在しないこと、等を明らかにした。そして、世界の建設市場の国際標準と比較して異なっている4分野を整備することが、我が国の公共調達および公共工事システムの公正で正義にかなった国際標準化への道筋であることを論証した。

本論文において、英国の建設契約の特性と機能の歴史的経緯と現状を踏まえ、建設契約を担うジ・エンジニア(契約管理者)および仲裁人の行為規範を検証し、それらの基盤となっている公平・公正と正義が世界の建設市場においても機能していることを論証したことは、我が国の公共調達および公共工事システムの国際標準化および国際競争力向上のために、極めて斬新で数多くの有益な知見と示唆に富むものと認められる。

よって本論文は博士(国際協力学)の学位請求論文として合格と認められる。

したがって、博士(国際協力学)の学位を授与できると認める。

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