学位論文要旨



No 217481
著者(漢字) 早川,健司
著者(英字)
著者(カナ) ハヤカワ,ケンジ
標題(和) 構造体かぶりコンクリートの品質管理に関する研究
標題(洋)
報告番号 217481
報告番号 乙17481
学位授与日 2011.03.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17481号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 加藤,佳孝
 東京大学 教授 岸,利治
 東京大学 准教授 桑野,玲子
 東京大学 准教授 石田,哲也
 東京大学 准教授 野口,貴文
内容要旨 要旨を表示する

社会基盤整備に十分な投資ができない社会情勢を考えると,今後新設するコンクリート構造物には今まで以上に耐久性が求められ,少なくとも設計で想定した耐用年数を全うできる品質を確保する必要がある.コンクリート構造物の代表的な劣化要因である中性化や塩害は,建設当初は確保されている鉄筋の防食性が空気中の二酸化炭素や塩分の侵入によって失われることが劣化の原因となる.このため,構造物の耐久性は劣化因子の物質移動抵抗性に依存し,鉄筋を防護するかぶりコンクリートの品質の確保が特に重要となる.

コンクリートの物質移動抵抗性は主に水セメント比に支配され,現状の耐久性設計ではコンクリートの水セメント比によって耐久性照査が行われる.一方,構造体かぶりコンクリートの品質は,打込みや締固め,養生等の施工の影響を受けるため,土木学会コンクリート標準示方書では,材料が供試体レベルで有している特性と構造体における品質の差を,安全係数を用いて評価する手法が示されている.しかし,使用材料や部材位置での安全係数の使い分けについては必ずしも明確になっていない.また,現状におけるコンクリートの品質管理は受入れ時のスランプや空気量および供試体による圧縮強度試験等によって行われているが,物質移動抵抗性と圧縮強度は等価でないことが指摘されている.

このような背景から,本研究は,コンクリート構造物の耐久性を確保するためには構造体かぶりコンクリートの物質移動抵抗性に基づいた品質管理を行うことが必要であるとの観点から,物質移動抵抗性の一つである表層透気性に着目し,標準的な材料および施工によって達成される構造体かぶりコンクリートの品質に及ぼす使用材料,構造諸元および施工の影響を明確にすることを目的とした.土木構造物に用いられる一般的なコンクリートを用いた構造体かぶりコンクリートの品質変動に対しては,締固めの程度や打込み,締固めに伴う材料分離,打込み後のブリーディング,養生等の影響が考えられる.本研究ではこれらのうち,締固めやブリーディングも含めた材料分離,またそれらに及ぼす配筋の影響について検討した.

研究においては,まず,構造体かぶりコンクリートの品質を評価する試験方法とそれらの課題を整理した.物質移動抵抗性の評価手法には様々な方法が提案されているが,実構造物においての品質評価を考えると,非破壊試験が望ましいことから,本研究ではダブルチャンバー方式の表層透気試験を用いた.試験結果の評価においては表層透気試験の特性,すなわち測定値に与える要因や表面からの評価深さ,またより直接的な耐久性指標との関係等を理解しておく必要がある.そこで,かぶりコンクリートの品質評価に対する表層透気試験の適用性について既往の研究結果を整理するとともに実験的に検討した.まず,透気試験結果への影響が大きい含水率について,乾燥期間と表層透気係数の関係を検討し,表層透気係数は含水率の低下に伴って増加し,1年間で約1オーダ程度変化することを示した.このため構造体かぶりコンクリートの表層透気性の評価においては,試験材齢の相違等による含水率の影響を考慮する必要があり,この一つとして,構造体と同条件で養生した小型供試体を用いれば,構造体と同等の含水状態で両者を比較することができると考えた.この際,供試体と構造体では部材寸法が異なり,内部から表面へ移動する水分量の相違が表層透気係数の測定結果に影響すると考えられるため,表層透気係数に及ぼす供試体寸法の影響を検討した.そして,両者の相対比較における部材寸法の影響は,材齢56日程度以降であれば影響が小さいことを示した.次に,表層透気試験で評価しているコンクリート表面からの深さに関する検討を実施し,その深さはコンクリート表面から40mm未満であり,20mm程度までの品質の影響が比較的大きいことを明らかにした.また,表層透気係数とより直接的な耐久性指標である中性化速度係数には相関関係があることを,養生方法を変化させた試験体を対象とした実験,および既往の研究を整理して示した.ただし,それぞれの実験条件下では表層透気係数が大きくなると中性化速度係数は大きくなる関係が確認できるが,測定時期等の影響が大きいことが示された.

このような表層透気試験の特性を理解した上で,標準的な材料,施工方法によって建造された構造体かぶりコンクリートの品質変動の評価とその影響要因の把握を目的として,実構造物ならびに模擬部材を対象とし,表層透気性を主とした品質評価を行った.その結果,標準的な施工を行ったときの部材内における表層透気係数は,打込みの上層で大きくなること,その変動は小型供試体より大きくなることを定量的に明らかにした.また,表層透気係数の変動原因の一つとしては標準的な締固めを行ったときに散在する残存空気泡が影響していること,また,打込み,締固めにおける粗骨材の分離の影響を示した.ただし,標準的な打込みや締固めが行われた場合,構造体かぶりコンクリートの表層透気性の変動に対してはブリーディング性状の影響が大きく,またブリーディングの影響は配筋の状態によって異なることが示唆された.

そこで,コンクリートのブリーディング性状,また配筋および鉄筋間の通過による粗骨材分離の影響が表層透気性に及ぼす影響を,配筋を有する試験体を用いた室内試験により詳細に検討した.実験では,スランプおよびブリーディング性状を変化させたコンクリートを用い,試験体側面における高さ方向の表層透気性の変化を評価した.この際,表層透気性は締固め程度の影響を受けることから,鉄筋間を通過して充填されるかぶりコンクリートの充填挙動を応答加速度や間隙水圧の測定等により検討し,スランプに対して適度な締固め時間を設定した上で作製した試験体を対象とした.この結果,表層透気係数は,中・下層に比べて上層で大きくなること,高さ方向の変化はコンクリートのブリーディング量で整理可能なことが明らかになった.鉄筋の影響については,鉄筋の通過に伴ってかぶり部の粗骨材量が示方配合より少なくなると,表層透気係数は増加する場合があることが確認された.ただし,鉄筋と型枠に挟まれたかぶりコンクリートでは,こられの抵抗力によりブリーディングの駆動力となる自重作用が低下することの相互作用等によって高さ方向の表層透気係数の変化,すなわち上層の表層透気係数は無筋の場合より小さくなることが明らかになった.また,再振動締固めによる表層透気性状の改善効果を定量的に示し,再振動が有効な実施時期はスランプ等のコンクリート性状によって異なること,実施時期によっては必ずしも効果的でない場合があることを示した.

さらに,使用骨材等を変化させ,ブリーディングが比較的大きいコンクリートを用い,打重ね間隔の時間や締固め方法を変化させたときの表層透気係数の変動について検討した.そして,先打ち層の上面に析出したブリーディング水の影響を含め,ブリーディング量が大きいコンクリートほど表層透気係数の高さ方向の変化が大きくなることを明らかにした.

このように,構造体かぶりコンクリートの品質に及ぼす骨材の分離やブリーディングによる変化が定量的に明らかになった.ただし,鉄筋間の通過による粗骨材の分離の影響は鉄筋との相互作用の影響により粗骨材の分離自体が表層透気性に及ぼす影響は不明確であり,また粗骨材の分離は鉄筋間の通過だけでなく,打込み時等においても発生することがある.そこで,粗骨材の分離がコンクリートのブリーディング性状や表層透気性に及ぼす影響を明らかすることを目的とし,材料分離を想定して配合変化させたコンクリートを対象とし,小型供試体レベルにおける表層透気係数を評価した.この結果,モルタルの構成材料比を一定として単位粗骨材容積を変化させた場合,コンクリートのブリーディング性状は変化し,この変化は低水セメント比のときは比較的小さく,水セメント比が大きくセメントによる保水が小さい配合で顕著になることを示した.圧縮強度に対する粗骨材量の変化の影響は比較的小さく,粗骨材量が変化した場合にも,圧縮強度は水セメント比と比較的良い相関を示した.一方,粗骨材量が変化しブリーディングが大きくなると,表層透気係数は大きくなる傾向にあることが明らかになった.この関係はブリーディング性状の異なるコンクリートにおいても同様であり,同一水セメント比のコンクリートにおいて,ブリーディング性状が異なると表層透気係数は小型供試体レベルにおいても変化することが示された.よって,コンクリートの表層透気性を考える上では水セメント比に加え,ブリーディングを考慮することが合理的と考えられる.

品質管理に関する検討では,前述の検討結果を踏まえ,コンクリート構造物の耐久性をとして中性化を例にとり,コンクリート標準示方書に基づいて設計・施工する場合について,現状考慮されている方策に加え,それぞれの段階で考慮すべき点について示した.コンクリートのブリーディング性状によって構造体かぶりコンクリートの表層透気性が異なるとの見解から,設計,施工段階においてこれを考慮する必要があり,その時の品質管理方法について言及した.すなわち,材料選定時には水セメント比に加え,ブリーディングを考慮する必要がある.また,一般的なブリーディング性状のコンクリートであっても,鉛直部材における打込みの上方となる部位では小型供試体レベルで有する品質より低下し,この低下量は使用するコンクリートのブリーディングによって異なるため,両者の差を考慮する部分安全係数を見込む必要性を示すとともに,ブリーディング量に応じた目安を示した.

以上のように,本研究では表層透気試験を用い,構造体かぶりコンクリートの品質に及ぼす諸要因の影響を定量的に示した.本研究で検討した材料および構造条件等は限定されるため,今後データを蓄積していく必要があるが,これらの視点に基づいて品質管理を行うことで構造体かぶりコンクリートの品質向上に寄与できるものと考える.

審査要旨 要旨を表示する

社会基盤整備に十分な投資ができない社会情勢を考えると,今後新設するコンクリート構造物には今まで以上に耐久性が求められる.コンクリート構造物の代表的な劣化要因である中性化や塩害は,建設当初は確保されている鉄筋の防食性が空気中の二酸化炭素や塩分の侵入によって失われることが劣化の原因となる.このため,構造物の耐久性は劣化因子の物質移動抵抗性に依存し,かぶりコンクリートの品質の確保が特に重要となる.

コンクリートの物質移動抵抗性は主に水セメント比に支配され,現状の耐久性設計ではコンクリートの水セメント比によって耐久性照査が行われる.一方,構造体かぶりコンクリートの品質は,打込みや締固め,養生等の施工の影響を受けるため,土木学会コンクリート標準示方書では,材料が供試体レベルで有している性能と構造体における品質の差を,安全係数を用いて評価する手法が示されている.しかし,使用材料や部材位置での安全係数の使い分けについては必ずしも明確になっていない.また,現状のコンクリート品質管理は供試体による圧縮強度試験等によって行われているが,物質移動抵抗性と圧縮強度は等価でないことが指摘されている.本論文は,コンクリート構造物の耐久性を確保するためには構造体かぶりコンクリートの物質移動抵抗性に基づいた品質管理を行うことが必要であるとの観点から,表層透気性に着目し標準的な材料および施工によって達成される構造体かぶりコンクリートの品質に及ぼす使用材料,構造諸元および施工の影響を明確にすることを目的としている.

1章は序論であり,研究の背景,目的を述べた後に,本研究の構成を記述している.

2章では,構造体かぶりコンクリートの品質を評価する試験方法とそれらの課題,施工に起因する構造体コンクリートの品質変動に関する既往の研究について調べ,かぶりコンクリートの品質変動に及ぼす可能性のある影響要因の整理を行っている.さらに,実構造物における中性化深さの測定結果などから実構造物における品質変動の実態に関して示している.

3章では,表層透気試験によるかぶりコンクリートの品質評価への適用性について検討している.まず,含水率の影響について既往の研究結果を整理し,測定材齢と表層透気係数の関係を実験的に調べるとともに,施工の影響が小さいと考えられる小型供試体における試験結果の変動を示している.次に,表層透気試験の試験領域(透気領域)を実験的に明らかとしている.また,直接的な耐久性指標である中性化と表層透気係数との関係を,養生方法を変化させた模擬部材を用いて評価するとともに,既往の研究結果を含めて整理し,適用性や問題点について示している.

4章では,標準的な施工によって達成されている表層透気性の変動を把握することを目的とし,実構造物における調査を実施している.また,配筋を有する模擬部材を標準的な施工方法を基準として作製し,表層透気係数の変動範囲を示すとともに,その変動原因について検討している.

5章では,表層透気性の変動原因と考えられるコンクリートのブリーディング,鉄筋,また打重ね間隔の時間の影響に関する検討を行っている.コンクリートの表層透気性は締固め度の影響を大きく受けると考え,硬化後の品質の評価に先立ってかぶりコンクリートの充填挙動についての検討を行っている.コンクリートのフレッシュ性能に応じて適度な締固めを行った供試体,また沈下ひび割れの抑制等に有効とされる再振動締固めを行った供試体等を対象としてかぶりコンクリートの品質を評価している.そして,鉄筋間通過に伴う材料分離やブリーディングが表層透気性に及ぼす影響を明らかにしている.

6章では,材料分離がコンクリート自体の表層透気性の変動に及ぼす影響の検討を目的として,材料分離を想定した配合を用い,小型供試体レベルで検討を行っている.検討においてはコンクリートの水セメント比とブリーディングに着目し,表層透気係数との関係を評価している.

7章では,3~6章で得られた知見を総括し,構造体かぶりコンクリートの耐久性を確保する上で必要となるコンクリートの品質管理手法について検討するとともに,表層透気試験を用いた実構造物の品質評価方法について示している.

8章は結論であり,本研究で得られた結果を取りまとめている.

以上を要約すると,表層透気試験を用い構造体かぶりコンクリートの品質に及ぼす諸要因の影響を定量的に示し,得られた結果に基づいた品質管理を行うことで構造体かぶりコンクリートの品質向上を可能としたものであり,コンクリート工学の発展に寄与するところ大である.よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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