学位論文要旨



No 217482
著者(漢字) 宇賀田,健
著者(英字)
著者(カナ) ウガタ,タケシ
標題(和) 3次モーメント法に基づく信頼性解析手法に関する研究
標題(洋)
報告番号 217482
報告番号 乙17482
学位授与日 2011.03.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17482号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高田,毅士
 東京大学 教授 久保,哲夫
 東京大学 教授 桑村,仁
 東京大学 教授 中埜,良昭
 名古屋工業大学 教授 井戸田,秀樹
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、確率分布の歪み具合を表す3次モーメントを独立したパラメータとして有する新たな確率分布関数を提案し、それに基づき、従来の2次モーメントまで(平均値と標準偏差)しか考慮しない2次モーメント法に基づく構造物の確率論的安全性評価手法、ならびに荷重・耐力係数に基づく信頼性設計法を高度化することを目的として行った研究をとりまとめたものである。

従来の確率論的安全性評価手法あるいは信頼性設計法は、多くの場合、実用的な観点から、平均値と標準偏差という2次モーメントまでの情報のみを用いて行われてきた。しかしながら、構造物の設計・建設に関わる多くのばらつきは、例えば設計荷重や材料強度のように偏りを持ったものであり、さらにそれらが複雑に複合することによって生じる応答や応力のばらつきも、さまざまな偏り具合を有しているのが実情である。このような偏り具合は、2次モーメントまでの情報だけでは表現することができない。

このような背景から、平均値と標準偏差という1次と2次のモーメントに加えて、3次以上のモーメント(例えば確率分布の歪み具合を表す3次モーメント、尖り具合を表す4次モーメント等)を考慮することで、確率分布の偏り具合を表現しようという試みがいくつかなされてきた。「高次積率標準化手法」は、任意の確率変数に対する標準正規化関数をべき乗項による級数(べき級数)で近似することで、3次モーメント(歪み度)まで考慮して任意の確率分布の超過確率を評価できる手法として提案されている。この手法は、確率分布を表現する式の形は簡便であるが、べき級数に基づいているために、確率分布の歪み具合が大きい場合、確率変数の絶対値が大きい範囲(いわゆる確率分布の裾野部分)で関数そのものが定義できないという不具合が生じる。また、「3パラメータ対数正規分布」は、対数正規分布を負の確率変数まで取り扱えるよう拡張するとともに、対数正規分布とは反対の歪み具合の場合でも表現できるようにしたものである。これは対数正規分布に基づいているために、高次積率標準化手法で見られる確率分布の裾野部分における不具合は生じないが、確率分布を表す式の形が若干複雑であるとともに、対数正規分布をそのまま拡張しているため、対数正規分布とはかけ離れた歪み具合を有する分布に対して適用する場合に誤差が大きくなるという問題がある。

そこで、本論文は、確率分布の裾野部分まで定義できない、あるいは一部の理論分布にしか対応できないといった既往の提案手法の問題点を是正し、(1)偏りを持った理論分布に対しては、複雑な数値計算によらず、手計算ベースで、分布の歪みを考慮して確率特性が評価できること、(2)3次モーメント程度の低次のモーメントまでは精度よく評価できるものの、分布形状そのものについてはデータ数の不足等により評価が困難なものに対しては、一般的な分布の歪み具合を考慮して、その確率特性が評価できること、の二つを目標とし、確率分布の3次モーメント(歪み度)まで考慮した新たな確率分布評価式を導出し、それに基づく3次モーメント法を提案した。また、提案した手法を用い、構造物の設計や安全性評価といった信頼性設計法・解析法において、確率分布の3次モーメント(歪み度)まで考慮した手法を示し、その有効性を示した。

本論文は全5章で構成されている。

第1章は序論であり,本研究の背景に加えて,本研究と同様に3次以上のモーメントまで考慮した既往の評価手法に対するレビューを行い、既往の手法の問題点や課題を示すとともに,本研究の目的および本研究で提案する手法の特徴について述べた。

第2章では、3次モーメントまで考慮した新たな確率分布を導出し、それに基づく3次モーメント法を提案した。そして、その統計的な性質の精度を確認するために、理論分布や既往の評価手法の結果と比較し、新たに提案した手法の有効性を確認した。

第3章では、構造物に対する確率論的安全性評価手法について検討した。3次モーメント法と同じく3次モーメントまでの情報を用いて、元の連続分布と統計的に近似した離散点(サンプル点)を評価できる2点推定法と、本研究で提案した3次モーメント法を組み合わせることにより、確率分布の形状を仮定することなしに、確率分布の歪み度の情報のみを用いて構造物の損傷確率を評価することができるようになる。本研究では、この2点推定法に対して、確率変数間に相関性がある場合や、確率変数の数が多くなったときのサンプル点の低減方法について、新たな手法を開発した。

第4章では、構造物を設計する際に用いられる荷重・耐力係数設計法について検討した。荷重・耐力係数設計法は、荷重効果やクライテリアのばらつき具合と目標とする安全性レベルに応じて荷重効果とクライテリアの設計値を設定する方法で、設計過程で考慮すべき余裕度を、根拠を持って設定できるというメリットがある。本研究では、本研究で提案した3次モーメント法を適用し、任意の歪み度を有する確率分布に対しても、手計算レベルで荷重・耐力係数を評価できる手法を開発し、既往の評価方法と比較することで提案手法の有効性を確認するとともに、確率分布の歪み度が荷重・耐力係数の値に与える影響について検討した。

第5章では、2章から4章までの研究内容をまとめるとともに、3次モーメント法が、構造物の設計や安全性評価において、より活用できるようになるために必要な将来の展望について記載した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、不確定量の確率分布の平均値と標準偏差に加えて偏り程度を表す3次モーメントにより構成される新たな確率分布関数を提案し、それに基づき、従来の2次モーメント(平均値と標準偏差)による信頼性指標に基づく構造物、構造要素の信頼性解析手法、ならびに実用的な荷重・耐力係数に基づく信頼性設計法を高度化したものであり、理論的提案の部分と、それの応用展開を行った部分から構成される。

従来の信頼性解析手法や信頼性設計法においては、実用性の観点から、不確定量の平均値と標準偏差の情報を用いて理論展開されてきたが、構造物の設計・建設に関わる多くの不確定量は、例えば、荷重の最大値や材料強度の最小値といった極値は正規分布のような左右対称な分布形とならず偏りを持った分布形なることが一般的であり、2次モーメントまでの特性ではその変動性を十分に表現できないことが知られている。そこで、実用性を保持しつつ精度を向上させる試みとして、不確定量の3次、4次モーメントも考慮に入れる手法が過去に提案されてきた。特に分布形の偏り程度を考慮に入れた既往研究があるが、偏り程度が大きい場合や、分布形が対数正規分布で近似しづらい場合などは、精度が悪くなることが報告されている。

そこで、本論文は、(1)非対称な理論分布に対しては、複雑な数値計算によらず、手計算程度で分布の歪みを考慮して確率特性が評価できること、(2)3次モーメント程度の低次のモーメントまでは精度よく評価できるものの、分布形状そのものについてはデータ数の不足等により評価が困難なものに対しては、一般的な分布の歪み具合を考慮して、その確率特性が評価できること、の二つの条件を設定して、確率分布の3次モーメント(歪み度)まで考慮した新たな確率分布評価式を導出し、それに基づく3次モーメント信頼性指標を提案している。また、提案した指標を用い、構造物の設計や安全性評価といった信頼性設計法・解析法に適用して、確率分布の歪み度まで考慮した手法を示し、その有効性を示している。

本論文は全5章で構成されている。

第1章は序論であり,本研究の背景を示し、既往関連研究のレヴューを行って課題を明らかにした上で、本研究の目的および本研究で提案する手法の特徴を述べている。

第2章では、不確定量の3次モーメントまで考慮した新たな確率分布を導出し、それに基づく3次モーメント信頼性指標を提案し、その統計的な性質の精度を確認するために、理論分布や既往の評価手法の結果と比較し、提案手法の有効性を確認している。

第3章では、提案手法の具体的応用として構造物の信頼性解析の手法を提案している。不確定量の3次モーメントまでの情報を用いて、元の連続分布に対して統計的に近似した離散点(サンプル点)を評価できる2点推定法と、2章で提案した3次モーメント信頼性指標を組み合わせることにより、従来の2次モーメント信頼性指標に基づく方法に比べて、構造物の損傷確率を精度良く評価可能であることが報告されている。本章では、この多点推定法に対して、確率変数間に相関性がある場合や、確率変数の数が多くなったときのサンプル点の低減方法についても新たな手法を開発している。

第4章では、構造物、構造部材を設計する際に用いられる荷重・耐力係数設計法への応用展開について述べている。荷重・耐力係数設計法は、荷重効果や耐力のばらつき具合と目標性能水準に応じて荷重効果と耐力の設計値を設定でき、それらの設定根拠を合理的に表現できる有効な方法である。本章では、前章で提案した3次モーメント信頼性指標を適用し任意の歪み度を有する確率分布に対しても、簡易な計算により荷重・耐力係数を評価できる手法を開発し、従来の方法との比較より、提案手法の有効性を確認するとともに確率分布の歪み度が荷重・耐力係数の値に与える定量的な影響について考察している。

第5章では、2章から4章までの研究内容をまとめるとともに、3次モーメント信頼性指標が、構造物、構造部材の設計や安全性評価において、一層活用できるための必要課題と、その展望について述べている。

本論文は、より精度が高く、かつ実用性にも優れた信頼性解析手法を提案しており、今後、一層重要となる構造物、構造部材の性能設計・評価法の発展に資するところが大きい。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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