学位論文要旨



No 217485
著者(漢字) サリー,エルギュン
著者(英字)
著者(カナ) サリー,エルギュン
標題(和) カオスオシレータとリングオシレータによる乱数生成方法
標題(洋) Chaotic Oscillator and Ring Oscillator Based Approaches for Random Number Generation
報告番号 217485
報告番号 乙17485
学位授与日 2011.03.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17485号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 浅田,邦博
 東京大学 教授 柴田,直
 東京大学 教授 合原,一幸
 東京大学 教授 藤田,昌宏
 東京大学 准教授 池田,誠
内容要旨 要旨を表示する

本論文では、連続時間カオスシステムによる新しい乱数生成手法を提案する。これは、もっとも良い統計的特性と高い乱数生成速度を持ち、外部からの雑音等の妨害や回路パラメータのバラツキ、悪意の攻撃に対して高いロバスト性を有している。さらに、この手法に基づく集積回路向きの真正乱数生成器を提案する。カオス・トラジェクトリ手法を用いて雑音の影響を解析し、提案するカオスによる乱数生成器が真の乱数源として利用できることを証明する。

また、ブーストストラップ手法を用いて乱数生成器を設計するための数学モデルを提案する。これによりカオス信号の中の統計的特性を推定できることを示す。さらに新しいカオス発振器から派生する設計手法についても提案する。設計例として、カオス特性においてよりロバス性を有する交差結合非自律型カオス発振器とそれらを利用した乱数生成への応用についても説明する。

まず、リングオシレータによる乱数生成器のASIC設計とその実現例を紹介する。この設計のプロトタイプはHHNECの"0.25μm eFlash プロセス"を用いて設計され、2.5Vの電圧電源で動作する。実現例では毎秒数百メガビット程度の高い乱数生成速度が得られた。次に、提案する乱数生成器がFIPS-140-2とNIST-800-22の評価認定テストを発生数列の後処理なしでパスしたことを数値実験結果を用いて実証する。

本論文で説明する連続時間カオス発振器とリングオシレータによる乱数生成手法は知られる限り世界初のものであり、数学的手法と実験結果を併用して提案回路の正しい動作を証明している。本提案が集積回路向き高性能・高速の真正乱数生成器として、実用に寄与することを期待している。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「Chaotic Oscillator and Ring Oscillator Based Approaches for Random Number Generation (カオスオシレータとリングオシレータによる乱数生成方法)」と題し、暗号等の主としてセキュリティシステム応用に向けた真正乱数を発生するためのハードウェア回路を提案し、その乱数特性を解析的および実験的に検証したものであり、英文で記述され七章より構成されている.

第一章は「INTRODUCTION(序論)」であり研究の背景として過去の乱数生成手法を紹介し、本研究の目的と位置づけを述べている。

第二章は「CHAOTIC OSCILLATOR BASED APPROACH FOR RANDOM NUMBER GENERATION (カオスオシレータによる乱数生成)」と題し、カオスオシレータの出力を通常のオシレータ出力でサンプリングする方法、カオスオシレータの出力を別のカオスオシレータの出力でサンプリングする方法、さらに通常のオシレータの出力をカオスオシレータでサンプリングする方法を理論的に解析し、また実験データを用いて検証している。これによりカオスオシレータを基にした手法の分類と特徴、位置づけを明らかにしている。

第三章は「RING OSCILLATOR BASED APPROACH FOR RANDOM NUMBER GENERATION (リングオシレータによる乱数生成)」と題し、本論文で研究しているもうひとつのカテゴリーであるリングオシレータと雑音源を利用した乱数生成方法について解析している。ここでも雑音源をリングオシレータ出力でサンプリングする方法とリングオシレータ出力を雑音源でサンプリングする方法を理論と実験データ用いて比較検討している。

第四章は「PROPOSED CHAOTIC OSCILLATORS AND APPLICATION TO RANDOM NUMBER GENERATION (カオスオシレータの提案と乱数生成への応用)」と題し、"バイポーラトランジスタ差動対とキャパシターおよび抵抗を用いた非オートノマス・カオスオシレータ"と、"バイポーラトランジスタ差動対とキャパシター、抵抗およびインダクターを用いた非オートノマス・カオスオシレータ"の2種類を提案し、シミュレーションによりその特性を解析するとともに乱数生成への具体的応用例を示している。さらに後者をCMOS向けに設計した非オートノマス・カオスオシレータを個別素子による回路として試作測定し、実験的にその有効性を検証している。

第五章は「FPGA BASED STATISTICAL TEST AND DATA ACQUISITION SYSTEM (フィールドプログラム可能なゲートアレイを用いた統計的検定とデータ収集システム)」と題し、FPGAにより乱数の統計的検定を高速化する手法を提案している。このシステムは乱数の統計的検定に用いるだけでなく、擬似乱数生成器に代わる真正乱数生成器としても利用できるよう設計されている。第二章で述べたカオスオシレータベースの乱数生成器のひとつであるカオス信号で変調された電圧制御発信器出力を乱数信号源として用いており、5種の検定項目をハードウェアで実施できる。結果はPCIインターフェースを通じて外部に出力する機構となっている。またPCIを通じて、将来の新たなソフトウェアで生成された乱数系列の検定も短時間で可能な構成となっている。

第六章は「USING PROPOSED RNG FOR APPLICATIONS IN CRYPTOGRAHY (提案した乱数生成器の暗号技術への応用)」と題し、論文で提案した乱数生成器を"生物学的特長を利用した安全な認証"と"組み込み型指紋認証"システムに用いる例を紹介している。

第七章は「CONCLUSIONS AND FUTURE WORK(結論と今後の課題)」であり本論文の研究成果をまとめ、本研究の将来の発展方向を議論している.

以上、本論文はカオスオシレータやリングオシレータを用いてハードウェアにより真正乱数を効率的に生成する手法を網羅的に分析し、生成される乱数の特性を解析的および実験的に検証するとともに、新たなカオスオシレータおよび乱数高速検定ハードウェアを考案しその有効性を示したもので、電子工学の発展に寄与する点が少なくない.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格したものと認められる.

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