No | 217488 | |
著者(漢字) | 角村,貴昭 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ツノムラ,タカアキ | |
標題(和) | 微細電界効果トランジスタの電気特性ばらつき原因に関する研究 | |
標題(洋) | Origins of Electrical Characteristics Variabilities in Scaled FETs | |
報告番号 | 217488 | |
報告番号 | 乙17488 | |
学位授与日 | 2011.03.14 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第17488号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年、微細化された電界効果トランジスタの電気特性ばらつきが、最先端のLSIを開発する上で大きな問題になっている。本研究では、この電気特性ばらつきを抑制するために、その原因について、主にばらつき測定結果を元に解析を行った。ばらつき原因の解明のために、物理解析の結果、特性ばらつきシミュレーションの結果を合わせて用いた。 電気特性ばらつきは一般的に、システマティック成分およびランダム成分と呼ばれる成分に分類することが出来る。システマティック成分は、ウェハーやチップ内の位置に依存性して、電気特性が連続的に変動することにより生じるばらつき成分である。この成分は、プロセス条件均一性の改善やチップ内のレイアウトの工夫などにより低減することが出来る。一方で、ランダム成分は位置には依存せず、最近接のトランジスタ間でも特性がばらつく。この成分は、プロセス条件均一性の改善や、レイアウトの工夫では低減することはできない。更にこの成分は、トランジスタの微細化と共に増大することが予想されている。本研究では、このランダム成分に着目し、ばらつきの大きさの評価や原因の解析を行った。 ばらつき量を精度よく評価するためには大量の電界効果トランジスタを測定する必要がある。そこで、大量の電荷効果トランジスタの特性を現実的な時間内で測定するために、高速測定を実現するTest Element Group (TEG)と測定システムの開発を行った。さらに膨大な測定結果を解析するために、ばらつき解析専用のソフトウェアを開発した。 解析はしきい値のばらつき及び電流のばらつきを対象に行った。室温環境下だけでなく、高温環境下においてもばらつきがどのように変動するかを調べた。更に、P型電界効果トランジスタでは、Negative Bias Temperature Instability (NBTI)と呼ばれている、高温、負ゲート電圧印加時に電気特性変動があることが知られている。このNBTIによって時間変化するしきい値ばらつきの大きさについても評価を行った。 以前に行われた研究により、P型電界効果トランジスタのしきい値のばらつきは、RDFとよばれている離散的なチャネル不純物の配置位置や濃度のばらつきが主要因であることがわかっていた。一方でN型電界効果トランジスタはP型電界効果トランジスタやRDFで説明できる大きさよりも大きなしきい値ばらつきを有しているが、この原因は未解明であった。 そこで、RDF以外のトランジスタのゲート長、ゲート幅、ゲート酸化膜厚、チャネルストレス、ポリシリコンゲートが、しきい値ばらつきに及ぼす影響を、物理解析やウェハー製造プロセス条件を変えてしきい値ばらつきの変化を調べる実験により調べた。しかし、これらのRDF以外のばらつき原因の候補が、しきい値ばらつきの主たる要因であることを示す結果は得られなかった。このためRDFの効果について再度検討を行った。 RDFによるしきい値ばらつきの大きさは、チャネル不純物濃度の分布によって変化することが知られている。そこで、チャネル不純物濃度分布が、N型とP型の電界効果型トランジスタのしきい値ばらつきの差に及ぼす影響を調べた。まずチャネル深さプロファイルの違いや、ハロー注入の影響について調べた。これらはN型とP型の電界効果トランジスタのしきい値ばらつきに影響を及ぼしているが、これらだけではその差の全ては説明できないことがわかった。さらに、N型電界効果トランジスタのチャネル不純物に用いられているホウ素の増速拡散(TED)によって生じる不均一なチャネル不純物濃度分布が、N型電界効果トランジスタのしきい値ばらつきをP型電界効果型トランジスタよりも大きくしている原因であることがわかった。 オン電流については、定電流法定義のしきい値、最大相互コンダクタンス値のばらつきが、オン電流のばらつきに影響を及ぼすことは一般的に知られている。本研究では、これらの原因に加えて、電流の立ち上がり易さのばらつきがあり、これもオン電流ばらつきに影響を及ぼしていることを見出した。シミュレーションの結果も用いて解析を行ったところ、RDFに起因するチャネルポテンシャル凹凸のばらつきが電流立ち上がりばらつきの原因であることがわかった。これら定電流法定義しきい値、最大相互コンダクタンス、電流立ち上がりばらつきがオン電流ばらつきに寄与する割合を調べるために、夫々の寄与の大きさを分離する方法を考案した。これによると、飽和領域においては、定電流法定義しきい値ばらつき成分に次いで電流立ち上がりばらつき成分の寄与が大きいことがわかった。一方、線型領域においては、最大相互コンダクタンスばらつき成分の方が、電流立ち上がりばらつき成分よりも寄与が大きいことがわかった。飽和領域では、定電流法定義しきい値ばらつきと電流立ち上がりばらつき成分の寄与が大きいため、これらの物理量を介してRDFが電流ばらつきにも大きく影響していると考えられる。 ここまでに室温環境下で調べたしきい値とオン電流のばらつきについて、高温においてどのように変化するかについても調べた。まず、室温と高温のしきい値には非常に高い相関があることがわかった。更に、しきい値ばらつきの大きさは高温の方が小さいことがわかった。しきい値ばらつきの大きさは、チャネルの空乏層内に含まれるチャネル不純物の数により決まっているが、温度上昇と共にチャネル空乏層幅が減少するために、しきい値ばらつきも減少するものと考えられる。 オン電流ばらつきについても調べた結果、高温でばらつきが減少することがわかった。先に述べた電流ばらつきの分離方法を用いて、この減少の原因を調べた。その結果、高温における電流立ち上がり成分の減少の寄与が最も大きいことがわかった。この電流立ち上がり成分が減少する原因は、高温におけるキャリアの熱励起により、キャリアがチャネルポテンシャルの凹凸の影響を受けにくくなるためだと考えられる。 さらにP型電界効果トランジスタについては、NBTIストレス電圧印加によるしきい値ばらつきへの影響ついても調べた。NBTIストレス電圧印加によるしきい値ばらつきの増大を10万秒まで測定し、この測定結果を用いて、10年後までストレス電圧を印加した場合の、しきい値ばらつき増大量の予測を行った。 以上、大規模集積回路(LSI)の歩留まりにも大きく影響する、しきい値やオン電流のばらつきについて、室温から高温化に至るまでその機構を明らかにした。更に、NBTIによるしきい値ばらつきの増大についても評価を行った。今回得られた結果や解析手法は、電気特性ばらつきの低減、ひいては将来更に微細化された電界効果トランジスタを用いたLSIの歩留まり向上に役立てることができる。 | |
審査要旨 | 本論文は,「Origins of Electrical Characteristics Variabilities in Scaled FETs」(微細電界効果トランジスタの電気特性ばらつき原因に関する研究)と題し,英文で書かれている.本論文は,大規模集積回路を構成するMOSFETの微細化を阻害する要因として問題視されている特性ばらつきとその原因について論じたものであって,全8章より構成される. 第1章は「Introduction」(序論)であり,トランジスタの微細化に伴い特性ばらつきが増大し,特性ばらつきの原因究明が急務であることについてまとめており,本論文の背景と目的を明確にしている. 第2章は,「Experimental Method」(実験方法)と題し,本研究で新たに開発した,大規模トランジスタアレーを用いて特性ばらつきを実測する手法について述べている. 第3章は,「Analysis of VT Variability」(しきい値電圧ばらつきの解析)と題し,大規模トランジスタアレーを用いて実測した特性ばらつきの統計的データから,しきい値電圧ばらつきの原因がチャネル中の離散的不純物揺らぎであることを明らかにするとともに,N型トランジスタがP型トランジスタよりしきい値電圧ばらつきが大きい理由がボロンの異常拡散であることを明らかにしている. 第4章は,「Analysis of Drain Current Variability」(ドレイン電流ばらつきの解析)と題し,ドレイン電流のばらつきの要因が,従来考えられていたしきい値電圧ばらつきおよびトランスコンダクタンスばらつき以外にも存在することを示し,その要因がチャネル中の離散不純物揺らぎによる電流立上り電圧ばらつきであることを明らかにしている. 第5章は,「VT Variability at High Temperature」(高温におけるしきい値電圧ばらつき)と題し,高温においてしきい値電圧ばらつきが室温より小さくなることを実験的に見いだし,その原因について論じている. 第6章は,「Drain Current Variability at High Temperature」(高温におけるドレイン電流ばらつき)と題し,高温においてドレイン電流ばらつきも室温より小さくなることを実験的に見いだし,その原因が,しきい値電圧ばらつきの抑制だけでなく,電流立上り電圧ばらつきの抑制であることを明らかにしている. 第7章は,「Effect of NBTI on VT Variability」(NBTIがしきい値電圧に与える影響)と題し,電圧ストレス印加によるしきい値変動によりしきい値電圧ばらつきが増大することを実験的に示し,この現象によるトランジスタの寿命予測を行っている. 第8章は,「Conclusions」(結論)であり,本論文の結論を述べている. 以上のように本論文は,大規模トランジスタアレーによりMOSトランジスタの特性ばらつきを評価する手法を確立し特性ばらつきの統計的データを取得するとともに,特性ばらつきを引き起こす原因を明らかにしたものであって,電子工学上寄与するところが少なくない. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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