学位論文要旨



No 217527
著者(漢字) 尹,成圓
著者(英字)
著者(カナ) ユン,ソンワン
標題(和) 熱・光併用インプリントとデュアルダマシン銅配線製造への応用
標題(洋)
報告番号 217527
報告番号 乙17527
学位授与日 2011.06.16
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17527号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石原,直
 東京大学 教授 中尾,政之
 東京大学 教授 丸山,茂夫
 東京大学 准教授 一木,正聡
 産業技術総合研究所 研究センター長 前田龍,太郎
内容要旨 要旨を表示する

光の回折限界に対応できる新方式の半導体リソグラフィとして開発されたナノインプリントリソグラフィ技術は,国際半導体技術ロードマップ(ITRS)に次世代半導体リソグラフィ技術の候補にも挙げられている,低コスト,高生産性,高精度パターン形成技術である.光学, エネルギー,バイオ,半導体デバイスなど様々な応用分野の内,大規模集積回路(LSI),フラッシュメモリー,実装配線など,回路形成への応用が注目されている.ナノインプリント技術の半導体応用において期待される効果は,サブ十ナノメートルレベルパターンの低コスト大量生産,プロセスと装置の簡略化による費用の削減, 2.5次元構造の単工程製造,温暖化ガス使用量の低減などである.しかし,半導体分野においてナノインプリント技術をナノスケール配線形成技術(LSI製造プロセスなど)として実用化するためには,生産性の向上,欠陥密度の低減,位置あわせ精度の向上,検査・修正技術の確立,さらなる微細化などの課題を解決する必要がある.これらのことからナノインプリント技術は,アライメント精度が比較的寛容である三次元形状の転写への適用が有望と考えられる.そこで,本研究はインプリントリソグラフィのマイクロスケール実装配線への応用を取り上げた.ここで,実装配線とは集積回路,抵抗器,コンデンサー等の電子部品を表面に固定し,その部品間を電気的に繋げる技術を意味している.実装配線においては,はんだリフロー温度(約260oC)に対応可能な素材に数~数十μm幅の段付パターンを形成する必要があるため,耐熱性樹脂あるいはガラスなどへの2.5次元構造の低コスト・高効率形成が可能な熱インプリント技術は有効である.また,異なる幅の配線パターンを同じ深さでもそれぞれ違う深さでも単工程で形成できる点は,実装配線において大きいメリットである.インプリント技術をデュアルダマシン銅配線製造に適用する場合,半導体リソグラフィとドライエッチング技術を利用する場合に比べて,画期的な工程と装置の簡略化が実現できる.しかし,耐熱性樹脂に数十マイクロメートルレベルパターンを形成をするためには,熱インプリントの場合には熱応力による欠陥(基板反り,離型剤劣化,膜剥がれ)発生を,光インプリントの場合には被成形樹脂の制限および石英の低エッチングレートなどの問題を解決する必要がある.これらの問題を解決する手法として,耐熱性樹脂(SU-8,ポリイミドなど)の架橋前の高成形性を活用した低温熱インプリントプロセスが考えられる.先行研究として,架橋前のSU-8レジストを石英モールドを用いて成形する加熱式光ナノインプリント技術が提案されているが,数十マイクロメートルレベルの多段構造をもつモールドを石英で作製することは現状では難しく費用も高いため,マイクロスケールデュアルダマシン銅配線製造工程への適用は困難である.

以上の背景から,本研究では,インプリント技術の適用によるマイクロスケールデュアルダマシン銅配線製造工程の大幅な短縮を目的に,化学増幅系光硬化性樹脂の架橋反応メカニズムを活用した,非透明性モールドを用いるSU-8の熱・光併用インプリント技術を研究対象に選んだ.化学増幅系フォトレジストであるSU-8は,紫外線露光により光酸が生成され,続いての加熱により光酸と架橋剤との三次元架橋反応が促進されることによって硬化される.架橋反応による硬化後には耐熱温度300oCの熱硬化性樹脂であるが,架橋反応前には,熱可塑性(ガラス転移温度: 約60oC)を有する.露光工程が必要であるため,これまでのSU-8のインプリント成形関連研究では,一般的に石英モールドを用いる光インプリント工程が用いられた.本研究では,露光後にもインプリント成形が可能であることに着目し,露光工程と加熱工程を分離することによって,透明性モールド石英だけではなく非透明性モールドによる低温成形が可能なインプリント技術を試みた.また,インプリント技術をデュアルダマシン銅配線製造工程に適用する際,下部基板配線との通電のためにビア部下の残留膜を除去する必要があるため,初期膜厚の制御による残膜厚制御手法と高異方性エッチング条件を確立するなど,残膜除去後のパターン寸法変化の最小化を図った.最後に,銅めっき,化学機械研磨(CMP)を併用することによってデュアルダマシン銅配線を作製し,その評価を通してプロセスの有効性を検証した.以下に主な成果をまとめる.

(1) 熱インプリント成形条件選択の高効率化を目指して,温度上昇に伴う樹脂の変形挙動と動的粘弾性特性の変化,また,それらの熱インプリント成形条件との相関関係について考察を行い,非晶性樹脂あるいはそれに準する高温変形特性をもつ結晶性樹脂だけではなく,高分子量・結晶性樹脂の熱インプリント成形条件設定の方針を明らかにした.また,得られた知識を基に熱インプリント実験を行い,非晶性樹脂素材であるポリイミドを含め,難加工性である,高分子量・結晶性パリレンCの成形が可能であることを実証し,成形可能な樹脂素材の選択幅を広げた.

(2) 高品質デュアルダマシン構造形成用二段Ni電鋳モールドの製造プロセスを確立した.ボッシュ工程によるNi電鋳用の母型Siマスター製作において,ボッシュエッチングサイクルにエッチングガスと保護ガスを併用することによって高品質の側壁面が得られることを明らかにした.トレンチとビアの高精度位置合わせ工程においては,Siトレンチエッチング用マスクをビアエッチング用補助マスクとして再活用するセルフアラインメント法を提案することによって位置合わせ精度向上と工程の簡略化を図った.さらに,均一なパターン密度分布をもつ凸型モールドを用いる場合のインプリント充填挙動特性に着目したダミーパターン設計による充填率向上効果を含め,薄膜モールドの利用がNi電鋳モールドの反り対策として有効であることを実証した.得られた結果を基に,線幅10 μm,トレンチ深さ25 μm,ビア深さ45 μmのデュアルダマシン構造パターン形成用二段Ni電鋳モールドの製作を実証した.

(3) 耐熱性樹脂の熱インプリント成形工程の低温化を目指して,化学増幅系光硬化性樹脂の架橋前の高成形性に着目したSU-8の熱・光併用プロセスを提案し,その成形メカニズムと工程因子を明らかにした.SU-8の成形性の温度依存性,気泡欠陥発生開始温度,架橋率の架橋時間依存性などを考察すると同時に,UV前処理の際のドース量が転写率に及ぼす影響を調べることによって,デュアルダマシン構造パターン(線幅10 μm,トレンチ深さ25 μm,ビア深さ45 μm)形成の実証に適切な成形条件(成形温度90oC,成形圧力2.2 MPa,成形時間300秒,UV前処理ドース量160 mJ/cm2)を明らかにした.また,残膜制御のために,パターン密度分布が均一の場合の残膜厚さ,初期レジスト膜厚,モールドパターン形状・寸法の関係を数式化し,その妥当性を検証した.さらに,O2/CHF3 RIEによる高異方性エッチバック条件を確立した上,銅めっき,CMPを併用し,マイクロスケールデュアルダマシン銅配線基板を製作することによって,工程の有効性を実証した.

(4) 高密度配線,携帯端末機器用微細配線に主に要求される線幅(5~15 μm)を考慮し,10 μm ~ 1 mm幅 (最大アスペクト比:1)の実パターンに近い銅配線パターンをもつCu/SU-8/Si配線基板を作製し,半導体リソグラフィ基盤技術で製作したCu/SiO2/Si基板と,工程数,基板反り及びCMP特性などを比較評価した.その結果,Cu/SU-8/Si配線基板の製作工程数がCu/SiO2/Si配線基板に比べて75%削減できることから,熱・光併用インプリントによるデュアルダマシン銅配線製造工程の簡略化効果を実証した.また,Cu/SU-8/Si配線基板反りの主な発生原因がSU-8の架橋反応であることを明らかにした.さらに,300 μm以下の幅をもつ銅配線パターンに対してはCu/SiO2/Si基板とほぼ同じディッシング量が得られることから,高信頼性銅配線製造への適用が期待されることを示した.

以上のように本研究では,マイクロスケールデュアルダマシン銅配線製造工程の大幅な短縮を目的に,化学増幅系光硬化性樹脂の架橋メカニズムに着目してSU-8の熱・光併用インプリントによるマイクロパターニング工程を提案し,デュアルダマシン銅配線製造プロセスに適用することによりその有効性を検証した.ここで提案したSU-8熱・光インプリント技術はデュアルダマシン銅配線工程への適用に限ることなく広く半導体工程および微小電気機械素子(MEMS)部品への適用の可能性を有していることも明らかにした.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「熱・光併用インプリントとデュアルダマシン銅配線製造への応用」と題し,マイクロスケールデュアルダマシン銅配線製造において大幅な工程短縮と経済化を図るため,化学増幅系光硬化性樹脂の架橋反応メカニズムの活用に着目し,熱インプリントと光インプリントを組み合わせた新しいインプリントプロセスを提案,実際のデュアルダマシンに相当する銅配線工程に適用してその有効性を実証したものである.

第1章では,半導体用製造において大型・複雑・高価格化を続けるパターン形成技術に対して簡素で経済化が可能なパターン形成手法を提供できるインプリント技術について,その技術開発の背景と本技術の適用による配線工程の大幅な工程削減を目指すという本研究の目的について述べている.

第2章では,熱インプリントの基礎理論として樹脂の動的粘弾性特性について論じている.熱インプリントによるパターン成形条件の明確化をはかるため,温度上昇に伴う樹脂の変形挙動と動的粘弾性の変化,またそれらの熱インプリント形成との相関関係について考察を行い,非結晶性樹脂あるいはそれに準じる成形特性を持つ結晶性樹脂,並びに高分子量・結晶性樹脂の熱インプリント成形条件を明らかにしている.また,耐熱性樹脂の低温インプリントプロセス開発のために,耐熱性樹脂の架橋前の高い成形性について考察している.

第3章では,デュアルダマシン配線構造成形用として2段Ni電鋳モールドを採用することとし,その作製技術について検討している.まず,母型であるシリコンマスターの作製にはエッチング現象とデポジション現象を並列作用させるボッシュプロセスによる垂直壁を有する高品質マスターモールドのエッチング技術を確立している.次に,シリコントレンチエッチング用マスクをビアエッチングに補助マスクとして再利用するセルフアライメント法を提案し,ビア部とトレンチ部の超高精度位置合わせを実現している.さらに,インプリント時の樹脂の充填挙動の考察から,ダミーパターン付加によるモールド変形の防止対策を提案している.

第4章では,本論文の主課題である光硬化性樹脂を用いた熱・光併用インプリント技術について詳述している.本研究で提案するインプリントプロセスでは,耐熱性に優れたエポキシ系化学増幅型ネガレジストSU-8を液状とドライフイルムを積層する方式で成膜し,まず適正ドーズのUV露光(UV照射)により架橋反応を励起する.次にこの適度な熱可塑性を持った高成形性樹脂膜に前章で作製したモールドを用いて熱インプリントプロセスを施す.本プロセスは光照射が不要な熱反応なので非透明なNiモールドが使用でき(高価な石英モールドが不要),成形反応は90℃付近の低温で促進されるという優れた特徴を有している.なお,本章ではこのインプリントプロセスに付随する残膜の制御,銅メッキ,CMPなど具体的なプロセスの課題とその解決法についても触れている.

第5章では,前章で提案したSU-8を用いた熱・光併用インプリント技術をデユアルダマシン銅配線工程に適用してその有効性を検証している.具体的にはフォトリソグラフとドライエッチングという一般的な半導体製造プロセスをベースとするCu/SiO2/Si配線プロセスと,本研究提案の光・熱インプリント法によるCu/SU-8/Si配線プロセスを適用して実パターンに近い配線層を実際に作製して,それらの結果を比較している.提案するインプリントプロセスによって一般的半導体プロセスの場合に遜色のないパターン形成品質が得られることを実証するとともに,デュアルダマシン銅配線用トレンチ・ビア形成プロセスの工程比較により75%程度の総工程数削減が可能であることを検証している.

最後に第6章においては,化学増幅系光硬化性樹脂SU-8を用いた熱・光併用インプリントによるマイクロパターニング工程を提案し,デュアルダマシン銅配線工程に適用してその有効性を検証したという本研究の総括を述べている.

本論文は,化学増幅系光硬化性樹脂の架橋メカニズムに着目し,光インプリントと熱インプリントを巧みに組み合わせたマイクロ銅配線の低温形成技術を提案し,デュアルダマシン層という2.5次元配線工程に適用してそのパターン品質確保と大幅な工程短縮を実現したものである.また,ここで提案したインプリント技術は本研究で扱った銅配線工程に限ることなく,広く半導体製造プロセスやMEMS製造プロセスへの適用可能性有していると考えられる.

よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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