No | 217585 | |
著者(漢字) | 大西,徹 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オオニシ,トオル | |
標題(和) | 現場環境における三次元測定機の高度化に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 217585 | |
報告番号 | 乙17585 | |
学位授与日 | 2011.11.17 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第17585号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 三次元測定機(Coordinate Measuring Machine,以下CMM)は,機械部品の三次元形状,寸法,位置などを測定するために,広く機械産業分野で利用されている測定機であり,このCMMの高精度化は,品質保証のうえで必要不可欠な要求である.生産システムが,グローバル化していく中で,部品を国際的に発注,受注することが生産の効率化において重要となり,CMMによる測定は,測定室や恒温室で使われている状況から広く工場や生産現場(以下,現場環境)で使われるようになってきている.一方,このようなシステムでは,部品の設計,加工,組立工程を通して,品質保証を効率的に行い測定の不確かさを評価することが,コスト面からも重要な技術となっている. CMMを利用した測定における不確かさの評価については,多くの研究があるがCMMの精度評価,幾何学誤差の補正,測定戦略の影響などが大部分で,測定環境の影響を考慮したものは少ない.しかし,現場環境でCMMを使う場合には,温度,振動,ゴミ,空気などの環境の影響や校正方法,経年変化などの管理方法が問題となる.本論文の目的は,このような現場環境でCMMを使う場合に問題となる要因を解析し,問題解決のための提案を行うことにより,現場環境における三次元測定の高度化を行うことにある. 温度の影響については,工作機械を中心に多くの研究が行われている.工作機械は熱源を持っていることもあり,温度ドリフトの影響などを評価するためのISO規格,JIS規格も作られている.測定機器に対しても,温度補正に関連する測定の不確かさの評価,温度ドリフトの評価に対してISO規格が作られている.しかし,CMMに対しては,複雑な構造のため温度の時間的,空間的な変化によるたわみなどの変形のモデル化や有限要素法解析が行われ,温度変化により変形が生じない構造の研究が行われている.また,実際のCMMの温度変形を実験的に評価し,モデルとの比較や補正方法の提案も行われているが,比較的高精度のCMMが対象で,比較的よい温度環境で行われている研究が大部分であり,現場環境に着目して温度を広い範囲で評価している研究はない.そこで,現場環境に置かれたCMMの温度状況を測定するとともに,温度補正と温度ドリフトの影響のモデル化を行い,現場環境において温度補正と温度ドリフトの影響を推定し,実験的に評価した.さらに,モデルと温度測定を利用して温度ドリフトを補正する手法を提案し,その効果を実験により確認した. ブロックゲージの寸法測定を行いその誤差を評価する目盛誤差は,従来はCMMのスケール精度,プローブ径補正などの静的な精度評価に使われていた.しかし,温度環境の悪い現場環境では温度補正の影響が最も大きいため,目盛誤差を評価することで温度測定の誤差および温度補正の効果を評価することができる.温度補正の効果を評価するには,スケールとワークの温度補正の両方を評価する必要がある.ワークの温度補正に関しては,高精度な温度計か,熱膨張係数の分っているブロックゲージがあれば評価することができる.しかし,スケールの温度補正に関しては,評価することが難しい.方法として,スケールに高精度な温度計を取り付けることが考えられるが一般のユーザでは難しい.また,高精度な温度計や熱膨張係数の分っているブロックゲージがあっても,スケールとワークの温度補正の分離ができない.そこで,低熱膨張のブロックゲージがあれば,スケールだけの温度補正の評価ができる.本論文では,目盛誤差の要因となる誤差の検討を行うとともに,現場環境に置かれたCMMについて,低熱膨張セラミック製ブロックゲージの目盛誤差からスケールの温度補正に関して実験的に評価した.また,鋼製のブロックゲージの目盛誤差からワークの温度補正に関して実験的に評価し,スケールとワークの温度計を補正する手法を提案した. CMMの幾何学誤差は,レーザ測長機やボールプレートを用いて校正する手法の研究が行われている.これらの手法はかなり完成度が高い手法であるが,実施するためのコストや手間もかなり大きくなってしまう.また,これらの手法は,良い温度環境で行う必要があり,温度変化が大きい現場環境で利用することは難しい.直角誤差を評価する手法としては,他の幾何学的誤差を含めてステップゲージ,ボールプレートなどのアーティファクトやレーザ測長機を利用する方法が提案されているが,前述したように,現場環境においてこれらの手法を使うことにはかなり限界がある.一方,変位計を内蔵するダブルボールバー(Double Ball Bar)を利用したDBB法が,工作機械の運動精度評価に利用されている.DBB法は,簡単な方法で短時間に,工作機械の運動精度を評価できると同時に,工作機械の校正にも利用されている.DBB法をCMMへ適用することも可能であるが,より安価で手軽な方法として,マシンチェックゲージ(Machine Checking Gauge,以下MCG)を利用した方法が提案されている.MCGは主に,CMMの中間検査に使用されることが多く,CMMの状態を日常的に評価することのみに使われている.本論文では,現場環境に置かれたCMMと恒温室の置かれたCMMの直角誤差を,MCGを用いて測定するとともに,測定結果を利用して直角誤差を補正する手法を提案し,その効果を実験により確認した. 現場環境に置かれたCMMのプロービングシステムにおける不確かさ要因として,プローブの測定力,スタイラス球のゴミ,磨耗および回転式プロービングシステムによる測定の指示誤差(形状誤差,サイズ誤差,位置誤差)があり,これらを評価することは重要である.本論文では,プローブの測定力とプロービング誤差との関係を実験的に評価するとともに,生産現場(アルミ製品の加工ライン)に置かれているCMMで使用されているスタイラスの球表面の汚れと恒温室に置かれている製品の多くをスキャニング測定によって評価しているCMMで使用されているスタイラスの球表面の磨耗を共焦点顕微鏡によって観察し評価を行った.また,回転式プロービングシステムによる測定の指示誤差(形状誤差,サイズ誤差,位置誤差)の影響に関して実験的に評価するとともに,CMMの直角誤差を利用して,校正球の位置と測定位置の直角誤差の値を用いて位置誤差を評価する手法を提案した. 本論文では,現場環境でCMMを使う場合に問題となる要因を解析し,問題解決のための提案を行うことにより,現場環境における三次元測定の高度化を行ってきた.これらが実現されることにより,現在ユーザが使用しているCMMの持つ精度以上の高度化が可能となり,生産現場の製品精度向上が期待できる. | |
審査要旨 | 三次元測定機(Coordinate Measuring Machine,以下CMM)は,機械部品の三次元形状,寸法,位置などを測定するために,広く機械産業分野で利用されている測定機であり,このCMMの高精度化は,品質保証のうえで必要不可欠な要求である.生産システムが,グローバル化していく中で,部品を国際的に発注,受注することが生産の効率化において重要となり,CMMによる測定は,測定室や恒温室で使われている状況から広く工場や生産現場(以下,現場環境)で使われるようになってきている.一方,このようなシステムでは,部品の設計,加工,組立工程を通して,品質保証を効率的に行い測定の不確かさを評価することが,コスト面からも重要な技術となっている. CMMを利用した測定における不確かさの評価については,多くの研究があるがCMMの精度評価,幾何学誤差の補正,測定戦略の影響などが大部分で,測定環境の影響を考慮したものは少ない.しかし,現場環境でCMMを使う場合には,温度,振動,ゴミ,空気などの環境の影響や校正方法,経年変化などの管理方法が問題となる.本論文の目的は,このような現場環境でCMMを使う場合に問題となる要因を解析し,問題解決のための提案を行うことにより,現場環境における三次元測定の高度化を行うことにある. 温度の影響については,現場環境に置かれたCMMの温度状況を測定するとともに,温度補正と温度ドリフトの影響のモデル化を行い,現場環境において温度補正と温度ドリフトの影響を推定し,実験的に評価した.さらに,モデルと温度測定を利用して温度ドリフトを補正する手法を提案し,その効果を実験により確認した.ブロックゲージの寸法測定を行いその誤差を評価する目盛誤差は,従来はCMMのスケール精度,プローブ径補正などの静的な精度評価に使われていた.しかし,温度環境の悪い現場環境では温度補正の影響が最も大きいため,目盛誤差を評価することで温度測定の誤差および温度補正の効果を評価することができる.温度補正の効果を評価するには,スケールとワークの温度補正の両方を評価する必要がある.ワークの温度補正に関しては,高精度な温度計か,熱膨張係数の分っているブロックゲージがあれば評価することができる.しかし,スケールの温度補正に関しては,評価することが難しい.方法として,スケールに高精度な温度計を取り付けることが考えられるが一般のユーザでは難しい.また,高精度な温度計や熱膨張係数の分っているブロックゲージがあっても,スケールとワークの温度補正の分離ができない.そこで,低熱膨張のブロックゲージがあれば,スケールだけの温度補正の評価ができる.本論文では,目盛誤差の要因となる誤差の検討を行うとともに,現場環境に置かれたCMMについて,低熱膨張セラミック製ブロックゲージの目盛誤差からスケールの温度補正に関して実験的に評価した.また,鋼製のブロックゲージの目盛誤差からワークの温度補正に関して実験的に評価し,スケールとワークの温度計を補正する手法を提案した. CMMの幾何学誤差は,レーザ測長機やボールプレートを用いて校正する手法の研究が行われている.これらの手法はかなり完成度が高い手法であるが,実施するためのコストや手間もかなり大きくなってしまう.より安価で手軽な方法として,マシンチェックゲージ(Machine Checking Gauge,以下MCG)を利用した方法が提案されている.MCGは主に,CMMの中間検査に使用されることが多く,CMMの状態を日常的に評価することのみに使われている.本論文では,現場環境に置かれたCMMと恒温室の置かれたCMMの直角誤差を,MCGを用いて測定するとともに,測定結果を利用して直角誤差を補正する手法を提案し,その効果を実験により確認した. 現場環境に置かれたCMMのプロービングシステムにおける不確かさ要因として,プローブの測定力,スタイラス球のゴミ,磨耗および回転式プロービングシステムによる測定の指示誤差(形状誤差,サイズ誤差,位置誤差)があり,これらを評価することは重要である.本論文では,プローブの測定力とプロービング誤差との関係を実験的に評価するとともに,生産現場(アルミ製品の加工ライン)に置かれているCMMで使用されているスタイラスの球表面の汚れと恒温室に置かれている製品の多くをスキャニング測定によって評価しているCMMで使用されているスタイラスの球表面の磨耗を共焦点顕微鏡によって観察し評価を行った.また,回転式プロービングシステムによる測定の指示誤差(形状誤差,サイズ誤差,位置誤差)の影響に関して実験的に評価するとともに,CMMの直角誤差を利用して,校正球の位置と測定位置の直角誤差の値を用いて位置誤差を評価する手法を提案した. 本論文では,現場環境でCMMを使う場合に問題となる要因を解析し,問題解決のための提案を行うことにより,現場環境における三次元測定の高度化を行ってきた.これらが実現されることにより,現在ユーザが使用しているCMMの持つ精度以上の高度化が可能となり,生産現場の製品精度向上が期待できる. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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