No | 217595 | |
著者(漢字) | 河野,匡志 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カワノ,マサシ | |
標題(和) | 大学施設における環境負荷低減手法に関する研究 : 東京大学におけるCO2排出量削減に向けた実効ある対策の立案と実践 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 217595 | |
報告番号 | 乙17595 | |
学位授与日 | 2011.12.20 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第17595号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 地球環境を保全し持続可能な社会を維持していくためには、環境負荷の十分な低減が必要とされている。中でも地球温暖化防止は世界的な喫緊の課題であり、あらゆる分野と部門において、温室効果ガスの排出削減に対する取り組みが不可欠となっている。日本の大学施設においても環境負荷の低減、就中、温室効果ガスの削減は重要な課題として位置づけられており、環境負荷低減のための活動が開始されている。 本論文は、東京大学において全学的なプロジェクトとして始動しているサステイナブルキャンパスプロジェクト(TSCP)を研究のモデルとして採用し、大学キャンパスにおける温室効果ガス削減の手法を論じたものである。大学の施設におけるエネルギー消費や設備の稼働状況については、大学当局や文科省が系統的な調査や分析を行ってこなかったので、その実態は十分に把握されてはいなかった。そのために、キャンパスのサステイナブル化や温室効果ガスの削減という課題が与えられても、日本の大学ではどのような方法でそれを実現したらよいか、自信ある対策を講じることができない状況にあった。こうした実状を鑑み、本研究においては、日本の大学施設のエネルギー消費や設備に関してデータの収集・分析を行うと共に、東京大学の施設においても新たな計測・調査・分析を行って、エネルギー消費と設備稼働の実態について明らかにした。次に、こうした実データに基づき、東京大学の施設における実効ある温室効果ガス削減手法を検討・立案し、その一部を実践すると共に、さらにはその手法の検証まで行った。また、東京大学におけるエネルギーと環境に関わるマネジメン体制についても検討を行い、提示した。以下に、本論文の章立てに従い、本研究の概略について示す。 第1章では、大学施設のエネルギーデータベースやエネルギー消費形態に関して既往の研究を調査し、様々な用途の建物を保有する大学において統計データや文献データが少ないこと、また全学的な推進体制の構築や対策の進め方が検討課題となっている大学が多いことを確認した。それゆえ、本研究では建物単位の細かなデータ集計・分析、設備の実態把握や環境マネジメント体制などハード面及びソフト面の両面から調査・検討を行う必要があることを結論づけた。 第2章では、日本全国の国公立大学に対してエネルギー消費実態及び管理体制について調査を行った。その結果、建物単位、建物用途別のエネルギーデータについては体系的に分類したデータが少ないこと、及び、エネルギー管理については環境安全業務の一環として行っている大学がほとんどであり、全学的な体制や組織の基でエネルギー管理を行っている大学は少ないことが明らかになった。 次に、東京大学が保有するエネルギーデータについて建物単位で細かく分析を行い、一次エネルギー消費量及びCO2排出量の原単位(床面積あたりの消費量や排出量)を明らかにした。また、設備機器の容量・台数・年代などを調査し、CO2排出削減可能量に関する試算を行った。これらの分析や試算によって、東京大学の施設については以下のことが判明した。 1)一次エネルギー原単位は500~3500MJ/m2年、CO2原単位は25~150kg-CO2/m2年であり、建物用途によって原単位が大きく異なる。保健系が最も大きな値である。 2)エネルギー消費量は建物によって幅広く分布している。 3)竣工年毎の原単位は、建物の高密度化に伴い、年々大きくなっている。 4)最も導入規模の大きい設備は、空調用途に用いられている個別分散熱源設備である。 5)大型熱源設備には、耐用年数以上に使用している機器(経年劣化の影響有)もある。 6)機器更新によるCO2排出削減量は約12,000ton-CO2/年という試算結果になった。 7)調査機器のなかには、更新による投資回収年数が耐用年数以上になるものもあり、機器の更新は慎重に行う必要があることが分かった。 また、空調用途の設備機器を中心に稼働実態を調査し、以下のことを明らかにした。 1)大型熱源設備については、機器容量が過大であり、低負荷で効率の悪い運転を行っている。 2)機器のスケジュール設定など建物負荷の実態に応じた適正な運用をほとんど行っていない。 3)最も導入量の多い個別分散熱源設備のなかには、床面積当たりの機器容量が500W/m2を超過する室もあり、低効率による稼働の原因になっている。 以上の調査分析結果から、東京大学における具体的な省エネ・省CO2対策項目の優先順位を検討するためのフローを示し、費用対効果を考慮した対策が必要であることを結論づけた。 第3章では、上記検討フローを活用しつつ、東京大学の施設におけるCO2排出量削減のための適正運用や設備更新の対策実施とその効果の検証を行った。適正運用については、熱源主機や補機の設定値の見直しを行うことで、大幅な初期投資を伴うことなくCO2排出量を削減した。また機器更新については、大学施設における従来の設計手法に機器容量の適正化に関する検討を付加することで、機器容量の見直しを実現することができた。これらの効果として約2年の累計で約5,000ton-CO2/年ものCO2排出削減を実現した。 第4章では、以上の調査・分析結果を踏まえて、東京大学のCO2削減目標であるTSCP2012とTSCP2030の実現可能性について検討を行った。その結果、TSCP2012についてはこれまで実施したハード面及びソフト面の対策による効果と今後実施する対策により、その削減目標が達成可能であることを示した。また、TSCP2030については、2020年度における中間想定を基に、実現のためには創エネルギー設備の導入も含めた対策が必要であることを示した。 最後に、大学における環境マネジメント体制への参画に関するあり方を検討し、部局連絡会や学生との連携組織を立ち上げる必要性を論じ、それらを実際に立ち上げた。また、大学の特性に応じた建築と設備の計画・設計及び適正運用・維持・改善を行うことが必要であるので、これらに関する全体指針を策定し、それらの細部を検討し纏めた。 以上、本論文では、大学施設における一連の調査・分析・検討・実践・検証を通じて、大学施設の環境負荷低減手法を論じると共に、併せてその具体的手法も提示した。 | |
審査要旨 | 地球環境を保全し持続可能な社会を維持していくためには、環境負荷の十分な低減が必要とされている。中でも地球温暖化防止は世界的な喫緊の課題であり、あらゆる分野と部門において、温室効果ガスの排出削減に対する取り組みが不可欠となっている。日本の大学施設においても環境負荷の低減、就中、温室効果ガスの削減は重要な課題として位置づけられており、環境負荷低減のための活動が開始されている。 本論文は、東京大学において全学的なプロジェクトとして始動しているサステイナブルキャンパスプロジェクト(TSCP)を研究のモデルとして採用し、大学キャンパスにおける温室効果ガス削減の手法を論じたものである。大学の施設におけるエネルギー消費や設備の稼働状況については、大学当局や文科省が系統的な調査や分析を行ってこなかったので、その実態は十分に把握されてはいなかった。そのために、キャンパスのサステイナブル化や温室効果ガスの削減という課題が与えられても、日本の大学ではどのような方法でそれを実現したらよいか、自信ある対策を講じることができない状況にあった。こうした実状を鑑み、本研究においては、日本の大学施設のエネルギー消費や設備に関してデータの収集・分析を行うと共に、東京大学の施設においても新たな計測・調査・分析を行って、エネルギー消費と設備稼働の実態について明らかにした。次に、こうした実データに基づき、東京大学の施設における実効ある温室効果ガス削減手法を検討・立案し、その一部を実践すると共に、さらにはその手法の検証まで行った。また、東京大学におけるエネルギーと環境に関わるマネジメン体制についても検討を行い、提示した。以下に、本論文の章立てに従い、本研究の概略について示す。 第1章では、大学施設のエネルギーデータベースやエネルギー消費形態に関して既往の研究を調査し、様々な用途の建物を保有する大学において統計データや文献データが少ないこと、また全学的な推進体制の構築や対策の進め方が検討課題となっている大学が多いことを確認した。それゆえ、本研究では建物単位の細かなデータ集計・分析、設備の実態把握や環境マネジメント体制などハード面及びソフト面の両面から調査・検討を行う必要があることを結論づけた。 第2章では、日本全国の国公立大学に対してエネルギー消費実態及び管理体制について調査を行った。その結果、建物単位、建物用途別のエネルギーデータについては体系的に分類したデータが少ないこと、及び、エネルギー管理については環境安全業務の一環として行っている大学がほとんどであり、全学的な体制や組織の基でエネルギー管理を行っている大学は少ないことが明らかになった。 次に、東京大学が保有するエネルギーデータについて建物単位で細かく分析を行い、一次エネルギー消費量及びCO2排出量の原単位(床面積あたりの消費量や排出量)を明らかにした。また、設備機器の容量・台数・年代などを調査し、CO2排出削減可能量に関する試算を行った。これらの分析や試算によって、東京大学の施設については以下のことが判明した。 1)一次エネルギー原単位は500~3500MJ/m2年、CO2原単位は25~150kg-CO2/m2年であり、建物用途によって原単位が大きく異なる。保健系が最も大きな値である。 2)エネルギー消費量は建物によって幅広く分布している。 3)竣工年毎の原単位は、建物の高密度化に伴い、年々大きくなっている。 4)最も導入規模の大きい設備は、空調用途に用いられている個別分散熱源設備である。 5)大型熱源設備には、耐用年数以上に使用している機器(経年劣化の影響有)もある。 6)機器更新によるCO2排出削減量は約12,000ton-CO2/年という試算結果になった。 7)調査機器のなかには、更新による投資回収年数が耐用年数以上になるものもあり、機器の更新は慎重に行う必要があることが分かった。 また、空調用途の設備機器を中心に稼働実態を調査し、以下のことを明らかにした。 1)大型熱源設備については、機器容量が過大であり、低負荷で効率の悪い運転を行っている。 2)機器のスケジュール設定など建物負荷の実態に応じた適正な運用をほとんど行っていない。 3)最も導入量の多い個別分散熱源設備のなかには、床面積当たりの機器容量が500W/m2を超過する室もあり、低効率による稼働の原因になっている。 以上の調査分析結果から、東京大学における具体的な省エネ・省CO2対策項目の優先順位を検討するためのフローを示し、費用対効果を考慮した対策が必要であることを結論づけた。 第3章では、上記検討フローを活用しつつ、東京大学の施設におけるCO2排出量削減のための適正運用や設備更新の対策実施とその効果の検証を行った。適正運用については、熱源主機や補機の設定値の見直しを行うことで、大幅な初期投資を伴うことなくCO2排出量を削減した。また機器更新については、大学施設における従来の設計手法に機器容量の適正化に関する検討を付加することで、機器容量の見直しを実現することができた。これらの効果として約2年の累計で約5,000ton-CO2/年ものCO2排出削減を実現した。 第4章では、以上の調査・分析結果を踏まえて、東京大学のCO2削減目標であるTSCP2012とTSCP2030の実現可能性について検討を行った。その結果、TSCP2012についてはこれまで実施したハード面及びソフト面の対策による効果と今後実施する対策により、その削減目標が達成可能であることを示した。また、TSCP2030については、2020年度における中間想定を基に、実現のためには創エネルギー設備の導入も含めた対策が必要であることを示した。 最後に、大学における環境マネジメント体制への参画に関するあり方を検討し、部局連絡会や学生との連携組織を立ち上げる必要性を論じ、それらを実際に立ち上げた。また、大学の特性に応じた建築と設備の計画・設計及び適正運用・維持・改善を行うことが必要であるので、これらに関する全体指針を策定し、それらの細部を検討し纏めた。 以上、本論文では、大学施設における一連の調査・分析・検討・実践・検証を通じて、大学施設の環境負荷低減手法を論じると共に、併せてその具体的手法も提示した。大学施設に関するこうした研究と実践は、日本の学術と工学の発展に寄与し、且つ、社会的にもきわめて意義深い成果を収めると予想される。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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