学位論文要旨



No 217616
著者(漢字) 加茂,隆
著者(英字)
著者(カナ) カモ,タカシ
標題(和) EUVリソグラフィ用マスクの構造最適化に関する研究
標題(洋)
報告番号 217616
報告番号 乙17616
学位授与日 2012.02.09
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17616号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石原,直
 東京大学 教授 鈴木,雄二
 東京大学 准教授 割澤,伸一
 東京工芸大学 教授 渋谷,眞人
 兵庫県立大学 教授 木下,博雄
内容要旨 要旨を表示する

現在の大規模半導体集積回路(ULSI)の高集積・高精度化には半導体素子の微細化が大きく貢献しており、この微細化は光リソグラフィ技術の進展によるところが大きい。リソグラフィによる微細パターン形成は、回路を形成したい薄膜上にレジストを塗布し、マスクと呼ばれる回路原版のパターンをレジストに露光、現像しレジストパターンを形成する。このパターンをマスクとしてエッチング加工、さらにレジスト除去することにより所望の薄膜材料の回路パターンを形成するものである。現在はArF波長(193nm)での液浸露光というウエハと露光装置レンズ間を純水で満たすことで高解像を達成しているが、マスクパターンをウエハ上に忠実に転写できなくなる光近接効果と呼ばれる現象が顕在化し、この光近接効果を事前に予測、マスクパターンを補正することで設計に忠実な転写パターンを得る光近接効果補正(Optical Proximity Correction : OPC)の負荷が大きくなっている。最小線幅を回路配線パターンの最小ピッチの半分(half pitch: hp)の寸法で定義すると、hp32nmの世代においては、さらにダブルパターニングと呼ばれる多重露光手法により加速する微細化要求に応えている。hp22nm以細の世代においては、従来の光リソグラフィで使用されている露光波長よりも1桁以上小さい13.5nm付近の極端紫外線(Extreme Ultraviolet : EUV)を使用すると解像度を飛躍的に小さくすることができ、次世代のパターニング技術として拡張性に優れた最も有望な技術とされている。EUV露光装置では屈折光学系が使用できず多層膜が形成された反射ミラー光学系を使用する。マスクについても従来の光リソグラフィ技術で使用された透過型マスクではなく、多層膜が基板表面に形成された反射型マスクを使用する。EUVリソグラフィ固有でマスクへの斜入射の反射に起因する現象として、マスクに投影されたEUV光の方向に対して平行方向と垂直方向のマスクパターン間で転写寸法が異なるシャドウイング効果がある。また反射型マスクの最大の課題は多層膜基板の欠陥低減であり、位相欠陥と呼ばれる多層膜の周期を乱す欠陥がEUVマスク固有の欠陥である。

上述の通りEUVリソグラフィの高解像性により、EUVマスクでは従来のフォトマスクに比べてOPCの負荷が軽減される反面、新たにシャドウイング効果に起因するマスクパターン補正が必要とされている。ウエハ転写像で高コントラストを得つつもシャドウイング効果の補正負荷を軽減することを目標に、マスク構造の最適化を行った。

本論文は5章より構成され、以下に各章の概要を述べる

第1章では、半導体集積回路の高集積化とリソグラフィ技術の進展、EUVリソグラフィの位置付けと技術課題、さらにEUVマスクに対する要求特性について述べ、本研究の目的と解決すべき課題を示した。

第2章では最適マスク吸収体構造とその転写特性について述べた。ハーフトーン型位相シフトマスクの適用により従来のバイナリマスクよりも吸収体膜厚を低減させることができる光学定数の範囲を示し、Ta系吸収体薄膜化によるハーフトーン型位相シフト効果を予想した。さらに小領域露光装置による露光実験を行い、シャドウイング効果を抑制し転写性能を劣化させることのない吸収体の最適膜厚の範囲を示した。EUVマスクブランクとして、Siキャップ多層膜、CrN(10nm膜厚)バッファー、LR-TaBN吸収体構造を適用した場合には、ハーフトーン型位相シフト条件を満たす51nmの吸収体膜厚が最も効果的であることを実証した。また複数ショット露光による寸法平均化手法を用いることにより、最適吸収体膜厚におけるパターン欠陥転写性を評価しバイナリマスクとの転写特性の違いを示した。

第3章ではハーフトーン型位相シフトマスクへの遮光帯導入について述べた。ULSIチップ製造でウエハ全面にハーフトーン型位相シフトマスクでの露光を行う場合は、各転写ショット間の境界部分に多重露光が生じ、転写寸法変化が生じる。隣接ショットからの漏れ光を防止するためにハーフトーン型位相シフトマスクのメインパターンの外周領域に設ける遮光帯の構造として、積層吸収体と多層膜加工の2つの構造を提案、マスク作製を行った。さらに小領域露光装置での転写実験により、両方式の遮光帯部のEUV光に対する遮光能力は厚膜吸収体マスクと同等以上であることを実証した。一般にEUV光源から発せられる光はEUV波長領域の光の他に遠紫外線を主としたOut of Band(OoB)光とよばれる波長成分を含むが、多層膜加工方式により作製した遮光帯領域はOoB光に対しても最も遮光能力が高いことを明らかにした。また、多層膜加工方式の遮光帯で懸念される多層膜加工領域と吸収体領域の境界での漏れ光は観測されず、マスク寸法の高精度化のためのプロセス柔軟性の観点からも多層膜加工方式の遮光帯形成は有望であることを示した。

第4章ではフルフィールド露光装置用マスクのインテグレーションと転写特性について述べた。多層膜加工型遮光帯のマスク製造工程において、高い圧縮応力を有する多層膜をマスク遮光帯領域から除去し遮光帯を形成することで生じるマスク位置精度変化は無視できる量であることを確認した。次に、フルフィールド露光用マスクを作製、ULSIチップ量産時の露光ショットマップを想定した露光において、薄膜吸収体マスクにおける多層膜加工遮光帯の効果を実証し、実デバイス作製に対し最適なマスク構造であることを示した。最後に低欠陥EUVLマスクの達成はEUVLの量産適用に向けた最大のハードルとして位置付けられていることから、ブランク・マスク欠陥の検査と転写評価を行い、ハーフトーン型位相シフトマスクにおいても、EUVマスク固有の位相欠陥が吸収体パターン下に隠れる領域が大きいと、欠陥転写インパクトが小さくなることを確認した。また、隣接ショットパターンに対して影響を及ぼす遮光帯領域の欠陥をパターン検査装置で検出した例を示し、この欠陥が多層膜孤立残りであることを特定した。

第5章では本論文全体の成果を総括した。EUVリソグラフィ用に、ハーフトーン型位相シフトマスクを導入することにより、ウエハ転写像で高コントラストを得つつもシャドウイング効果を軽減できること、またハーフトーン型位相シフトマスクで実デバイスを露光する上で必須な遮光帯として、多層膜加工構造が最適であることを結論づけた。さらに多層膜加工遮光帯付きのハーフトーン型位相シフトマスクに残された課題を示し、今後のEUVリソグラフィ用マスクの展望について述べた。

審査要旨 要旨を表示する

半導体LSIは依然としてムーアの法則に従った微細化を続け,今や最少線幅45nmから32nm,さらにその先の22nmの時代に向けて微細化が進展している.この微細化を支えるパターン形成基盤技術であるリソグラフィ技術については,ArF液浸露光を用いたオプティカルリソグラフィの限界が懸念される中,EUV光(極端紫外光)を用いたリソグラフィ技術への期待が高まり,日米欧を中心に活発な技術開発が展開されている.このような情勢の下,本論文は,「EUVリソグラフィ用マスクの構造最適化に関する研究」と題して,EUV用マスク構造の最適化によるパターン転写の高性能化手法を提案し,実際の露光実験でその有効性を検証することによりEUVリソグラフィの極めて優れた解像性を実証したものである.

第1章では,EUV転写パターンの像質に対するマスクの寄与について検討している.EUVリソグラフィでは13.5nmという極めて短い波長の光を使う事から,多層膜が成膜された基板上に吸収体パターンを形成した反射型マスクが用いられる.申請者はこの特異なマスク構造に起因するパターン転写性能への影響因子として,吸収体構造・吸収体材料によるコントラスト確保とシャドウイング効果に起因する漏れ光の遮光を,転写性能を支配する影響因子として抽出した.

第2章では,最適なマスク吸収体構造とその転写特性につい述べている.まず,吸収体材料とその構造(材料構成と膜厚)について,EUV光反射率をパラメータにシミュレーションと詳細な露光実験により最適な材料と膜厚を導出し,EUV領域におけるハーフトーン型位相シフトマスクの構造を提案している.まず,提案するマスク構造の適用により従来のバイナリマスクよりも吸収体膜厚を低減させることができる光学定数の範囲を示し,Ta系吸収体薄膜化によるハーフトーン型位相シフト効果を推定している.次に,小領域露光装置による露光実験を行い,シャドウイング効果を抑制し転写性能を劣化させることのない吸収体の最適膜厚の範囲を示している.これらの検討結果に基づいて,EUVマスクブランクとして,Siキャップ多層膜,CrN(10nm膜厚)バッファー層,LR-TaBN吸収体構造を適用した場合には,ハーフトーン型位相シフト条件を満たす51nmの吸収体膜厚が最も効果的であることを提案している.

第3章では,ハーフトーン型位相シフトマスクへの新考案の遮光帯導入について述べている.ULSIチップ製造でウエハ全面にハーフトーン型位相シフトマスクでの露光を行う場合は,各転写ショット間の境界部分に多重露光が生じ,転写寸法変化が生じる.隣接ショットからの漏れ光を防止するためにマスクのメインパターンの外周領域に設ける遮光帯の構造として,積層吸収体方式と多層膜加工方式の2種類の方法について検討している.まず,提案方式のマスクの作製と小領域露光装置での転写実験により,両方式の遮光帯部のEUV光に対する遮光能力は厚膜吸収体マスクと同等以上であることを確認した.次に,一般にEUV光源から発せられる光はEUV波長領域の光の他に遠紫外線を主としたアウトオブバンド(OoB:Out of Band)光とよばれる波長成分を含むが,多層膜加工方式による遮光帯領域はOoB光に対しても遮光能力が極めて高いことを明らかにした.また,遮光性能として多層膜加工領域と吸収体領域の境界での漏れ光は問題ないこと,マスク寸法の高精度化に適したプロセス柔軟性にも優れることなどの観点も加味して,多層膜加工による遮光帯形成が最も有望であることを示した.

第4章では,フルフィールド露光装置用マスクの作製,および転写実験による提案手法の有効性について述べている.まず,作製したフルフィールド露光用マスクによるLSIチップ量産時の露光ショットマップを想定した露光実験によって,薄膜吸収体を用いるハーフトーン型位相シフトマスクが解像力確保上有効であること,および,このような薄膜吸収体マスクにおいても多層膜加工遮光帯が効果的であることを検証し,提案のマスク構造が実デバイス露光に適用可能であることを実証している.なお,転写性能確保に関連する問題として,多層膜加工型遮光帯の製造工程において懸念される多層膜除去加工時のマスクパターン位置精度確保についても,EUV用マスク固有の位相欠陥の転写懸念についても,露光実験により問題ないことを確認している.

第5章では,本論文全体の成果を総括している.EUVリソグラフィ用にハーフトーン型位相シフトマスクを導入することにより,ウエハ転写像で高コントラストを得つつシャドウイング効果を軽減できること,ハーフトーン型位相シフトマスクで実デバイスを露光する上で必須な遮光帯として多層膜加工構造が最適であることを結論付けている.さらに多層膜加工遮光帯付きのハーフトーン型位相シフトマスクに残された課題を示し,今後のEUVリソグラフィ用マスクの展望について述べている

以上のとおり本論文は,次世代半導体用極微細パターン形成技術であるEUVリソグラフィにおいて,多層膜EUVマスク構造,および遮光帯の最適化を行い,転写パターン品質の確保を実証した独創性ある研究であり,超微細半導体パターン形成に有効な超高解像パターン転写技術として,今後の半導体製造用の分野に大きな貢献があると考えられる.

よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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