学位論文要旨



No 217623
著者(漢字) 鈴木,宣也
著者(英字)
著者(カナ) スズキ,ノブヤ
標題(和) 情報通信技術を用いた協調的なインタラクションを持つ作品の設計
標題(洋)
報告番号 217623
報告番号 乙17623
学位授与日 2012.02.23
学位種別 論文博士
学位種類 博士(情報理工学)
学位記番号 第17623号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 苗村,健
 東京大学 教授 相澤,清晴
 東京大学 教授 荒川,忠一
 東京大学 教授 廣瀬,通孝
 東京大学 准教授 杉本,雅則
 東京電機大学 教授 安田,浩
内容要旨 要旨を表示する

情報通信技術の発達により,既存のコミュニケーションにはない新たな対話方法が提案され,その提案は社会や生活様式へ影響を及ぼしている.しかしそれら全ての情報通信技術が効果的に機能するわけではなく,社会や人など対象に即した形態を必要とする場合がある.そのため,技術を含む新たな表現方法の提案が求められ,技術を取り巻く工学的側面だけでなく,芸術の表現手法と組み合わせ,社会あるいは人との関係を築くためにより具体的な提案が求められる.情報通信技術で構成される情報と,人の身体動作との関係の設計方法, つまりインタラクションを有するシステムの設計方法は,工学的側面と芸術的側面の融合が必要である.

特に,多数の機器を1人で使う,あるいは多数の機器を多人数で使うことを想定した,協調的なインタラクションを持つタンジブルなシステムの実現において,システム構築の過程でフロントエンドとバックエンドに細分化した設計では,事前に綿密な設計をしなければ融合の実現は難しい.そこで最終的に融合することを考慮したシステム全体の設計が不可欠である.

情報通信技術を用いた人と人の対話,あるいは機器と機器の対話の中で,技術の展開方法や,インタフェースの造形的デザイン方法,それらを総合的に融合する対話手法を含めたインタラクションを本論文では「協調的なインタラクション」と呼ぶ.また,情報通信技術を用いた「協調的なインタラクション」を持つメディアアートに属するアート作品群を「連関芸術」(Coordinated Art with Communication Technology)と名付けた.そこで,「連関芸術」によりユーザに新たな体験と価値観の提示を目指し,「協調的なインタラクション」の実現手法に係る設計について示すことを目的とする.

「連関」とは,ひとつがもう一方を引き起こす,あるいはひとつがもう一方と共通の動作をすること,更にそのつながりがひとつの全体を構成することを指す.「連関」は経験を含む動作であり,複数あるいは全体を考慮した場合にのみ表出する関係である.

情報通信技術を用いた協調的なインタラクションの設計を示すには,人と機器の構成に関し多様な形態による検討を必要とし,ひとつの作品や研究課題では十分に示すことができない.そこで本研究は4つの作品の生成過程から示すことで設計方法を明らかにする.

取り上げる4つの形態を次のように構成した.

まず多数の人と機器の協調を考えた場合,ユーザ同士が機器を通じて対話し協調する場合と,ユーザが多数の機器を利用し,機器同士が協調する場合の2 通りを考えることができる.それぞれは目的が異なることから別々のアプローチによる取り組みが必要である.

次に表現手法について2つの方向性を設定した.多様な表現方法を考えることができるが,その中でも代表的な2つの表現方法を取り上げることとした.物理的な出力として,身体の動作や感覚を利用する入出力や,機器の物理的な動作による表現,もうひとつは視覚情報として映像を利用した表現である.

本研究では,2つのアプローチ,2つの表現方法から,4つの形態に取り組む.

情報通信技術を利用した協調的なインタラクションを持つ作品群,連関芸術を通し,その作品の実現に伴い,技術と芸術,両方の組み合わせにおいて必要となる要素について述べ,適切な情報通信技術の選定と利用,または情報通信技術の応用方法,技術を用いた表現方法,更にそれらの作品化の過程も含め明らかにし,作品と情報通信技術を融合する設計方法を示す.

本論文の構成を以下に示す.

第1章では協調的なインタラクションの課題を説明し,研究目的と全体像を示す.

第2章では,本研究の背景として連関芸術の元となる協調的なインタラクションに関する研究動向について述べる.まず,情報技術とメディアアートの歴史的経緯について俯瞰し,メディアアートの生成過程を述べ,技術とメディアアートの親和性について述べる.初期のメディアアートの中でも通信技術を用いた表現方法について説明し,更に連関芸術の要素として,人と人の連関と,機器と機器の連関のそれぞれに関連する取り組みをあげ,通信技術と表現に関して説明する.最後に,連関芸術の実現に向けた本研究のアプローチを明らかにする.

第3章では,人と人の連関の実現方法について述べる.物理的な出力を表現とする作品"Balance Seat"を取り上げ,多人数による物理的な出力を伴う感覚の共有を実現する作品の設計とその実現方法を述べる.次に映像表示に関する入出力による表現の作品"Co-draw"を取り上げ,多人数による知的創作の協調支援の設計とその実現方法を述べる.

第4章では,ユーザが多数の機器を利用し機器同士が協調する場合を想定し,機器と機器が連関する表現方法として,物理的な出力を伴う表現と,映像表示に関する入手力による表現の2つの作品の制作を述べる.視覚情報として映像表現を利用した作品"Karakuri Block"を取り上げ,多数の機器が連関した映像を表示する方法と,ユーザのインタラクションに応じた映像の出力方法の実現とコンテンツの制作について述べる.次に,物理的に動作する機器の連関を実現した作品"Esper Domino"を取り上げ,無線通信技術を取り入れた,多数の機器が連関して倒れる仕組みの設計について述べる.

第5章では,本論文の成果をまとめ,今後の課題と展望に触れ,全体の結論とする.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,「情報通信技術を用いた協調的なインタラクションを持つ作品の設計」と題し,情報通信技術と表現手法を融合する立場から,人々や機器の協調について議論し,「連関芸術」と名付けた作品群として,ユーザ同士が機器を通じて協調する場合の2作品とユーザが利用する機器同士が協調する場合の2作品の合計4作品の制作過程に基づく設計手法を提案し,具体的かつ効果的な表現方法について論じたものであり,全体で5章からなる.

第1章は「序論」であり,協調的なインタラクションの課題を説明し,情報通信技術を用いた協調的インタラクションを持つメディアアート作品群を「連関芸術」としてその要件を定義し,協調対象と表現方法の観点によるアプローチを論じ,本論文の背景と目的を明らかにしている.

第2章は「連関芸術に関する研究動向と研究アプローチ」と題し,本研究の背景として連関芸術の元となる協調的なインタラクションに関する研究動向を概観し,情報技術とメディアアートの歴史的経緯と生成過程から,通信技術を用いた初期のメディアアートの表現方法の概要を示し,連関芸術の位置付けと要件を明らかにしている.通信と協調の対象として,人と人の連関,機器と機器の連関のそれぞれに関連する取り組みから情報通信技術と表現方法に関する課題をあげ,構成要素として技術的・芸術的な側面と,技術と芸術をつなぐメタファを設け,5つの階層からなる連関芸術の実現に向けた研究アプローチを示している.

第3章は「人と人の連関」と題し,物理的な動作を伴う動的な表現と,視覚的な映像を利用した表現の2つの作品について検討している.物理的な表現として平衡感覚に着目し,シーソーをメタファとして体勢感覚の共有を実現し,その設計と実現手法を明らかにしている.実現にあたり,システムの制御と共有インタラクションの制御の両者について検討し,多人数による感覚共有の実現手法を示している.また,メディアアートにおける課題のひとつである,ユーザの体験状況の抽出を試みる実験を行い,多人数による対話で得られる体験について調べている.次に,視覚的な映像を利用した表現を取り上げ,多人数による知的創作の協調支援の設計とその実現として,複数人でキャンバスを共有するお絵描きシステムを実現し,絵を描く際にユーザに返すフィードバックとしての情報提示と,描かれた絵の形状認識方法,認識した絵に対応する装飾アニメーションの実現,多数のユーザがコラボレーションした場合に生じる装飾アニメーションの実現手法を示している.また体験状況を観察し,実現したインタラクションによる効果を示した.

第4章は「機器と機器の連関」と題し,ユーザが多数の機器を利用して機器同士が協調する場合を想定し,機器と機器が連関する表現方法として,物理的な出力を伴う表現と,視覚的な映像を利用した表現の2つの作品について検討している.視覚的な映像を利用した表現では,多数の機器が連関した映像を表示する方法として,ディスプレイを組み入れた多数のブロック同士の関係とそのブロックに表示される映像との間にシームレスな繋がりを持たせる表現を実現し,ユーザのインタラクションに応じた映像の出力方法と,ユーザとシステムの対話に適したコンテンツの制作について明らかにしている.またブロックの個数とそれに合わせたコンテンツの制作に関する課題を示している.次に,物理的に動作する機器の連関の表現として,ドミノ倒しという物理的な接触による因果関係を示すメタファを利用した作品制作を通じ,無線通信技術のような目に見えない仕組みに対し,物理的に接しない位置関係にある多数の機器が連関して倒れる仕組みの設計を明らかにしている.多数の試作を重ねることでシステムをより確実なものにし,洗練された協調的なインタラクションを表現として実現することを示した.また,実現したインタラクションの効果として,ユーザの体験状況から多様な遊び方を示した.

第5章は「結論」であり,本論文の主たる成果をまとめるとともに,本論文の要素のひとつである多人数対話に関する現状をまとめ,更に,連関芸術をめぐる活動として,芸術に限らず実用的なプロダクトや情報サービスを含む表現など,多様な実践的活動を示し,今後の展望について述べている.

以上を要するに,本論文は,情報通信技術を用いて実現した作品制作手法に着目し,技術と表現を総合的に融合する実現過程と手法を提案したものであって,技術開発だけではなくその活用方法は多様な展開を可能とし,これらの創造的実践等は電子情報学の今後の進展に寄与するところが少なくない.

よって本論文は博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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